2023年5月30日火曜日

ビ/大竹伸朗

 先日の東京国立美術館の展示も最高だった大竹伸朗のエッセイ。彼のアートはもちろんのこと、文章も好きなので過去の作品を少しずつ読み進めている。本作もその流れで読んだのだけど、いつも通り朴訥に芸術について考察しておりめちゃくちゃ興味深かった。あと読み終わったあとに気づく装丁のデザインにもグッときた。

 2008〜2013年のエッセイの連載をまとめた1冊となっている。一定期間、同じ場所に滞在してそこで制作するケースが多かったようで、有名な直島関連もこの時期の作品。どうやってあれだけ巨大な作品を作っているのか見るたびに疑問に思うけど、その一端を知ることができた。特にドイツでの制作における現地のスタッフとのやりとりは胸が熱くなる系の話で良かった。今回読んで改めて感じたのは思い出語りがとても上手いということ。過去と現在をシームレスになおかつ叙情的に語りながら過去に耽溺せずに未来へと向かっていく感じがとても好きだ。そして本著を読むと若いときに海外へ行って異文化に触れることはやっぱり大事だなと改めて思う。日本を相対的に見ることで良いところも悪いところも見えてくるし、何気ない風景の中でも実はプレシャスな瞬間やものがそこにあると気付けるようになるから。

 また時間に関する考察が多いのも特徴的で、この頃はちょうどSNSやYoutubeによる情報の加速度的増加が進み始めた頃であり著者なりの思うところが多分にあったのだろうなと直接的な言及がないにせよ伝わってきた。弩級のパンチライナーなので、あとは刺さったラインの引用。

人はその一生の時間を費やして、物事が思い通りになるように必死に努めるが、終わりに近づくにつれ本能的に「思い通りにならない」事柄に引き寄せられていくのかもしれない

「何かが起きない正しいアドヴァイス」は「無」に等しい。逆に間違っているが何かが起きた結果、出来上がってしまう絵というのもあり、なかなかやっかいだ。

心底興味深いものに行き着く唯一の道、それは大ハズレ覚悟でどれだけ億劫がらず前向きに「?地点」を淡々と追い求めるかにかかっている。

パリの磨り減った石畳が「芸術的骨董」なら、日本のローカル国道沿いのパチンコ屋はどうにも救いようのない「ガラクタ的ゴミ」でしかないのか?

2023年5月24日水曜日

2023年5月 第3週

 友人と飲むために久しぶりに渋谷へ行き、その前にdisk Unionクラブミュージックショップへ。ヒップホップLPの値段の高騰にめちゃくちゃビックリした…円安の影響で新譜が高くなっているのは知っていたけど、中古もエグい値段の連発でビビった。なので最近ハマっているmixCDへ切り替えてディグ、さすがの品揃えで色々買えて嬉しかった。なかでもblast監修、DJ JINによるPrestige Records というレーベル縛りのmixが特に最高でよく聞いている。

KAYTRAMINÉ by Aminé & KAYTRANADA

 ビートメイカーのKaytranadaとラッパーAmineのジョイントアルバムが今週一番ブチ上がった。今年のAOTY候補の1枚。2人の相性がこんないいなんて…ヒップホップビートの定型の外側に余裕ではみ出していくKaytranadaのビートが本当にどれも最高。得意な踊れる系はもちろんのこと、彼なりのヒップホップスタイルもあって、どれもがオリジナリティに溢れている。やっぱり彼のドラムは独特の音色があって、重いキックに硬いスネアはいくらでも聞いてられる。Amineの鼻声がかった独特の声色との相性も抜群だしラップと歌をうまく使い分けてビートを乗りこなしている。好きな曲はたくさんあって、大ネタ使いの”Rebuke”、Pharellとの”4EVA”のいずれも今年の夏聞きまくると思う。あと渋いのはPharrell 以外の唯一の共同プロデュースがKarriem Rigginsってところ。やっぱドラムが大切。

Good Lies by Overmono

 ドーベルマンのジャケが印象的なEPの『Cash Romatic』で知ったOvermonoのの1stアルバム。珍しく日本語のインタビューが2本も出ていてオモシロく読んだ。自分自身ハウスに疎いにも関わらず情報が届く感じはDisclosureが出てきたときに近いものを感じる。Disclosureはもっとポップだったけど彼らはUKのバイブスを大前提にしたままという印象がある。それは世界的にUKの音楽があらゆるジャンルでテイクオーバーしまくっているのも影響していると思う。ボーカルサンプルの妙とヘビーなキックが中毒性高くて何度も聞いている。好きな曲は”So U Kno”

