2017年8月29日火曜日

内面からの報告書

内面からの報告書

最近は図書館へ行くようになったのですが、
そこで助かるのは普段読まないような本を読めること。
とくに海外文学は高単価なので、
なかなか冒険できず読めないものにも手が出せる、
こんなに嬉しいことはありません。
(所有欲を捨てきれない自分もいますが…)
めんどくさい前置きはさておき、
人生で初めてのポール・オースター作品。
POPEYEの本・映画特集のムックで
彼の作品をよく見かけたので
これを機に読んでみよう!ということで読みました。
タイトルが示すとおり、
小説というよりも自伝的考察のような内容で、
1冊目間違えたかな…という気がしつつも、
どういう人なのかがよく分かる話でオモシロかったです。
主語が「君は」になっていて、
幼いころのポールに筆者が語りかける文体であり、
単純な自伝とは異なります。
時代は限定されていて主に6歳〜20歳ごろまで。
過去を振り返りながら、
自意識の形成過程を彼の思い出とともに
見守っているような印象を持ちました。
安定の柴田元幸翻訳ということもあり、
とても読みやすいんだけど、
よくこんなに幼少期のこと覚えてるな〜
と思いました。創造された部分があるにせよ。
その当時は気付いていないけど、
子どもの頃に様々な決定的瞬間を迎えていて、
それをこれだけ緻密にそして鮮やかに語れるのは
エッセイストではなく小説家だからでしょう。
彼もまた日記について言及していて、
どこまでもこぼれ落ちていく時間への
危機感とでもいいましょうか。
忘れていくことへの恐怖と後悔は
滝口さんの新作と共通している点でした。
あと、日記を書けなかった理由として、
誰に向けて語ればいいか分からなかったというのは
とてもよく分かるなーと。
(僕も三日坊主で書くことを止めてしまっています…)
「脳天に二発」という話では
彼が衝撃を受けた映画について、
初めから最後までネタバレ全開で語っています。
この語りがめちゃくちゃオモシロい!
ネタバレ厳禁思想が跋扈する世の中ですが、
それを知らされた上でも見たいと思えるものもあると
個人的には思っていて本作はまさにそれ。
これもまた小説家ならではの語り口だと思いました。
(とくに流れるようなストーリーの解説)
日記をつけていなかった彼でも
唯一残っていた過去の断片が
大学時代に付き合っていた前妻への手紙。
遠距離恋愛の期間が長かったために、
大学生活を手紙で彼女に報告していて、
その手紙を引用しながら当時を回想しています。
孤独で疲弊しながらも、ひたすら書いていることが
伝わってくる内容だし、ほぼ日記なのでオモシロかったです。
冬の日誌という作品も同様の自伝的考察のようなので、
そちらを次は読もうかと思いつつも、
純粋な小説も読んでみたいなと悩ましい気持ち。

2017年8月28日月曜日

ワンダーウーマン




<あらすじ>
女性だけの島のプリンセスだったダイアナが、
いかにして最強の女戦士=ワンダーウーマン
となったのかが描かれる。女しかいない島で、
プリンセスとして母親に大切に育てられてきたダイアナ。
一族最強の者しか持てないと言われる剣に憧れ、
強くなるための修行に励む彼女は、
その中で自身の秘められた能力に気付く。
そんなある日、島に不時着したパイロットの
スティーブとの出会いで、初めて男という存在を目にした
ダイアナの運命は一転。世界を救うため、
スティーブとともに島を出てロンドンへと旅立つ。
映画.comより)

MCUに対抗したDCコミックスの
シネマティックユニバースが本格始動。
バットマン vs スーパーマンにおいて、
かなりの見せ場を担ったワンダーウーマンが
主役ということで楽しみにしていました。
ザック・スナイダーが
DCシリーズに関わっている近年の中では
一番良かった気がします。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

