2016年12月31日土曜日

2016 Book Ranking


  1. あの素晴らしき七年
  2. 誰が音楽をタダにした?巨大産業をぶっ潰した男たち
  3. かなわない
  4. 見えない音、聴こえない絵
  5. 八本脚の蝶
  6. あなたを選んでくれるもの
  7. 沈黙
  8. 七帝柔道記
  9. 私の消滅
  10. コンビニ人間

今年読んだ本のベスト10です。
(必ずしも今年出版という訳ではありません。)
1年間で65冊読んだので打率も上がり、
上位5作品は一生忘れない読書体験でした。
たくさん読むのが良いとは思わないけど、
来年も良き本との出会いがあれば良いなーと思います。

2016年12月29日木曜日

2016 Movie Ranking

  1. イット・フォローズ
  2. 裸足の季節
  3. オデッセイ
  4. オーバー・フェンス
  5. 海よりもまだ深く
  6. エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に
  7. シング・ストリート 未来へのうた
  8. ザ・ロブスター
  9. ボーダーライン
  10. クリーピー 偽りの隣人
  11. FAKE
  12. 永い言い訳
  13. ドント・ブリーズ
  14. グッバイ、サマー
  15. ケンとカズ
  16. コップ・カー
  17. 教授のおかしな妄想殺人
  18. 葛城事件
  19. 牡蠣工場
  20. AMY エイミー
  21. セトウツミ
  22. ズートピア
  23. コンカッション
  24. この世界の片隅に
  25. キャロル
  26. シン・ゴジラ
  27. 淵に立つ
  28. エクス・マキナ
  29. シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ
  30. レヴェナント:蘇りし者
  31. ファインディング・ドリー
  32. 何者
  33. サウスポー
  34. 日本で一番悪い奴ら
  35. サウルの息子
  36. ハドソン川の奇跡
  37. リップヴァンウィンクルの花嫁
  38. ルーム
  39. 殺されたミンジュ
  40. ヴィクトリア
  41. ヘイトフル・エイト
  42. ローグワン/スター・ウォーズ・ストーリー
  43. ノック・ノック
  44. アイアムアヒーロー
  45. スポットライト 世紀のスクープ
  46. 山河ノスタルジア
  47. の・ようなもの のようなもの
  48. ヒメアノ〜ル
  49. ブルーに生まれついて
  50. 太陽
  51. デッドプール
  52. あなた、その川を渡らないで
  53. マネー・ショート
  54. 10クローバーフィールド・レーン
  55. 怒り
  56. ブリッジ・オブ・スパイ
  57. 二重生活
  58. 母と暮せば
  59. スティーブ・ジョブズ
  60. バンクシー・ダズ・ニューヨーク
  61. カルテル・ランド
  62. SCOOP!
  63. レジェンド 狂気の美学
  64. ヤング・アダルト・ニューヨーク
  65. エル・クラン
  66. アズミハルコは行方不明
  67. ザ・ウォーク
  68. 俳優 亀岡拓次
  69. ジャック・リーチャー NEVER GO BACK
  70. リリーのすべて
  71. 孤高の遠吠え
  72. ミュージアム 
  73. ブラック・スキャンダル
  74. DOPE/ドープ!!!
  75. バーバリアンズ セルビアの若きまなざし
  76. ひそひそ星
  77. 不屈の男 アンブロークン
  78. スーサイド・スクアッド
  79. バッドマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生
  80. ヘイル・シーザー
  81. ふきげんな過去
  82. エージェント・ウルトラ
  83. MILES AHEAD マイルス・デイヴィス 空白の5年間
  84. 64後編
  85. 64前編
今年は100本見ることはありませんでしたが、
その分、質が高い映画ばかりだったなーという印象です。
(ちなみに下3本はぶっちぎりのWORST3です。)
また、今年の邦画の豊作っぷりは近年稀に見る勢いで、
しかも若手監督の台頭がめざましいので、
ここ2〜3年は楽しみなところです。
年末年始の映画鑑賞の参考にしてくださいませ!

