2017年4月19日水曜日

北陸代理戦争



引き続き、東映実録シリーズを
仕事終わりにシネマヴェーラにて。
本作については、本にもなっていて、
それを読みたいがために見ました。
深作欣二監督でローカルヤクザといえば、
仁義なき戦いを思い出さずにはいられませんが、
wikiによると仁義なき戦いのシリーズとして
製作されていたものの頓挫してしまったそう。
先日見た実録・私設銀座警察もそうですが、
この頃の東映の冒頭のカマシっぷりは
凄いものがあります。
本作ではいきなり雪土に埋まり
首だけ出た状態の男が出てきて、
その周りを車が走り回って男を脅す。
しかも、埋められているのは主人公の親分で、
脅しているのは主人公っていう…
主人公を演じるのは松方弘樹。
触れただけでケガするで!という勢いで
何とかヤクザの世界でのし上がろうとします。
後先顧みず、仁義もへったくれもない男なんですが、
傍若無人な暴れっぷりが見ててオモシロかったです。
(毛皮のコートと雪国のコントラスト最高過ぎ!)
その一方でバイプレイヤーたち、
とくに親分たちはコメディ要素を一手に引き受けていて、
何度も笑わせてもらいました。
都会と地方の関係性がヤクザの勢力図を通じて
描かれている訳ですが、属人的な関係(親分/舎弟)より
場所、土地を大切にするという姿勢は
今でも必要なメッセージだと思います。
また、いつまでも言いなりでいたらアカン!
その人を倒さんと男になれん!
という主張もグッときました。
恐ろしいのは本作が公開されてから、
モデルとなった主人公が本当に殺されてしまった点。
現実がフィクションを超えてくる実例。
こんなことを知ってしまったら本を読まずにいられない!

2017年4月14日金曜日

山口組三代目



名画座は基本的に二本立てなので、
実録・私設銀座警察とセットで見ました。
実在した山口三代目の田岡一雄の自伝映画です。
高倉健、菅原文太なき時代を生きる我々にとって、
2人が徒弟を組んで仲良くしているだけで、
それは見る価値があるってもんよ!
暴力団の締め付けが厳しくなる今では考えにくいですが、
昭和には任侠がいたのだなぁ
と見終わった後、Section.80のギリ昭和世代としては、
遠い目をしてしまいました。
タイトルからして物騒な映画を想像していましたが、
ポップな部分は極めてポップで、
1人の青年の成長物語としてオモシロかったです。
田岡一雄が組長になる前までの話なので、
三代目になってからのことは描かれていません。
ヤクザということを忘れそうなくらい、
純朴で真面目な青年という描き方をしているので、
ヤクザ映画が苦手という人も楽しめると思います。
劇場で一番笑い声が出たのは、
ソープで田岡が童貞を捨てるシーン。
最高の間と口笛の最高のかすれ具合!
中盤からは田岡が出世して、
三下を引き連れクルーとして活動していくんですが、
金はないけど友がいる生活はとても楽しそうでした。
一方で田岡は仁義にとても厳しく親分が絶対であり、
それを裏切る人間は生きる価値無し!ぐらいの勢い。
終盤のギリギリまで、この姿勢が功を奏するのですが、
ラストで哀しい結末を迎えてしまう。。
なんとかならんのかい!と思ってしまいました。
シネマヴェーラでの特集は21日までで、
最後に北陸代理戦争だけは見たい…

実録・私設銀座警察



シネマヴェーラ渋谷で東映実録映画特集が
組まれていたので見てきました。
本作は某先輩より長年に渡って
「見ろ」と言われていたんですが、
なかなかレンタルもVODもない中、
やっと見ることができて良かったです。
また、先日主演の渡瀬恒彦も亡くなってしまったこともあり、
忘れられない映画体験となりました。
第二次大戦後すぐの銀座を舞台にした話で、
混沌が続く中、自警団(ヤクザ)が登場して、
勢力の争いが繰り広げられるという話。
ありきたりに思えるかもしれませんが、
冒頭からカマシ過ぎでショッキングでした。。
帰還兵の主人公が奥さんを捜していて、
廃工場跡で見つけるんですが、
奥さんが黒人とファックしているところに遭遇。
しかも、その横には色黒の娘が…
そこで主人公が取る行動が窓から子どもをぶん投げる!
表現の自由が過ぎる!
生きる目的を失った主人公はヒロポン(シャブね)に
溺れていき自警団に使われる殺し屋へと変貌します。
躊躇ない暴力がめちゃくちゃでオモシロいし、
ほとんどセリフがないんだけど、
便利な殺し屋として都合のいいように扱われる哀しさが
終盤にかけて高まっていくところが好きでした。
また、戦後すぐの混乱の中、
しのぎを削るヤクザたちの抗争といえば、
仁義なき戦いが筆頭に上がるかと思いますが、
本作はまた異なる魅力があって楽しかったです。
(梅宮辰夫の弾けっぷり最高最高!)
VODないと思ってたら、Youtubeで300円で見れたので、
興味ある人は是非→リンク

