2016年11月30日水曜日

見えない音、聴こえない絵

見えない音、聴こえない絵

この秋に瀬戸内芸術祭へ行きまして、
そこで大竹伸朗さんの作品群をたくさん見て、
完全に虜になってしまいました。
先日、吉祥寺へ行った際にBASARA BOOKSで本作を発見し、
光の速さでサルベージして読みました。
本作はエッセイなんですが彼の芸術の源や
作品に対するスタンスを知ることができて、
とてもオモシロかったです。
以前に同じくエッセイである「既にそこにあるもの」
を読んでいるんですが、
僕は本作の方がより彼の本質を知ることができる気がしました。
彼の作品の何が好きかといえば、
ヒップホップを感じるところ。
それはコラージュという言葉に集約されるもので、
ヒップホップで言うところのサンプリング。
インスパイアということではなく、
既にそこにあるものをカット&ペースト、
ときにはそこに加工を施して
見たことのない景色を見せてくれるんだからたまらない。
0→1でものを作り出すことが偉いのである。
という言説がツッコミ過多の世界では跋扈する最近ですが、
果たしてそう言いきれるのか?
あと、作者の意図が絶対的な価値観として存在し、
そこから外れたものは「間違い」扱いされることは?
ということを疑問に思ったりするんですが、
これらに対する大竹さんの考えが、
心のもやもやをズバーッ!と晴らしてくれました。
芸術に対する哲学とも言える論考があったり、
日常と芸術の距離感の話があったり。
1つ1つのエッセイの中ではまるで大竹さんの
脳内を泳いでいるように話が横滑りしまくるんだけど、
彼の主張自体は一貫している。このかっこ良さに惚れる。
とくに彼がライフワークとしている
スクラップブックの話がとても好きでした。
30年近くひたすら切って貼ってを繰り返しているらしく、
皆がゴミと思って捨ててしまう印刷物に、
彼なりの美学を感じて集めているところが、
これまたヒップホップっぽいんだよなー
あと最近Vynl Memoriesというmixを作ったんですが、
それとシンクロするような「黒の盤景」というエッセイの中で、
彼曰く、個人的なレコードの思い出は
単なる極私的独白に陥りやすいと…
ですよねぇ!と読みながら首を縦に振りまくりました。
彼のもの作りへの衝動が自分の中で共振してしまう名著。

2016年11月27日日曜日

この世界の片隅に



<あらすじ>
昭和19年、故郷の広島市江波から20キロ離れた呉に
18歳で嫁いできた女性すずは、
戦争によって様々なものが欠乏する中で、
家族の毎日の食卓を作るために工夫を凝らしていた。
しかし戦争が進むにつれ、日本海軍の拠点である呉は
空襲の標的となり、すずの身近なものも次々と失われていく。
映画.comより)

最近はめっきり劇場に行けてなく、
いろいろ見たい作品が溜まっている状況なんですが、
何としてもこれは!ということで見てきました。
方々で絶賛の嵐が吹き荒れているので、
もはや僕がどうこういう話じゃないですが、
本当に素晴らしい映画を見たなという感動がありました。
日常と非日常の狭間で翻弄される人生。
当たり前のように享受しているものが、
ある日突然無くなってしまうこともあるけれど、
それでも生きていかねばならないのである。
という至極真っ当な話を2016年の今見ることが
とても必要な気がしました。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

