2023年11月30日木曜日

本屋、はじめました

本屋、はじめました/辻山良雄

 本が好きなら「本屋を商いながら暮らしたい」と一度は夢想すると思う。では実際問題、本屋を始めて商売することはどういったものなのか?を知れる一冊でとても興味深かった。そして現実はそこまで甘くないこともよく分かる超プラクティカルな内容であった。

 著者は荻窪でTitleという新刊書店を経営しており、これまでの経歴と開業までの流れを追ったドキュメンタリーとなっている。もともとリブロで働かれていたらしく、土地を転々としながらさまざまな形で本屋の販売、経営にコミットされていたことがよく分かる。そして著者が考える本の尊さを開業過程、実際の営業状況から感じ取ることができた。

 池袋のリブロはジュンク堂と合わせてよく利用していたし同じ関西出身なので勝手に親近感を持った。2017年の刊行当時よりも本屋の数はさらに減っていく傾向にある一方、個人による独立系書店は増加している。それはまさしく本著のようにどういった流れで商売しているか情報を提供するケースが増えたからだと思う。(なんと事業計画書、営業成績表まで開示されている!)ノウハウの一部だから開示したくないはずだけど、そこを乗り越えてオープンソースにしたのは本というカルチャーに対する危機感からなのかなと思った。

 みんなが必要なもの、欲しいものを同じように並べていてもしょうがないという話は本屋に限らずネット通販の普及によって全ての小売りにとって共通課題となった。そこでお店を続けていくためにさまざまな仕掛けを用意することの必要性を説かれていた。ずっと同じスタイルで継続しているお店の尊さと合わせて。インスタなどのSNSにおいて雰囲気でインプレッションを稼ぐことよりもこういう実店舗における「リアル」の積み重ねこそが本当の意味でのカルチャーへの愛、貢献だよなと感じた。最後に京都にある誠光社の堀部氏との対談が載っていて、そこでは本屋の商売の厳しさ、意志だけではなんともならないことがよく分かった。一消費者として本を買うことを続けていきたいと改めて思った。

2023年11月29日水曜日

ギケイキ2

ギケイキ2/町田康

 1が異様にオモシロかったので2もすぐに読んだ。あいかわらずのリーダビリティの高さであっといういまに読了。鎌倉時代の話がこんなに楽しく感じられるのは加齢による効果もあると思うが間違いなく著者の筆致によるものだと二冊読んで痛感した。

 義経記の原作がどうなっているのか知らないのだけども、義経のエピソードで最も有名であろう一ノ谷の戦い、屋島の戦い、壇ノ浦の戦いといった数々の武勇伝は一つも詳細に語られていない。いずれも読みどころたくさん作れそうにも関わらず、本作では戦闘シーンよりも政治に拘泥する様がたくさん書かれている。(作品内で「戦闘シーンは結果的に自慢になってしまうから」とエクスキューズしていた)具体的には頼朝から敵対心を抱かれ戦争のきっかけを用意されて東の頼朝、西の義経という構図の戦争へと向かうにあたっての悲喜交々。まるで中間管理職のように頼朝と公家や天皇とのあいだで右往左往しつつ天下を取れないか模索している様をひたすら軽いノリで描いている。前作同様、現代に生きる義経の回顧録スタイルで語られている中で、徐々に後悔や「あのときはこう思っていた」という現在視点での感想が入ってきて、そこがアクセントになっていた。

 あいかわらずの関西弁と口語の文体で読み続けるうちに何かに似ているなと思ったら漫才コントだと気づいた。だからこそ読みやすいし文字にしたときにオモシロいボケがひたすら書かれてるので読んでいてずっと楽しい。これはもう町田康節としか言いようがなく圧倒的なエンターテイメントだと思う。3が出たばかりなので、このまま読めるのが楽しみ!

2023年11月28日火曜日

2023年11月第4週

49 by Keem Hyo-Eun & DON MALIK

 Ambition Musikからまさかの2人、Keem Hyo-EunとDON MALIKによるデュオアルバムがリリース。タイトルの49はアメリカのカルフォルニアにおけるゴールドラッシュの年であり、金塊を求めたものたちを49ersと呼んだ。彼らは「ヒップホップ」というゴールドを追い求める男たちだ。Keem Hyo-Eunは数年ぶりにオフィシャルなクレジットのある作品となるが、これが本当にThis is HIPHOP!!と言いたくなる最高の作品だった。
 DON MALIKが変幻自在のフロウでラップのスキルを見せつけているのに対してKeem Hyo-Eunの落ち着いたスタイルの相性が抜群。声色も結構違うのでデュオとしてキャラの区別がついていて良い。1曲目からDok2をfeatで召喚、他にも”grow”にp-typeとVerbal Jintも参加していたりOGへの敬意を込めつつアップデートしたかっこよさがある。1曲目にDok2を迎えたのはKeem Hyo-EunがAmbitionから最初にリリースしたEPに対するオマージュだろうし、p-typeとVerbal Jintの参加は彼らがSNPというクルーを組み、韓国語による多音節ライムを編み出したことを考慮すると揃い踏みする意味が増す。(詳しくは名著「ヒップホップコリア」を参照)Ambition musikがフルアルバムをYoutubeに英語訳詞付きでアップロードしてくれているおかげでリリックも知ることができた。Keem Hyo-Eunの不在は鬱によるものであることが示唆されていたり、同期のchangmoやHash Swanほど上手くいかなかったことを吐露したり。彼のストレートかつリリカルな言葉がとても響く。2人ともオーセンティックなスタイルを貫きつつ研鑽をやめずにスキルで魅せていく、これがヒップホップだよな〜と改めて。DON MALIKには「色々疑って本当にすまん!」と勝手ながらに去年の無礼を謝りたい。ヒップホップと加齢について歌っている”grow”が一番好きな曲

THE CORE TAPE, Vol.3 by Dok2 & Holly

 Miyachi, JP THE WAVYによる新曲のビートがHollyという彼らにしては変化球なスタイルなことに驚きつつ、見落としていたDok2との共作アルバムを聞いた。オーセンティックなものから変化球まで幅広いビートのスタイルに対してDok2がかっこよすぎるラップでビートをねじ伏せていき曲としてかっこよくなるという恒例の流れ。リリックの韓国語が増えてきているし、最近のfeatの参加も韓国シーンへの復活に向けて地ならしなのかなと邪推。好きな曲はここ数ヶ月で一番ブチ上がったビートに対してまさかのKillagramzをfeatに迎えてばチバチにかましまくりな”Gushers”

HDISMYPRODUCER 2, AliveFunkISMYPRODUCER by kitsyojii

 一体どうなっているのか、異常なリリースペースが続くkitsyojii。フルアルバム『#freekitsyojii』を持って引退するらしい…ラッパーあるあるの引退詐欺によるアテンション稼ぎなのか。アルバムは来週に書こうと思うけど、まずはこの2作。HDBL4CKはおかわりで登場。正直今この手垢のつきまくった「ブームバップ」的なものでアガる要素はほとんどなく…やっつけ感は否めない。他のスタイルができることを知っているからこそかもしれない。一方でAliveFunkとの共作は歌へのチャレンジがたくさんみられて良い。単純にAlive Funkのビートがかっこいいという話もある。シンセ使いのモダンファンクはいつだって最高。好きな曲は”Ping Pong”

bury. by punchnello

 AOMG所属ながらAOMG感がほぼないpunchnelloによるEP。『ordinary.』の最後の曲”Homesickness”という名曲の延長線上にあるようなchillなムードになっていた。前作がかなりインダストリアルで音数少なめのハードなサウンドだったのからの揺り戻しなのか。寒い中、このEPを聴きながらチャリを漕いでいると最高にフィットしたので完全に冬のEP。彼の好きなところはこういうゆるい曲でも歌うのは基本フックだけでしっかりバースはラップするところ。好きな曲はそんなラップが堪能できる”wind”