寝相

寝相


死んでいないもので芥川賞を受賞した、
滝口悠生さんの作品ということで読みました。
受賞した頃のSession22で書評家の豊崎さんが
本作を激押ししていたので前から気になっていた作品。
いやー完全にぶっ飛ばされましたね。
最近ノンフィクションに傾倒しつつあって、
小説にイマイチ乗り切れてなかったんですが、
こんな語り口が許されるのか…!
という衝撃があったので過去作を
もっと読んでみたくなりました。
本作は寝相、わたしの小春日和、楽器
この3つの中篇で構成されています。
どの作品にも共通するのは人称の入り乱れ。
死んでいないものでもその手法で描かれていましたが、
かなりシームレスというか整理されていたのに対して、
本作は混沌としていました。
それが一番強烈なのが楽器でいちばん好きな話でした。
はじめは仲の良い男女4人組が埼玉に
遠足へ行くという日常系の話かと思いきや、
後半から見たことない世界へと唐突に連れて行かれる。
本の表紙がまさにそれで男女4人組が
ある家にたどり着き、その家の磁場(?)によって
4人それぞれが自分の世界へと没入していく。
それに加えて家の中で繰り広げられる
他人の家族の宴会の様子も同時に描かれています。
登場人物が10人くらいいて、
それぞれの視点を行き来するからクラクラする。
今年を象徴する言葉として"post-truth"がありますが、
まさに本作は事実の向こう側にリーチしていると思います。
それは主観の強さと不確かさの両方を
バランス良く描いているから。
自分にとって都合のいいことばかりを
鵜呑みにすることは良くないなーと思うし、
他人の気持ちを想像することは必要で大切なことだと感じました。
それを説教臭く言うわけではなく、
人によって聞こえ方が大きく異なる「音」を
媒介としているのがオモシロかったです。
次はタイトルが気になっている、
ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンスを読みたいです。

ドント・ブリーズ


<あらすじ>
親元を離れ、街から逃げ出すための資金が必要なロッキーは、
恋人のマニーと友人のアレックスとともに、
地下に大金を隠し持っていると噂される盲目の老人の家に強盗に入る。
しかし、その老人は目が見えないかわりに、
どんな音も聴き逃さない超人的な聴覚をもち、
さらには想像を絶する異常な本性を隠し持つ人物だった。
暗闇に包まれた家の中で追い詰められたロッキーたちは、
地下室にたどり着くが、そこで恐るべき光景を目の当たりにする。
映画.comより)

今年の映画納めをマイルス・アヘッドとすることに
どうしても抵抗感があって絶賛大阪帰省中ですが見ました。
無茶苦茶怖かったし超面白かったです。
レイトショーで見たのにほぼ満席で、
どこにそんな需要が?!と思ったんですが、
吊り橋効果を期待したカップルがたくさんいました。
(隣のカップルは始終キスしていた)

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

ドローンを使った印象的なシーンから映画はスタート。
鳥瞰の引きのショットで徐々に地上へ近づいていくと、
老人が若い女の子を引きずっているっていう…
この時点でろくでもなく楽しそうな出来事が待っているんだろうな、
と期待を抱かせてくれます。
主人公は若者3人組。その1人の親が警備会社に勤めていて、
親が思っている他人の部屋の鍵を拝借して、
足のつかないレベルで強盗して金を稼いでる若者達。
彼らが住んでいるのはデトロイトというのが、
本作を特別なものにしていると思います。
デトロイトは自動車産業の衰退が主な原因で、
街がどんどん荒廃していて廃墟もたくさん発生している街。
近年、映画で使われることが多く、
僕が覚えている範囲だとイット・フォローズロスト・リバー
ドキュメントだけどシュガーマンとか。
絶望感が街から伝わってくるし、
一度発展した街が死んでいる様が本作と相性バッチリ。
主人公達は娘を交通事故で殺された盲目のイラク帰還兵の家へ、
強盗に入る計画を立てて実行に移します。
その帰還兵には示談金として多額の現金が支払われたから。
しかも彼の住む家の周りは廃墟だらけで余裕〜
と思いながら金を探し始めるんですが、
この兵士 a.k.a 盲目オジさんがとんでもなかったんですなぁ。。
まず、家に侵入したときのシーンが素晴らしくて、
オジさんが寝ている部屋に辿り着くまで、
1回もカットを割らずに描かれていました。
まるで自分もそこでいるかのような感覚になるんですが、
さらに凄かったのは2階への移動。
階段を移動する様子を追いかけるのではなく、
おそらくドローンで一気にカメラを2階へと移動させるんですね。
冒頭のシーン然り、ドローンの使い方が巧みでした。
クリーピーでも上手く使われていましたし、
人ならざるものの視点という意味で、
ホラーと相性が良いのかもなーと思いました。
家への侵入がオジさんにバレてからが地獄絵図。
目が見えないんだけど家の中を熟知しているので、
主人公たちが追い詰められていく様子が
めちゃめちゃハラハラするんですね。
タイトルになっているドント・ブリーズ、
息をするな、ってことなんですが、
盲目なので音に非常に敏感。
息使いで居場所を特定して
襲ってくるんですねーそれが超怖い!!
若者たちはなんとかエスケープしようと模索するんですが、
観客が想像し得ることはオジさんが
全部シャットダウンしてくので、
見ている側も追い込まれる気持ちになりました。
目が見えないけど音に敏感、
という設定をフル活用した怖い展開を
テンポよく矢継ぎ早に提供してくるので息つく暇もない。
とくに怖かったしオモシロかったのは電気消しシークエンス。
盲目のオジさんにとっては365日24時間停電状態な訳ですが、
主人公たちは真っ暗な中で彷徨う。
見えない中でのエンカウントっぷりがたまらなかったです!
しかも、オジさんは物語が進むに連れて、
銃を撃つことに一切の躊躇を見せなくなるので、
どうなっちゃうの?!という気持ちがマシマシでした。
あとオジさんの償いの考え方が
めちゃくちゃラディカルで恐ろしかったです。
新幹線で橋口亮輔監督のハッシュを見ていたんですが、
本作と全く同じ設定、つまりはスポイトによる受精を描いていて、
そこがシンクロしたことに個人的にとても驚きました。
(全然意味合いが違うけど)
「これで助かる…」という場面を用意して、
そこから突き落とすという場面が繰り返されるので、
息つく暇もなくてあっという間でした。
とてもミニマルな設定でこれだけオモシロいものが作れるのは、
映画ならではだなーと思いました。
ラストの悲劇は終わらない演出もフレッシュで、
「おぉ〜怖っ!」という具合で好きでした。
今年の映画納めとして最高最高!