2017年4月12日水曜日

ムーンライト



<あらすじ>
マイアミの貧困地域で暮らす内気な少年シャロンは、
学校では「リトル(チビ)」と呼ばれていじめられ、
家庭では麻薬常習者の母親ポーラから育児放棄されていた。
そんなシャロンに優しく接してくれるのは、
近所に住む麻薬ディーラーのフアン夫妻と、
唯一の男友達であるケヴィンだけ。
やがてシャロンは、ケヴィンに対して友情以上の思いを
抱くようになるが、自分が暮らすコミュニティでは
この感情が決して受け入れてもらえないことに気づき、
誰にも思いを打ち明けられずにいた。
そんな中、ある事件が起こり…
映画.comより)

アカデミー授賞式で取り違いという
ハプニングが起こったことでも注目された作品ですが、
恐ろしくカッコ良い予告編を見たときから
心を鷲掴みにされていたので楽しみにしていました。
テーマとして新しいわけではないけれど、
演出、登場人物、時代性の組み合わせから
産み出される叙情性に胸を打たれました…
語るのも野暮な静謐な愛の話。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

語るのも野暮と言った直後ですが、語らせてください。
本作はこの曲からスタートする時点で、もう…!となる。


これはKendrick Lamarの名盤To Pimp A Butterfly収録の
Wesley's Theory のイントロで使われていた曲。
薄ーくラジオからかかりながら物語が始まります。
シンプルだけど、この曲のサビの部分がすべてを物語っている。

Every nigga is a star, ay
Who will deny that you and I and every nigga is a star?

少年期、青年期、壮年期の3部構成になっていて、
どういう過程で彼が愛に目覚めていくのかを
丁寧に掬い取るように描いていきます。
最初に登場するのは主人公のメンターとなる売人フアンで、
彼とシャロンの邂逅がメインとなっていました。
シャロンはシングルマザーの元に育ち、
内向的な性格ゆえに家にも学校にも居場所がない。
知らない大人に勝手について行き過ぎ!
と初めは思ったんですが、
そうせざるを得ないくらいの孤独の深さが
段々と明らかになっていくところが辛い…
主義主張だらけの世界で
多くを語らない、語れない人は淘汰されてしまい、
声なき声がかき消されていく様が見える。
売人とその彼女はシャロンの心を開こうとするんだけど、
他人を信用できない彼は心を開かない。
2人がそれぞれアメと鞭の役割をこなすところが好きで、
とくにフアンの彼女テレサを演じたジャネル・モネイが良かったです。
シャロンのことを考えて甘やかさない態度を見せる。
すでにシンガーとして有名な彼女ですが、
演技も素晴らしいなーと感じました。
本作のタイトルであるムーンライトの逸話が
語られる海辺のシーンも本当に美しくて…
ただ世界の美しさと対照的に綺麗事で済まされない、
ドラッグを介したフアンとシャロンの母の関係を
配置している点に監督の真摯な姿勢を見ました。
叙情性のすぐ側にある目を覆いたくなる
現実とセットで描くことにより、
両論併記にもなるし、美しさが更に際立つ。
つまり99%クソな世界でも1%の輝きがあるということでしょう。
2部の青年期は最も分量が多く、
物語のキーとなるシークエンスとなっています。
立派な青年となったシャロンですが、
内向的なことに変わりなく、
学校ではレゲエ野郎にファゴット扱いされてイジめられ、
家ではヤク中の母親から金をせびられる。
少年の頃よりも居場所はさらに無くなってしまいます。
ここで登場するのが唯一の友人であるケヴィン。
シャロンはケヴィンに友情以上の感情を抱いていて、
その感情が静かにそして激しく爆発する
海のシーンは本作屈指の場面でしょう。
(キスに至るまでの間の絶妙さよ!)
ヒップホップではホモフォビアが
従来から蔓延していることもあり、
アフリカ系アメリカンかつゲイという
ダブルマイノリティーな存在は
アメリカ社会で生きて行くのが大変だろうなと思います。
それは本作を見た誰もが忘れられない、
ケヴィンからのグーパンチと受けるシャロンの目。
「分かっているけど止められない」という意味で、
すべてが象徴されていると思います。
そして最後の第3部はシャロンもフアンと同様に、
売人として成り上がったところを描きます。
Goodie Mobbの曲から始まり、
見た目はステレオタイプなアフリカ系アメリカンの悪い人、
といった感じなんですが、
孤独の密度がさらに高まっている印象を受けました。
すべてを悟ってしまって割り切って生きているというか…
僕はこういった印象を受けましたが、
人物背景が事細かく説明されないので、
見る側に想像できる余地が多く残されているのも本作の特徴。
一方で説明を端折り過ぎてるために人物の行動が
突然すぎる!動機が見えない!と思う人もいるだろうなーと。
好みの問題かもしれないけれど、
立場の異なる人の気持ちを考えよう、
という教科書のような題材とも言えると思います。
終盤のじわじわ縮まってく2人の距離感は
胸がミゾミゾしました©満島ひかり
あと作品内では曲はかかりませんが、
Frank Oceanの曲を映画化すると
このようなタッチの作品になるのかなと思います。
彼のセクシャリティの話もありますが、
それよりも何よりも叙情性(Lylical)と思える映画体験でした。