バットマン vs スーパーマンの作品内に登場した
1枚の写真の背景に何があったのか?
そこを描いたのが本作となります。
前半はワンダーウーマン誕生の経緯について描きます。
ギリシア神話のゼウス、アレスを絡めた、
随分おおげさな話になっているんですが、
絵画を使ったアニメーションの部分がかっこ良かった。
ウォッチメンのアバンタイトルとまでは言わないけど、
ヌメヌメと絵画が動いているのはオモシロかった。
女性しか住まない島で育ったワンダーウーマンは、
ある日、島に迷い込んだ兵士を救ったことが
きっかけとなり第二次世界大戦を阻止するという
これまた大仰な話へと転がっています。
しかし、この展開があることで、
ワンダーウーマンはめちゃくちゃ
オモシロくなったと思います。
というのもドイツ軍との戦闘シーンが2つあって、
どちらも見所たっぷりで良いんですよね〜
監督はザックではないのですが、
ザック印のストップ&ゴーなアクションは健在。
もう見飽きたよ!という人も多いと思いますが、
群衆バトルにおけるこの手法はやっぱり効果的だなー
と改めて認識しました。戦闘がかっこよくなる!
しかも、今回はかなり整理されていて、
画面ガチャガチャの場面は過去作に比べると
格段に少なくなっていて見やすかったです。
(かなりIMAXを意識した奥行きのあるアクションが
特徴的だったのでIMAXで見れば良かったと後悔しています。
だからといって2回目を見に行くことはないけれど…)
とくに最初の戦闘シーンのアマゾネス軍 vs ドイツ軍は
文明 vs 自然の構図にテンションが上がりました。
また、次にドイツ軍と戦うシーンは
完全に見た目が戦争映画で、
そこにスーパーヒーローをねじ込むという強引な力技には
かなり好感を持ちました。
(戦争映画の方がイイという意見は当然だとした上でね)
ワンダーウーマンが世間知らずという
ギャグも悪くなかったと思います。
僕はワンダーウーマンが
「お前は男の標準サイズか?」と聞いて、
クリス・パイン演じるイギリス兵が
「オレは標準よりも大きい」と答えるところが
心底くだらなくて好きでした。あまりに類型的!
キャラクターでいえば、ドイツ軍のマッドサイエンティストが
かなり良い味を出していて、
悪いものを産み出しそう〜という雰囲気が抜群でした。
後半はドイツ軍が新たに開発した
毒ガス散布を止めるミッションへ。
ワンダーウーマンがまた良いのは、
人間とヒーローのチーム戦になっている点です。
DCシリーズはスーパーマン然り、バッドマン然り
人間とは何ぞやという哲学的な問いに
回収されていきがちだと思っているんですが、
本作では共闘し、その戦いの中で
ワンダーウーマンが自分の考えを深めていく。
その考えとか展開に疑問は色々沸くところもあったけど、
順を追って比較的に丁寧に説明されていたと思います。
チーム戦の点で本当にもったいないなーと思ったのは、
狙撃手の扱い方。アル中気味で初戦で使い物にならない
というフラグを立てておきながら、そこを回収しない。
最後の戦いで彼の見せ場があれば…!
終盤はおなじみのドラゴンボールのような
戦闘シーンがひたすら繰り返される。
もはや歌舞伎と言っていいでしょう。
というか「DCはこの方向で行くんでよろしく!」
ってことなんでしょうね。
色々言いたいことあるけれど、
過去DCシリーズの中では一番見所あると思います。
ジャスティスリーグは不安要素しかないけど、
結局また見に行ってしまうのか…

2017年8月26日土曜日

ベイビー・ドライバー



<あらすじ>
天才的なドラインビングテクニックで
犯罪者の逃走を手助けする「
逃がし屋」をしているベイビーは、
子どもの頃の事故の後遺症で耳鳴りに悩まされているが、
音楽によって外界から遮断さえることで耳鳴りが消え、
驚くべき運転能力を発揮することができる。
そのため、こだわりのプレイリストが揃った
iPodが仕事の必需品だった。
ある日、運命の女性デボラと出会ったベイビーは、
逃がし屋から足を洗うことを決めるが、
ベイビーの才能を惜しむ犯罪組織のボスに脅され、
無謀な強盗に手を貸すことになる。
映画.comより)

エドガー・ライト監督最新作。
監督に関わらず、彼の関わった映画は
どれもオモシロいので、いつも見ているんですが、
今回はぶっちぎりに素晴らしかった…
最近、NETFLIX中毒で映画館行かなくてもいいじゃーん、
とダラダラしていた自分に喝を入れるかのごとし。
2010年代を代表する傑作なのは間違いない!

