2017年2月28日火曜日

家族最後の日

家族最後の日

昨年かなわないを読んで、
「生活する」ことがいかに大変で豊かなのか、
改めて痛感した訳ですが、新刊が出たので読みました。
帯に書かれているとおり、
母との絶縁、義弟の自殺、夫の癌の
大きく3つの内容に別れているんですが、
他人の家族の話でここまで込み入ったことを
知ることは日常生活ではほとんどありえないので、
とても興味深く読みました。
母、義弟の件も壮絶で自分の家族について、
考えさせられるんですが、
なんといっても夫であるECDが食道がんで
闘病中の日記が本作のハイライトでしょう。
入院から癌発覚から治療までを
奥さんである植本さんが日記で書いたもの。
ECD本人が書いていないので、
当事者の心境はそこまで分からないのですが、
奥さんの立場から見た癌と闘病する人の姿が
どういう風に映るかが克明に記録されていて、
語弊があるかもしれませんが、どうしたってオモシロい。
いつか人間は死ぬ。これは自明の真理であり、
毎日そんなこと考えてたら、
身が持たないから本能的に考えないようにしてると思うんですが、
自分の身内の死が間近になると、
途端にそれが差し迫ったものになると思っていて。
本作を読むと身内ではないけれど、
死、家族という言葉が頭の中をぐるぐる回り始める。
半分野次馬の気持ちで読み始めたのに、
まるで自分もこの家族の一員のように
思えてくるのだから不思議です。
それは単に癌との向き合い方云々だけではなく、
「かなわない」と同様、
生活することが丁寧に書かれているからだと思います。
しかも、誰かに見られるから行儀良くしなきゃ、
というブレーキの形跡が見受けられなくて、
癌で闘病するECDへの労りも勿論あるんですが、
本作が特別なのはむかつくこと、嫌なことも
正直に書かれているところ。
読んでいて「自分勝手だなー」と思う
側面もなくはないけれど、
自分の中にも彼女と共感する側面が
全くないかといえば、そんなことない訳で。
もっといえば、自分の弱い部分をさらけ出せる人は
かっこいいなーと思いました。
あと改めて日記を書き留めておくこと大切だなと思って、
ちょっとずつだけど書き留めるようになりました。
ECDの闘病の様子がYoutubeにアップロードされているので、
これを見て少しでも興味持った人は、
本作を読んでみるといいと思います。


最近退院されたようです。
回復を祈念しているし、ベストアルバム買う!
がんばれECD!

追記
無事に退院された模様!

ラ・ラ・ランド



<あらすじ>
オーディションに落ちて意気消沈していた女優志望のミアは、
ピアノの音色に誘われて入ったジャズバーで、
ピアニストのセバスチャンと最悪な出会いをする。
そして後日、ミアは、あるパーティ会場のプールサイドで
不機嫌そうに80年代ポップスを演奏するセバスチャンと再会。
初めての会話でぶつかりあう2人だったが、
互いの才能と夢に惹かれ合ううちに恋に落ちていく。
(映画.comより)

セッションのデミアン・チャゼル監督の作品で、
前評判の高さは近年稀に見る感じだったので、
期待半分、不安半分で見てきましたが、
圧倒的映画体験でした!
(ハプニングがあり作品賞を逃しながらも、
アカデミー賞6部門受賞という堂々たる結果)
視覚、聴覚を刺激する膨大な情報量で、
観客が多幸感に浸ることのできる素晴らしい作品。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