2016年12月27日火曜日

2016 MUSIC ALBUM BEST30

Views / Drake
Views

Fantome / 宇多田ヒカル

Fantôme


Stay Around / Joyce Wrice
Stay Around

Ology / gallant
Ology

Yuna / Chapters
Chapters

Malibu / Anderson .Paak
Malibu

Don't Smoke Rock / Smoke Dza & Pete Rock
Don't Smoke Rock

Sing Street OST/ V.A.
Ost: Sing Street

ANTI / Rihanna



Anti (Deluxe, Explicit)



Freetown Sound / Blood Orange
Freetown Sound

Blonde / Frank Ocean
Blonde [Explicit]

Coloring book / Chance The Rapper

The Rebellion Sessions / Black Milk&Nat Turner

The Rebellion Sessions

Carinae / The Cheers Cheers

99.9% / Kaytranada
99.90%

Twenty88 / Twenty88
Twenty88

The Yard Work Simulator/ Max Graef & Glenn Astro
The Yard Work Simulator [帯解説 / 国内仕様輸入盤CD] (BRZN227)

Take Me To The Alley / Gregory Porter
Take Me To The Alley

The Divine Feminine / Mac Miller
DIVINE FEMININE

Couch Baby / Jamie Isaac
Couch Baby

HERE / Alicia Keys
Here

Fool / James Zoo
Fool [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC513)

Time River / Miho Hazama
Time River

A Seat At The Table / Solange
A SEAT AT THE TABLE

Cloak / Jordan Rakei
CLOAK

It is / JMSN
It Is

and the ANONYMOUS NOBODY / De La Soul
AND THE ANONYMOUS NOBO

SEPT 5TH / dvsn
Sept 5th

24K Magic / Bruno Mars
24K MAGIC

Groove it / iri
Groove it

2016年12月24日土曜日

2016 BEST Japanese HIPHOP

ALBUM
Somewhere / C.O.S.A × Kid Fresino
Somewhere

DAY and NITE / ISSUGI
    DAY and NITE

    ALL IN ONE EP / 呂布


    Good Morning / SALU
    Good Morning

    生活日和 / ZORN
    生活日和

    VOICE / 仙人掌
    VOICE

    Soul long / IO
    Soul Long

    PEASTA / Campanella
    PEASTA


    KAWASAKI / Mewtant Homosapience
    KAWASAKI

    Outside The Frame / AKLO
    Outside the Frame(初回盤)(CD+DVD)

    SONG




















    MILES AHEAD マイルス・デイヴィス 空白の5年間



    <あらすじ>
    1970年代後半の5年間、ミュージックシーンから
    完全に姿を消したマイルス・デイビスは、
    慢性の腰痛に悩まされ、ドラッグや鎮痛剤の影響から、
    自宅で1人すさんだ生活を送っていた。
    そんなマイルスのもとに音楽レポーター、
    デイブ・ブレイデンが強引におしかけてきた。
    それから2日間、2人は盗まれたマイルスの最新曲のテープを
    取り戻すため思わぬ追跡劇に巻き込まれる。
    映画.comより)

    ドン・チードル演じる、
    マイルス・デイビスが主人公の映画!
    ということで随分前から宣伝されていましたが、
    この年末にやっと公開されました。
    ただのジャズミュージシャンの映画なら分かるんですが、
    マイルス・デイビスの映画でこの仕上がりか…
    とガッカリした印象です。
    何を求めるかに寄ると思いますが、
    僕はジャズプレイヤーとしてのマイルスに
    もっとフォーカスして欲しかったです。