four by IO

 Def Jamに所属してから2枚目となるアルバムがリリース。KANDYTOWNが活動休止したこともあり各人のソロの活動に注目が集まる中、いかついアルバムをしっかり用意しているあたり流石としか言いようがない。正直『Player’s Ballad』はタイトル通りバラードが過ぎた。Singing Styleの中でも声が細く、それが魅力ではあるものの歌う一辺倒だとお腹いっぱいになった。今回はラップの量も適度に増やしつつ、得意のムード満点な曲もありつつでバランスが取れておりアルバムとしての完成度がとても高い。またWatsonとの曲に顕著だけど、上手いこと言うスタイルも積極的に取り入れることで風通しの良さもあり聞きやすくなっていた。(Watson、Jin Doggがいてドリルをやらない美学よ…)GQの密着動画で制作の風景が流れていたがGooDeeとのディスカッションで作ることが多いようでサウンドとラップの調和もかなりうまくいっている。
 そして韓国ヒップホップ好きとしてはGRAYのビートが入っていることは見逃せないポイント。既発シングルでGRAYのビートに初めて乗る日本人がIOというのは意外!と思いつつ、シングル単体で聞いたときの物足りなさはなくアルバムで化けた。ラッパーというよりもプロデューサー気質なのだなと改めて感じた。あとInterludeが入っているの日本のヒップホップのアルバムは最近ほとんどない中で彼がやると嫌味なく「アルバムで聞いてくれ」というメッセージになるのもかっこいい。好きな曲は英語に逃げず、フリーキーなフローで新自由主義的価値観をレップする”AMIRI DENIM”

Welcome 2 Collegrove by 2 CHAINZ & Lil Wayne

 2016年にリリースされた『Collegrove』の続編。Meek Mill、Rick Rossによるデュオアルバムに続いて、この2人がリリースしてくる流れに時代を感じる。やはり大御所なので安心して聞けるし逆にいうとUSの新譜とかはもう追い切れていないことを逆説的に感じた。今のトレンドとは関係なく、まさに2010年代ど真ん中をやり抜くスタイル。音楽の消費速度が上がっているからリバイバルするのも速くなっているのか、めちゃくちゃ新鮮に聞こえる。featはUSHER, Fabolous, Rick Rossなどの往年のメンバーもいつつ、21 savage, Benny the Buther, Voryなど今のラッパーも入っていてバランスの良い配置。Bangladesh、Mannie Fresh、Hitmaka、Mike Deanなどプロデューサー側も万全なメンツの中で意外だったのはHavocが2曲も参加していること。これでアルバムが締まっている印象を持った。好きな曲はリフが懐かしさを感じざるを得ない”Millions From Now”

2023年11月23日木曜日

Forget it Not

Forget it Not/阿部大樹

 レイシズムという本を翻訳した人が同年代でエッセイをリリースしていると知って読んだ。現役の精神科医であり翻訳業にも積極的にコミットしている人ならではの話が多く興味深かった。頭脳明晰っぷりが文章からにじみ出ていて久しぶりに天才と遭遇した感覚を持った。

 過去に寄稿された原稿のまとめ集なんだけども特殊なのは現在の視点で改めて自分の文章を見つめ直す「あとがき」がすべてのエッセイについている点。自分が過去に書いたものを冷静に分析している視点がかっこいい。それだけ文章を書くことについて真摯に向き合っているのだなと思う。(自分が駄文をここに書き殴っていることを反省…)他の医療行為と異なり患者との対話が重要なキーとなる精神科医だからこそ、交わされる言葉、書かれる言葉に対して感度が人一倍高いのかもしれない。

 精神科医の世界は普段生活している中ではなかなか接することもないので、こういう本で当事者の声を知ることができる点が良い。論文から小説論まで内容の幅は広いものの、落ち着いた文体で読みやすい。登戸の通り魔事件の際、子どもたちの精神的な治療にあたられたようで当時の覚書はな想像もしない角度の話の連続で驚いた。

 平易な言葉なのにめちゃくちゃ芯をくっている、読んだことのないニュアンス満載のラインが多く刺さった。著者が翻訳した『個性という幻想』がオモシロそうなので次はそれを読もうと思う。

らしさというのはいつも偶像ないしシンボリックなものに過ぎないので、それを言う側に首尾一貫した態度はない。いきおい相手は風見鶏になる。

明後日に何か前向きな変化を望んだ文章を読むとき、そこに二つ折りにされた感情を見つけると、私はどこか心強い印象を受けとる。

抑圧のもとに置かれると私たちは曖昧な態度をとることが不可能になる。これは暴力が日常であるような家庭に育った青年の反抗期が破壊的になることと似ているかもしれない。少しでも妥協することは、私はまだ幼く充分な能力がありません、これからもどうか圧制を続けてくださいと嘆願しているに等しい。残酷な環境においてニュアンスある態度は避けるしかない。

小説はこの点で、つまり書かれなかったことに消極的でなく意味を与える点で、それ以外の言語活動と異なっています。それが創作に内在的というよりテキストに対して読者が事前にする了解の仕方が違うということであるにしても。書き手と切り離された、ある種の不自然な用法をとることで、交わされる日常の言語にはない性質が与えられます。

2023年11月21日火曜日

M/D


 SNS(主にTwitter)をスマホから消しスマホで得ていた活字欲をKindleに全振りするために読み始めてついに読了。長い時間かかったけど、それだけの価値がある最高の読書体験だった。マイルス・デイビスは音楽が好きなら誰でも知っているだろうジャズの巨匠。彼に対して何となくのイメージ(たとえばスーツを着たサックスプレイヤー)で終わらせている人が大半だと思うし自分もそうだった。しかし、こんなに興味深い音楽家だったとは!と目から鱗な展開の連続で彼に対する解像度がめちゃくちゃ上がった。そしてストリーミング時代の今はほとんどの音源が聞ける幸せよ…少しずつ堪能していきたい。

 彼に関する自伝、評伝は色々出ている中で本著はそれらを下敷きにしつつ独自の見立てを当てていくスタイルなのがとてもオモシロい。実際に東大で行われた講義に対して著者の2人が情報をさらに追加して書籍化しているので文体が講義形式になっており授業を受けているようで理解しやすかった。各アルバムに関する解説がかなり深くて今まで何となく聞いていた作品群が頭の中で改めてマッピングされたのが良かった。また当時の評判や現在の視点で振り返って見えることなど多角的な視点で作品を捉えることで何倍も楽しめるようになっている。ジャズは悪い意味でBGMとして安易に消費されがちな日本において、どうやってジャズを楽しむことができるのかという意味でも示唆的な内容がたくさん載っていると思う。

 マイルスの音楽は年代によって全くテイストが異なるためにキャリア全体をつかむのがなかなか難しい。ミスティフィカシオン(神秘化)という言葉をテーゼに掲げて、マイルスの掴みどころのなさを解きほぐしていく。陰陽の両面を一つの作品に落とし込むこと、ひいてはマイルスの人格自体も両義性に溢れているのではないか、という大胆な見立てで彼の実像に迫っていく過程がスリリングだった。時代を追いながらどういう変遷があったのかをかなり具体的に解説してくれる。一口にジャズといっても色んなスタイルがあり、50-60年代のマスターピースの数々の中でもオーケストラ作品や定番のクインテット系など、それぞれのカラーやどこがユニークなのか?楽譜なしで著者2人の圧倒的な語彙力により文字で説明されている。またマイルスの音楽の変遷を追うことが結果的に音楽の歴史を追うことになり、アコースティック、エレクトリック、磁化といったテクノロジーの変遷と彼の音楽が変化していく過程がめちゃくちゃオモシロかった。(磁化=テープで録音=編集できる、という視点は編集が当たり前の今となっては新鮮すぎる視点)