正直、始まって30分くらいが一番好きでした。
ミュージカルが得意ではないので、
いきなり歌から始まって世界観にノレるかなー
と思ったのも束の間、
その疑問を一瞬にして吹き飛ばす
高速道路でのミュージカルシーンでスタート。
音楽、ダンス、衣装、スクリーンに映し出される世界は、
いわゆるザ・ミュージカル!なんだけど、
いきなり前置きなく始まるのでMV見てるみたいな感覚。
なによりも、撮影の凄さにただただシビれる…
あれだけの広いエリアを縦横無尽に動き回りながら、
カットを割らずに撮ろうとする発想、
そして撮り切ることができたという奇跡。
このシーンを見るだけでも映画館に行く価値があるでしょう。
主人公を演じるのはライアン・ゴズリングとエマ・ストーン。
この2人の共演で恋愛ものといえば、
ラブ・アゲインという屈指の傑作がありますので、
このキャスティングの時点で嫌いになる訳がない。
(ラブアゲインは「彼女と一緒に見るべきDVD」のベストとして
友人と以前に認定しましたので未見の方は是非。)
エマ・ストーンが家に帰って来たところから、
パーティーまでのくだりも再びミュージカル。
僕はここで完全にメロメロになってしまいました…
映画は総合芸術であるとよく言われますし、
あくまでストーリーありきで、
そこがオモシロくないと…っていう人いると思うんですけど、
そんな人にこそ本作最初の30分を見て欲しい。
なぜ映画館で映画を見るのか?
という問いへの回答になっていると僕は思うので。
2人はハリウッドでそれぞれ俳優、ミュージシャンとして
何とか一旗上げたいと思う夢追い人。
そんな2人は同じ街で何度も会うにしたがって、
仲を深めていく過程が前半で描かれます。
恋人ではないけどお互い惹かれ合っていることを示す、
今世紀最強の甘酸ミュージカルシーンがまた最高で。
メインビジュアルにも使われているところですが、
あの何とも言えない紫とも言い切れない、
赤と青の色の具合はもう眼福としか言いようがないし、
ダンスも本当に素晴らしくて、
ここもワンカットで撮っています。(1)
今までミュージカルに乗れなかったのは、
映画のジャンルの中でも特に虚飾の度合いが強い上に、
カットを割ることで、
さらに虚飾を重ねているからなのかなと感じました。
ミュージカルシーンの上記のような過剰な嘘によって、
その他の会話シーンとのGAPが強くなって
結果、物語の世界と距離を置いてしまうのかもなーと。
しかし、本作は撮影の部分での嘘を極力排しています。
ライアン・ゴズリングのピアノも当て弾きではなく、
自分で弾いていることもその内の1つ。
(逆にR&Bのピアノの名手である
ジョン・レジェンドが本作のために
ギター練習したというのは笑える話(2))
映画を構成する様々な要素から嘘を排除して、
より物語という大きな嘘をつくというのがオモシロいと思います。
(プラネタリウムでのシーンでの感動は、
これらの工夫あってこそだと思います)
映画としてのルックの部分は非の打ち所がない本作ですが、
一方の物語の部分は非常にシンプルなもの。
大人の恋愛と夢について描いています。
僕がとくに心に刺さったのは夢の部分でした。
東京ポッド許可局でいうところのボケの精神ですよね。
ツッコミ過剰社会の中で自分の夢に向かって
ひたむきに頑張っている人が相対化(バカに)されてしまう時代に、
本作が伝えるメッセージのまっすぐさに心打たれました。
他人がどうこうではなく、
自分のやりたいことをひたすらに追いかけ続ける。
ただの正論といえばそうなんですが、
映画というメディアだからこそ心に響く訳です。
とくに好きだったのは最後のオーディションのシーン。
歌の歌詞が好きだったし、アテレコではない
エマ・ストーンの生身の迫力も抜群でした。(3)
本当に素晴らしい作品だし、
人生で忘れ難い映画なのは間違いないんですが、
少々気になる点もありまして…
極めてパーソナルな理由なので、
すでに見た方で本作が大好きな方は
不快な気持ちになるかもしれないので、
そっとウインドウを閉じてください。
僕がなんだかなぁと思ったのは2点です。
1つ目は作品内での音楽ジャンルの扱い方。
主人公の好きな60〜70年代のジャズが
もっとも素晴らしいものであるという描写が多いんですよね。
好きなものを追い求めるという夢だから、
というのは分かるんですが、
ジャズの素晴らしさを描くのに
他の音楽を比較軸に持ってこられるのがちょっと…
パーティーでセバスチャンが演奏する80'sバンドや
ジョン・レジェンドが演じるバンドにおける、
MASCHINEの扱い方など。
ジャズの権威主義の部分が色濃く見えてしまって、
僕は残念な気持ちになりました。
2つ目はエンディングの素晴らしい回想シーン。
たらればと言ってしまえば、
それまでですが大人になればなるほど、
「あのとき…」と回顧する気持ちは
どんどん強くなるので、身につまされる気持ちになったし、
切ない気持ちにもなりました。
(ミッドナイト・イン・パリスへのオマージュの美しさ!(4))
ただ、このエンディングの
回想が始まるきっかけとなるキスシーンが、
予告編でふんだんに使われしまっているんですよね。
本作は鬼プッシュされていたため、
僕は少なくとも5回は予告編を見ています。
「見ているテメエの都合だろうが!」
というのは百も承知ですが、
あそこは転換のキーとなるシーンなんだから、
使わないで欲しかったなーと思いました。
他にも素晴らしいシーンは腐るほどある訳ですし。
感動が目減りしてしまったなーと残念な気持ちになりました。
ツラツラと書いてしまいましたが、
全体を通して見れば間違いなく
傑作の部類に入る作品で、
普段映画を見ない人にこそ見て、
この感動を味わって欲しいと思います。

2017年2月25日土曜日

雨の日は会えない、晴れた日は君を想う



<あらすじ>
ウォール街のエリート銀行員として出世コースに乗り、
富も地位も手にしたデイヴィスは、
高層タワーの上層階で空虚な数字と
向き合う日々を送っていた。
そんなある日、突然の事故で美しい妻が他界。
しかし、一滴の涙も流すことができず、
悲しみにすら無感覚に自分に気付いたデイヴィスは、
本当に妻のことを愛していたのかもわからなくなってしまう。
義父のある言葉をきっかけに、
身の回りのあらゆるものを破壊し、
自分の心の在り処を探し始めたデイヴィスは、
その過程で妻が残していたメモを見つけるが…
映画.comより)

ジャン=マルク・バレ監督最新作。
ダラスバイヤーズクラブを見てから、
公開されるたびに劇場で見ていますが、
今回はジェイク・ギレンホールが主演ということで、
かなり期待して見に行きました!僕はめちゃめちゃ好きでした。
喪失→破壊→再生の過程とその結末という物語の部分、
ルック、音楽どれもが素晴らしくてシビれまくり。
ジェイク・ギレンホール主演の映画は
間違いなくオモシロいという方程式どおりの映画。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