    ※ここからは盛大にネタバレして書きます。

    本作はドン・チードルが監督、脚本、主演を務めており、
    はっきり言ってワンマン映画です。
    実在の登場人物を描く自伝要素を持った映画の場合、
    どこを切り取るかが重要だと思っています。
    本作ではマイルスが活動を休止していた5年間を
    描いているんですが、菊地さん曰く、
    この5年でマイルスが何をやっていたかは
    明確になっていないということでした。
    なので、ほぼドン・チードルの想像の世界。
    それゆえ、街中で銃をぶっ放しながらの
    カーチェイスシーンが映画冒頭で展開されます。
    シャフト等の70年代〜80年代の
    ブラックスプロイテーションを彷彿とさせるもので、
    それ自体はテンションが上がりました。
    このカーチェイスに至るまでが
    映画のメインストーリーとなります。
    作りとしては活動休止中のシークエンスと
    回想を交互にシャッフルして描いていくんですが、
    オモシロかったのは場面の転換。
    単純にカットを切り替えるだけではなくて、
    目で見て楽しいエフェクトが盛り沢山。
    あとは映像の質のギャップも良くて、
    回想のときはフィルム撮影で味があるタッチで、
    現代のときはデジタルのパキッとした映像になっていました。
    あとは音楽。本作ではマイルスの実際の音源を
    使用しているので映画館で彼の音楽を
    大きな音で聞けるというだけで映画として
    かなりプラスになっていると感じました。
    このようにルックとして楽しめる部分が多かったんですが、
    お話の中身、組み立てがかなりお粗末でキツかった…
    まず現代シークエンスでは、
    マイルスの未公開音源のテープを巡って、
    ドンパチが繰り広げられるんですが、
    誰が何を欲しいのか?という
    動機付けが弱いなーと思いました。
    活動休止中なのでトランペットを吹くことはない、
    それはしょうがないとしても、
    ひたすらコカイン決めまくってるだけの
    ヤバい人間にしか見えない訳です。
    (実際、その側面もあったのでしょうが…)
    一方の回想シーンはアルバムのジャケットにもなっている、
    フランシス・テイラーとの関係を中心に描かれています。
    ジャズメンとミューズの関係という点で言えば、
    先日見たチェット・ベイカーの自伝映画である、
    ブルーに生まれついてとどうしても比べてしまう。
    そして比べたことで本作の雑さが気になるんですよねー
    彼女との関係でもたらされたものが
    見えにくいところが良くないのかなと思います。
    事実に縛られて物語が作れないということではなく、
    自分の想像の世界で作り上げて、
    この組み立ての悪さは監督、脚本に問題があるんだと思います。
    ただ、ドン・チードルが楽しげにマイルスを演じているので、
    やっぱり相当嬉しかったんだろうなと。
    その喜びが最大限に爆発するのが最後のシーン。
    活動休止から復活するコンサートという設定なんですが、
    そのバンド編成のメンツが最強でカッコ良過ぎた!
    本作の音楽監修を務めたRobert Glasperはピアノ、
    ギターはGary Clark, Jr. キーボードにHerbie Hancock御大!
    さらにレジェンド枠でサックスのWayne Shorter、
    ドラムはバードマンでも有名なAntonio Sanchez、
    ベースは紅一点のEsperanza Spaulding。
    2015年に結成できる夢のオールスターセッション。
    これが最後にあったのでギリギリ救われました。
    vimeoにアップロードされていたので、
    映画見なくてもいいからコレは見て欲しい!


    2016年12月22日木曜日

    誰が音楽をタダにした?巨大産業をぶっ潰した男たち

    誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち (早川書房)