※ここから盛大にネタバレして書きます。

ド派手なカーチェイスから映画が幕を開け、
それだけでもテンションMAXになるのですが、
本作を比類なき作品へと高めている、
音楽と映像の融合が本当に最高最高!
主人公のベイビーは耳鳴りを抑えるために
常に音楽を聴いているという設定。
しかし、それは単に抑えるというだけでなく、
彼が発揮する天才的ドライビングテクニックと
不可分であることがこの冒頭のカーチェイスで示されます。
さらに音楽のチェイスが最高に素晴らしくて、
ソウル、ファンク、ロックといった生音を中心に、
映画内で無音の部分がほとんどない状態ぐらい、
大量の音楽が映画内にぶち込まれていて、
まるでエドガー・ライトのDJを聞いているかのよう。
僕がうおーっ!と思ったのはアバンタイトル。
任務終了後のベイビーの日課として、
皆の分のコーヒーを買いにいくシーンなんですが、
ワンカットというだけではなく、
歌詞のリリックが壁に書いてあったり、
トランペットが鳴る部分で
楽器店のショーケースに飾られたトランペットを
吹く真似をしたり、ストリートミュージシャンが
曲のフレーズを吹いたり。
1つ1つ触れていると本当にキリがないくらい
映像と音楽の素敵なマリアージュは
全編に渡って展開されるんですが、
最高の映画の始まり方だと思いました。
それぞれのキャラ立ちも抜群で、
主人公のベイビーを演じたアンセル・エルゴートは
きっと、星のせいじゃないも素晴らしかったですが、
チャーミングでコメディセンス抜群の側面が
全面に出ていてこれからが楽しみになりましたし、
ジェイミー・フォックスがすげー悪役なのも
久々に見て胸がすっとしました。
(ウィル・スミスとは違うぜ!ということが伝わってきた)
ケビン・スペイシーも悪役で登場。
もともと彼に脅されてベイビーは
逃がし屋の仕事を辞めれなくなるんですが、
彼が終盤に見せる漢気はまさかの展開で
完全にサムアップしていました。
この作品が特別なのは音楽愛に溢れた設定の数々が
単なるギミックではなく物語と有機的に結びついているから。
街中で録音した人の声を素材にアナログ機材で
音楽を自作していることとか。しかもテープ!
あと音楽のボリュームもオモシロくて、
ベイビーのイヤホンと同期している部分が多く、
彼がイヤホンを外せばボリュームは落ちるし、
イヤホンを付けると再びボリュームは戻る。
また、劇中で流れる音楽との同期でいえば、
金を数える音がスネアと同期していたりだとか、
細かい演出がこれでもかと詰め込まれている。
僕が一番好きだったのはバリー・ホワイトの曲を使った演出。
劇中で登場人物に歌詞も言及されていたけど、
声の低さまでバリー仕様なのが
最高にくだらなくて好きでした。
ウォークマンによって
人はどこでも音楽を聞けるようになり、
そのウォークマンを発明したのはSONYで、
本作はSONYの映画という粋さ。
(実際に聞いているのはiPodだけど。笑)
ベイビーが恋に落ちるのはダイナーのウエイトレスで、
2人の甘酸な関係も見逃せないところ。
甘酸×ボニー&クライドの掛け合わせが
こんなにオモシロいことになるだなんて、
誰が予想したことでしょう!
逃走劇の途中でベイビーの亡くなった
母親の曲を車で聞くシーンの儚さ。
その母親を演じるのが
スカイ・フェレイラという飛び道具も驚きだし、
しかも、彼女がカバーしたコモドアーズのEasyが
また沁みるんですなぁ。
ザ・アメリカなラストショットから、
エンディングで流れるのは
サイモン・ガーファンクルのベイビードライバー!完璧!
すべての音楽好きに捧ぐ最高のアクション映画でした。

2017年8月24日木曜日

ユングのサウンドトラック

ユングのサウンドトラック 菊地成孔の映画と映画音楽の本

radikoのタイムフリー機能が導入されてから、
菊地成孔の粋な夜電波を毎週聞いていて、
それに影響されて読んでみました。
本作は色んな媒体に掲載されていた
映画レビューのまとめ+書き下ろしで構成された
映画について菊地さんが語っている著作です。
冒頭、いきなり松本人志が監督した
大日本人、しんぼるの批評から始まる、
その意外性に驚いたし、
まだ未見なので見てから改めて読まなきゃなーと思います。
映画レビューがオモシロいのは、
見る人によって様々な視点がある点だと思っていて、
菊地さんはその視点が他の人と全く違って超フレッシュなので、
めちゃくちゃオモシロかったです。
当然見てから読むと理解が深まったり、
新たな見方を獲得できて良いのですが、
逆に見る前に読むとめちゃくちゃ見たくなる。
本作で僕の中でビットが立ったのはゴダール。
お恥ずかしい話なのですが
1作も見たことがないのです。。
そんなトーシロでも見たくなるような、
音楽の切り口と共にオモシロい見立てが
次々と繰り広げられています。
(音と映像の同期、OSTと既存曲の取り扱い方など)
他にもオモシロいものはたくさんあって、
個人的に刺さったのはSATCとグラントリノのレビュー
SATCをNYとJAZZを絡めて、
ここまで真剣に考えている人がいるのか?!
と驚きましたし、グラントリノのエンディングにまつわる話は、
その部分全然覚えてねー!な話で猛烈に見直したくなりました。
最後には昔公開されていたブログからの転載で、
映画のことを書いた日記が掲載されていて、
「やっぱ日記おもしれー」となりました。
(というか菊地さんの文体が好きですね。)
まえがきで「何を観ているか」と同等に
「何を観ていないか」に可能性があって、
単純に面白いと書いてあって、なるほどなーと。
豊かな映画鑑賞生活のお供に是非!