クラシックが流れる穏やかな車内で、
夫婦2人で他愛もないことを話しあっている空間が、
車事故によって破壊されてしまい、
映画始まって早々に主人公の奥さんは
亡くなってしまいます。
この大きな喪失をベースにして物語が進んでいきます。
最愛の奥さんを亡くしたのだから、
喪失感に襲われてオンオン泣くかと思いきや、
彼の表情から悲しみの気持ちは読み取れないし、
間髪入れずに仕事に復帰したりする。
その一方で病院にあったお菓子の自動販売機の
会社に対して手紙でクレームを入れ始める。
これが単なるクレームではなく、
身の上話を含めた内容になっていて、
行き場のない彼の感情を知るきっかけになっていました。
本作を見て思うのは、少しのきっかけ、
誰かの何気ない動きの1つで世界が変わるということ。
「あのとき、あの人があの行動を取らなければ…」
という偶然の積み重ねが今を作っていると思わされる。
それは観客側が想定する定石通りの展開よりも、
予想外の展開が多いことによるものなのなかと。
あまりに的外れなことだと、
「そんなわけない」というツッコミで一蹴されるんですが、
細かい部分で逆張りされると、
人生が選択の連続であることを痛感させられました。
この定石からの逸脱で最も特徴的なのが、
喪失→再生までの間に破壊(分解)が挟まれていることです。
自分が本当に妻を愛していたのか、
なぜ大きな喪失に対して何も感じないのか、
理解しようとするためには、
自分を分解(分析)しなければならない。
そこで物理的に様々なものを分解するっていう…
斬新すぎる!そしてこの分解が徐々に破壊へとシフトしていく。
圧巻なのはサクセスの象徴である家の破壊。
異様なカタルシスがあって、
ただただぶっ壊しているだけなのに
めちゃ笑ってしまったし、
破壊に対するリビドーを呼び覚まされる。
(あのブルドーザーのインパクトよ!)
クレームによって関係を持つことになった、
シングルマザーの家族は破壊と再生の狭間のような存在。
身内には言えないことも赤の他人であれば吐露できる
ってなんか分かる気がします。後腐れがないし。
ここで登場する子どもの存在が
本作をとても特別なものにしていると感じました。
過去作でも音楽が良かったけど、
本作はそこが頭1つ抜けた分、
より好きな映画だなーと思いました。
なんといってもFreeの「Mr.Big」という曲ですよね。
至高のドラムブレイク曲ですが、
この曲を聞きながらNYの街を
踊りながら歩くシーンの多幸感!
そして、この曲が好きになる過程が最高で、
子どもが曲に合わせてドラムを叩いて、
それが気に入って自分のiPodに入れてもらうっていう。
取っ替え引っ替えやってくる母親の恋人に辟易していて、
大人を信用できていなかったことが伺える訳ですが、
子どもと対等の目線に立つってこういうことだよなー
と思ったりしました。(あとFuckの適切な使い方)
終盤も予想外の展開の連続で、
簡単に全部丸く収まる訳ではないところに、
人生の普遍性を見た気がします。
邦題の青臭さがどうしても許せなかったんだけど、
ラストシーンを見たときに、
これはこれでいいかなーと見終わったときに感じました。
原題のDemolitionだと味気ないっちゃ味気ないし。
If it's rainy, You won't see me,
If it's sunny, You'll think of me.という言葉が
ラストシーンでハンパなき沁み方するので。。
いつか名画座で
西川美和監督の永い言い訳と二本立てして欲しい。

2017年2月22日水曜日

たかが世界の終わり




<あらすじ>
若手作家のルイは自分がもうすぐ死ぬことを知らせるため、
長らく疎遠にしていた母や兄夫婦、
妹が暮らす故郷へ帰ってくる。
しかし家族と他愛のない会話を交わすうちに、
告白するタイミングを失ってしまい…
映画.comより)

グサヴィエ・ドラン監督最新作。

カンヌでグランプリ取った作品ということで
楽しみにしていました。
今回もセンス炸裂しまくりで、
言ってしまえば単なる帰省なのに、
ここまで世界が拡張できることに驚きまくり。
クールさとエモーショナルが同居する、
かっこいい作品でした。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

主人公ルイのモノローグから始まるんですが、
かなり唐突な入り方をしていて、
見終わってから冒頭にそこそこ重要な
情報詰まってたなーと思いました。
(なので、これから見る人は要注目)
過去の作品はかなりエッジの立った人物を
主人公に据えていたので、
人物の背景説明を端折っていても
割とすぐに理解できたんですが、
本作は「普通」のフランスの一家族の話なので、
登場人物たちがどういった人物なのかを
把握するまでに少し時間がかかるかと思います。
と同時に物語の普遍性が増しているので、
フランスの話とはいえ身につまされること山のごとし。
家族の結束は強くあるべし!みたいな
価値観を押し付けてくるの最悪だと思っているんですが、
本作はリアリスティックというか、
日本でもお盆/年末年始にそこかしこで
繰り広げられているだろう風景が描かれています。
ちょっとしたことで喧嘩になるし、
家族ゆえに遠慮がないから、それぞれの主義主張が
これでもかと開けっぴろげに語られる。
勝手に家を出て行った弟に怒りを感じている兄、
息子の帰還をただただ喜ぶ母、
彼と生まれて始めて会う妹と義姉。
なごやかな瞬間と一触即発の瞬間が
シームレスに流れていく展開がとてもスリリングでした。
それは脚本として優れている部分も当然あると思いますが、
なんといってもカットの見せ方による効果が最も大きいでしょう。
ひたすらカットバックで会話劇を見せることで、
同じ会話でもテンポがとても早く感じる。
さらに、それぞれのショットが話を聞いている人の
肩越しからのショットで顔にクローズアップしているので、
スクリーン全体から圧迫感も感じました。
この圧迫感は抑圧的な家族関係を象徴していると思います。
またMommyや私のロランスで見せたMV手法も健在。
まさかのO-Zoneの恋のマイアヒ使いには心底驚いたし、
リビングのラジオで流れて母娘が踊り始めてから、
回想シーンへと流れていくところの音量のバランスが
とても見事で否が応でもアガっちゃう仕掛けになってました。
原作が演劇ということもあるのか、
ここまで述べて来たような映画だからできることを
かなり意識していると感じます。
終盤のすべてが崩壊していくシーンでは、
ライティングがとても素晴らしい。
青を基調としたクールで重めな色から一転、
オレンジ色を貴重とした夕焼けを思わせる色へとシフト。
上手くいかない家族関係とのGAPが泣けてくるんですなぁ。
ただ過去作に比べるとカタルシスが少し弱いのかなと。
ゆえに煮え切らない気持ちを抱えたまま終わっていく。
観客が自分の家族について考えさせるために、
意図的にしたのかなと思ったりしました。
なんだかんだやっぱりすげーグサヴィエ・ドラン。

2017年2月21日火曜日

ナイス・ガイズ



<あらすじ>
シングルファーザーで酒浸りの私立探偵マーチは、
腕っ節の強い示談屋ヒーリーとコンビを組み、
失踪した少女の捜索をすることに。
そこへマーチの13歳の娘ホリーも加わることになり、
3人で捜索を続ける。
しかし、簡単に終わるはずだったその仕事は、
やがて1本の映画にまつわる連続不審死事件、
さらには国家を揺るがす巨大な陰謀へとつながっていく。
映画.comより)

ライアン・ゴズリング×ラッセル・クロウで探偵物!
ということでララランドの前哨戦として見てきました。
ブコウスキーのパルプ、ピンチョンのLAヴァイスといった
LAを舞台にしたくだらない探偵物シリーズの
バイブスを含んでいて微笑ましかったです。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