    ネットで話題になっているのを見かけましたし、
    メルマ旬報の伊賀大介さんの連載でもプッシュされていたので、
    楽しみに取っておいたのを読みました。
    今年読んだノンフィクションでぶっちぎりにオモシロかったです。
    音楽産業が斜陽である、ということは言われて久しく、
    全世界でCDが売れなくなり、皆が体験を重視するようになり、
    ライブやグッズがアーティストの食い扶持を稼ぐ
    というビジネスモデルにシフトしています。
    なぜCDが売れなくなったのか?
    それはiTunes等の登場によりCDショップへ行かず、
    Webで音源をダウンロードできるようになったこと、
    また、その音源をiPodによって
    大量の楽曲を持ち運びできるようになったことが
    音楽が好きな人はある程度想像がつくと思います。
    これらすべてを可能にしたのは、
    音楽を圧縮する技術によるものです。
    通常CDで一枚のアルバムは500〜600MBのサイズですが、
    それをmp3でPCに取り込めば
    10分の1程度まで圧縮することができます。
    この音楽圧縮技術を中心に20世紀末から21世紀にかけて、
    音楽ビジネスに何が起こったのか?を描いています。
    単純な史実を横並べするだけじゃ歴史の教科書を
    読まされるようなもので退屈になるんですが、
    本作はメインに3人の登場人物を置くことで、
    音楽ビジネスの背景を立体的に、
    かつ非常にスリリングに描いています。
    1人目はドイツ人のブランデンブルクという人で、
    mp3という規格を発明したグループのリーダー。
    このパートはmp3という技術の開発とその広まり方を書いていて、
    NHKのザ・プロフェッショナルのようでオモシロい。
    mp3の話題になったときに最初に挙げられるのが、
    音質の問題だと思うんですが、
    そこも詳しく解説されていて目から鱗なことばかり。
    たまに音質のことガチャガチャ言う人を見かけるんですが、
    圧縮したmp3と未圧縮のwavやaiffをブラインドで、
    どれだけ聞き分けられるんだろうといつも思います。
    本書内ではmp3はブラインドによる音質テストも
    クリアしたと説明されていました。
    しかし、このmp3は政治的駆け引きの中、
    当初劣勢の技術で初めはmp2が採用されていた。
    それをひっくり返すきっかけになったのが、
    スポーツ中継の音声だというのも驚きでした。
    なかなか世に広まらないmp3を広めるために、
    エンコーダーをフリーでバラまいたことで
    事態は大きく動いていくことになります。
    2人目はグローバーというCD工場の労働者。
    彼はRNSという音楽リークグループに所属し、
    エンコーダーの登場により
    音楽を圧縮しサイトにアップロード、
    皆でシェアできる環境が整ったことで
    合計2000枚以上の音源をWeb上にばらまいた人。
    CD工場で働いているのでリリース前の
    音源を入手できる環境にいる彼が
    次々とリークしていくところが超スリリング!
    実際、彼らのグループもも儲けるために
    リークするというよりもスリルを求め、
    音楽会社を出し抜くという行為を楽しんでいただけ。
    というのも興味深いなーと思いました。
    本作の著者もイントロで書いていますが、
    web上に溢れる違法ダウンロード音源は
    様々な人がサイトにアップロードしているかと思いきや、
    少数の人間が組織立って仕組んでいたことにも驚きました。
    そして3人目はワーナー、ユニバーサルと
    世界の名だたるレコード会社のトップを務めたモリス。
    彼がいかに凄腕なのかが伝わってきました。
    とくに90年代後半〜05年くらいまでは、
    ヒップホップの世界的流行とシンクロしているため、
    ヒップホップの話題がとても多くて楽しい。
    ドレ周りのウエストサイドから始まり、
    リル・ウェインを始めとしたサウスサイド、
    著作権という点で欠かせない
    ミックステープマスターであるDJドラマの逮捕、
    ヒップホップ界のキングJAY-Zなどなど。
    すでに老人だったモリスは違法ダウンロードを
    意に介さず「売ったらええんやろ!」という
    姿勢を貫くところが男気あってカッコ良かったです。
    結果、ユニバーサルのエグゼクティブとして
    今をときめく数多くのアーティストを
    世に送り込んだ実績を持ち、
    その見つけ方が小さなエリアのトレンドを
    世界に拡大するというマーケティング手法、
    というのもオモシロいところ。
    上記のヒップホップのアーティストは
    すべてモリスの手の中にいたし、
    さらに動画広告もモリスが思いつき、
    Vevoを立ち上げている。。。
    完全にモリスの手の内で僕が音楽を消費していたことに
    本当に驚いてしまいました。
    一番好きだったエピソードは
    JAY-Zとの契約を巡ったコイントスの話。
    100万ドルを払うか、払わないかを
    コイントスで決めるっていう…
    スケールがでか過ぎて意味が分からないのが最高。
    mp3プレイヤーが登場し、
    今まで家で聞いていた大量の音源を
    持ち運びできるようになったことで、
    音楽業界は深刻なダメージを受けるようになります。
    僕はてっきりmp3プレイヤーが登場してから、
    違法ダウンロードが横行したものと思っていましたが、
    実際には逆だったようです。
    グローバーの所属するRNSは結局逮捕されるんですが、
    RNSのメンバーは実際に対面したことがなく、
    裁判所で初めて顔を知るというのも
    インターネット時代を感じさせるエピソードでした。
    今やストリーミングが導入されて、
    月額1000円で膨大なライブラリーが聞き放題の世界で、
    これから音楽がどうやって消費されていくのか、
    今後の音楽ビジネスのあり方も注目だなーと改めて思いました。
    とにかく目から鱗の事態の連続と、
    それをスリリングに読ませる描き方の
    コンビネーションがあまりに素晴らし過ぎました。
    著作権の考え方は日本ではまた異なるので、
    誰か日本版を書いて欲しい!!