Taking a nap



新しくMixを作りました。
MixというよりSelectionに近いんですが、
Soul, Jazz, Funkのユルめのやーつを集めてみました。
サンプリングソース多めで全部レコードです。
まだまだ暑いので昼間に適当に流しながら
涼んでくださいませ。

2017年8月22日火曜日

エンパイア・レコード



今、フリークス学園を
ひたすらビンジウォッチングしているんですが、
別の切り口でアメリカン青春映画を。と思って見ました。
久々にこんなに散らかっている映画見たな!
と逆にその散らかり方が愛おしい気持ちになりました。
地元のCDショップが大手会社に買収されることを
知ってしまったバイト君が
何とかそれを阻止しようとして、
売上金をラスベガスでぶっ込むものの全部失ってしまい、
さぁ、どうなる?といったお話。
95年の映画なんですが、
実際にアメリカからCDショップが無くなるという
笑えない事態が発生してしまったのを知っている
2017年の我々からすると、
牧歌的な空気さえ感じてしまう。
CDショップの学生バイトたちが主人公で、
それぞれキャラは立っているから
見ていて退屈はしないんだけど、
1人1人の行動理由が見えにくいために、
前述したような散漫な印象になったのかなと思います。
本もCDもネットで買った方が安かったり、
便利だったりしますが、
やっぱり大量にディスプレイされている中から、
自分の好みのものや偶然出会うものを
大切にする精神は忘れたくないですね。
それがとくにローカルなものだと尚更。
POPEYEの本屋特集を買わなくちゃ。

2017年8月21日月曜日

わるいやつら



松本清張原作で近年TVドラマで
当てこすりされまくっているんですが、
野村芳太郎監督版の映画を見ました (1980年公開)
野村監督の映画で見た作品は鬼畜、八つ墓村で
どれも狂気炸裂しまくりだったので期待してたけど、
本作はグッと大人な仕上がりでした。
冒頭、ファッションショーから始まるところで
流れるディスコのチープ具合に
2017年の今見るとやられちゃう。
主人公は親が医者の二代目ボンボンの医者。
金持ちの道楽と言うべきか、
色んな女性をはべらかすプレイボーイとして
「わるいやつ」として描かれるんですが、
物語が進むにつれて、
そんな彼が逆にどんどん追い込まれていく。
タイトル通り、わるいやつは1人ではなく複数、
いや全員なのか?ということが
明らかになっていくところがオモシロかったです。
松坂慶子がファムファタールを演じていて、
熟女になられた後しか知らなかったので、
あーこれは80年代に皆が夢中になったのも分かるなーと。
(宮下順子の不穏さは最高最高!)
人間みな腹黒なんです。

渚のシンドバッド



橋口亮輔監督作品。
どんどん過去に遡る形で
フィルモグラフィを追いかけてきました。
(残るは二十才の微熱だけ…)
橋口監督の作品の中で考えると、
僕は新しい作品である、
ぐるりのこと。や恋人たちが好きですが、
橋口監督の作品は他の監督と
数段グレードが異なることを本作で改めて痛感。
この人がたくさん映画を撮れるような環境が
なぜ日本で作りにくいのか、不思議でしょうがない。
本作の一番ビックリするトピックとしては、
役者時代の浜崎あゆみが出演している点ですよね。
レイプされた経験を持つ影のある少女を演じています。
自分が経験したことをダイレクトに語る場面は少ない中で、
彼女の抱える闇の部分が滲み出ていて、
歌手ではなく役者を選んでいたら…
というパラレルワールドを夢想してしまう。
彼女も素晴らしいんですが、
本作はなんといっても岡田義徳!
彼が演じるのは中学生で
同級生の親友に思いを寄せるゲイであると。
橋口監督の映画の最大の特徴として、
ワンカットで撮り切るところが挙げられますが、
これによって観客側に何か決定的なものを
目撃した感触を痛烈に与えてくる。
彼がゲイであることを告げる教室のショットは
息が詰まるほどの緊張感…
予告編でも少し出てるけど、
本当にこれだけでもいいから見て欲しい!
(あと海岸での切なさマックスのシーンも)
性春のワンカット。