いなたいファンクが鳴り響く中、
タイトルが出てLAの夜の街を駆けていくショットは
とても渋くて期待に胸を膨らませてくれる。
彼らがどんな人間なのか、
そして彼らがタッグを組む流れを前半で描いていきます。
いわゆる探偵バディものなわけですが、
このタイプの場合、人物が魅力的であることが
ストーリーよりも重要だと思っています。
本作もストーリーは期待していなかったけど、
2人のケミストリーが楽しみなところがありました。
けれど、結果的にはかけ違うボタンのようで
あまりオモシロくなかったです。
凸凹コンビとしては振りきれてないし、
息のあったところもあるわけではないし。
バラバラでドラマが存在してしまっていて、
2人をまとめていくギャグの部分が乗り切れなかったので、
少し退屈に感じる場面が多かったです。
アメリカンなノリがダメというより、
オーバーアクションで笑わそうとしてくる演出は、
映画館で見ると急に冷めてしまうんですよねー
(友達と家でDVDで見るなら良いと思う)
ただ70年代アメリカが舞台であり、
音楽、ファッション等を丁寧に描いてくれているので、
そこは見ていて楽しかったです。
ディスコのベタな選曲も逆にありかなと思ったし、
エンディングがアル・グリーンでグッときた!
本作の魅力の大きな部分を占める、
もう1つの要素はホリー役のアンガーリー・ライス。
とにかく超かわいいのに2人に影響されて、
下品なことを言うGAPに
僕を含めた世のおじさんはノックダウンされたことでしょう。
さらに昔自宅があった原っぱで、
1人で自宅があった頃を思い出して、
そこで本を読んでいる姿はグッときました。
終盤の自動車産業を巡ったいざこざは
説明台詞が多いし、無理くり感が強くて乗り切れず。
でも終盤の大捕物はとても好きでした!
とくにライアン・ゴズリングの落ち芸3連発は
前半のフリが効いていて唯一笑いました。
続編がありそうな終わり方してましたが、
もうお腹いっぱいだから大丈夫だよ!

2017年2月18日土曜日

グリーンルーム



<あらすじ>
パットがボーカルを務めるバンドは、
車のガソリン代にも事欠く、売れないパンクバンド。
彼らが極貧ツアーの中、
ようやく出演することができたライブハウスは、
なんとネオナチの根城だった。
パットとバンドメンバーは、
そこで殺人の現場を目撃してしまい、
ネオナチ軍団から命を狙われる事態となってしまう。
圧倒的に不利な状況で、
グリーンルーム(楽屋)に閉じこもったパットたちは、
アイデアと反骨精神を武器に
極悪非道なネオナチ軍団に立ち向かう。

去年のしたまちコメディ映画祭で
先行上映された際に諸々騒動が巻き起こっていて、
どんな映画なのかなーと思って見てきました。
パンクスvsネオナチという構図がオモシロかったし、
久々に超スプラッター!な感じで楽しみました。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

映画冒頭、草むらに突っ込んだ
車のショットから始まり、
その車に乗っている若者たちが何者なのか、
というのが前半に展開されます。
パンクスという言葉にどういうイメージを
持つのかは人それぞれだと思いますが、
僕はアゲアゲなイメージを勝手に持っていて。
一方で本作で描かれる彼らの姿は限りなくダウナー
それは自分たちの音楽活動が
上手くいっていないことに起因するんでしょうけど、
スクリーン全体から伝わってくる倦怠感が好きでした。
この倦怠感があるからこそ、
中盤から後半にかけての非日常な事態が際立っていました。
ライブがしたい彼らは地元FM局の人の仲介で、
とあるライブハウスへと向かいます。
そこは坊主の男だらけの危険な匂いがプンプンする空間。
彼らが演奏する曲に首をふる男たちの姿が不気味に見える。
(僕の好きなヒップホップの
パーティーも同じようなものなんですけどね。)
ライブが終わっていざ帰ろうとしたときに、
メンバーの1人が携帯を楽屋に忘れて、
それを取りに戻ったら、屈強な男たちと女の子の死体が!
目撃してしまったが最後バンドメンバーたちは
楽屋に軟禁されてしまいます。ここからが地獄の始まり。
殺人現場を目撃した彼らを生きて帰す訳にはいかないネオナチと、
何としても脱出したいパンクスの壮絶な戦いの
幕が切って落とされます。
本作の特徴は暴力の唐突さとシンプルさ。
超スプラッターと書きましたが、そこに仰々しさはなく、
単純に刺す、撃つ、噛まれる→血が出る
「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか」
えなりかずき©ばりのスタンス。
(犬のところはそれなりにハードだったけど)
ダメージを受ける、死んでいく順番もフレッシュで、
いきなり主人公から手首いかれるというねー
(からのダクトテープによる補強!)
基本ライブハウス内の密室での殺し合いなので、
空間の見せ方、使い方が大事なんだけどそこも見事。
終盤のショットガンの弾数を使った演出が
とてもハラハラして楽しかったです。
主人公たちの逆襲が始まる決定的瞬間があるんですが、
マッドマックスのウォーボーイズを思い出させる
あの出で立ちがとにかく最高最高!戦士!
あと敵側のネオナチがとんでもない悪党だけではなく、
末端の兵士たちはヤワい若者という描写もオモシロい。
敵側をとても悪いやつに仕立て上げればあげるほど、
物語が持つカタルシスは増しますが、
そこに逃げずに1人1人のキャラクターを
丁寧に描いているなーと感じました。
ちなみに僕のDesert Island bandはStevie Wonderです。

2017年2月16日木曜日

その日東京駅五時二十五分

その日東京駅五時二十五分発 (新潮文庫)


