2023年5月10日水曜日

愛は時間がかかる

愛は時間がかかる/植本一子

  植本さんの最新作。トラウマ治療の過程に関する記録で新境地の1冊だった。これまで日記を読んできて断片的とはいえ植本さんの人生について知っている読者からすると安堵というとおこがましいかもしれないが、そういう気持ちになった。同時に自分の根源的な部分にガチで向き合う勇気にも敬服した。

 植本さんのこれまでの日記の特徴として正直ベース、かなり深いところまで書かれている点があったと思うが今回もそれは健在。そもそも精神的な治療のプライベート性というのは極めて高いものであり、医師側の守秘義務が他の医療よりも格段に高いレベルで求められる。ゆえにトラウマ治療をする側の書籍はあると思うけど、治療を受ける側が体験記として紹介しているケースはほとんどないように思う。しかし、そこを軽やかに超えて淡々と治療について綴られていた。内容が重たくないことが本著の素晴らしいところだと思っていて、それは治療のみならず日常の周辺の出来事が日記のように付随して書かれているからだと感じた。治療される人が特別というわけではなく、生活を営んでいることが分かるというか。キャッチコピーのとおり「誰かのつらさに大きいも小さいもない。」というのはその通りで、我々はすぐに他人と比較して相対的にどうなのか?を追い求めがちだが、ことセルフケアにおいては絶対的に自分がどう思うか?を大事にすることが大切だと思う。また手紙という語り口も読み手がいる前提になっているので語りかけるような文体もあいまって優しい要素が強くなっているのかもしれない。

 日本だとカウンセリング治療を受けるとなると相当に心配される現状があるが、VOGUEでの宇多田ヒカルのインタビューなども含めてカウンセリングや精神医療のハードルが下がる一助になる本だと感じた。

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