2016年3月9日水曜日

ザ・ロブスター



独身者は身柄を確保されてホテルに送り込まれ、

そこで45日以内にパートナーを見つけなければ、
動物に変えられて森に放たれるという近未来。
独り身のデビッドもホテルへと送られるが、
そこで狂気の日常を目の当たりにし、
ほどなくして独り者たちが隠れ住む森へと逃げ出す。
デビッドはそこで恋に落ちるが、
それは独り者たちのルールに違反する行為だった。
映画.comより)


映画館で予告編を見て気になっていた作品。
結婚相談所のような設定と予告の雰囲気から、 
ちょっとしたイイ恋のお話かと思いきや、 
Dark side of this world!!な展開の連続で最高最高! 
かなり突飛な設定の中でも伝えたいメッセージは 
しっかりとしていて、表現がバイオレンスだとしても、 
これこそ純愛!と言っていいのかもしれません。

 ※ここから盛大にネタバレして書きます。

本作のオモシロさの大部分を担っているのが、
パートナー斡旋所 a.k.a 収容所です。
あらすじにもあるように独身の人間は
45日以内にパートナーを見つけなければ、
動物になってしまうという奇怪極まりない設定。
このルールが大元にあり、物語が進むにつれて
収容所内のルールが徐々に明らかになっていきます。
この施設はパートナー探しを斡旋するためのルールが
たくさん設定されているんですが、
奇怪なことが多いんですよね。
とにかく1人でいることの不安を煽り、
2人でいることの大切さを押し売りしてきます。
それは笑えるものから笑えないものまで様々。
笑えるものだと入居1日目のしきたりで、
片手を手錠で縛られるというのがあります。
その理由が2つあることのありがたみを知るため。
またマスターベーションも禁じられていて、
もし見つかるとトースターで手を焼かれてしまいます。
マスターベーションは禁止されているん一方で、
家政婦が毎日素股行為を施してくれます。
しかし、素股を寸止めすることで、
男性機能を常にアクティブにしておくという設定が
あまりにもくだらなくて最高最高!
またパートナーのいる/いないで
危機的状況がこんなに違うんですよ!
という小芝居もシュールで好きでした。
ただ笑えない部分も多くあります。
パートナー探しの時間として
ダンスタイムが用意されているんですが、
男性、女性ともにそれぞれ同じ服装を着させることで、
入居者を没個性化させます。
その没個性化の結果、何が起こるとかというと、
身体的特徴の共通点で距離を埋めていくようになる。
その象徴として登場するのが片足の悪い男。
彼は足の悪い女性を探すんですが見つからない中、
鼻血がよく出る女性に恋をします。
そこで彼は無理やり鼻血を出し、彼女との共通点を生み出し、
仲良くなるという行動を取るんですね。
つまり、2人でいなければ人間でいれないという
強烈な圧力のもとで人間同士が無理やり仲良くなり、
2人で暮らしていくというねー
さらにもう1つ追加のルールがあって、
1日1回の狩りの時間です。
これは入居者同士が麻酔銃を使ってお互いを狩りあって
捕らえた人数分だけ入居日数を延長できるシステム。
これも悪質でカップルにならず、
1人で居続けようと思うと同じ場所にいる人間を
犠牲にし続けなければならないんですね。
ここまで長々と述べてきた設定自体は突飛ですが、
現実社会でも1人でいることに対する
批判的な同調圧力は確実に存在するので、
あながち笑ってられないというのが興味深い点だと思います。
見えにくい同調圧力をこんなオモシロい見せ方して時点で
理屈コネ太郎な僕はもう大満足でした。
主人公も足の悪い男と同じように
自分を残酷な人間と偽って、
残酷な女性とカップルになります。
ここからの展開がまた悪魔のような話で、
まず犬が無残に殺されるシーンがあって、
その見せ方が、足に付着した血→犬の死体という
いわゆる鬼畜の所業演出。
自分を偽ることの代償は自分の大切なものを
無残に失ってしまうことである
というメッセージだと思いました。
この地獄の施設からエスケープするのが後半で、
主人公は同じように施設をエスケープし、
1人でいることを選んだレジスタンス集団に仲間入り。
この集団は施設とはすべてが対照的になっています。
まずルールというか掟として、
友達は大丈夫だけど人に恋をしてはダメ。
また施設が管理の行き届いた
綺麗な場所であるのに対して山の中で野宿生活。
1人で生きていくことの過酷さはあるものの、
やっと手に入れた1人でいることの自由に
彼が喜ぶ気持ちも分かる自分がそこにいました。
施設では誰に惹かれることもなかった主人公が、
レジスタンス集団の1人(近視の女性)に惹かれ始め、
物語が展開していきます。
2人が恋仲になり体の暗号で会話するシーンが
小学生みたいで可愛らしく見えるなー
と思ったのもつかの間、
悪夢のような仕打ちが近視の女性を襲います。
その結果、前半で同調圧力の象徴のように見えた、
身体的特徴の合致を良しとする描写が
今度は一転して愛しさと切なさを携えるというねー
前後半の対比は人間が誰かと共生していくことを
とても考えさせる作りになっています。
この見え方の転換が本作を見る楽しみだと思います。
他人の気持ちを理解することの究極形として、
他人の「痛み」を共有するのであるという、
ラストのキレの良さもナイスでした。
監督は本作でカンヌ賞を受賞して、
これが2作目ということで前作も見たいし、
これからも楽しみです!

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