 マイルスバンドに在籍したことのある唯一の日本人であるケイ赤城のこの言葉は刺さった。音楽家たるものかくあるべし的な。常に新しい要素を取りこんで自分のものとして解釈、アウトプットすることでしか前進できない彼の音楽スタイルの原点とも言える話。マイルスも新しい音楽も聞いていこ〜

マイルスは朝起きて夜寝るまで音楽を聴いているんです。そして、つねに新しいものを聴こうとしているんです。そしてなにかインスパイアされるものがあったら、それがそのままトランペットの音に出てくる。そこで初めて、僕たちはマイルスが今日とんでもない音楽を一日ずっと聴いていたんだなということがわかるんです。


2023年11月 第3週

wondergoo by Crush

 アルバムとしては4年ぶりとなるCrushの新作。昨年出たBTSのj-hopeとのシングルが本当に大好きだった。ファンクど真ん中を2022年にBTSのメンバーとぶちかます、その姿勢に音楽への愛をビシバシ感じ取っていた。肝心のアルバムは聞き進めるうちに胸が苦しくなるくらいに好きな要素しかなくて死ぬかと思った…30過ぎのおじさんにこんな若い恋心のような感情を抱かせる、偉大すぎる大傑作やでほんまに。。。1人でR&Bの歴史を総ざらいする構成になっていて、Justin Timberlake, Bruno Mars, The Weeknd, Michael Jackson, まさかのChet Bakerなど正直すぎるほどにリファレンスが明らかな曲の数々。「ただのモノマネやん」と言う人がいるかもしれないが、ここまでのクオリティになるとそんなことは言えない。K-R&B(ひいてはK-Pop)バイブの曲も合間に挟むことですべてが地続きにあることを主張しているように感じた。これはもうキングの振る舞いと言っても過言ではない。Featも適材適所でDynamic Duoとの相性はバッチリだし、PENOMECOはバチバチにかましてるし、一番ビビったのはKim XimyaをInterlude的に使っているところ。「誰がやべーか分かってんだろ?」と言われてる気がした。  グローバルなマーケットを視野に入れているからこその構成とも言えるけど、このエディット感覚は音楽が本当に好きなんだろうなと愛を感じるのであった。そしてこういったアーティストが生まれる韓国の音楽的な豊かさが本当にうらやましい。J-Pop, J-Rockな曲が悪いとは思わないし、それが一つのカラーになっているのも理解できるが、隣国でこのクオリティの作品が出ているのに開き直って「ガラパゴスでいい」なんて口が裂けても言いたくない。そんなネガは本作とは無縁です、すみません。好きな曲はMJオマージュな”A Man Like Me”

Thanks For Nothing by Paul Blanco

 まさかのCRUSHと同日リリースとなったPaul Blancoの3枚目のアルバム。2021年から毎年リリースが続いている。去年はこちらもBTSのRMのアルバムに参加というトピックがあり知名度は飛躍的に増したと思われる。Singing Styleのラップというよりも、もはやR&Bそのもの。しかも歌い上げるコッテリ系なので、最近のトレンドとは乖離あるけどビート選びはドリル、ドラムンなど最近の要素を入れているので好きだった。ラスト2曲がラップ中心になっていて個人的にはそこがハイライトだった。好きな曲は”Song for you”

WOOOF! by THAMA

 今週はK-R&B week!って感じでひれ伏すしかない1週間。最後はTHAMA。個人的な好みでいえば、彼の作品が一番しっくりきたかも。ずばりネオソウル系でK-R&Bの一番のストロングポイントをこれでもかと発揮している作品となっている。声と生バンドによるビートのマリアージュが本当に素晴らしい。あと結局ベースとドラムによるグルーヴがどれだけ生まれていて、さらに上音のメロウな気持ちよさが自分の好きなポイントなのだな〜と今週の毛色が異なるK-R&B作品を聞いて感じた。好きな曲は”Bump It Up”

Seoulless by RAUDI

 RAUDIというプロデューサーによるアルバム。韓国のヒップホップシーンはビートメイカーによるアルバムがたくさんリリースされていて、それはインストアルバムというよりも色んなラッパーが参加したコンピものが多い。そこで起きるケミストリーがたくさんあって楽しい。彼の過去のディスコグラフィーを見ると個人的に好きな作品に多く参加していて、実際この作品もかっこいいビートばっかりで好みだった。ラッパーのチョイスが結構渋くて特定のレーベルに寄ったりすることなく実力派が多い。アップカミングな人からベテランまで各自にあった色んなスタイルのビートを提供しているのも特徴的で今の時代のビートメイカーは何でも作れることの証左のよう。(4曲目と5曲目のギャップが特に最高)プロデューサータグの”pull up pull up”って声、絶対聞いたことあるシンガーなんだけど一体誰のフレーズだったか…老化。好きな曲は「Keem Hyo-Eunおかえり!」の気持ちも含めて”Dance with me” なおDON MALIKとKeem Hyo-Eunの2人によるアルバムの1曲目もRAUDIがビートを担当。そのコラボアルバムについてはまた来週…今言えることはすべてが最高!!!

Happiness Is Only A Few Miles Away by Joel Culpepper

 Tom Misch主催のレーベルからリリースされたJoel CulpepperのEP。Tom Mischが全曲プロデュースしていて、めちゃくちゃ好きだった。往年のソウルシンガーを彷彿とさせる粘り気のあるJoelの声質、最高のファルセットとビートの相性が素晴らしい。早くアルバムサイズで聴きたい。1曲だけFeatでTom Mischがクレジットされていて歌ってないのになんでかなーと思ったら、ギターの音色、コード感含め、飛び抜けてTom Misch味が強くて笑った。それが一番好きな曲だった”Free”

Sneek by Terrace Martin & Gallant

 今年はいつになくリリースが続くTerrace Martin。今回はR&BシンガーのGallantとの共作アルバムをリリース。Gallantは”Weight In Gold”で出てきたとき、かなりインパクトが大きくてこのままシーンのトップ戦線へと登っていくのかと思いきや他人の曲への参加がほとんどないので実力と知名度が釣り合ってない気がする。ファルセットの力強さが本当にかっこよいシンガーで今回はTerrace Martinのサウンドに合わせた抑え気味のテイストがクールで良かった。彼の声質自体が濃いので、打ち込みの音だと若干too muchになるけど生音だとバランスがちょうど良くなってるように感じた。好きな曲は”Tandem”

2023年11月20日月曜日

音もなく少女は

音もなく少女は/ボストン・テラン

 C.O.S.Aの”Girl Queen”という曲のインスパイア元であることを知り、以前から気になっていた作品でついに読んだ。NYのハードな時代と環境を描いた素晴らしいクライムノベルでオモシロかった。

 タイトルのとおり聾唖の女の子が主人公で名前はイヴ。生まれつき耳の聞こえない彼女の人生の周辺で次々と事件が起こっていき、それらをストラグルして乗り越えていく話となっている。父親がとにかく最悪でこんなに胸糞悪くさせてくる登場人物もそういない。しかし憎まれっ子世にはばかるとはよく言ったもので理不尽な暴力で母親、イヴを含めた周囲を抑圧していく前半は読んでいて辛い部分が多かった。耳が聞こえないハンデを背負いながらも運命的な出会いをした養母のような存在のフランから写真を覚えて少しずつ希望の光が差し始める。何か夢中になれるものがあることの尊さ、というと陳腐に聞こえるが劣悪な環境においてはとても大事で必要なものだと感じさせられた。また写真に加えてイヴに活力を与える恋愛の描写も非常に瑞々しい。しかしそれゆえに喜びに満ちた時間が過ぎ去っていく切なさもハンパなく…当時のNYにおけるストリートの理不尽さがひしひしと伝わってきた。