キングス・オブ・サマー



<あらすじ>
高校生のジョーとパトリックは、
それぞれ親に対する不満から家出を計画し、
一風変わった少年ビアジオとともに
森に隠れ家を作って自立した生活を始める。
しかしそこへ、ジョーが思いを寄せるクラスメイトの
少女ケリーがやってきたことから、
少年たちの友情に亀裂が生じ……。
映画.comより)

アメリカでの公開は2013年で
当時オモシロそーと思っていたものが
時を経てやっと劇場公開されたので見ました。
監督のジョーダン・ヴォート=ロバーツは
キングコングのリブートも監督していて、
そちらが先に有名になってますが、
まだキングコングは未見…涙
それはともかく、本作はアメリカ青春映画史に
名を刻むだろう素晴らしい作品でうっとりしました。
大人になるということは
孤独と苦みを噛み締めることだということが
よく伝わってくるところが好きでした。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

冒頭のシーンが物語のキーとなる、
イニシエーションの象徴のような、
トライバルなリズムサウンドで非常に印象的。
本作のテーマは過干渉な親からの自立。
親からの解放を宣言するかの如く、
森の中の配管を木で叩きまくってるのが
とても微笑ましいんですよねー
前半はきっかけとなる各少年の親との確執、
そして家出して森で自給自足するまでを描きます。
同じ過干渉でも色合いが異なっている点がオモシロくて、
主人公ジョーは母親を早くに亡くし、
父親と2人の生活に辟易している。
シャワーの奪い合いとか実家あるあるだなーと
懐かしい気持ちで見ていました。
父親は1人でジョーを育てる責任を感じるあまりに、
彼を子どもとして縛り付けようと管理して、
そこで決定的な仲違いが発生してしまう。
一方で、パトリックの方は1人っ子で、
親が子どものことを信じきって甘やかしまくり。
その過干渉に辟易としているんですが、
彼が親はストリートファイターのブランカ並みに
何を言っているのか分からないという
パンチラインが最高にオモシロかったです。
親からの解放ということであれば、
2人のロードムービーになりそうなものですが、
本作では2人+ビアジオという少年の3人で
森の秘密のスポットに自分たちで
家を建てるということを計画します。
ここが本作の「自立」というテーマをより
強固にしている設定だと感じました。
自分のことを自分でやる、
という大人もできているかどうか分からない、
人として必要なことをやり切ろうとする
DIY精神がなんとも尊い訳です。
(チキン買うチートもありましたが…)
後半はあらすじにもあるように
ケリーがやってくることで友情に亀裂が入る。
彼女は学校で決してイケてる側ではないジョーに対して、
かなり好意的な態度で、しかもケリーは彼氏と別れたときた!
そうなると僕とうまくいくのでは…
むふふ。的なジョーの煩悩を打ち砕く展開が待っている。
要するにケリーはパトリックが好きなんですねぇ。
それが決定的に発覚するシーンの破壊力よ!
ジョーの辛さがビシビシ伝わってきました。
ここからは地獄で最悪の気分となったジョーは
全員を秘密基地から追い出し
1人で自給自足の生活を始めて行く訳ですが、
ここのシークエンスの孤独感が素晴らしくて…
3人でやっていたことを1人でやらなきゃなので、
当然大変だしうまくいかないことも多い。
けれど、孤独を受け入れてこそ真の大人なのである。
というメッセージが言葉で言わずとも伝わってきました。
あと思春期の友情の在り方の描き方もフレッシュ。
ビアジオの堅い友情とパトリックの少しドライな友情によって、
友情の多様性を描いているようにも感じました。
喧嘩したあと河川敷で寝転がりながら仲良くなる
という日本の漫画的展開と距離を置いた部分が興味深かったです。
スパイダーマンとセットで
2017年夏を彩る素晴らしい青春映画!