映画監督の西川美和さんの小説。
永い言い訳が小説映画も素晴らしかったので、
過去の小説を読み進めています。
本作は映画化されていない作品で戦争のお話。
第二次大戦が終戦して70年近く経っている今、
戦争についてどういう切り口で書くのか、
というのは難しいところです。
一方で戦争体験者から直接話を聞くことが
難しくなってくるこれからは、
本の役割がますます大きくなってきます。
本作はあとがきによると伯父さんの体験記に
肉付けしている小説のことなんですが、
西川監督らしい視座だなーと思いました。
当然、戦争自体は辛いことなんですが、
それだけじゃないという物語を丁寧に紡いでいます。
つまり、生身の戦争が差し迫ることなく、
終戦を迎えた人もいたでしょうということ。
大多数に埋もれてしまう、
個々人のストーリーが僕は好きなのでオモシロかったです。
戦後の今読むと、戦争に関わることなく、
無事に生き残れて良かったねという見方ができますが、
その時代を生きる中で、
戦争に参加している当事者性が無いことに虚無感を感じる、
という見方は新鮮に感じました。
すでに戦争が終戦したことを知っている主人公たちが
電車で日本を横断するロードムービーのような設定が良くて、
電車の外で繰り広げられる光景と
自分たちの知っていることのギャプが印象的に対比されてました。
(主人公たちの別れのシーンは分かっちゃいるけど涙…)
そして終着駅は主人公の地元である広島。
何をか言わんやって話ですが、
決して下を向くわけでは無いラストも好きでした。
西川さん自身のあとがき、高橋源一郎さんの解説も抜群。
興味ある人はあとがき/解説→本編でも良いかもしれません。

2017年2月15日水曜日

201701 Music Video List



1月にリリースされた、
個人的に調子良かった系ビデオのリスト。
上のサムネイルをクリックすると、僕の作ったリストが見れるので、
好きなビデオをピックするもよし、そのまま使ってもらうもよし。
(リリース日順で並べている)
最近部屋にいるときはTVでミュージックビデオを
リスト機能使って流しっぱなしにしていることが多い。
短い時間で印象付けるためのアイデア勝負が
映画とは異なる魅力があって楽しいものです。
ちなみに1月のベストはYoung Thug ”Wyclef Jean"
ミュージックビデオとは何なのか?
という禅問答のような作品でオモシロかった。
ラップ・イヤー・ブック早く読まなきゃ。


2017年2月14日火曜日

ミス・ペルグリンと奇妙な子どもたち



<あらすじ>
周囲になじめない孤独な少年ジェイクは、
唯一の理解者だった祖父の遺言に従い、
森の奥にある古めかしい屋敷を見つける。
そこには、美しくも厳格な女性ミス・ペレグリンの保護のもと、
空中浮遊能力を持つ少女や透明人間の男の子、
常に無口な双子といった、奇妙な子どもたちが暮らしていた。
映画.comより)

ティム・バートン監督最新作。
特別好きな監督という訳ではないですが、
予告編を見てこれは良さそうと思って、
軽く調べたら脚本がジェーン・ゴールドマン。
彼はマシュー・ボーンとのタッグで、
キック・アス、キングスマン、
Xメン  ファーストジェネレーションといった、
近年のヒーローもの傑作群を生み出した人。
ティム・バートンが彼を採用したのが
よく分かる内容だったし、
はぐれ者たちが力合わせて巨悪に立ち向かう、
ましてやそれが子どもたちなんだから最高最高でした。
個人的にティム・バートンのベスト。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

本作は子どもがパラレルワールドに迷い込み、
そこで冒険を繰り広げるお話。
本当にたまたまなんですが、
こないだ読んだ夜市という本の内容と
とても近くてびっくりしました。
冒頭におどろおどろしい感じで、
オープニングクレジットが繰り広げられるんですが、
Welcome to Florida という文字が出て、
笑ける楽しい始まり方。
ティム・バートンらしいゴシック要素は
過去作に比べるとだいぶ抑え目。
子どもとおじいさん。
突拍子なことを言ったときに、
彼ら以外の大人は彼らの言うことを戯言と退ける。
でも彼らが本当のことを言っていて、
人知れず世界を救っているとしたら?
という、いつまでも童心を忘れないティム・バートンは、
リアリスティックに触れがちな世界で、
今貴重な存在なのかもしれないなと思いました。
お話としてはXメン ファーストジェネレーション
とほぼ被っていて、そこにパラレルワールドを絡めたもの。
ゆえにジェーン・ゴールドマンが採用されたのでしょう。
特殊能力をもった子どもたちを
アダム・グリーン演じるミス・ペルグリンが
保護者として下界から守っています。
ペルグリンは時間をコントロールする能力を持っていて、
子どもたちと共にある1日をループで生きている。
それは彼らの住む島で起こる1943年のナチスの空爆の日。
本作は排外主義により迫害された子どもたちの話なので、
ナチスの話が入ってくることはある意味当然。
前述したようなファンタジックな世界と現実のギャップが
物語をどんどんドライブさせていました。
あとはキャラクターの魅力が最高最高!
火を操れる女の子、機械を思い通りに動かせる男の子など、
実用的な能力を持つ子どもがいる一方で、
目が映写機の男の子、頭の後ろに口がある女の子といった、
極めて非実用的な能力を持った子どももいる。この多様性よ!
あと子どもたちが敵に狙われる理由もオモシロくて
ある実験により失った自分たちの体を取り戻すために、
子どもの目を食べるっていう。。。
監督の名前言われなかったら、
ギレルモ・デルトロの作品かな?と思ってしまうくらいに、
今回のティム・バートンは攻めてます!
メインの柱となるジェイクとエマの恋が、
また抜群の甘酸案件で最高なんですよねー
ジュブナイルの恋はそれだけで正義。
エマは空気よりも軽いという能力を持っていて、
まるで風船のように世界を浮遊する存在。
そんな彼女を必死に繋ぎ止めるジェイクの初々しさがたまらない。
終盤、時間の動き出した世界で、
皆で協力してミス・ペルグリンを救出するシーンは、
彼らの無計画っぷりが少し目につくけど、
それも愛おしく感じるんだから不思議なものです。
(サミュエル・L・ジャクソンは冒頭で出落ちな気がする)
アメコミ好きな人にはドンズバで刺さる作品。