    ENJOY YOUR TOKYO




    1. TOKYO STATION HOTEL / 前野健太
    2. Last Night In Tokyo / NORMANDIE GANG BAND
    3. 東京ゾンビ / SALU
    4. Tokyo / Jinmenusagi
    5. Lullaby for TOKYO CITY / Awesome City Club
    6. 東京迷子 / 思い出野郎Aチーム
    7. 東京 / くるり
    8. Tokyo / SEEDA
    9. TOKYO / EMI MARIA
    10. Bubbleman from T.O.K.Y.O / Jossareno one
    11. ODE TO TOKYO TRIBE / MC SHOW
    12. Tokyo Driftin 2 feat.Shinobi & 仙人掌 / SICK TEAM
    13. Tokyo Drift / Curren$y
    14. Paris, Tokyo / Lupe Fiasco
    15. 東京Watch / ZORN
    16. 東京狼少女-Tokyo Luv Story- / VIDEOTAPEMUSIC
    17. マあなたTHE NIGHT IN TOKYO / マクロスMACROSS 82-99
    18. TOKYO HARBOR Feat. KREVA / 赤い公園
    19. show my TOKYO / REBEL SIMPSON
    20. TOKYO / JQ
    21. TOKYO BROTHERS / I Don't Like Mondays.
    22. Contemporary Tokyo Cruise / cero
    23. 東京シャンライ / 5lack
    24. Tokyo / KOHH
    25. スイート・オブ・東京ブロンクス / いとうせいこう & ヤン富田

    曲名に「東京/TOKYO」が入った曲だけでミックス作りました。
    東京にまつわる映画の小ネタも入れているので、
    末永く楽しんでもらえると思います。
    気付いたら5年も住んでいますが、
    まだまだstranger気分は抜けません。

    2016年12月20日火曜日

    アズミハルコは行方不明



    <あらすじ>
    日本中どこにでもありそうな郊外のある街。
    この街から独身OLの安曇春子(アズミハルコ)が突然姿を消した。
    街じゅうに貼られたハルコの行方不明ポスターとともに、
    彼女のポスターをモチーフにしたグラフィティアートが拡散されていく。
    ネットでは、男だけを無差別に襲う女子高生ギャング団と
    ハルコポスターのグラフィティアートとの関係性が噂されはじめて…
    失踪前と失踪後、ふたつの時間軸を交錯させながら、
    現代女子の生きざまを描き出す。
    映画.comより)

    山内マリコさんの原作は発売当時に読んで、
    映画化が発表されて蒼井優のステンシルの
    メインビジュアルが発表されて、
    それがかっこよかったので楽しみにしていました。
    全体としてどうなのかと言われると、
    若干詰め込みすぎかなーと思いながらも、
    ポイントポイントで見所があって楽しかったです。
    男子は本作を見て襟を正さねばならぬかもですね。