2017年4月5日水曜日

201703 Video List



2017年3月のビデオリスト。
3月はリリースラッシュで好きなアルバムが
たくさんリリースされててMVも超充実。
(とくにヒップホップの充実度たるや!)
1本選ぶのが心苦しい中、今月のベストビデオは、
ゆるふわギャングの「Escape To the Paradise」



今日アルバムがリリースされて
1日中聞いていましたが、この曲が一番好き。
軽やかで自由、等身大な感じが本当に最高最高!
タランティーノのパルプ・フィクションにオマージュ
って少し前だと相当ダサく思えるけど、
90年代回帰という視点で考えると、
今はとてもフレッシュに見える。
元ネタ指摘してドヤ顔したいわけではなく、
何をピックしてどう取り入れるかは
手法だけではなくタイミングも重要だなと。
ヒップホップだとUSの型に合わせようと、
無理くり外車登場させるパターンが多い中、
あえてプリウスっていうのも
彼らのキャラを物語っていて良い。
他のMVもセンス炸裂しまくりで、
次の展開も楽しみなアーティスト。

2017年4月1日土曜日

ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命



<あらすじ>
1963年11月22日、テキサス州ダラスを訪れた
ケネディ大統領が、オープンカーでのパレード中に
何者かに射撃され命を落とした。
目の前で夫を殺害された妻ジャクリーンは
悲しむ間も与えられず、葬儀の取り仕切りや
代わりに昇格する副大統領の大統領就任式への出席、
ホワイトハウスからの退去など様々な対応に追われることに。
その一方で事件直後から夫が「過去の人」として扱われることに
憤りを感じた彼女は、夫が築き上げたものを
単なる過去にはさせないという決意を胸に、
ファーストレディとして最後の使命を果たそうとする。
映画.comより)

アカデミー3部門ノミネートで注目されるも、
無冠に終わってしまった本作。
粋な夜電波で菊地さんがプッシュしていましたし、
監督のパブロ・ララインの前作であるNOが好きだったので、
公開初日に見てきました。
あらすじを見ると高尚な話に見えますが、
ジャッキーの野心も結構露骨に見える大胆な作品。
我が国の現在のファーストレディである、
アッキーにもぜひとも見ていただいて、
このぐらい強かに立ち回って欲しいです。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