I Hope You Can Forgive Me by Madison McFerrin

 前作の”You+I”で好きになったMadison McFerrinのデビューアルバム。Solange以降のサウンドというか、一つ一つの音色にこだわったサウンドであり、簡単にジャンルへ回収されない新しい音楽への探求を感じるアルバムだった。今回アルバムに参加しているから知ったのだけど、父親のBobby Mcferrinは超絶ポピュラーソング”Don't Worry Be Happy” の人で、弟はTaylor Mcferrinというハイパー音楽一家なのであった。前半はエレクトロニックなムードかつ音に空間がある感じで、後半は比較的オーガニックなムードとなっていた。噛み締めるように何回も聞いてじわじわと好きになった。好きな曲は”Stay Away (From Me)”

GLOW by Wesley Joseph

 Baby Roseというシンガーが”Through and Through”というアルバムをSecretly Canadianというレーベルからリリース。それを聞いていたらなんとなくレーベルが気になってApple musicで見てたらジャケにピンときて聞いたら大当たり。ストリーミング時代ならではのセレンディピティだった。ロンドンに拠点を置いていて、もともとは映画監督志望だったけど音楽にキャリアを切り替えたらしい。ラップを中心に歌も歌えるし、自分でビートも作れる。直近だとLoyle Carnerのアルバムの”Blood on My Nikes”にHookで参加していた。それはともかく何よりも驚いたのは韓国のシンガーであるDEANが参加していること。”SUGAR DIVE”という曲でインディポップテイストながらもラップと歌はブラックミュージックベースという最近のトレンドが高い次元で達成されている。一方で他の曲はDopeなものが多くメリハリがあってオモシロかった。

Tarde no Walkiria by Ítallo

 TLで見かけて聞いてみたらめちゃくちゃ良かった。今のブラジリアンミュージックてこんな感じなのか?という衝撃があったし、こんなに素晴らしい音楽なのに世界的には無名っぽいのを見ると、数字で何かを分かった気になるのも良くないなとも思わせてくれた。基本的にギター中心のフォーキーなサウンドなんだけど、タイトル曲のエレクトロフォークみたいなノリが今の気分に合った。とりあえず休日に流してみてほしい。好きな曲は” Terra de Clarice”

Naughty by DeVita

 AOMGのDevitaのアルバムがリリース。英詞が多く海外のマーケットを狙っているのかなという感じ。ほとんどの曲をGRAYがプロデュースしているので、ビート的には余裕でUS,UKと張り合えるし、Devitaのボーカルも言わずもがな。好きな曲はCoogieをFeatに呼んだドリルR&Bの”Deserve”

MakeABreakAHoliC by FRAME & Jazzadocument

 ディスクユニオンでディグったときに知った。2015年のリリースでストリーミングの狭間にあるアルバムでリリース自体に気づいてなかったと思う。この中に収録されている”Rolling Stone”って曲がとても良くて感動した…FeatにBACHLOGICが参加していて、この狙ったかのような綺麗なピアノループのビート。日本人が好きなものが全部収まっていると思う。FRME名義で最近出たアルバムも良かったし、やっぱりUnderratedなラッパーだなと改めて感じた。

2023年5月22日月曜日

悲しみの秘義

 

悲しみの秘義/ 若松英輔

 ネットで本を買うことが多いのだけども、たまに本屋でノリで買う本が大事だと思っている。本著がレジ前に平積みされていて、装丁・タイトルに惹かれて買った。色々なタイプのエッセイがある中でも詩を取り扱っているからか読んだことないタイプのエッセイ集でオモシロかった。

 組版が独特で文庫にしては大きく余白を取っている。各章すぐに読めそうなものの、たっぷりの余白よろしくじっくり読ませてくる独特の文体が心地よい。日経新聞の夕刊で連載されていたらしく、邪推だけども紙面の都合によって字数を削られたことで、より洗練された文章になっているのかもしれない。

 毎回詩やエッセイなどを引用しつつ著者の考えが展開していくのだけど、読み手を静かにエンパワメントしてくれる絶妙な塩梅が好きだった。特になるほどと思ったのは読むことの創造性にまつわる話だった。コンテンツとして「消費する」のではなく「見る」「読む」「聞く」という行為が何を為すのか改めて考えさせられた。またタイトルにもある「悲しみ」に関する論考も興味深かった。悲しいときに人の感情は「悲しさ」だけに閉じておらず「愛しさ」「美しさ」といった感覚へ広がっていく。そういった感情の波紋の中で生きていくことの豊かさや辛さが読んでいるあいだに何度も去来した。たとえ世間でネガティブだとされても自分のフィルターで捉え直すことの大切を知った。

