2022年9月11日日曜日

定本 本屋図鑑

 

定本 本屋図鑑

 夏葉社による本屋図鑑と聞いてソッコー買った。島田潤一郎「本屋さんしか行きたいところがない」が大好きな1冊なので期待値高めだったけど余裕でそれを超える1冊でオモシロかった。本の内容が興味深いかどうかが一番大事、これはごもっともな意見として頂戴しつつ、本は買うときも最高に楽しい。ネットで買うのもいいんだけどやっぱ本屋で知らない本を買うときが一番興奮する。

 本著では全国津々浦々の本屋を全都道府県漏れなく紹介しているのがベース。他に本屋に関して考察するコラムがいくつか収録されている構成となっている。「本屋さんしか行きたいところがない」と同じく今話題の新刊古書をハイブリッドで展開している独立系のイケてる書店ではなくいわゆる街の本屋にフォーカスしている点が最大のポイント。書店の大型化が進む中でも街の本屋はそれぞれ独自の色を出そうとしていることが本著からはよくわかる。本著を読むと自分の街の書店が一体どういったことを志しているのか、書店の意志を感じ取れるようになるはず。実際、今本屋に行くとザーッと全部見て何かをフィールするのにハマっている。よくすべてが画一化されていく社会を憂う場面に遭遇するけど、実際にはそこに機微が存在していて読み取れなくなっいるこちら側にも問題あるのかも?と思わされる。なんにせよ本屋に対する視点のレイヤーレベルが数段上がるのは間違いない。

 また出版や本屋など業界動向について感情論ではなくデータでどういう推移があって今に至っているのか粛々と考察しているのもデータ好きとしては勉強になった。とここまで色々書いてきたが最大のハイライトは中学生の図書館委員のエッセイである。本好きは涙なしには読めない…すべては本を愛する気持ちなのである。

歌舞伎町のミッドナイト・フットボール

 

歌舞伎町のミッドナイト・フットボール/菊地成孔

 先日コロナに感染した際の闘病日記が公開されていたのを読み、その変わらぬ文体に懐かしさを覚えて未読の本作を読んでみた。歌舞伎町の住人になる直前で、本著出版ののち実際に住人となり、ラジオでエピソードトークを聞いていた身としては元ネタを知ったようで感慨深かった。

 さまざまな原稿を集めた1冊なんだけどもオモシロいのはそれらを串刺しするかの如く全エッセイに解説をつけている点。しかもホテルで缶詰になってそれを書くといういわゆる昔の作家スタイルで解説は海外ドラマの24よろしく時系列で自身および歌舞伎町周りのあれやこれやを独特の文体で書き殴っているのを読んで「あぁこれこれ」とその過剰さを堪能できてよかった。特に歌舞伎町に関するエピソードはジェントリフィケーションが行き着いた今読むと新鮮だった。

 そういった与太話は好みの問題だと思うけど、音楽に関する原稿はどれも本当にオモシロい。特にマイルス・デイビスのディスクレビューはプレイヤー視点と批評家としての筆力があいまって著者にしかできない論評だと思う。PC的にアウトすぎる発言でキャンセルされてしまったのは本当に悲しく、著者がいつかまたラジオ番組を持ってくれないか。その日を待ち望んでいる一夜電波リスナーです。