 男は基本クズであり女性が人生の主導権を取っていく点が本著の読みどころだと思う。こういったクライムノベルにおいて女性かつ聾唖という当時の社会情勢におけるダブルマイノリティを主人公に据える著者の心意気にリスペクト。またフランはナチによって子宮を摘出されてしまっている過去を持ち物理的に母親になれない。そんな彼女が母性を長い時間をかけて獲得していくストーリーもかなりグッときた。特に終盤そんな形で母性を昇華させるの?!というハードコアな場面が印象的。イヴもフランも「普通」の外側にいるかもしれないが、それは他人が決めた枠であり、そんなものを気にせず自分の道を切り拓いていく姿勢がかっこいい。女性だからといって受身になる必要はなく欲しいものや環境を自分で手に入れようとする姿はヒップホップそのものだと感じた。とにかく読ませる展開の連続でページターナーっぷりが圧倒的なのだが、その中でもハッとするエモーショナルなラインがいくつもあり一部引用。

より大きな真実がおのずとあふれるときには、人は誰もそれを味わえる。一度にすべてを受け容れるには横溢的すぎても、心の準備ができるときまで、心にぴたりと収まるときまで、ずっとその人のそばにとどまってくれる真実というものがある。

達成感を得るための黒魔術。わたしの父はそれをそう呼んでいた。心をむなしさに食い尽くされてしまった人たちは、敵を抹殺することに飢えて、個人的な敵を見つけるのよ。必要に駆られてそういう敵をつくりだすのよ。そうすることで自らのむなしさを埋めようとするのよ。でも、このことで何よりも恐ろしいところは、むなしさを埋めれば埋めるほど飢えが強まることね。

誰かを亡くすことが楽な仕事になることは決してない。記憶の中に沈むたびにあなたは新しい傷を見つけることになる。それは説明することはできなくても、見ることはできなくても、はっきりと感知できる傷よ。人間の苦悩とともにある傷よ

わたしはあなたの年頃にはよく本を読んだ。あなたの宗教が自分たちの親切なバイブルをでっち上げるために、どれほど多くの福音を捨てたか、本を捨てたか、大砲を捨てたか、読んでわかった。わたしは自分の子宮があったがらんどうを見つめるかわりに読書をしたのよ。

 他にも作品があって特にデビュー作の『神は銃弾』はプロットからしてオモシロそうなので次に読んでみたい。

2023年11月15日水曜日

ギケイキ

ギケイキ/町田康

 3巻リリースの知らせをネットで見て何となく1巻を読んだら、信じられないくらいオモシロかった。元来理系で日本史に対して、どうしても苦手意識があり歴史小説にはなかなか手が出なかったけど、それをすべてひっくり返されるくらいの強度があった。

 原作は『義経記』と呼ばれる全8巻から構成される室町時代に書かれた作品らしい。それを解釈して町田康節でスクラップ&ビルドしているのだけど、そのスタイルが極めて異質。義経自身が語っている人称かつ、彼が現在でも生きているという設定からしてぶっ飛んでいる。この設定ゆえに当時の場所を「現在の場所で言えば」という言い換えが可能となり読者の理解が進むようになっていた。最大の特徴は文体、ひたすら口語の文体が続く。口語と言ってもその砕けっぷりは想像の100倍であり若者の軽いノリとでもいえばいいのか。友達から話を聞いているのかと思うレベルなのがとにかく最高。設定、文体がすべて現在視点であるがゆえに歴史小説にありがちな堅苦しさが1mmも存在しないので読む手が全く止まらなかった。あと関西弁もキツめで著者の他の作品でも見られるバイブスを古典に落とし込むとこれだけ跳ねるのか?!というくらいにハマっていた。

 当時と現代の風俗や考え方におけるギャップの表現がオモシロく、特に何か気に入らないことがあったときにすぐに「殺そか?」「殺しといて」と言う場面や、実際の殺害描写など大変物騒なシーンが連発するのだけども「鎌倉時代の争いってそういうことよな」という謎の腑の落ち方をした。大人になって分かる、学校では学ばない歴史のダークサイドがふんだんに詰まっていると言える。(それをユーモラスに思えるのも口語調の文体のおかげ)あと解説でも触れられているとおり、Twitterを「呟き作戦」として当時のカルチャーに落とし込み、街中に貼り紙をすることで噂が広がっていく様を描いているのが痛快だった。つぶやきは真実ではなく噂であり我々は噂を愛する生き物なのだと気付かされた。以下引用。

なぜ人々はそんなに簡単に噂を信じたのか。それは信じないより信じたほうがおもしろかったからである。信じた方がおもしろく、また、話の種にもなり、話すことによって興奮するので、人々はこれを容易に信じた。

 弁慶と牛若丸(=義経)の邂逅の有名なエピソードがハイライトかと思うけど、それよりも弁慶の細かな来歴がめちゃくちゃオモシロかった。もうほぼアメコミよ。ハルク。あと二作品あるのでマジで超楽しみ。

2023年11月14日火曜日

2023年11月 第2週

THE SOLOEST by SINCE

 韓国のフィメールラッパーSINCEの2ndアルバムがリリース。SMTM10で決勝まで残って惜しくも優勝を逃したが一番プロップスを獲得したラッパーだと思う。とにかくラップがめちゃくちゃうまいしかっこいい。「フィメール」 と書いたが彼女の場合、その説明は不要だと思っている。女性であることをレップするよりも純粋にラップが彼女の一番のアイデンティティになっているから。どこかのレーベルに所属するかと思いきやインデペンデントとして活動しているのもかっこいい。CODE KUNSTの曲がオープニングを飾り、次に盟友Lean$mokeのビートでブチ上がる流れからして最高。Featも適材適所な人選で久しぶりに聞いたHash Swanのトーンがめっちゃかっこよかった。前半はハードモード、後半はメロディアスな展開になっているがSinging Styleに流れずあくまでラップにフォーカスしているところが彼女を信頼している点でもある。好きな曲は”EST” SINCEはビデオの字幕に毎回日本語を用意してくれており、これはYoutubeの統計上、日本から見ている人が多いからなのでは?と思っているので、早々に来日してくれ!!

SICHIMI by SUMIN

 SUMINによるEPがリリース。最近はプロデュースでよく名前を見る中、久しぶりの自身名義での作品。これまた間違いない最高の出来だった。ミニマルな音の構成なんだけど、クールなファンクネスが内包されている。SUMINの好きなところはドラムの音色で、ここにもミニマルさを感じる。ここ数年のLouis Cole、Sam Gendel的なものとK-R&Bの融合の結果とでも言えばいいか。好きな曲は”KIKI”

Skyblue Dreams by HD BL4ACK

 HD BL4CKの新しいアルバムはQのDaytonaからリリース。ビートメイカーの中でも相当多作の部類で今年だけでアルバム4枚も出てる。もともとLBNCというChaboomやLeebidoもいるレーベル所属だったけど今回で移籍ということなのか、ワンショットでのリリースなのか。今回の作品は両方のレーベルのコネクションを活かしたラッパーが参加している。LBNCのラッパーがオーセンティックなスタイルが多いこともあり、それに合わせたビートのスタイルだったけど、Daytonaの若手向けにはちゃんと今っぽいビートを提供していて引き出しの広さを感じた。締めのQの曲がとても好きなんだけど、シーンの現在の実力者だと個人的に感じる3人が集合した”Love”が好き。