冒頭、なんの前触れもなく唐突に始まる物語。
主人公すずの幼少期から描かれるわけですが、
最初にすず役である能年玲奈 a.k.a のん の声を
聞いた瞬間に完全におじさんな私は涙腺ゆるゆる状態。
もともとあまちゃんにハマり、
ロケ地の岩手県久慈に行くほど彼女の佇まいに
ヤラれちゃってたことを改めて思い出しました。
すずさんはボンヤリ天然系なキャラで、
それが能年玲奈自身のキャラと合うというか、
声のイイ意味でのユルさが良かったなーと。
予告編の段階ではいわゆる日常系な印象で、
前半はその印象の通りただ生活している姿を
淡々と描いていました。
劇的なことは何も起こらないけれど、
人が生活する様がこれだけ豊かなことなのかと
画で納得させられる力はスクリーンで見てこそ
伝わるものがあります。
水彩画のような柔らかいタッチの情景の中を
アニメーションが動いていく快感がたまらない。
ジブリのかぐや姫を見たときと同じ感動があって、
画が物語を成立させるための材料ではなく、
物語に積極的に寄与している。
それはすずの好きなことが画を描くことだからだと思います。
アニメーションの原点と言わんばかりに、
出先でのエピソードを画と共に語ったりするし、
幼なじみの代わりに画を描くシーンも、
画の中の画というメタな作りも新鮮でオモシロかったです。
僕が本作が凄いな!と思ったのは物語のテンポ。
描いていることは何気ない生活の断片の繋ぎ合わせであり、
シーンの1つ1つは落ち着いた時の流れなんだけど、
シーンからシーンへの時間の飛び方がとても大胆。
前半はかなりの情報量があって少し追いつかないくらい。
人が自分の中で過去を回想するときのタイムライン感。
人生の流れはこのぐらいの早さで過ぎ去っていくよなーと。
後半は戦争の空気がだんだんと忍び込んできます。
物語が始まってから昭和の年号で時間が
カウントダウンされていて
僕達はすでにいつ頃に何が起こるのか?ということを
ある程度知っていても、
前半の牧歌的な生活空間が失われていく様は辛かった、、
しかし、その一方で本作が特別であるのは、
悲惨だと思われたあの時代にも
笑う瞬間はあったということを描いている点かと思います。
物語全体を通してかなりギャグをトバしているシーンが多く、
すずが旦那とキスしたあとのお姉さんが
部屋の隅っこでいじけるシーンが好きでした。
すず一家が住んでいるのは広島の呉の山の方なので、
直接ヒドい空襲に襲われはしないものの、
命があるか/ないかは紙一重であるという様子が
随所に見られて不安な気持ちになります。
その不安が高まって結果的に最悪の事態が発生するんですが、
ここの表現のラディカルさに衝撃…
客観ではなく究極の主観というか、すずが覚えている記憶を
そのまま映像化したようなシーンでした。
右手を失ってしまうし、姉の子どもを亡くしてしまう、
というダブルパンチの悲劇。
印象的だったのは「良かった」という言葉。
一体誰にとって何が「良かった」のか?
慰めの言葉なんだろうけど当事者にとって、
実は一番残酷な言葉になってしまうことに気付かされました。
終盤の記号的な空襲とすずの顔の対比がとても印象的で、
考えることは何も無く只ひたすら逃げることしかできない。
そんな中で広島へと落とされる原爆。
映画内で正面切って原爆のキノコ雲を見たのは初めての経験でした。
あと玉音放送を聞いたあとのすずのリアクションが新鮮で、
従来であれば戦争終わって良かったね…
ものが多いと思うんですが、すずの場合は怒りの感情が発露する。
最後の1人まで戦うじゃなかったのか?
中途半端な気持ちで戦争してんじゃねーよ!と。
そこにはかろうじて自分で納得させていた、
失った右手への思いが爆発していました。
ラストの孤児のくだりから、家の鳥瞰のカットまでは、
完全に涙腺が決壊してしまった。
(とくにお姉さんが亡くなった娘の服を見繕うところ)
永遠のゼロを賛美するヒマあったらコレ見ろよ!
と大きな声で言いたくなる戦争映画。

2016年11月24日木曜日

ララバイ

ララバイ (ハヤカワ・ノヴェルズ)