本作はアカデミーで作曲賞にノミネートされているんですが、
それも納得のオープニングシーン。
真っ暗な中で不穏なストリングスの音が鳴り響く。
このサウンドが本作のキーとなっていて、
ここぞというシーンで繰り返し流れていました。
映画の構成としては、
ケネディ暗殺後の記者からのインタビューと、
亡くなってから葬式に至るまでが交互に描かれる形。
暗殺シーンは終盤にちょろっと見せるだけで、
基本的にケネディが亡くなったあとの、
ジャッキーの様子を描くという、
普通に考えるとギャンブリングな内容だと思います。
なぜなら然るべきことが然るべき手順で
手続きされて処理されていくことになり、
映画としてドラマが作りにくいから。
そこを打破するのが前作のNOで見られた、
映像の質感のGAPを使ったラライン監督の演出でした。
ジャッキーはホワイトハウスの紹介VTRを
作っていて本作中でも流れるんですが、
当時の映像??と思わされる作りになっていて驚き。
そこにいるのはナタリー・ポートマンなので、
当時の映像という訳ではないんですが、
平坦になりがちな物語に映像で起伏を付けていくことで、
飽きずに見ることができました。
また、ラライン監督が本作に起用されたのは、
こういった映像を使った演出に加えて、
本作のテーマであるメディアを使った歴史の作り方は
モロにNOと重なる部分があるからだと思います。
NOではチリの民主化運動を広告の手法で
先導した人の話だった訳ですが、
本作でもジャッキーは強かにメディアを活用して、
夫の死をメモリアルに演出しようとします。
僕は学生の頃に知ったケネディのことといえば、
暗殺されたこととキューバ危機を避けた人ということ。
ケネディ暗殺は他にも色んなファクターがあって、
歴史に名を残す大事件となっています。
しかし、劇中でも言及されていますが、
暗殺されて亡くなったアメリカ大統領は他にもいて、
その名前を僕は知らなかったので、
ジャッキーの策略通りということなのか?
と思ったりしました。
(アメリカ人が考えるケネディ像と
日本人が考えるケネディ像にはGAPがあると思いますが…)
歴史に名を残す!という大義名分を掲げつつも、
ジャッキー自身の虚栄心が見え隠れする点も
本作が正直なところだと思います。
大統領である夫という最強の後ろ盾を失った彼女が、
子ども2人とどうやって生きていくべきなのか、
ここも強かに計算している様子が描かれています。
ただ打算的という訳でもなく、
夫を失った悲しみ、さらには彼との間に設け、
死別してしまった2人の子どものことまで思い出し、
不安定な部分も見え隠れします。
この微妙な心情の変化が繰り返されるジャッキーを
演じるナタリー・ポートマンがとにかく抜群。
とくにホワイトハウスに帰ってきて、
着替えてシャワー浴びるシーンが圧巻だったなぁ。
終盤にかけて彼女のクローズアップが多くなる中でも、
ぶれない私!という顔力が良かったです。
(グレタ・ガーウィグの無駄使いは気になったけど)
渋い味付けがジワジワ沁みてくる映画。

メキシコ麻薬戦争: アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱

メキシコ麻薬戦争: アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱


メキシコの麻薬を題材にした作品は、
近年立て続けに映画やドラマで描かれていますが、
それをまとめた1冊ということで読みました。
歴史、内蔵、運命という3パートに分かれていて、
メキシコ麻薬戦争を体系的に理解する入門書として、
とてもオモシロかったです。
アヘン(コカイン)の原料となるケシの実が
中国からメキシコへやってくるところから始まり、
筆者がメキシコにおける麻薬について
徹底的に描いていく覚悟を感じます。
一言にメキシコ麻薬カルテルと言っても、
それぞれ成り立ちや行動原理が異なることが
丁寧に描かれていて勉強になりました。
カルテル同士の争いで終始していれば、
ただの抗争で終わるんですが、
手口が陰惨かつ民間の人が犠牲になっている、
そして警察とカルテルが癒着している。
これらのファクターが重なったことで
戦争状態となっているんだなーと。
ほぼ日本の戦国時代の様な状況で、
晒し首が21世紀に入っても行われているだなんて!
色々書き出したらキリないくらいに
信じられないことの連続でページをめくる手が止まらない。
とくにオモシロかったのは宗教のくだり。
カルテル発信で独自の新興宗教が発達していて、
それによってカルテル内の統率を取ることに
一役買っているっていう悪夢。
本作は2010年ごろまでの話なので、
カルテルに対して自警団が結成されて、
民間人が蜂起しているところは描かれていませんが、
その辺は映画のカルテルランドが参考になるかと。
読み終わったこのタイミングで、
最近一番フェイバリットなFKJというアーティストの
MVが公開されて、それがアメリカとメキシコの国境!
鬼メロウで最高の曲なんですが、
本作を読んだ後だとモロモロ複雑な気分になりました。