悲しみは、自己と他者の心姿を見通す眼鏡のようにも感じる。悲しみを通じてしか見えてこないものが、この世には存在する。

2023年5月19日金曜日

電車の中で本を読む

電車の中で本を読む/島田潤一郎

 夏葉社の島田潤一郎氏による本にまつわるエッセイ集。夏葉社、サイドレーベルの岬書店含めて魅力的な本がとても多くてよく読んでいる。それらの仕掛け人である著者の本を初めて読んだのだけど、とてもオモシロかった。タイトルからして本好きは間違いなく刺さるのは当然のこと、本を通じた生活や社会にまつわる考え、提案がどれも優しいかつ鋭くて読み終わるのが惜しかった。

 4章で章立てされており、それぞれテーマを用意した中で本にまつわる話をそれぞれ展開していた。毎回1冊の本を紹介しているのだけど、本のレコメンドがめちゃくちゃ良くて本著を読むだけで読みたい本がめっちゃ増えた。それはマイナーなものだけではなくメジャーなものまで。特に万城目学について、雑な映画化によって何となく敬遠していたけど、著者の紹介でとても読みたくなった。どのエッセイにもまっすぐな本への愛が溢れていて、自分が天邪鬼なこともあり余計に刺さった。

 また絶賛子育て中なので、第三章の「子どもと本」は子育ての中における本、読書にまつわるエピソードが読んだことのない視点の連続で興味深かった。この章に限らず本好きに刺さるパンチラインがそこかしこに仕掛けられており、その量と質は今年、いや人生レベルでトップクラス。本が好きな人はもちろん万人に勧めたい本にまつわる本だった。最後にラインを引用。

私たちのこころのなかにある、忘れてしまうような些細なこと。けれど、たいせつなこと。それらをあたらしく言葉にしようとする試みを、文学と呼ぶのだと思います。

これらの小説を支えているのは、私たちが日々の生活のなかで忘れてしまうような小さな出来事やこころの動きです。ぼくはその泡沫のような何かに、人生のいちばん魅力的なところがあるのではないと思うのです。


2023年5月18日木曜日

We Act! #3 男性特権について話そう

We Act! #3 男性特権について話そう

 友人からプレゼントしてもらって読んだ。以前から本著の話を聞いていたけど、確かにこれは居心地が悪くなる本だった。なぜなら男性として産まれてその特権に無自覚なまま生きていることをズバズバ指摘されるから。家父長制を引きずった日本社会において男性が優遇される場面だらけなのは気づいていたけど、ここまで言語化されると言葉に詰まった。一方で「男性」という十把一絡げな枠組みで議論されてしまうのは正直辛かった…女性の権利を尊重し拡張していくことには当然賛成しているし自分の周辺については精一杯の努力をしていると思っているから。(それも言い訳だろ?どこまで実行しているんだ?と言われたらそれまでなんだけども…)

 男性に特権が付与されてることは大前提だとして、その特権を捨てろという論法は今の社会だと難しいように感じる。減点法よりも加点法のロジックで男女ともに同じ権利を獲得するという論法の方が男女双方として納得できるし社会が前進するのではないかと思うしエッセイ内で似たような主張している人もいた。

 クソなマチズモがまだまだ世の中に跋扈しているのは百も承知しているが、その枠に「男性」という属性でざっくりした形で放り込まれることにはどうしても違和感があった。特定のイシューや対象者の設定があれば納得できたのかもしれない。最初のチャプターは男性だけの座談会なんだけど、参加者の各種発言がなんとも言えない気持ちになった。男性特権を持っちゃって申し訳ないというスタンスで今の社会が変わるとは思えないから。あと女性側がZOOMで座談会の様子を観覧してチャットでガヤを入れる、しかしそのガヤは男性参加者に見えない。この非対称性もどういう意図があるのか理解できなかった。ただこれらすべては逆を返せば「女性」という属性で不利益を被る場面が多いことに対するカウンターなのかもしれない。

 鶏が先か、卵が先かの議論であり、政府や制度の変化が先か、市民側の意識の変化が先か。本著は後者を意図していてそこには異論がない。なぜなら政府や社会制度は本来は市民が決めるものだから。結局は選挙で意思を示さないといけないように感じた。

2023年5月 第2週

 土曜日にGroovyRoomが主催しているレーベルであるAR AREAの公演を見に行ってきた。倍の料金のVIP席が一杯で一般席が空いていることにKpopファン勢の経済ぶん回すパワーを感じつつ約2時間の公演を楽しんだ。目当てはMiraniとBlase。ここ数年SMTM入りで韓国ヒップホップにハマり始めた身としては、この2人を生で見れたことは感慨深かった…Miraniはアルバムリリースしたばかりなので、アルバム曲中心の構成で聞けて良かったし、やはり”Achoo”, ”VVS”の2曲はブチ上がった。Blaseは本当にラップの鬼で超タイト。声入りのオケでライブしていたけど、ピッタリすぎてすごかった。。”Peace out” → ”Poppin’”の流れが最高のハイライト。コロナ明けたし日本は近いので、他のアーティストもガンガンきてほしい。