2017年8月12日土曜日

スパイダーマン ホームカミング



<あらすじ>
ベルリンでのアベンジャーズ同士の戦いに参加し、
キャプテン・アメリカのシールドを奪ったことに興奮する
スパイダーマンこと15歳の高校生ピーター・パーカーは、
ニューヨークに戻ったあとも、トニー・スタークからもらった
特製スーツを駆使し、放課後の部活のノリで
街を救う活動にいそしんでいた。
そんなニューヨークの街に、
トニー・スタークに恨みを抱く謎の敵バルチャーが出現。
ヒーローとして認めてもらい、
アベンジャーズの仲間入りをしたいピーターは、
トニーの忠告を無視してひとりで戦いに挑むのだが…
映画.comより)

家から出たくない+魅力的な映画がない、
ここ数年の中で一番映画見てない期間が
続いていたのですが本作で映画ライフを再スタート!
スパイダーマンの映画シリーズは
全作一応見ていますが一番好きな作品でした。
アメリカンティーンのほとばしるエネルギーが
スクリーンに漲っていて
夏バテ全開の体に喝を入れてもらったような気持ちです。
MCUがますます楽しみになってきました。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

本作はシビル・ウォー以後のお話で、
ウルトロンのパワーを悪用している
武器商人が悪役として設定されていて、
それを演じるのはマイケル・キートン。
しかも、その敵キャラは装着型マシーンで、
まるで鳥のごとく空を飛び回るっていう、
バードマンを意識したメタ設定にアガりました。
はじめにキートンが悪の道に邁進する動機を
さくっと紹介したのちに
スパイダーマンであるピーター・パーカーが登場。
この導入部分がホントに最高で、
どうなっているかといえば、
ピーターパーカーのセルフィー動画、
VLOGで構成されているんですね。
しかも、その中にはシビルウォーでの
バトルロイヤルの場面も含まれているっていう、
最高のサービスショットを提供してくれています。
(重厚なオーケストラverの
スパイダーマンのテーマも良かったなぁ。)
本作の抜けの良さは、今回のピーター・パーカーの
キャラ設定に大きく依存していると思いました。
過去2シリーズはどこか影があり、
自分が持った力について葛藤する
自意識過剰タイプでしたが、
本作ではスパイダーマン最高!という
全力の肯定で物語が始まっていく。
要するに無邪気で、
とにかくアベンジャーズに入りたい一心で、
街中で人を助けようと活動するんだけど、
若さゆえの勢いが空回りする。
これをトム・ホランドが躍動感いっぱいで
スクリーンで演技してくれるのだからたまらない。
過去シリーズは基本1人で行動していましたが、
今回はパートナーの存在が
物語の中で大きな役割を果たしています。
1人はネッドというピーターの親友。
彼がコメディパートを一手に引き受けていて、
それがとてもオモシロかったです。
とくに2人の握手のルーティンが
ヒップホップっぽくて印象的。
最高のguy in the chair!
今回のスパイダーマンが特に好きなのは、
ネッドを中心としてパーカーの学生生活が
大きくフィーチャーされているから。
アメリカンティーンの生活の中に
スパイダーマンがいる感じ。
ジョン・ヒューズの映画を
キャストに見せていたそうでなるほどなーと。(1)
もう1人のパートナーは
スパイダースーツのボイスコマンド。
これはスパイダースーツを
トニー・スタークが作った事実を
モロに出せる状態になったことで実現したギミックかな?
初め全然使いこなせなくて、
倉庫に閉じ込められているときに
学んでいくところも良かったし、
キスのタイミング指示は爆笑しました。
(総じてハイテクガジェットはどれもテンション上がる)
小ネタでいえば、ドナルド・グローバーの
出演はアガりましたね〜
見たときは全然分かっていなかったんですが、
彼はアーロン・デイビス(Prowler)というビランで、
彼が劇中で言及している甥がマイルズ・モラレスで、
新作アニメシリーズのスパイダーマンであるという。。(2)
僕が好きだったのはキャプテンアメリカの使い方。
こないだのシビルウォーまで超シビアな話だったのに、
本作ではただの品行方正オジさん扱い。
計3回あったけど補修の場面が一番好き。
ビランであるキートンとの戦いは
正直煮え切らない部分がありました。とくに終盤。
ただし、キートンがピーターの好きな女の子の父親!
というまさかの展開が発覚してから、
ホームカミングの会場までの一連のシーンが最高最高!
ピーター役のトム・ホランドの露骨な硬い表情、
車内でのキートンの表情。どれも見逃し厳禁。
一方で人助けシーンは屈指の仕上がりでした。
とくにワシントン記念塔での救出劇は本当に素晴らしかった!
(船のシーンは予告編で見過ぎて興ざめ)
過去のスパイダーマンは自分の力が大き過ぎることに
不安を抱いて葛藤していたのに対して、
本作ではまず自分自身がスパイダーマンにふさわしい男になる、
ある種の通過儀礼となっている設定が良かったと思います。
自分の力で乗り越えた先に栄光の未来が待っているということ。
夏休みの子どもたちが見るべき映画!