先日、近所の図書館を訪れた際に、
何気なく棚を見たらチャック・パラニュークの作品が!
ということで借りて読みました。
本作は絶版になっているので正規では買えません。
彼の代表作はもちろんファイトクラブでしょう。
昨年、新訳版がリリースされて読んだのですが、
超オモシロかったです。
その一方で、他の作品は読めない状況が続いています。
サバイバーは単行本を持っているんですが、
やっぱりKindleで洋書コースかなぁと考える今日この頃。
前置きが長くなりましたが、本作もオモシロかったです。
ララバイは子守唄という意味ですが、
作品内でメインとなるのは間引きの歌と呼ばれるもので、
それを特定の人物に向かって唱えると、
その人間が死んでしまう呪文。
歌を対象者に聞かせなくても唱えるだけで殺すことができる。
ここまで聞いて勘のいい人なら分かるでしょうが、
そうです、デスノートカジュアル版です。
あとがきにも書かれていましたが、
デスノートシリーズでは、ギミックの勝負といいますか、
ある設定を使ってどっちが裏をかいて
勝つことができるかというゲーム性がフォーカスされています。
本作にも後半はその要素は含まれるものの、
メインとなるのは人を殺すことに関する議論と
ひたすら展開される陰謀論。
現実社会で陰謀論をドヤ顔で語られることほど、
辛いことはないわけですが、
チャック・パラニュークが語る世界の仕組みの話、
資本主義に対する懐疑的な姿勢はいつも興味深い。
中盤から擬似家族状態でアメリカを巡る、
ロードムービーのような展開の中で、
家族間の会話として論考が繰り広げられるんですが、
僕はここが一番好きでした。
とくにオイスターというキャラクターが展開する、
自然でさえも元々アメリカ大陸にはなかったものが、
蹂躙しているこんな世の中、ポイズン。
という論考がなるほどなーと思いました。
(ファイトクラブでのタイラー・ダーデン的な役割)
あとチャック・パラニュークは文を忍ばせるのが巧み。
前半に出てきた同じ文章が後半にそのまま出てきても
物語を読み進めた上で読むと感じ方が変わっていて、
自分の変化を文章から感じるという不思議な体験でした。
後半からはラストにかけて「ハリーポッターか!」と
ツッコミを入れたくなるほど様々な呪文が登場して、
しっちゃかめっちゃか。
ラストはぶっ飛び過ぎて笑ってしまいました。
ビッグブラザーへの言及がとても多かったので、
1984をいい加減に読まねばと思います。

2016年11月20日日曜日

N.W.A & EAZY-E:キングス・オブ・コンプトン


昨年見たストレイト・アウタ・コンプトンンが
とんでもなくオモシロかった訳ですが、
それを補完するために…ということで見ました。
タイトルにもあるようにEAZY-Eサイドに立った、
ドキュメンタリーで、新たに知ることも多かったです。
ドレ側の言い分は皆無で、そこをどうかと思うこともあるし、
それ以前に映画としての作りがチャチ過ぎて
そっちの方が気になりました。
EAZY-E周りの人のインタビューが展開されるんですが、
グリーンバックで撮っていて後ろのCGが
素人目に見てもめちゃめちゃチャチ。
しかも、ことあるごとに背景を変えてきて、
そこに意味も特にない、、インタビューに集中できないよ!
あと再現ドラマまで収録されていて、
それも世界仰天ニュースか!とツッコミ入れたくなる仕上がり。
あと直接のインタビュー素材と当時のVTRの素材が
混ぜ混ぜで、これはどのときの何なんだ?
というのも気になってしまう。
とくに袂を分かったDreとIce-Cubeのコメントは
引用のされ方がちょっと…
さらに音楽の許諾が取れなかったのか、
インストはずっとかかるものの、
ラップがまったくかからないのもしょんぼり。
(EAZY-Eの音楽でさえ!)
新しく知ったことだけがオモシロくて、
今や日本のヒップホップでも平気で使われている、
Motherfuckという言葉を使い始めたのはEazy-Eということ、
あと彼が寄付に熱心だったということ。
でもなんだかんだ言って、
ヒップホップドキュメンタリーは好きなので、
これからもバシバシ作って欲しいです。
(とくにKANYE WESTとか)