The Drift by MIRANI

 Miraniの2ndアルバム。 pH-1との先行シングルからしてクール、ソリッドなテイストになっていることは曲、ビジュアルから感じていたけど、アルバム全体も同じ方向に舵を切ってきた。ビートもGroovyRoomではなくKwacaが全曲担当している。トーンを落としたラップと音数少ない四つ打ち、ジャージードリル、トラップはかっこいい。ただライブは盛り上がりにくかった印象。でインタールード挟んだ後半はシンギンスタイル。こっちはかなり温度上がってきてメロウネスを持つ曲で構成されており、こっちの方が彼女には合っているように思った。ただ同じことずっとやっていたもしょうがないので、新しいことをトライしていく彼女をこれからも追っていきたい。好きな曲はブギー四つ打ち”Test me”

Kick Off (Solabeam Remix Compilation)

 AOMGのサイドレーベル?みたいな感じでSOLA BEAM RECORDSがローンチされ、そのメンバーによる既存AOMG曲のREMIX集。メンバーはAOMG mixで活躍するDJ陣のSpray、L-like、DJ co.krの3人。元の楽曲を思いっきり裏切る形のREMIXが多くてめっちゃ楽しい。1曲目の”MOMMAE”とか攻めまくりで笑った。DJカルチャーへの配慮が行き届いているあたりにAOMGのヒップホップレーベルとしての完成度の高さを感じる。持っている資本をこういう再投資する点が本当に素晴らしいと思う。好きな曲は最近ますます個人的に信頼度が増しているSprayによるREMIXの”H.S.K.T” サックスが気持ち良すぎ!

AP Alchemy : Side P by AP Alchemy

 Swingsが錬金術として各レーベルを再構成したAP Alchemyのコンピ第二弾。16曲1時間強の特大ボリュームなんだけども、どの曲もクオリティが死ぬほど高くてビビった。それが名の知れたタレントだったら分かるのだけど、結構ディグっているつもりの自分でも知らないラッパーだらけ。韓国ヒップホップの底の厚さを改めて感じるアルバムとなっている。それに加えて抱えているハウスプロデューサーのビートの数々のクオリティが異常に高いのもビビる。上手いラップとかっこいいビートの組み合わせが全てに勝ることを腕力で証明していた。好きな曲は”CRIMSON RED”、”Sunshower”の2曲。あとYoung B が久しぶりにまともにスピットしている”Me”もマストリッスン!

UNDER SEONGSU BRIDGE II by UNDER SEONGSU BRIDGE

 365lit,toigoのSMTMでの活躍で知名度上昇中のUNDER SEONGSU BRIDGEというクルーの2ndアルバム。このアルバムもAP Alchemyと全く同じで上手いラップとかっこいいビートの組み合わせが全てに勝ることを腕力で証明していた。このクルーのいいところは軽薄さでそれを担うのは365lit,toigoの2人。スキルも大切な要素ではあるが、ノリの良さも同じくらいヒップホップでは大切であり同じフレーズをリフレインしてグルーヴを作っていくのが本当にうまいと思う。好きな曲選ぶの難しいのだけど、ノリという観点では”Rock Chanel”

Chrome Season 1.5 by Bleecker Chrome

 Bleecker ChromeがEPを肉付けした形でアルバムをリリース。日本のヒップホップで今年のAOTY候補なのは間違いない。m-floの”Come Again” をサンプリングしたドリル曲にSik-Kをfeatで呼んでいるのだけど、他の曲も韓国ヒップホップをリファレンスにしているだろうなと感じるものが多い。つまりそれは「俺が待っていたのはこういうことよ!」という曲の連発で超最高。一番感動したのは”IGNITE”のExtend verとしてYoung Cocoをfeatした曲。家のスピーカーでデカい音で聞いたらあまりの音の美しさに鳥肌立ちまくった…Young Cocoはキャリアハイの最高のバース。。。録音スキル高すぎ。

T.U.R.N. by EASTA & NAOtheLAIZA

前回のラップスタア誕生で決勝進出したEASTAの最新アルバムはNAOtheLAIZAとのタッグでのリリース。全体にめっちゃ器用だなと思う。ラップはリリックのオモシロさを担保しつつフロウもタイトでスピットもいける。シンギンスタイルも無理なくできているし。NAOtheLAIZAコネクションと思われるFeat陣は2010年代の日本のヒップホップを彷彿とさせるメンバーでそれもアガる。特に今聞くEmi Mariaのフレッシュさが本当にハンパなかったし、Jaggla&NORIKIYOとの漢らしい曲も最高。そして最後はラップスタアの決勝メンバー全員で大団円。アルバムらしいアルバム。

Road to CASABLANCO. by Armani White

 全然知らなかったのだけどDenzel Curry との”GOATED” で知ったArmani White。その曲よりも”Billie Eilish” でハネたらしく確かに中東っぽい上音とバウンスビートがめっちゃ中毒性高くていい曲。”GOATED” という資格が十分あるほどにラップが死ぬほどかっこいい。どの曲もビートが派手なんだけど、それに負けないラップのデリバリーの豊かさと強い発声がある。最後に”Billie Eilish” のREMIXでLudacris, Busta, N.O.R.E.という最高すぎる組み合わせを実現しており、おじさんたちは皆ニヤニヤしてしまうでしょう。好きな曲はゴスペルスティーロな”PROUD OF ME.”