    ※ここから盛大にネタバレして書きます。

    冒頭で展開されるのは本作のキーとなるシーンから。
    結果的に作品内で見せ方を変えつつ3回も流れるんですが、
    繰り返したくなる気持ちも分かる美しいシーン。
    とにかく蒼井優演じるアズミハルコがフォトジェニック!
    今、あんなにセクシーかつアンニュイに
    タバコを吸える日本の女優は彼女しかいない気がします。
    このような印象的なショットがいくつかありつつも、
    舞台は日本のTHE 地方都市であり、
    地に足のついた地方社会物語として描かれています。
    僕がフレッシュだなと思うのは本作が持つ軽やかさ。
    日本の地方都市を描く場合には閉塞したものが比較的多い中で、
    そこを打破していこうとしていく若者たちの姿が眩しい。
    地方創生とか一億総活躍とか口では言うけど、
    具体的なことが何も変わらない今の日本社会において、
    一番分かりやすいのが「地方」と「女性」なのかなと。
    打破の要素を構成するのが、
    グラフィティとバイオレントな女子高生というのが
    とても好きでしたねー
    バンクシーのExit Through The Gift Shopに影響された、
    若者たちが行方不明となったアズミハルコの
    ステンシルを街にボムしまくって、
    街、社会へと侵入していくのがカッコイイ!
    (Obeyのアンドレ→ジャイアント馬場の流れが最高)
    街にボムすることは犯罪なので
    なかなか直接見ることはできないですが、
    映画内でこれだけ景気良く見せてくれるとアガる!
    あとは女子高生によるバイオレンス。
    血が出たりのゴア描写は控えめなんだけど、
    男たちをボコボコにする感じがたまらなかったです。
    男がボコボコにされる理由は
    作品内の男たちが女性のことを客体化しているから。
    一番露骨なのがハルコの働く会社ですよね。
    女性を完全にものとして見ていない、
    「フランス」という名前だけで権威に平伏すクズ野郎たち。
    こういった価値観を持った人たちはある一定の年齢層に
    極端に集中していると肌感覚レベルで感じていて、
    今、20代とか30代の人が社会の中心になったときに、
    大きく変わるのかも。。。といつも思います。
    ただ、大賀演じるユキオが女子高生の肌について
    「弾くぜぇ〜」と言うシーンは好きでした。言い方が最高。
    もう1人の客体化の対象が高畑充希演じる愛菜。
    人肌恋しい寂しくて死んじゃうウサギ系ギャルなんですが、
    男たちに裏切られ続けてしまう。
    女子高生が直接的に男たちに復讐するのに対して、
    年を重ねた女性たちは手をくだすことはない。
    劇中のセリフにもあるように、
    「優雅な生活が最高の復讐である 」として、
    自分が幸せになることを最優先に考えようとするんですね。
    結果として辛いことから逃げることになるかもだけど、
    それでもいいじゃん、自分が幸せなら。
    という2つの女性像の対比が見事だなーと思いました。
    時間軸をシャッフルするのもハルコと愛菜を
    分離させずに表裏一体のキャラとして見せる仕掛けとして
    僕は上手く機能していると思います。
    内容にいたく共感している中、
    終盤の展開が相当もたついているのが残念でした 。
    描き切りたい気持ちは伝わってくるんですが…
    松井大悟監督の作品は初めて見たので、
    他の作品も見てみたいなーと思います。

    2016年12月18日日曜日

    パルプ

    パルプ (ちくま文庫)

    初めてのチャールズ・ブコウスキー。
    田我流がブログでオススメしてましたし、
    友人のツイートの後押しもあって読んでみました。
    自意識突き詰め系の文学ばっかり読んでいたので、
    久々の荒唐無稽な作品で楽しかったです。
    小説って自由ということを思い出させてくれる。
    探偵ものなんだけどまともに捜査もしない、
    腑抜けの探偵ニック・ビレーンが主人公。
    事務所の家賃もろくに払えない彼に、
    ある人物の紹介によって依頼がいくつか舞い込み、
    それをのらりくらり解決(?)していくお話。
    本作を読んで思い出したのは、
    トマス・ピンチョンのLAヴァイス。
    主人公は私立探偵でダラダラしているし、
    世界観としてはかなり近いものがあるなぁと。
    ただ、LAヴァイスはふざけたところもありながら、
    引き締めるところはきっちり引き締めて、
    シリアスなシーンも多かったのに対して
    本作はリアリティラインを
    軽々と越えてくるところがオモシロかったです。
    亡くなったフランスの作家が出てきたり、
    宇宙人が出てくる、依頼者が死神などなど。
    ハードボイルドかと思いきやの裏切りが
    そこかしこで見られました。
    あと主人公の厭世観も見所だと思います。
    クソだな、こんな世の中!的な姿勢と、
    オレの人生こんなもんだろ、いつか死ぬだけだし
    という姿勢のバランスが好きでした。
    訳者である柴田元幸さんのあとがきでの、
    パウルプフィクションとの対比に膝を打ちました。
    他の作品がどんな感じなのか気になります。

    2016年12月17日土曜日

    ローグ・ワン / スター・ウォーズ・ストーリー



    <あらすじ>
    「エピソード4 新たなる希望」でレイア姫が
    R2-D2に託した帝国軍の最終兵器「デス・スター」の設計図は、
    いかにして反乱軍の手にもたらされたのかを明らかにする物語となり、
    一匹狼のヒロイン、ジン・アーソが、
    反乱軍の仲間とともに、帝国軍からデス・スターの設計図を奪う
    決死のミッションに挑む姿が描かれる。
    (映画.comより)

    スターウォーズのスピンオフ。
    エピソード4の直前を描いたものとのことで、
    一体どんな塩梅なんか楽しみにしていました。
    スターウォーズと聞いたときに何を思い描くのか、
    それによって評価が分かれる気がします。
    僕は戦争映画として本作は素晴らしい作品だと思います。
    ディズニーはこうやってスターウォーズを
    微分し続けるのでしょうね〜