LEAN$MOKEISMYPRODUCER by kitsyojii

 kitsyojiiが少し前から始めた特定のプロデューサーと一緒にEPを作るシリーズ。今回はLEAN$MOKE!個人的には2023年最も活躍しているプロデューサーだと思うし、実際に提供されているビートのクオリティが高くて今回も最高にかっこよかった。kitsyojiiは基本オートチューンかけたラップでビートとの相性良し。好きな曲は上音の治安が悪くてMeek Millの声が聞こえそうな”gym”

CHED&L by Way Ched & TRADE L

 Way ChedとTRADE LによるEP。Way Chedの前作『It's Your Way』に収録されたTRADE L、OSUNによる”Rewind”が大好きだったので必然に感じるコラボレーションだった。結果としてケミストリーが炸裂していて全曲最高、捨て曲なし!TRADE Lのメロディセンスが本当に素晴らしくて、それを支えるWay Chedのビートという感じ。韓国ヒップホップのSinging styleの最高峰を味わいたければTRADE Lを聞けばいいと言ってもいいくらい完成されつつあると思う。好きな曲は2023年客演王のStreet Babyを迎えた”NO BRAINER” Singing styleでなくてもラップかっけ〜

Knower Forever by KNOWER

 Louis Cole とGenevieve Artadiによるユニット、Knowerの新作アルバム。Flip side planetの新譜紹介回で知った。(毎回チェック漏れをカバーしてもらっていて大変ありがたい…)プリンスなきあと、シンセ使ったミニマルファンクな路線を受け継いでいる筆頭はLouis Coleだと思っているのだけど今回もそれを体現した内容でかっこいい。Knowerの場合は女性ボーカルなのでポップさが増して個人的にはLouis Cole単品よりも好き。Bandcamp でクレジットを見るとまさかの打ち込みなし!ストリングスとかコーラスまで信じられないくらいコストをかけていてDTM全盛の今こんな作品は見ない。その割にミックスとマスタリングはLouis Coleが手がけていて、生楽器ゆえのダイナミズムをそこまで感じさせない謎の仕上がり。好きな曲は”Real Nice Moment”

New Growth by Jesse Boykins III

 これもFlip side planetの新譜紹介回で知った。もともとThe Internetの客演で存在を知り『Love Apparatus』というアルバムは以前に聞いていた。久しぶりに聞いたら、めちゃくちゃいい…恋愛にまつわるリリックが多い中で、ファルセットによるメロディの美しさと重心のしっかりしたビートの数々がアフロビートからバラードまで幅広く配置されておりアルバムとしての完成度が高かった。好きな曲は”Convo”

The Night Shift by Larry June & Cardo

 来日を控えるLarry Juneの新しいアルバム。(デイイベントで見たかった…)USのラッパーの中では相当なハードワーカーなのは間違いないし、ここ数作でさらにかっこよくなっていて名実ともにトップラッパーだと思う。今回はCardoというプロデューサーとの共作になっていてタイトルどおり強烈に都会の夜を感じるビートにレイドバックしたフローでラップしていくのが最高。まさにウェッサイ〜前作とのアルケミとのタッグは最初うーんと思いつつも後からめっちゃハマったのに対して、今回は初速から最高なので、やっぱこういうドラムがガッツリ主役なビートが好きだと再認識した。FeatもユニークでDej Loaf、Jordan Ward、ScHoolboy Qあたりを呼んでいる点にグッときた。彼の好きなものが伝わってくるし、featに必然性を感じるケミストリーがどの曲でも起こっていた。

Heaven knows by PinkPantherless

 気づいたらスターダムの道を歩んでいたPinkPantheressのアルバム。UKのトレンドとなっているダンスミュージックをポップに解釈して彼女のシルキーなボーカルトーンが乗っかることでマジックが起こりまくりで良かった。Erika de Casier の系譜がここまでオーバーグラウンドな音楽になるとは想像もつかなかった。韓国ヒップホップ好きとしてのチェックポイントはslomがプロデュースしたZion.Tの”Sleep walker”という曲のメロディがCentral Ceeを迎えた”Nice to meet you”で引用されていた点だろう。どこにでもありそうなメロディなようにも思えるけど、大手レーベルのsamplingやIntercorpolationのジャッジ基準はとても厳しいのかなと思えた。”Feel complete”のブレイクビーツっぷりも最高なんだけど、好きな曲はKelelaとの”Bury me”

Too Good To Be True by Rich Ross & Meek Mill

 2010年代リバイバルな空気を少しずつ感じる中で真打ちが登場!アツい!アツすぎる!と言いたくなる仕上がりで世代的にはブチ上がった。ラッパー稼業はソロアーティストが大勢となって久しいが、トップどころのラッパーがガッツリタッグ組んで作れば、これだけ最高なアルバムになるのかと底力を感じた。この2人のバイブスの高いラップの掛け合いはたまらないものがある。ゲストも2010年代的な配慮があり、Fabolous, Wale, Jeremih ,The Dreamあたりはどうしたってアガらざるを得ない。好みとしてはやはり後半にかけて、Snoop Dogの”Tha Shiznit”使いの”Above The Law”でムードがガラッと変わってくるところが好き。懐古主義といえば、それまでだが2023年にリリースされたことに嬉しく思う。好きな曲は”Fine Lines”

2023年11月11日土曜日

戒厳令下の新宿:菊地成孔のコロナ日記 2020.6-2023.1

戒厳令下の新宿:菊地成孔のコロナ日記 2020.6-2023.1/菊地成孔

 ディスクユニオンで見かけて、今読んでおきたいなと思って即購入した。有料で日記連載をWebで読めるのは知っていたが、さすがに月額課金はしんどいと思っていたので、こういうまとめ本を発行してもらえるのは嬉しい。そして久しぶりに彼の文を読むと文体と見立ての唯一無二っぷりに安堵に近い気持ちを抱くのであった…

 タイトルはものものしいが、コロナの病気に関する描写は実際に著者が罹患した2022年の話に限定されていて、基本的にはコロナ禍という現象が社会にもたらした影響に関する考察となっている。今やSNSで何かを発信していないと死んだ人扱いされそうな時代だけども、それに抗い、悪態をつきつつ自分の仕事を全うしている日常が描かれておりオモシロかった。(SNS絡みでいえば町山氏とのビーフはスカッシュしたらしく、それには驚いた。)また今回は思い出話が結構含まれていたのが印象的。特にジャズメンたちとの交友録はその破天荒っぷりが昭和を感じるムードでよかった。

 コロナに限らず歯や足を痛めたりして満身創痍で音楽ビジネスをサバイブする様子はトーフビーツの難聴日記と近いものがありコロナ禍における音楽家たちの苦労を窺い知れるし、それに対する喜怒哀楽がふんだんに詰まっていた。脱・粋な夜電波的な話もあったけど、新譜、旧譜問わず彼の選曲の最高さは否定のしようがない最高のコンテンツなので誰か番組頼むよ本当に。

 基本ニヒリスティックな考え方、斜めからものを見ている人で、その見立てのオモシロさはありつつ、本作ではコロナ罹患時のレポートを含めて人間味を感じる場面が多かった。それはエッセイというかしこまった形式ではなく、ウェブ上でファンの方々と近況を共有する日記という形式だったからこそなのかもしれない。一番最高だったラインというかパラグラフを引用して終わりにします。