Soul, PRESENT by Q

 1曲目からド直球のPrinceオマージュで、そのままアルバムを駆け抜けていく。今となっては80sオマージュはトレンドではない中で、本人が好きなんだろうなという愛が伝わってきて嬉しくなった。シンセ炸裂しまくりで、どの音も心地よいし曲がバラエティーに富んでいるので飽きずに聞ける。好きな曲は”INCAPABLE HEART”

So Many Other Realities Exist Simultaneously by Atmosphere

 DUSTY HUSKYのdisk Unionディグ動画(本当に最高のヘッズ動画だった)でRhymesayersというレーベルを知ってすぐに見つけたRhymesayersrリリースの最新作。全然知らなかったのだけど、キャリア20年越えのベテランでラッパーとDJ&プロデューサーのUSミネアポリスベースのデュオ。サンプリングベースのオーセンティックなスタイル、つまりは安定感バッチリ。ドープなものとメロウなもののバランスが良くて結構聞いてた。20曲1時間超えなのもトレンドガン無視でいい感じ。好きな曲はレゲエビートの””Holding My Breath”

2023年5月14日日曜日

いなくなっていない父

 

いなくなっていない父/金川晋吾

 植本さん、滝口さん、金川さんの3人の日記から興味が出たので読んだ。写真集の「farther」は図書館かカフェかで読んだ記憶があり、また後半の晶文社のウェブ連載は当時途中まで読んでいたことを思い出した。一連の流れがこうして一冊にまとまることで新たな文脈が生まれていて興味深く読んだ。

 父親の写真を撮ることになった過程とその後について、著者の各種論考と共に書かれている。写真集を見たときに感じた独特の空気感について細かく言語化されており、その言語化に伴う逡巡含めて率直な思いが綴られている点が興味深かった。大きく分けて父親論、写真論の二軸で展開していくのだけど、いずれも相当ディープな話になっており、時折それらがクロスオーバーし「父親の写真」へと議論が向かっていったりもする。父親を自身の表現の題材にすることにあたって変にかっこつけずに表現者としての矜持、ある種のエゴイズムを持ち続けている姿勢に感銘を受けた。本著の興味深いところは単純にその姿勢を主張するだけでなく思考の過程を追えるところにある。だから結論を急ぐ最近のトレンドとは逆なんだけど、これこそ読書というか本の持つ魅力だなと思う。本著を読む限りでは父親との関係は写真を通じて成立していると言っても過言ではなく、何を言っても暖簾に腕押しな回答しか返ってこない父に対してある種の祈りのように写真を撮っているように思えた。終盤の日記パートでNHKの撮影スタッフという第三者が介在することによる変化も興味深かった。

 写真については普段考えない論点ばかりで特に好きだった。ここ数ヶ月、毎月コンデジで写真を撮って月単位でlatergramとしてインスタにポストしている。記録しないと過ぎていく日常を残したい気持ちが歳をとる中で生まれたのがきっかけだった。そういう経緯もあり写真について考えることも多いので刺激になった。以下引用。

写真を撮るには対象とのあいだに必ず距離が必要なわけであり、写真を撮ることは対象との関わりや接触よりもむしろその距離こそが問題となる。父の写真を撮ることは、父を撮ることであると同時に、その距離を撮ることでもあった。

シャッターを切るというのは、見ることをそこでとりあえずいったんやめることでもある。その場で見ることをいったんやめて、あとでイメージとして見るために写真に撮る。そんな言い方もできる。

2023年5月10日水曜日

2023年5月 第1週

  GWはウイルス性胃腸炎に罹患、ほぼ何もしていないのだが終盤持ち直したので久しぶりにレコ屋でDig。LOOP JUNKTIONをサルベージして、そのかっこよさに衝撃を受けた…cro-magnon+三浦淳悟+山仁なので好きに決まっているのだけど今の今まで聞いてなかったことを後悔した。ストリーミングにある音楽がすべてじゃないなと久しぶりに感じた出来事だった。ONKYOのCDプレイヤー導入したので、家Digした旧譜をCDで聞くのが楽しい日々、やはりCD世代なのかもしれない。とはいえ新譜もすごい勢いで届きまくるので随時聞いています。