    ※ここから盛大にネタバレして書きます。

    まずは前日譚として緑美しい島での出来事から。
    (クレジット見る限りはアイスランドと思われる)
    主人公のジンと親が離れ離れになる経緯を描き、
    本作も脈々と受け継がれるスターウォーズのテーマである、
    親子物語であることを冒頭で高らかに宣言します。
    いつものテーマが鳴り響くかと思いきや、
    スピンオフということもあり今回はなし。
    ときは流れジンは大人になり帝国軍の刑務所でムショ暮らし。
    そこへ反乱軍が彼女を助けにやってきます。
    なぜなら彼女の父親がデス・スターの設計者だから。
    この救助で登場するのが過去作におけるR2D2の役割を果たす、
    ロボットK-2SOで、僕はとても好きでした。
    もともと帝国軍のロボットなんだけど、
    プログラムを書き換えられている設定で、
    とてもシニカルなスタンスがかわいらしい。
    前半は帝国軍の支配するジェダという惑星で
    フォレスト・ウィテカー演じるソウを探す様子が描かれます。
    ソウは反乱軍だけどその好戦性ゆえに、
    反乱軍と袂を分かちジェダで戦っている男。
    このシークエンスで登場するのが、
    ドニー・イェン演じるチアルート、
    チアン・ウェン演じるベイズのアジア俳優コンビ。
    彼らの存在が本作最大の魅力かなと思います。
    そもそも本作ではフォースを操れるのは
    ダースベイダーしか登場しない中、
    対人アクションの魅力をすべて担うのが彼らだからです。
    もう最初のアクションシーンから心を鷲掴みにされるし、
    盲目という設定も座頭市のようでいいんですよね〜
    さらに相方のベイズのマシンガンレーザーガンも
    その速射性で敵をなぎ倒す様子がカ・イ・カ・ン©薬師丸ひろ子
    このジュダでの戦いに終止符を打つのがデス・スター。
    過去作ではそこまでデス・スターの暴力性は
    フィーチャーされていなかったんですが、(もしくは伝わってなかった)
    本作でその危険な部分が炸裂!
    今の時代のCG だからこそ見せられる、
    大地が引き裂かれウネりながら、
    まるで津波のように押し寄せてくるシーンは圧巻でした。
    ソウと出会い父の居場所を知ったジンは、
    父へ会いに行くことにします。
    一方で反乱軍はデス・スターを生み出した父を殺す腹づもり。
    ここのシークエンスはジンと父の関係の終わり、
    ジンが銀河を守るという大義へ向かうことへの動機付けで、
    この後、反乱軍の拠点に戻った後の展開が素晴らしかった!
    シンゴジラよろしく会議のシーンなんですが、
    デススターへの恐怖から帝国軍への反撃を躊躇する人、
    ここで戦わないと後がないと主張する人で議論が分かれる。
    そこでジンが「希望」と反乱軍について語る点は、
    NEW HOPEをすでに知っている観客からすると
    こうやって「希望」のバトンパスが続いてきたのか …と
    グッとこざるを得ないわけです。
    しかもフォースの文脈とは関係なくと思うと泣けてくる。
    とくにダーティーダズンよろしく、
    悪いこともそれなりにやってきたけど
    今こそ立ち上がるべきという志願兵たちの顔つきよ!
    からの終盤の宇宙大戦争!でブチ上がり!
    監督のエドワード・ギャレスの手腕がいかんなく発揮されていました。
    空中戦、地上戦といい意味でしっちゃかめっちゃか。
    敵の本拠地で少数精鋭で地上で暴れまくってからの
    反乱軍の援軍が到着してからの空中戦。
    僕はアジア系2人が活躍する地上での白兵戦が好きでした。
    もろに戦争映画のルックスだし、
    僕がすごいな!と思ったのはAT-ATの見せ方。
    すでに弱点まで知ってしまってる我々からすると、
    足長いカメレオンみたいな可愛い兵器。と思っていたんですが、
    さすがゴジラを撮っただけあるというか、
    大きさの迫力がスクリーンからビシバシ伝わってきて、
    怖い存在として改めて認識させられました。
    デススターの破壊力然り、
    この姿勢が本作をオモシロくしているのだろうなと思います。
    自分たちの大義を完遂するため、
    デス・スターの設計図を発信するために全員が命を賭して戦う。
    この命を賭すというのがポイントで、
    マジかよというくらい死にまくるんですよね…ここも切なくて。。
    散々な犠牲が払われた結果のデス・スターの設計図、
    という本作の内容を踏まえると、
    エピソード4の新たなる希望(New Hope)に新たな深みが増す。
    そのエピソード4への橋渡しの演出も冴えていて、
    レイア姫を象徴として扱うだけにとどめているし、
    ダースベイダーが設計図を奪い返しにくるシーンは、
    彼の無双っぷりが懐かしくもあり怖くもありつつ、
    赤のライトセーバーが光るところはシビレまくった!
    エピソード4のあの黄色い文字にこれだけの思いが、、、
    と想像することができるようになった、
    ローグワン以前/以後で異なる世界になったという意味で必見!