2017年2月11日土曜日

ニュートン・ナイト



<あらすじ>
南北戦争で戦死した甥の遺体を
故郷のミシシッピ州ジョーンズ郡に届けようと、
南部軍を脱走したニュートン・ナイトは、
故郷で農民から食糧を奪う軍と衝突し追われる身となる。
身を隠した湿原で黒人の逃亡奴隷たちと出会い、
友情を築いたナイトは、白人と黒人がひとつになった
反乱軍を結成し、自由のために立ち上がる。
映画.comより)

マシュー・マコノヒー主演!
そこの一点突破で見てきました。
行くぜHIPHOPER!©Zeebra
すみません、言いたかっただけです。
最近観たマコノヒーといえば、
Huluで配信されている
TVドラマシリーズのTrue Detective。
このブログでも紹介しましたが、
個人的マコノヒーランキングのTOP3に
入ってくる傑作なので未見の方は是非。
それはともかく本作は実話ベースの
本格歴史もので最近のアメリカの激動ぶりを踏まえると
趣き深い作品になっていました。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

本作は南北戦争を描いた作品なんですが、
南軍の愚かさを象徴するかのような
冒頭のショットがとても印象的。
死屍累々の丘を南軍が歌いながら行進、
そこへ待ち伏せしていた北軍が集中砲火。
本作のスタンスを画で分からせる。
ドラマだからといって逃げることなく、
戦争シーンのバイオレンス描写が
攻めの姿勢を貫いているのもナイスだと思いました。
あらすじにもあるように脱走兵となった、
ニュートンは南軍が一般家庭から物資を
巻き上げてるところに遭遇し追われる身になります。
その最初の南軍とのバトルシーンで、
年端もいかない女の子たちが
銃をかまえて南軍の脅しに屈しない姿勢を見せる。
不謹慎かもしれないけどキュートでした。
彼は自分の権利ひいては市民の権利のために
終始戦い続ける人なんですが、
このシーンがあるからこそ、
白人である彼が当時奴隷扱いされていた黒人たちに
寄り添うことへの理由付けになっていると思います。
彼は南軍から逃れるため黒人のコミュニティへと流れつき、
不当な南軍の脅しに苦しむ白人を巻き込みながら、
どんどん勢力を拡大して反撃の狼煙を上げていきます。
本作が変わった作りになっているのは、
約80年後のニュートンの子孫の姿も描いている点。
彼は裁判所で被告人として立っていて、
その罪状が黒人の血を1/8引いているにも関わらず、
白人の女性と結婚したこと。
こんなことがあったのか!と驚かざるを得ないんですが、
すべてが地続きに存在していて、
現在を生きる人間はその過去に縛り続けられる
というメッセージが重くのしかかってきます。
自ら主体的に変わろうとしなければ、
過去が常に踏襲されてしまうことの怖さ。
その時代に生きる人たちが理想を掲げて、
自分たちが生きやすい世界を作り上げていく
必要があるんだなーと思いました。
アメリカではその原理が悪い方向に流れて、
時代に逆行する、悪夢みたいなことが起こっていますが…
民主主義の選択の結果と言われれば、
それまでですが己の自由は主体的に獲得せねば!
と思わされる映画でした。

夜市

夜市 (角川ホラー文庫)


大阪帰省時のブックオッフサルベージ。
友人から薦めてもらったやーつです。
ホラーとかSFは映画で見ることは多いんですが、
本になると自分から読むことは皆無なので、
かなり新鮮な読書体験でした。
普段、小説はどちらかと言えば
純文学系を読んでいるので描写の巧みさを楽しんだり、
「共感」「反感」を抱いたりして楽しんでいるんですが、
そこは少し弱かったので食い足りない感じはありました。
しかし!構成がめちゃめちゃ巧み。
ページを捲る手が止まらない。
特に表題作の夜市はホラー大賞を
勝ち取った作品ということで、
よくそんなこと思いつくなーという話で楽しかったです。
「何かを得るには何かを失う」という、
古から存在する普遍的な原理を使ったシーソーゲーム、
感覚としてはRPGゲームに近いものがありました。
我々が生きている世界とパラレルに
別の世界が存在するという設定は、
もう1つの作品である風の古道にも共通していて、
SFの常套手段ですが、それが日本古来のものと
結びつけて描かれているのがフレッシュだなーと。
自分の嗜好に偏りがちですが、
こんな風に毛色の違う作品と
エンカウントしていきたいです。

2017年2月8日水曜日

ふくわらい

ふくわらい (朝日文庫)

サラバ!という超名作を読んで以来、
僕の「西加奈子」 観というのは180度変わり、
積極的に過去作を読んでいます。
サラバ!を読んだのは友人の勧めがあったからなんですが、
その友人から前から本作もプッシュされていたので、
文庫になったこともあり読みました。
(てかサラバ!読んでいない人はマジで読んだ方がいいです。)
人は見た目が9割という価値観に対する、
西加奈子なりの解釈といった感じで楽しかったです。
そもそも人の見た目と中身の話をする際に、
ふくわらいを物語の軸に持ってくるセンスに脱帽…
美人や男前というのは、
然るべき場所に然るべきパーツが存在することで、
形成されるという当たり前のことを書いているんですが、
本作を読むと異様に人の顔のことが気になり始めてしまう。
(電車乗っている時に人の顔を凝視してしまい、
不審がられるという事故を2,3回起こしてしまった。。)
一体何がその人をその人たらしめているのか?
ということを本作では探っています。
とにかくキャラクターが強烈で、
盲目の人、プロレスラー、作家の奥さん、美人編集者など、
それぞれ見た目と中身にGAPを持ちながらも、
立場が異なることで、立体的に見た目と中身ってなんぞや?
と読んでいる間中、ずっと考えさせられました。
西加奈子さんらしいなと思ったのは、
「見た目じゃない!中身なのよ!」
という逆の安易な結論にはいかないところ。
見た目/中身全部込みでテメエなんだと
優し〜く諭してくれるのが心地よかったです。
終盤にかけてのドライブのかかり具合が最高最高!
主人公の鳴木戸とプロレスラー守口のタイマン勝負から、
鳴木戸が守口の試合を見に行ったところまでの、
エモーショナルの高まり具合がハンパじゃなかったです。
次は最新作のiを読みたいなぁ。