自分であれ他人であれ、首を絞めれば、当然苦しくなる。自分で自分の首を絞めて、苦しい苦しいと言って嘆いたり、他者を攻撃するおびただしい数の人々を、あなたは笑うだろうか?哀れむだろうか?怒るだろうか?救助しようとするだろうか?絶滅するが良いと呪詛するだろうか?勝手にやってろと突き放すだろうか?傍観者効果を使って見なかった事にするだろうか?頭で考えれば考えるほど正解はない。ささやかな楽しみを見つけて実行する事に、思考は必要ない。それほど現代の「思考」は自己拘束の道具に成り下がっている。まずはきっと、何も考えずに行動することの抵抗値を減らすために、路上に出るしかない。路上はあなたに、緊張と恐怖を与えるかも知れない。そして実はそこにしか、思考転倒への脱出路はないのである。

2023年11月8日水曜日

酵母パン 宗像堂

酵母パン 宗像堂/村岡 俊也、伊藤徹也


 中園孔二の評伝がめちゃくちゃオモシロかったので著者の過去作を探すと、沖縄のパン屋である宗像堂の本があり即入手して読んだ。パートナーがパンと沖縄が好きなこともあり、沖縄行くたび毎回訪問しているパン屋。何回も食べている味にまつわる哲学を知ることができて勉強になった。

 どこかのパン屋で修行して独立というケースをよく耳にするが、宗像堂は初めから独学でパンを作り始めているらしく、それゆえのオリジナリティがたくさんあることが本著を読むと分かる。自分の手の届く範囲から徐々に拡大していくDIYスタイルでパン屋を始められるのか!と驚いた。石窯の話が象徴的で図書館で本を借りて自作するなんて、並の本屋ではありえない。(本緒が執筆された時点で五代目らしい。)。店主の宗像氏は大学院まで進んで研究していたらしくパンについてもガチガチにデータ管理しているのかな?と思いきや感覚が大事という話をされていて意外だった。酵母から生まれるパンは生き物であり、手製の石窯で焼き上げるエネルギーの塊なんだという視点は独特で興味深かった。

 宗像氏との対談が後半に収録されており、在沖縄の方以外が甲本ヒロトとミナペルホネンの皆川明というこれまた独特な人選で話もめちゃくちゃオモシロかった。特に甲本ヒロトはまさに彼らしいロックンロールとの距離感の話を展開していてグッときた。また読み物というより写真集の側面も強く、その写真がかなりかっこいい。なかでもクローズアップショットがどれも迫力満点だった。東京でもパン自体は入手できるのだが、次回の沖縄探訪時に是非お店へ行ってパンを味わい尽くしたい。

2023年11月7日火曜日

2023年11月 第1週

DONG JING REN by Jinmenusagi

 今年のベストアルバムきたか?くらい今週ずっと聞いていたJinmenusagiの新しいアルバム。コンセプト、ビート、ラップどれを取っても一級品で彼の長いキャリアの中でも一番好きなアルバムとなった。日本のヒップホップでドリルが取り入れられるようになってしばらく経つが、ドリルの肝になるのはベース、キックであり、そこだけは外さなければ形式として成立するゆえのアプローチのオモシロさ。とにかく新鮮だし、セルフプロデュースでこれ作っているのもすごい。シーン的にはとにかくジャージーというフェーズにあるが、楔を打つかのようにドリルのアルバムが出たことも嬉しい。現状のシーンに対するカウンターもリリック内に含まれており等身大を訴えているのが印象的だった。また逆輸入のコンセプト、つまり海外から見た日本という視点で日本の考えているのは伝わってきたし、昨年のSKOLORとの共作アルバムからさらに進んだ独特のアジア感がかっこいい。Denzel Curryのように日本を愛してくれて、その要素を取りこんで発信してくれるのも当然嬉しいけど、こうやって自国のカルチャーのオモシロい部分をレップするのは大切なことだと思う。(ナショナリストではないけど)
 あと本当に今更だけどラップが超うまい…今どき珍しい固有名詞連発なのが最高。ゲーム関連を筆頭に自分の語彙の完全に範囲外なので、その名詞を調べてもう一回歌詞みて意味を理解してニヤニヤ。みたいなことが何回もあった。複雑なフローはあえてせず、ビートに合わせたラップの軽やかさとうまさが本当に際立っている。今回のアルバムのビートはラップがうまくないと音が派手ではない分、物足りないものになる。ゆえに客演はシーンきってのスキルメーター振り切れている若手の面々というのは納得だった。POP YOURSを含めて若手の活躍は今回のアルバムを作る動機にもなっているそうで、彼は全く飲まれてないので目的を達成されていると思う。完全に桜庭〜好きな曲を選ぶのめっちゃむずいけど、やっぱり”Opp Otaku”

Mother by BUPPON

 BUPPONがKojoe のJ.Studioからアルバムをリリース。なんてウェルメイドで素晴らしいアルバムなんだと感心させられた。先行シングルのBOSSを迎えた曲はカントリーサイドからの狼煙のような曲で2人のパッションがビシバシ感じる曲だったが、アルバムはもっと落ち着いたトーンの仕上がりになっている。彼のリリシズムがこれでもかと炸裂しているのはこれまでどおり。過去作は1枚通して聞くとtoo much感が否めなかったけど、今回はちゃんと抜けのある作りになっていて1枚通して楽しめた。特にKojoeとの”HONDAI”で仕切り直す点が好き。いきなり具体性のある描写へ行く前の抽象的な表現に意味があると思う。タイトル曲の”Mother”以降は亡くなったであろう母との思い出に関する曲で構成されていて、彼のリリシズムが炸裂しまくり。今回初めて知ったyamabequoのビートはいい意味で癖がなくリリックが映えながら感情が昂った。BUPPONの歌もいい。ガキくさいFLEXがしょうもなく思えてくる日本のヒップホップのアルバム。好きな曲はやっぱ”Mother”

SCRAP by SHO-SENSEI!!

 SEEDAが参加した『THE BLUES』というアルバムは結構聞いていたSHO-SENSEI!!の新しいアルバム。Singing Styleのエモラップというスタイルだと国内でもトップクラスだと思う。十代の頃に出会っていたら、間違いなく好きになっていたと思う。ヒップホップ側からRADWIMPS的なアプローチしているのが興味深い。有名なラッパーを青田買いして意義のないfeatを繰り返している本家には彼のような存在を知ってほしい。彼のパートナーと言っても過言ではない10PMのビートがとにかくフレッシュでかっこいい。Airpodsだとダイナミズムを感じにくかったけど、スピーカーでしっかり聞くとドラムがデカい音で最高。特に”ミシン”という曲はめちゃくちゃいかつい。エレキギター、ストリングス、ボーカルのカットアップなどがてんこ盛りなんだけど調和していて超かっこいい。この曲だけドラムは生で叩いているのは、ライブサポートもしているAge factoryのドラマーの人。この路線は日本産のヒップホップと言えると思うのでどんどん拡張していってほしい。好きな曲は当然”ミシン”

No.00 by Olive Oil

 Febbのバースが入っていると知り聞いたOlive Oilのニューアルバム。ボーカルをフィーチャーした曲は3曲だけで残りはインスト。最近だとオジロのアルバムにビート提供していたことも記憶に新しく聞けばOlive Oilと分かるビートの数々で楽しめた。やっぱドラムの音はデカいに越したことはないし、その辺のローファイビートメイカーと一緒にすんなよという気概を感じる。1曲で6分、7分のインストが入っているのもオモシロい。REMIXや上音の弾き直しなど既存の曲の再構築しているのも特徴的で紅桜の”悲しみの後”のREMIXである”Favorite Song”は彼の出所を祝う叙情性があって素晴らしかった。Aaron Choulaiが5lackの”早朝の戦士”のメロディを弾いている”TO BE CONTINUE SHAKE FINGA”が好きな曲。タイトル的には次がありそうなので今後も楽しみ。