That! Feels Good! by Jessie Ware

 Jessi Wareの最新作は思いっきりディスコに振り切った快作だった。70年代のサウンドへの憧憬をこれでもかとぱんぱんに詰めこんで現代的なサウンドのリッチさで表現していくのが素晴らしかった。レコード絶対欲しいやーつだけど、新譜レコード本当に高いので要検討。年末に本当に好きなものをまとめて買うみたいなのがいいと思っているけど売り切れたりするし難儀。好きな曲はアルバムで箸休めになっているミッドチューン”Hello Love”

F65 by IDK

 IDKの最新アルバムはF1オマージュ&有色人種として生きる葛藤がテーマのオモシロい作品となっている。スキットも用意されておりストリーミング時代にこういうコンセプチュアルなアルバム作りをしている時点で最高と言いたくなる。そして当然各曲も素晴らしくコラージュのように色んなビートでラップしている。特にジャズへのアプローチが見られるのが意外だった。Tyler的な音楽パレットを持ちつつラップはトレンド踏まえたスタイルなので一番好きなタイプ。メルセデスもしくはハミルトン推しっぽいのでそこは乗れないけど…好きな曲はオーセンティックな”Télé Couleur”

Never Broke & Silent Picnic by Green Assassin Dollar

 Green Assassin Dollarがいきなりビートアルバムを2枚同時にドロップ。今年に入って出た舐達麻の曲のビートがちびるほどカッコ良かったわけだが、ビートアルバムは落ち着いたトーンの曲が多く日常で聞きやすく仕上がっている。この中から誰かの曲に採用されるかもしれないので、それも楽しみ。

Secret Life by Brian Eno & Fred again..

 Skrillex,Four Tetとともに各地で超巨大パーティーをDJでロックしまくっているFred again…と御大Brian EnoによるアルバムがFour Tetのレーベルからリリース。アンビエント、エレクトロニカ的な内容で心に染み入ってくる感じが本当に好きだった。こういうのを聞きながらしっぽり飲んだりしていると歳をとったのかもしれないと思う。本を読むときによく聞いた。

ROSE by ASH ISLAND

 ASH ISLANDの新しいアルバム。なんだかんだずっと動いているイメージで最近だとちゃんみなとの”Don’t go”が話題になったのも記憶に新しい。ミクスチャー系韓国ヒップホップで、ポストPost Maloneのアプローチでは韓国で一番の成功例だと思う。ドリルの曲で久しぶりにガッツリスピットしているのを聞いて驚いた。あとfeatがChillin Homieってところもいい。好きな曲はAMBITION MUSIKのボスQ様呼んでのカーソング”Drop Top”

Love Part 2 by Colde

 ColdeのLoveシリーズのPart2。毎回外さない極上メロウソングの詰め合わせで今回もバッチリ。ギターベースのインディロックっぽいメロウさは最近のトレンドであり、そこをしっかり抑えつつジャズっぽいアプローチが多いのが新鮮だった。べたべたのKバラードな”Settle” はトランペットで味付けされることで、あら不思議めちゃくちゃアダルティでかっこよくなっていた。BTSのRMが参加しているのがビッグトピックでもあろう。好きな曲はもろに後年のMac Miller的な”I’m Still Here”

love is by Owen

 曲作り過ぎなOwenによるEP。今回はいわゆるKorean R&Bっぽいネオソウルなトラックが多くジャケのとおり春に聞くのに最高〜という内容だった。Owen別に歌がうまいわけではないのだが、シンギンスタイルのラップが独特の味があっていい。ヘタウマとはまた違うのだけど。やはり白眉なのはpH-1を迎えた”in my room” pH-1が定期的にOwenの作品に参加していることに友情を感じる。曲はもちろん最高!

愛は時間がかかる

愛は時間がかかる/植本一子

  植本さんの最新作。トラウマ治療の過程に関する記録で新境地の1冊だった。これまで日記を読んできて断片的とはいえ植本さんの人生について知っている読者からすると安堵というとおこがましいかもしれないが、そういう気持ちになった。同時に自分の根源的な部分にガチで向き合う勇気にも敬服した。