2017年2月7日火曜日

死をポケットに入れて

死をポケットに入れて (河出文庫)

昨年パルプ読んでブコウスキーオモシロ!
となったのでエッセイを読んでみました。
本作は91〜93年までブコウスキーが
書いていた日記をまとめたものです。
あとがきによると毎日書いていたわけではなく、
断片的に記していたものをまとめた作品とのこと。
この91年にMacを手に入れて、
長年使っていたタイプライターと別れを告げていて、
この作品もMacで執筆されています。
いかにMacの導入が小説/詩の書き方に
大きな影響を与えたか書かれていて、
2017年の今読むと牧歌的だなーと思いつつも、
音楽然り、映画然り、芸術の進化と
テクノロジーの進化は不可分だなと感じました。
基本的に競馬場と家を往復する老人の
世間への恨み辛みといった内容なんですが、
他人と関わることを面倒に感じながら、
書くことだけが自分を安らかにしてくれると言い放つ、
その豪胆さがかっこいいなーと思います。
その恨み辛みの中で、たまに人生について普遍的に思うことを
ポロっと書いているので油断ならない。
死に対して恐れを抱くことなく、
ポケットに入っているような身近なものと考える、
この考え方はある意味では無敵になれるかもしれません。
彼は94年に白血病で亡くなっているので、
自分の死期が近いことをどこかで悟っていたのでしょうね。
今年は彼の作品を色々読んでみたいです。

2017年2月6日月曜日

ビニール傘


ビニール傘


街の人生、断片的な社会学と
とても好きな作品を生み出してきた岸政彦さんの小説!
発売初日にゲットしてソッコーで読みました。
(サイン会のチケットゲットできたけど、
平日19時に新宿紀伊國屋行けるのか…?)
いきなり芥川賞候補という前フリがあり、
小説はどんな感じなのか期待していたんですが、
断片的な社会学経由の小説で素晴らしかったです。
芥川賞候補となった「ビニール傘」と「背中の月」という
中編が2つ収録されているんですが、
僕は「ビニール傘」が好きでした。
構造の特徴でいえば主語不定な点があります。
僕の知っている範囲だと滝口悠生さんは、
主語不定系だと思うんですが、
本作はその先に行っていて
「俺」とその彼女の1人称で様々な人間を描いています。
それはタクシードライバーだったり、
フリーターだったり工場労働者だったり。
彼らの他愛もない日常が淡々と繰り広げられるので、
何がオモシロいねんと言う人がいるかもしれません。
本作が特別だと感じるのは、
これが僕の物語でもあったかもしれないし、
あなたの物語であったかもしれないということ。
特定の人物が主語になっていないことで、
自分もしくは他者を否が応でも想像させられる。
ギスギスした社会において、
特定の立場の人間を糾弾している人が
実際に自分がその立場になることを
1mmも想像できないことへのカウンターとして、
こんな鮮やかな回答が文学でできるなんて!
と感銘を受けました。
あと僕の個人的な話をすれば、
すでに大阪を離れて5年近く経っている身からすると、
どうしても郷愁を感じてしまう。
合間に挟まれている写真も特定の場所を
想像させないんですが、
文章と写真がセットになっていると、
頭の中の大阪が引きずり出されました。
もう1つの「背中の月」は喪失の物語。
ある日突然奥さんを亡くした男性が主人公なんですが、
「なんで死んじゃったの〜涙」みたいな、
仰々しいことではないし、
他者との触れ合いで…ということでもなく、
亡くなった奥さんと過ごした時間、
奥さんを亡くしたあとの時間に対して、
主人公がどのように向かい合ってきたのか
すでにそこにあるもの、事実から
主人公にとって奥さんがどんな存在だったか?
それを浮き彫りにしていくスタイルが好きでした。
断片的〜もそうだったんですが、
僕たちが普段生活していて、
なんとなく考えるけれど思考の波に流されていくものを
キャッチするスキルが本当に素晴らしいんだなーと。
これからも小説を書いて欲しいと思いますし、
ライフワークである社会学の本も読みたいです。

追記
定時退社でダッシュして無事にサインをゲットしました!

2017年2月4日土曜日

タンジェリン



<あらすじ>
クリスマスイブのロサンゼルス。

トランスジェンダーの娼婦シン・ディは
恋人が浮気していることを知って怒り狂い、
浮気相手を見つけ出して懲らしめるべく奔走する。
シン・ディの親友で歌手志望のアレクサンドラは、
カフェでのライブを目前に控えていた。
一方、アルメニア移民のタクシー運転手ラズミックは、
自らの変態的な欲望を満たそうとしていて…
(映画.comより)

全編iPhoneで撮影した映画!

ということで話題になっていたので見てみました。
iPhoneで撮る意味がしっかり存在する、
LAアウトサイダーズの日常が見れて楽しかったです。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。