2017年8月6日日曜日

REFUGEE MARKET / WISDOM @Liquid Room


DOGEAR10周年を記念した、
REFUGEE MARKETに遊びに行ってきました。
今回はライブ中心で仙人掌 BACK TO MAC TOUR FINAL、
ISSUGIのSPECIAL BAND SHOWCASE WITH BUDAMONK、
DOWN NORTH CAMPのSHOWCASEの3部構成でした。

仙人掌 BACK TO MAC TOUR FINAL
アルバム「VOICE」の曲を中心とした構成。
世界はゲットーだ、とっくに!という
悲観的な見方とは裏腹に仙人掌のバイブスは高く、
ライムを叩き付けるようにスピットする姿がかっこ良かった。
最大のサプライズはSEEDA、BESを呼び込んでのFACT
仙人掌のCCGへのシャウトアウトから、
上記の2人が出てきて3人がステージに揃い踏み。
めちゃくちゃ盛り上がった。
そして、SEEDAが1人ステージに残り花と雨を披露。
途中でビートが差し代わって16FLIP REMIXに!
しかもISSUGIがステージに登場、2人が握手を交わす。
こんな歴史的な瞬間が他にあるのか!
(照明が本当に最高の仕事をしていた)
アルバム収録曲について
BRON-K以外のFeaturing勢がすべて登場する豪華さで、
とくにVOICEのSAXが生演奏で
アルバムとはまた違った味わいで好きでした。

ISSUGI SPECIAL BAND SHOWCASE WITH BUDAMUNK
この日一番楽しみにしていたライブ。
もともとサンプリングベースのループミュージックで
音楽的理論とは離れた場所にあるISSUGIの楽曲たちが
どんな風にアレンジされるのか楽しみにしていたのです。
DAY AND NITEの楽曲が中心だったんですが、
本当に最高だった!!
(PAアウトの録音でもいいから売って欲しい)
とくにWATER POINT REMIX、MIDNIGHT MOVE、5ELEMENTSは
バンドアレンジとの相性が抜群!
リズム隊をWONKのメンバーが担っていたことが
重要なポイントだった気がします。
もたったビートのノリをきっちり再現しつつ、
展開つけるところはきっちり展開つける、
メリハリが効いていて曲たちが進化していました。
DNCとWONKの繋がりは必然かと思うので、
今後にも期待したいです。てか見たいです。

ちなみに幕間ではCRAMのビートライブとPUNPEEのDJ。
CRAMのビートライブがめちゃくちゃカッコ良かった!
「何も言わずに首が振れるやーつ」の代表例。
踊れるグルーブをもったHIPHOPのビートは
いつ聞いてもグッとくる。
TRAPも聞くけどやっぱこれだなと再認識。
PUNPEEのDJは分かってらっしゃる選曲で、
最後のSLACK、CAKEの大合唱が気持ちよかった。

DOWN NORTH CAMP SHOWCASE
前2つのライブの完成度があまりにも高過ぎて、
このシークエンスのワヤ感が凄まじかった!
あぁ、HIPHOPってこういうところもあるよなと。
DOGEARRのカタログを振り返るように
入れ替わり立ち代わりでラッパーが登場して、
様々な楽曲が披露されていく。
大石始さんの言葉を借りるなら
ここで際立ったのはMONJUのメンバーの「ラップ筋力」
とくにISSUGIと仙人掌はリリック全然飛ばさないし、
声のボリュームもまったく衰えない。
屋台骨の2人がいるから、ここまで大きくなったんだなーと。
(ここにSLACKがいればという思いは否めなかったけど)
10周年という晴れ舞台に加えて、
TAMUへの追悼も今回のライブのハイライト。
ISSUGIが「SICK」でTAMUのバースまでキックして、
DNCのアルバムの収録曲「Gingira」へ。
(TAMUのバースといえば、
「But  This Is Way」のバースが1番印象的。)
色んなHIPHOPがありますが時代に流されることなく、
自分達の好きなものをストロングスタイルでやり続けること。
その漢気のカッコ良さに惚れ惚れした夜でした。

環ROY なぎ ワンマンツアー 2017 @WWW

環ROYの最近アルバム「なぎ」が好きだったので、
リリースライブに行ってきました。
アルバム自体も素晴らしいんですけど、
僕はそれよりも今回のアルバムについての
インタビューがどれも読み応えあって、
とてもオモシロくて興味を持っていました。