 植本さんのこれまでの日記の特徴として正直ベース、かなり深いところまで書かれている点があったと思うが今回もそれは健在。そもそも精神的な治療のプライベート性というのは極めて高いものであり、医師側の守秘義務が他の医療よりも格段に高いレベルで求められる。ゆえにトラウマ治療をする側の書籍はあると思うけど、治療を受ける側が体験記として紹介しているケースはほとんどないように思う。しかし、そこを軽やかに超えて淡々と治療について綴られていた。内容が重たくないことが本著の素晴らしいところだと思っていて、それは治療のみならず日常の周辺の出来事が日記のように付随して書かれているからだと感じた。治療される人が特別というわけではなく、生活を営んでいることが分かるというか。キャッチコピーのとおり「誰かのつらさに大きいも小さいもない。」というのはその通りで、我々はすぐに他人と比較して相対的にどうなのか?を追い求めがちだが、ことセルフケアにおいては絶対的に自分がどう思うか?を大事にすることが大切だと思う。また手紙という語り口も読み手がいる前提になっているので語りかけるような文体もあいまって優しい要素が強くなっているのかもしれない。

 日本だとカウンセリング治療を受けるとなると相当に心配される現状があるが、VOGUEでの宇多田ヒカルのインタビューなども含めてカウンセリングや精神医療のハードルが下がる一助になる本だと感じた。

2023年5月7日日曜日

母という呪縛 娘という牢獄

 

母という呪縛 娘という牢獄/齊藤 彩

 友人のおすすめで読んだ。9年間も大学受験を娘に課した母親が娘に殺害されて遺体をバラバラにされて遺棄された事件のルポルタージュ。エグい話なのでページをめくる手が止まらなかった。いわゆる毒親に該当する話であり、子どもを自らの所有物であると考えてしまうのはどんな親でも遭遇する場面だと思うので自戒していきたい。

 著者は元共同通信の記者で若い女性というのは本著の特徴だと思う。こういう殺人事件のルポの著者は年食った男性が多い中、カバーを含め今ままでの切り口と違うように感じた。著者自身の考えや意見は相当抑えられており、あくまで事件にスポットを当てつつ陰惨な事件の背景を加害者である娘の手記を中心に明らかにしていく。この娘と同世代なので、どうしても自分の学校遍歴、受験時代などを嫌が応にも想起するし同じ関西圏ということもありリアリティをもって迫ってきた点があった。受験しているときにすべてがテストで決まっていく辛さがフラッシュバックした。

 大半の親がここまでのハードコアさ、狂気性は持ち合わせてないと思うが、彼女の見せる邪悪な要素はみんなの心に少なからず巣食っているはず。だからこそ背景に何があったのか取材して欲しかったとは正直思う。肝心の当人が亡くなっているので真相は闇の中であり、分からないゆえの怖さというのも理解できるが、単純な子どもを使った学歴リベンジっていうレベルで片付かないと思うから。終盤、家族という檻が反転していく様はまるでドラマのよう。家族に死ぬほど苦しめられたのに最後は家族がいてこそという結論になっている点がアイロニックに感じた。

2023年5月5日金曜日

暇と退屈の倫理学

 

暇と退屈の倫理学/國分功一郎

 超絶ベストセラーで、色んな人が色んなところで紹介しており、いつか読みたいと思っていた。情報量がパンパンとなっており一度読んだだけで全容が把握できた気はあまりしない。ただ人生において暇と退屈についてこれだけ真剣に考える時間が取れたことに本著を読むことの意味があると思う。また自分のような哲学初心者にも優しい構成なのが助かった。

 古今東西の哲学者の考えをさまざまに引用しながら、それについて著者の論考をぶつけていくスタイルなのが新鮮だった。正しい根拠として引用するケースはよく見るけど「この考え方は理解できるか、ここは皆目見当違い」と鮮やかに喝破して比較的平易な言葉で自分の考えを伝えてくるのがかっこいい。そして過去の人間たちの叡智の偉大さ、つまり哲学の深淵さにひれふすしかなかった。

 とにかく目から鱗な話の連発で他の書籍ではなかなか知れない範囲をカバーしていると思う。遊動→定住による退屈の発生する過程、暇プロフェッショナルの有閑階級と暇アマチュアの大衆という対比、消費社会観点でのファイトクラブに対する考察などなど枚挙にいとまがない。これらの長ーい前振りが色々あって最後に退屈の仕組みを細かく解きほぐしている点が本著最大の読みどころだった。一口に退屈といってもそこにはグラデーションがあるため3つの形式に分ける。それぞれの形式ごとの退屈のあり方をさらに細かく説明していく点が興味深かった。とくに「決断」に身を任せることの快感と危険性について改めて気付かされたし、我々は退屈を生きているのであり、それが人間たるゆえんなのだ、という話は勇気もでた。ただ本著を退屈しのぎに読んでしまい議論の流れをちゃんと終えていないのでいつかメモを取りながら再読したい。

2023年5月3日水曜日

2023年4月 第4週

420, Vol.2 by Young Yujiro

 Happy 420!! 大麻ネタを取り扱うラッパーはたくさんいるけど、その中でも燻銀なYoung Yujiro。ずっと好きなラッパーで彼とRadooが同一人物だと知って驚いたのは最近の話…そして本作はRadoo時代の周辺の人物をたくさんfeatに呼んでいる。IllnandesのPassしまくりのバースが最高な ”Cappuccino”とかYDB呼んでの”Dope”とか。あと1曲目にBay4k入れちゃうセンスも好きだし実際Bay4k今聞くと新鮮でかっこいい。