主人公はシンディ、アレクサンドラという

トランスジェンダーの2人が
ドーナツショプで駄弁っているシーンから始まります。
ほぼ前知識無しで見に行ったので、
何だ、何だー!と思わざるを得ませんでした。
ツカミはバッチリ。
iPhone5sにアナモルフィックレンズを付けることで、
ワイドに撮られているためルックは映画然としていて
全然安っぽくない仕上がり。
言われなければ分からないと思います。
どうしようもないけど愛さずにはいられない、
アウトサイダーズの日常。
それをiPhoneのようなラフな画質で撮る、
物語と映像が呼応する素晴らしい形だと思います。
あらすじにあるシンディの浮気と
変わった性癖を持ったラズミックの話が
二本立てでパラレルに進んでいくんですが、
画面に映るLAは外様の人間が
イメージするものと異なり、
ギャングスタではないダーティー感があって興味深かったです。
タイトルにもなっているタンジェリン。
これはオレンジの名前である訳ですが、
全体に橙な色調が非常に特徴的。
とくに夕暮れの色合いがとても美しかったです。
その美しさと起こっていること自体のしょうもなさ、
このギャップがグッとくるところでした。
当然、ハイグレードなカメラで撮った映像の方が、
見た目はリッチになるわけですが、
映画のオモシロさは1つ1つのショットと
編集、物語のプロットによるんだなーと感じました。
編集の点ではテンポの良さが素晴らしくて、
とくにシンディが彼氏の浮気相手の女を
街中を連れ回すという、どうしようもない展開と
相性が良かったと思います。
ショットの点ではアレクサンドラが
バーで歌う シーンのクローズアップショットは
際立つ孤独感がとてもかっこ良くて好きでした。
後半にかけてラズミックとシンディ、アレクサンドラの
ストーリーが交わっていきます。
ラズミックの変わった性癖がなかなかの衝撃で、
観客が想像する斜め上を超えてくるし、
「テメエついてねぇじゃねーか!」は笑いました。
そして、超カッコイイのがカーウォッシュのシーン。
車がカーウォッシュの機械の中へ入っていき、
そこでブロージョブが行われる訳ですが、
後部座席から撮ったカーウォッシュの様子は
現代アートの様相さえ呈していました。
そして完全に物語がクロスする終盤。
それぞれの矢印が無限に交錯する、
あのワチャワチャ感が最高最高だった!
そのままおもちゃ箱をひっくり返した形で
終わるかと思いきや、コインランドリーでの
しっとりした情緒のあるラストがまたグッとくる。
次作はうって変わって35mmで撮っているみたいなので、
そちらの作品も楽しみなところです。(1)

2017年2月1日水曜日

ネオン・デーモン



<あらすじ>
トップモデルを夢見て故郷の田舎町から
ロサンゼルスに上京してきた16歳のジェシー。
人を惹きつけるを持つ彼女は、
すぐに一流デザイナーや有名カメラマンの目に留まり、
順調なキャリアを歩みはじめる。
ライバルたちは嫉妬心から
彼女を引きずりおろそうとするが、
ジェシーもまた自身の中に眠っていた
異常なまでの野心に目覚めていく。
映画.comより)

ニコラス・ウィンディング・レフン監督最新作。
前作のオンリー・ゴッドが正直、
僕には理解の及ばない領域の映画でした。
それで今回もメインビジュアルを見たときに、
大丈夫かな…と勝手な心配をしていたんですが、
完全に杞憂でした!マジで最高最高!
オンリー・ゴッドがあったからこそ、
レフン監督が新たな領域に到達したと言える作品かと思います。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

最初にタイトルが 出るんですが、
フォントの感じからしてたまんないわけで、
そっから主演エル・ファニングが演じるジェシーの
ショッキングなシーンから映画は始まります。
このバキバキにキメまくったショットと、
撮っているカメラマンの顔よ!
良からぬことが起こるだろうという
気配が漂っていてツカミはばっちり。
あらすじにもあるように本作は
女性モデルの世界を描いた作品です。
前半は田舎出身の少女がモデルの世界に
飛び込むことの苦労を描いていきます。
最初にとんでもない顔をしていた
カメラマンの男の子はどちらかといえば彼女の味方で、
丘でデートするシーンが超甘酸っぱくて好きでした。
あとジェシーが泊まっている
モーテル内での物語もとてもオモシロかったです。
キアヌ・リーブスをモーテルの管理人に使うという、
大胆なキャスティング。
美女、ヤバい管理人、モーテルといえば
どうしたってヒッチコックのサイコを想起しますが、
斜め上の展開連続で楽しかったなー
まさかの山猫の登場も然り、
夢オチからのキアヌの恐ろしさ然り。
オンリー・ゴッドのときに何が乗れなかったといえば、
ストーリーの推進力が少なかったことがあります。
それは研ぎ澄まされているという言い方もできるんですが、
あまりにビジュアルで引っ張り過ぎたのかなと。
そして本作は僕が感じた物足りなさを
分かりやすい物語で補完してくれていました。
物語と映像のかっこよさが有機的に結びつき、
最高のハーモニーを奏でていると感じました。
テーマは女性の若さと美しさ。
レフン監督の最新作で女性がメインとなるのは、
初めてかと思います。
ただ女性が主人公ではあるものの、
その若さ/美しさを消費/客体化する男側の視点で
描かれている部分があるので
男性こそ本作を見るべきだと思います。
日本だと「アイドル」という形式で、
大人が年端もいかない女の子を愛でる文化がありますが、
それが何を助長するのかということを本作は示唆しています。
象徴的なのがファッションショーのオーディション。
あのデザイナーのリアクションがすべてを物語っていました。
そして、ファッションショーで満たされていく、
ジェシーの承認願望の描き方が斬新で超かっこいい!
満たされた後の変貌ぶりはさながら超サイヤ人3で、
ギャグか!と言いたくなる思い切りの良さがたまらなかったです。
しかも、このジェシーをエル・ファニングが
演じているメタ構造がオモシロいですよね。
彼女を説明するファクターとして、
若さと美しさが大きな割合を占める訳ですから。
終盤は破滅への階段を徐々に登っていくジェシー。
それを助長するのがジェナ・マローン演じるルビーで、
彼女も相当トバしていて良かったです。
(ロシアンマフィアみたいなタトゥーがいかす!)
単なるネクロフェリアという描写にとどまらずに、
ネクストレベルに行っていると思います。
アデル、ブルーは熱い色ばりの衝撃。。。
若さと美しさがすり減っていくことに
耐えきれない大人たちによる憂さ晴らしの結果が
主張としてはかなりシニカルなんだけど、
スクリーン上で展開されるシーンは派手
というギャップが好きでした。
年相応に生きたいと思うと同時に、
自己肯定の必要性も感じました。
(レフン監督曰くナルシズムの祝福)
他人の畑が青いからってそこへ侵食していっても
ろくなことはないんだよという話は
様々なことが可視化されている現代にぴったりでしょう。
レフン監督のフィルモグラフィーの中で、
僕は現状一番好きな作品です!