2016年11月16日水曜日

夜と霧

夜と霧 新版

今年見た映画でサウルの息子という作品があって、
強制収容所の被収容者であるユダヤ人が主人公で、
ゾンダーコマンダーとして収容者を管理する立場にあった、
という事態を描いたものです。
直接その話という訳ではないですが、
ナチスによるユダヤ人の強制収容および虐殺の話をする上で、
避けられない名著中の名著ということで読みました。
陰惨な被害体験だろうなーと思っていたんですが、
当然そういった話もありながら、
死ぬことよりも、生きることを真正面から書いていて、
後半なんて全文付箋したくなるような金言だらけでした…
本作は実際に強制収容所に収監されていた
心理学者が書いた作品であり、
彼が被収容者としての体験を交えつつ、
心理学の見地からも強制収容について考察しています。
残忍な手口を1人称の目撃談として語られると、
当たり前ですけどドシンと心に響いてくる。
さらに収容者の精神の揺らぎについて、
極めて主観的なものもあれば、
心理学者として客観的な考察もあるため、
読んでてグラグラしました。
「解説しているけど、この人も中にいたのよね…?」と。
近現代史上、最恐のDead or Aliveな状況において、
人間が動物化する1歩手前のところで、
いかにして踏みとどまったのか?という話が心に刺さりました。
本作が名著とされているのは、
収容所での体験からのフィードバックが
限りなく普遍的な生、死の話へと流れていく点でしょう。
少し引用しておきます。
このパラグラフはシビれまくりました。

行動的に生きることや安逸に生きることだけに
意味があるのではない。そうではない。
およそ生きることそのものに意味があるとすれば、
苦しむこともまた生きることの一部なら、
運命も死ぬことも生きることの一部なのだろう。
(中略)
収容所を生きしのぐことに意味などない。
抜け出せるかどうかに意味がある生など、
その意味は偶然の僥倖に左右されるわけで、
そんな生はもともと生きるに値しないのだから。

収容所から解放された後に書かれているので、
後付けのロジックと思う人もいるかもしれないですが、
肉体が追い込まれている描写がハードであるがゆえに
肉体が極限まで追い込まれたとき、
生死を分けるのは精神かも…と思わざるを得ない。
当たり前に享受している幸せが当たり前でなくなる、
ということを直近で言えば311で痛感した訳ですが、
こうやって文章できっちり残しておくことは
重要だなと思いました。
最近、欅坂ハロウィン事変などもあった中で、
何が問題なのか分からない人は本作を読めばいいと思います。

Vynl Memories



あの頃、僕が一番好きだったものは間違いなくレコードだった。
レコードプレイヤーを使ってデジタル音源を
流すことのできるScratch Live登場前夜、
毎週のようにレコード屋へ行き、
雑誌を読み、webをチェックして、
未知の自分の好きなかっこいい音楽を探していた。
ときは流れ大阪から東京へ移り1人暮らしが始まると、
実家に私物を置いておくことを許されなかったため、
約6年かけて集めたレコードをすべて持って上京することに。
その数ざっと800枚。
800枚なんて好事家からすれば大したことないかもしれない。
「これさえなければ…」
世間のレコードブームと逆行するかのように、
レコードは大きく邪魔なものだと感じることが何度もあった。
じゃあ全部売っちゃえばいいじゃん、と思う人もいるだろう。
しかし、レコードはCDやダウンロードした音源とは異なり、
強烈に思い出がこびり付いている。まるで残留思念のように。
それは買ったときの思い出だったり、その曲をかけたあの夜だったり。
ここ1年ぐらい、ようやく観念して少しずつレコードを売るようになった。
好きな曲、かっこいい曲は当然残していく中で、
自分で売るレコードを選んでいるときに気づいたことがあった。
それは先に述べた「記憶に残っているか」ということ。
人からすればどうでもいい思い出を封じ込めてミックスを作った。

1. Aurora / Azymuth
ブラジルのフュージョンバンド。
今もブラジルの音楽は全然明るくないけれど、
このアルバムはひと夏に1度は聞く。
アップテンポな曲からダウンテンポな曲まで、
そのすべてにメロウネスが丁寧に込められていて
真夏の夜を涼しくしてくれる。
FLOATING POINTSも日本のFavorite Record Shopに上げる
ROOTDOWN RECORDSでレコメンドしてもらった。
レコ屋で広げてもらった音楽の世界は本当に貴重なものだと思う。