POP OFF by pH-1

 pH-1がmixtapeをリリース。昨年のアルバムも素晴らしかったけど、今回のEPもかっこよかった。本作はバックDJを務めるSprayがすべてのビートを担当している点が聞きどころでバリエーション豊富な引き出しをこれでもかと披露している。Featは韓国に閉じずにグローバル化しているのも特徴的。CHIKAというのが個人的にはかなり意外な人選でビックリした。韓国のラッパーはoygliが参加。来年あたりにアルバム出て、それがマスターピースになるのでは?と予想しているほど今アップカミングなラッパー。彼との曲はDilla系のビートで好きだった。声の色気とフローが最高なんすよね。前作のアルバムも相当完成度高かったけど次のアルバムも楽しみになった。好きな曲は”COSIGN”

Occam’s Razor by Deepflow & JJK

 DeepflowとJJKによる共作EP。DeepflowはVMC解散後、30への加入、『Dry Season』というアルバムのリリースなど精力的に活動している。恥ずかしながらJJKを今回初めて知ったのだけど、とてもかっこよかった。タイトルはオッカムという学者が提唱した「ある事柄を説明するためには、必要以上に多くを仮定するべきでない」とする指針のこと。必要最低限でかっこいいだろ的なニュアンスだと言える。ファンキーなビートが多くて最近のアルケミ的なアプローチのビートが多く、そこで2人がスピットし倒してる感じ。好きな曲はオルガンとベースがいかついタイトル曲”Occam’s Razor”

An Ever Changing View by Matthew Halsall

 Apple musicのレコメンド精度も前よりはマシになってきていて、Kammal Williams繋がりでレコメンドされたUKジャズ。本人はもともとトランペッターでそこからコンポーザーとして楽曲を制作するようになったっぽい。Alice Coltrane,Pharoah Sandersの影響を受けてスピリチュアル志向があるらしいのだけど、この作品ではそこまで感じなかった。トランペットをベースにしたジャズに対してエレクトロニカ、ソウルなど色んな要素がごった煮になっているのだけども、本当に各楽器のアンサンブルが美しくて聞き心地がよい。毎朝のBGMとして最高だった。好きな曲は”Natural Movement”

言語の七番目の機能

言語の七番目の機能/ローラン・ビネ

 『HHhH』がめちゃくちゃおもしろかったこともあり、同作者の続編はずっと気になっていた。明らかに難しそうなタイトルを見て距離を置いていたがついに読んだ。予感は正しく相当難解な部分もありつつ思った以上にエンタメにで驚いたし読みやすかった。改めて著者の筆力に感服した。とはいえ450ページ強で結構重たかったのは事実…

 言語には六つの機能があることがヤコブセンにより提唱されているが、実は七つ目があり、その能力を使って世界をコントロールできるかもしれない。こういったマクガフィンが設定されており厨二病感も否めない中、哲学、言語学のエッセンスが大量に含まれているので読み進めるのが結構大変だった。特にこれらの学問に明るいわけでもないので、登場人物の背景を知らないことも多く戸惑った。ただ著者の特徴としては小難しさをエンタメで乗り越えさせてくれるところにある。サスペンスとして十分にオモシロく、特にメインの登場人物であるシモンとバイヤールのバディはいつまでも見ていたい、いい感じの凸凹具合で楽しかった。訳者あとがきで言及されていたが、2人のモデルはシャーロック・ホームズとジャック・バウアーらしい。怒涛の展開と場所の移動っぷりは確かにドラマ『24』そのものだし、学者的なアプローチで謎に迫っていくのはホームズそのもの。新旧二代サスペンスヒーローを使って描くのは哲学や言語学。。。無茶苦茶すぎ!さらに厨二病的な展開として『ファイト・クラブ』のディベートバージョンも用意されており後半は大きな鍵となってくる。さながらラップのフリースタイルバトル。設定は分かりやすいけども、そのディベートで議論されている内容は難しくて分かったような、分からないようなものもあった。ただ繰り返しになるが、スリリングな展開を生むのがうまいので読む手が止まらないようにはなっていた。

 『HHhH』で見せた得意のメタ展開も健在しており、著者も登場するし、今回は主人公によるメタ構造の指摘もあって愉快だった。(『マトリックス』よろしく自分が現実にいるのかどうか?=小説の登場人物なのでは?という問い)また実在する or 実在した学者がたくさん登場するし、実際の事件をモチーフにしてサスペンスが展開していくのも前作同様。事件や出来事はそれぞれ点でしかないが、それを小説という線で繋いでいく手法は興味深かった。『HHhH』はナチスものなので理解できたけど、今回は実在した(実在する)学者たちをフィクションとしてエゲつない方法で死なせたり、傷つけたりしていて、さすが表現の自由が進んでいるフランスだなと感じた。

2023年11月1日水曜日

2023年10月 第4週

 突如BEEFが勃発して目を皿にしてSNSを追いかけてしまい、もう30後半なのにこんなことやってて何になるのか?と思い直し、Xをログアウト。その結果、気分的に改善した。乱暴な文字のインプットを減らした結果、自分のアウトプットが増えた。今週リリース量が多かったのもあるけど文字数が異様に増えたのは自分ごとだけど興味深い現象。AwichがSpotifyライナーボイスという企画において、現代は他者のことばかりが目に入ってきて自分にフォーカスする時間が少ないと話ており、それがとても刺さった。その対策として日記が挙げられていたのに納得したし、日記によるセルフケアの重要性を別のことでも実感したので自分の時間を大切にしたい。

THE UNION by Awich

 話題のBEEFでSNSが地獄の業火と化す中で、それを予期して鎮火するために作られたような、ユニオンをタイトルに冠したアルバムがリリース。フェスを含めてかなりの露出がある中で、こんな超クオリティ高いアルバムを作っているのは本当にかっこいい。キャリアの積み上げ方を真剣に考えていることがよく分かる内容だった。”United Queens”でかましてていた女性としてのカウンター要素はかなり減っていて、もっと普遍的な内容に仕上がっている。個人的には”Burn Down”が圧巻だった。Trill dynastyの18番であるペイン系ビートでネットの地獄をラップしていくのだけど近々の騒動を踏まえるとグッとくる。そして何よりもビビったのはGADORO。もともとリリシストだとは思っていたけど、このリリックはめちゃくちゃかっこいい。やることやっている人は進化していることを痛感…ビートは鳴りも展開も最高でこの曲が一番好きだった。『Queendom』ではラップにフォーカスしていたが本作は従来からあった歌も含まれている。なかでも30-40代に刺さりまくるのは”Call On Me”だと思う。Ashantiとかその辺の00年代のR&Bをfeelするような曲でたまんない。正直最後の3曲は置きにいっているのは否めないが、その辺のJ POPがこういう曲で塗り変わっていくのは大歓迎なので続けてほしい。

Restart by GADORO

 ということでAwichのアルバム経由で最新作を聞いたら、めっちゃ良かった。1曲目からいきなりGファンクでビックリしたし、いろんなテイストの曲が入っているけどGADOROのアルバムになっている点が良い。ゴリゴリの「日本語ラップ」チルドレンなのは間違いなく、それゆえにリリックの素晴らしさは言うことなし。まだまだ日本語で表現できる幅はあるのだなと感心させられるくらい言い回しがうまい。内容が真っ直ぐ過ぎて昔だったら気恥ずかしくなっていたかもしれないけど、このくらい直球投げているラッパーはな最近いないので新鮮に思えた。PENTAXX.B.Fが数曲提供していて、ベタベタに踏みまくった韻、ダブルミーニングで清貧を讃歌していることもあり過去のZORNを想起するのは間違いない。ただZORNと違うのは彼は歌フロウを取り入れている点。その歌フロウもUSのスタイルというよりも日本の歌、演歌のバイブスさえ感じるスタイルでかっこいい。ケツメイシっぽさとも言えるかな?hokutoがビートを手がけている”PINO”はその良さが最大限に出ていると思う。ここまで書いてさらに考えることは、R指定に別の未来があったら、こうなっていたのでは?ということ。それはともかく最後の曲で箕輪厚介のフレーズ引用してるのはマジで辛かった…ラッパーは話すとロクなことにならへんで。好きな曲は笛の上音でこのBPMは最近意外な感じもする”頭文字G”