CDJ2台と照明しかないミニマルなステージと
客演なしで環ROYのラップのみという
ストイックなステージで見応え十分。
日本語でラップをするという表現の幅は
ここ数年で非常に細分化していると思うんですが、
芸術と最も密接な関係にあるのが
環ROYのラップなのかもしれません。
(ライブというよりインスタレーションに近かった)
アルバムの曲を順番にやっていく感じで、
過去曲はアンコールでまとめて、という構成。
入場時にオリガミが配られて、
そこに文字を書いてステージに置くという
システムが用意されていて、
その言葉をもとに環ROYがフリースタイルを披露。
最近のフリースタイルブームとは異なる、
散文型のフリースタイルがとてもフレッシュでした。
つまり、言葉を置いていって言葉同士の狭間を
観客に想像させるフリースタイル。
もともと「日本語ラップ」なるものへの
愛憎が入り乱れたラッパーかつ
HIPHOPの構造と日本語の関係を
論理的に真剣に突き詰めてた数少ないラッパーの1人だった訳で、
そんな彼がこの境地に辿り着いたことが興味深かったです。
(過去の一番オモシロいインタビュー→リンク
表現としてのラップの可能性を拡張するようなライブでした。

2017年8月1日火曜日

NORIKIYO Bouquet Tour Final @Liquid Room


NORIKIYOの最新アルバム「Bouquet」
その Tour Finalとなるワンマンライブを見てきました。
文字通り鬼のようなFeaturing勢を従え、
2010年代のシーンの中心にいたのは、
NORIKIYOであることを
証明するような「下衆のクズのShow」でした。
僕がNORIKIYOが好きな理由は
リリシズムと熱さを兼ね備えつつ、
社会性も帯びているところ。
声なきものの声を拾う音楽としての
HIPHOPを体現する稀代のMCだと思っています。
(田我流も同じ系譜にいるMCでしょう)
ライブはアルバムの順番通りに始まり、
「朝へ運べ」「Lost Sign」
そして「It Ain't Nothing Like Hip Hop」でフロア爆発。
過去の曲でクラシックがたくさんある中で、
新しいアルバムでこれだけ盛り上がる曲が
入っていることが凄いなーと。
前回のワンマンのFeatuing勢も凄まじかったんですが、
今回は前回を超えんばかりの豪華メンツ。
それを数珠つなぎのごとく、
出し惜しみすることなく次々と披露していました。
印象的だったものを抜粋するとこんな感じ。

SHINGO★西成
「お好きな様に」
「Stay Strong」

弱い弱い人間は弱い
弱いことを知っている人間は強い

このラインを生で聞くと心に刺さり過ぎて涙腺刺激された。

ZORN
「Learn 2 Learn」
たぶん人生で一番大きな声で
「ヴィダルサスーン!」と叫んだ。

KEN THE 390, ZORN
「MAKE SOME NOISE」
この曲を企画したKEN THE 390にマキシマムリスペクト。

ZORN, AKLO, OMSB
「HEY MONEY」
OMSBのバイブス満タンな様子が良かった。
あとAKLOのバースにある、

Baby ぼんやりと家が欲しい
そんなドリームはいらない

このラインをKEN THE 390が
楽屋でどういう気持ちで聞いていたのか…

AKLO, SALU
「RGTO Remix」
なんだかんだ、盛り上がるし楽しい。

SALU, AKLO, SIMON, Y's, 
「STAND HARD Remix」
この曲、生で聞けたことは感慨深かったけど、
2017年の今、一番かっこ悪く聞こえてしまう
タイミングだったのかもしれない…
HIPHOPは残酷な音楽。

PUNPEE
「珈琲」
「新曲」
新曲がブルーハーツの「終わらない歌」サンプリング!

MACCHO, 般若, DABO
「Beats & Rhyme」
MACCHO、般若の横綱相撲が圧巻。

BES
「2Face」
確かにあの頃の切れはないかもしれない。
けれど懸命にラッピをスピットする
BESのバースで泣いた。今日もこの街を舞ーう!

このメンツ、このボリュームをもってしても、
NORIKIYOの曲の方が心に残っています。
前回の「花水木」のあと、
結果3枚もアルバムを出しているので、
ライブで聞いたことがない曲が多くて、
それらが聞けたのが良かったです。
(「耳を澄ませば」がとくに嬉しかった)
終盤に今回のアルバムの肝となる、
「Memories & Scars」「枯れない花束」では
NORIKYO自身が感極まる場面も。
アンコールも良くて「Go So Far」からの
「何度でもやる」締めで大団円!
計3時間のライブだったんですが、
全くだれる事なく楽しめました。
来週は初の著書が出るので、そちらも超楽しみ!