愛 by Liza

 ラップスタア誕生でTOP10入りを果たしたタイミングでのリリース。今年の参加者は自分たちがフォーカスされるタイミングでしっかりリリースを用意しているあたりが素晴らしいと思う。前作よりも音楽的な幅がさらに広がりポップスターに十分なれる、いやもう若い子にとってはスターなのかも知れない。その中でもやはりエモドリルでSeedaも参加している”愛”がめちゃくちゃアツい。この手のビートだとフレックス!みたいな定型的な歌詞が多い中、Lizaは歌詞がおもしろいので、その組み合わせが新鮮だった。

Step On The Hill by FRME

 REFUGEECAMPのFRMEのソロアルバムが全曲BACHLOGICでリリース。最近のBACHLOGICトラックは派手さを抑えていかにラップが映えるかどうかを意識しているように感じる。その期待に応えられるラッパーだけがフルプロデュースしてもらえるのかなと。FRMEはそこをバッチリ回答できていた。ラップがうまいしリリックもオモシロい。”被っててもこねーよ New Era” とか。  シンギンスタイルもラップよりで好みであった。同郷のSALUとスタイルとして似ていると思われがちだけど、今回の”Tonight”とか聞くと色が明確に違いながらハーモニーが生まれているように思えた。好きな曲はスキルバチバチな” カイジュウタチノイルトコロ”

BRINGLIFE THE MOVIE VOL.1 ~Return to Ofuna~ by bringlife

 PRKS9で知って聞いた。前のEPも聞いておりサウンドが今のシーンにない感じでオモシロくて好きだった。今回のEPも今はほとんど誰もやっていないSKIT構成。東京から戻って曲作り始めるという映画っぽいスタイル。同世代だったら共感性羞恥が発動するかもしれないけど、もう大人なので引いた目線で楽しめた。とにかくビートが2000年代を彷彿とさせるアブストラクト、エレクトロ、同時代的にはEarlとかPink Siifuと接続しているとも言えるような。アルバムが楽しみ。

[ Rorschach ] Part 1 by PENOMECO

 PENOMECOのEP。前のアルバムも相当かっこよかったけど今回のEPもビビるくらいかっこよかった。何となく歌のイメージだったけどバチバチのラップをスピットしていてカッコ良かった。ZICOとの曲がやはりフィーチャーされてるのは当然として”Margiela”, ”Bubble”でブチ上がり。特に”Margiela”はドリルの歌物で好きだった。

Seoul by Koonta

 SMTM10で知ったKoontaのEP。SMTM10以降の初めてのまとまった作品のリリースで色んなタイプの曲があって好きだった。Deepflow、SINCEのFeat陣も間違いないのだが、彼の魅力がふんだんにつまっている”Star Walker”が本当に素晴らしい。ビートの魅力を最大限に引き出す歌とラップ。いわゆる本場感(ブラックネスといえばいいか)をこれだけ発揮できるラッパーはそうそういないと思うので今後も楽しみ。

We Are The Magic by WheelUP

最近はほぼすべての音楽ジャンルにおいてホットなのは間違いなくUK!なここ数年だけども、いにしえからUKといえばウエストロンドンのブロークンブーツだよなーとこのアルバムを聞いて久しぶりに思い出した。Danny Wheeler名義でも活動しつつ、その変名がWheelUPらしい。名門TRU THOUGHTSからのリリースで内容的に最高。仕事しながらめちゃくちゃ聞いていた。ドラムが生音っぽい質感なのが808ビート聞きすぎな日々の中でアクセントになったし癒しにもなった。ベースの動きとかドリルっぽいのもあったりで、こんなところにまで波及しているのだなと勉強になった。

playing w/fire by redveil

 “learn 2 swim”が素晴らしかったredveilのEP。才能の塊なんだということがめちゃくちゃ伝わってきた。サンプリングベースのつっこんだビートの上でスピットしまくりな曲もあったり、四つ打ちっぽいビートの曲も歌い気味のフロウもいける。何よりも声質の魅力があると思っていてアルバムが楽しみ。

Calico by Ryan Beatty

 とても期待していたRyan Beattyの新作。前作の 『Dreaming of David』がかなり好きだったのだけど、今作は思いっきりフォーク、アコースティックに振ってきており、そこまで好きにはなれなかった…もう少しでもドラムがかっちりしていれば。。。でもこの手のアルバムは耳馴染みはいいので困ったら再生する感じになるので聞き込んで良さを見つけたい。