82_01 by 仙人掌 & S-kaine

 仙人掌とS-kaineによるEPが突如ドロップ。この2人でEPをリリースするのは正直意外。S-kaineのこれまでの作品を考えれば、Dogearの面々が作ってきたヒップホップのムードの最有力後継者ではあったと思うけど、まさかこのタイミングとは。2人の相性がとても良くかっこよかった。このEPで仮に仙人掌だけだったら、これまでの流れと変わらない感じもするが、S-kaineが入るだけでこんなにフレッシュになるのも驚き。(とはいえ仙人掌のリリックはこれまでよりも一歩踏み込んで具体性が増して進化していると思う)ビートはENDRUN, GQ, Gwop Sullivanなど馴染みのメンツに加えて、S-kaineのビートメイク名義Judaのビートも含まれていて彼のビートもかなりいい。好きな曲は”Wish”

East Clap by The Clap Brothers

 意味たっぷりのリリックもいいのだが、音の気持ちよさも好きで今年一番くらい日本語の気持ちよさが詰まっていた。ラッパーのチプルソとビートメイカーのKEIZOmachine!によるユニットのEP。ユニット、EPにもある通りクラップ音がどの曲にも入っていてノリの良さが気持ちいいし、そこに乗ってくるチプルソの韻とフロウの気持ちよさの相乗効果でブチ上がった。好きな曲は昔のL-Vokalを想起する”ChipToe”

Madness Always Turns to Sadness by Tabber

 Tabber がついにアルバムをリリース。SMTM10で注目を集めたのち、The InternetのSydとのコラボなどシングル単位での活動はあったなかで満を辞してのアルバム。といってもサイズ的にはEPで若干物足りなさはあるもののチャレンジングな要素もあり楽しんだ。それは特に最初の2曲に顕著でスクエアなビートかつBPMが速い。彼の強みとしてはレイドバックしたフローと素晴らしい歌声なので意外だった。後半はその特徴を生かした曲となったので個人的には後半が好み。好きな曲はミッドディスコとファルセットが最高に気持ちいい”Being”

Life is Once by Leellamarz

 Street Baby,NSW Yoon という若手を連れてドープなヒップホップのアルバム『DAYDATE』を春にリリースしてLeellamarz。年も暮れようかとするところでフルアルバムをボム。この人も相当なハードワーカーで2017年からアルバムリリースのない年がない…どうなってんねん。『DAYDATE』と対をなすようにかなりポップな仕上がりとなっている。もともとバイオリンをやっていたこともあり音楽的素養が高く、なんでもできるのは本当に才能だと思う。 本作はFeatを迎えている曲が好きだった。兵役を終えたCHANGMOの復活はアツいし、既発シングルのSik-Kとの2ステップは最高に気持ちいいし、GistとJayci yucca の曲はミニマルファンクでかっこいい。全体にアコギを中心のサウンドとなっており、ほとんどの曲でTOILがプロデュースに関わっていることも影響していると思う。

Novel by GIRIBOY

 SMTMマスターのGIRIBOYがアルバムをリリース。最近はSNSでの露出も控えている中でも製作は続けているそのハードワーカーっぷりに畏怖の念を抱く。ただ肝心の中身は今までのGIRIBOYの作品の延長戦上にあるメロウな曲が中心で特にアップデートがないように感じた。とはいえクオリティは高いのでずっと聞いてられる。好きな曲は”Issu du Feu”

Bad Nights by ZENE THE ZILLA

 ZENE THE ZILLAの新しいアルバム。リリースごとに熱心に追えているわけではないが、久しぶりに聞いたらウェルメイドな作品で好きだった。個人的にはSinging Styleよりもスピット系が好きなのだが、彼は味変でもう少しスピットしてもいい気がする。どの曲もパッと聞きはいい曲で好きなんだけど引っかかるものがなかった…好きな曲はDON MALIKがその引っ掛かりになっている”Great Life”

BOLD CREW BOOTLEG by 30

 年始にアルバム出した30がEPをリリース。全曲VIANNプロデュースのかっこいいビートの数々で皆がスピットしてい良かった。”BOLD CREW”という曲が前のアルバムに収録されており、このEPはその延長上にあると思われる。 ジャケにあるのはMF DOOMの仮面であり”OLD BOY”のアウトロ、"JAL IT SUH”の声はMF DOOMな気もするのだけど有識者の人に教えてほしい。ジャケのとおり後ろノリの首が振れるやーつ系ビートでひたすらラップ、ラップ!という感じ。DeepflowがまたJUSTHISのこと言っていて相当根に持っているのだなと思う。好きな曲は”COCK BLOCK”

Love & Life by Chip Wickham

 Kamaal Williamsと横並びでレコメンドされていて何気なく聞いたらめっちゃ良かった。ジャズミュージシャンでいろんなミュージシャンのサックス/フルート奏者として活躍していたところから自身のキャリアをスタートさせ作品をリリースするようになったらしい。UKをルーツに持ちイギリスのファンク、ソウルシーンとの繋がりが強くNew Mastersoundsとも活動を共にしていたこともある。本作はファンクというよりジャズソウル的なアプローチ。フルートの音が全面的にフィーチャーされている2023年のジャズというのがかっこいい。好きな曲はフルートに加えてVibraphoneの音色もたまらない”Space walk”

For All Time by Mayer Hawthorne

 Mayer Hawthorneの新しいアルバムがリリース。個人的な音楽史としては重要なキーパーソンであり、往年のソウルやディスコをアップデートした形でStones Throwから提示してくれて、自分がソウルやディスコを好きなった大きなファクターの一つ。そんな彼が1stの頃を彷彿とさせるソウルフルなサウンドの連発しており唸りまくった。何も新しいことはないと言われればそれまでなんだけども、個人的な思い入れが強いのでどうしたって上がらざるを得ない…結局エバーグリーンなソウルなムードが自分を支配していることを痛感した秋でした。好きな曲は”Eyes of Love”

The Interludes by Ojerime

Flip side planetで存在を知ったOjerimeのEP。ストリーミング隆盛により発達したプレイリスト文化の影響で、Interludeというものが過去の遺物と化す中でこのタイトルでEP出すのかっけぇっす。。。1曲目がSoulectionのSango,Esta呼んでるからどんなビートかと思いきや、攻め攻めのJukeっぽさもあるビートでビビった。Interlude集ということもあり1曲あたりの尺は短い。ただ最後の曲のアウトロの無音部分をかなり短くしているのでリピート再生することを前提にして作っていると思う。好きな曲は”Pissed Off”

Movement by p-rallel

 KMのインスタで前作のEPを知ったp-rallelのアルバム。ハウス、ガラージといった四つ打ちで構成されていてブチ上がった。以前に聞いた『Forward』というEPは歌ものでまとまっていたし、流行りのアフロビーツ、アマピアノも含まれていたけど今回はストレートな四つ打ちが多くてそれが個人的には好きだった。最初はドラムンベースで始まって、最後はブロークンブーツで終わるのはUKをレペゼンしていてかっこいい。好きな曲はR&Bムードの女性ボーカルが最高な”I Know”