2. twuneanunda / Dwele
彼の曲を初めて聞いたのは昔放送されていた
RhymesterのWANTEDというラジオ番組。
番組内でDJ JINによるショートミックスのコーナーがあり、
毎週MDに録音して聞いていて、
このラジオでブラックミュージックが持つ
漆黒のグルーブの虜になった。
“A.N.G.E.L”が有名で最近発売されたDJ JINのMix CDにも収録。
このアルバムはブート版ながらも素晴らしく内容が良くて、
最近夜によく聞いているけれど、
その後主流となるアンビエントな流れの前夜にありながら
メロウネスを忘れない感じが好き。
大阪で一番好きなレコードショップだったCISCOにて購入。
当時CISCOの袋を持ってドヤ顔でキャンパスを歩いていた。
大学2年ぐらいまで在籍してた
バスケサークルの先輩が気づいてくれて、
得意な気持ちになった覚えがある。
その自意識が恥ずかしすぎる。

3. Quiet Nights / orfeo
東京のレコード屋に行ける!ということは
上京前に楽しみにしていたことだった。
(すっかり意気消沈してるけど)
その熱に浮かされて下北沢のJETSETで購入。
タイトル通り静かな夜にお似合いな曲で、
PVがグサヴィエ・ドラン調でそれもオモシロい。
computer jay REMIXは彼のBandcampでFree DLできる。
全然知らないアーティストに出会う場所が
レコード屋だった最後の記憶の断片。

4. Think About You / Frank Ocean
今年ついにセカンドアルバムがリリースされたが、
超名盤の1stアルバムである”Channel Orange”からこの曲を。
色褪せないメロディは何十年と語り継がれるだろう。
今はなき大阪のManhattan Recordsで購入。
あの仰々しいポップがとても懐かしく感じる。

5. desert rose(war player) / inc.
DrakeやThe Weekend以降、急速に増えたアンビエントなR&B。
彼らの退廃的なムードとメロウネスのバランスが好きだ。
最近はレコード+DLコードという形が多くなってきたが、
このアルバムはレコード+CDという珍しい形。
CDという音楽のリリース形態は今後一体どうなっていくんだろう。
こちらはCDショップのタワーレコードで購入。

6. Verse / Rhye
こちらも前の曲と同様のアンビエントなR&B。
SADEの再来!と言わずにはいられないけれど、
実はボーカルが男の人だということを知って心底驚いた記憶がある。
最近では須永辰緒が雑誌&Pemium2016年9月号にて選盤していた。
冬に聞きたくなるアルバム、通称冬バム。
これもタワレコ池袋店にて購入。

7. DO NOT LEAVE WET / Seiho
大阪でinnitというパーティーがあり、
そこで初めて見たときからかっこ良かったSeiho。
(すべて繋がったのはCosmopolyphonic RadioとONRAのおかげ)
音楽の構造を深くまで理解して機材に詳しい、
奇天烈な格好をした、かっこいい音楽を奏でる人。
とか思っていたら、
いつのまにかとんでもないスーパースターになっていた。
優れたポップスの感性も持ちながら、
こんなに前衛的でかっこいい音楽も作れる人は
今後出てくるんだろうか。
仕事帰りに渋谷のディスクユニオンで購入。

8. Stilll Wanna Do U / Hazel
大阪で先輩たちとaffectionというパーティーを開催していたとき、
仲間内でかなり話題になったことを思い出す。
(読み方が「ヘイゼル」なのか「ハゼル」なのか毎回忘れる。)
ONRA周りの人でグイグイ引っ張るグルーブと歌声のハーモニーがかっこいい。
"Comeback Season”というDrakeのmixtapeに
Shareという曲を提供していることを知ってビックリした。

9. Love Is Gone / Riccio
ブギーブーム以降、ディスコのエディットもので、
かっこいい曲が数多くリリースされるようになり、
先に紹介したROOTDOWN RECORDSでよく買っていた。
エディットものは色々あるけれど、
この曲のダンサブルメロウな感じがとても好き。
Riccioはイタリア人で、
これを機に元ネタ調べたけど結局分からなかった。

10. Promise / grooveman spot
前曲の流れでエディットだけではなく、
ダウンテンポの四つ打ちの曲もよく買っていた。
この曲もテンポは比較的遅いながらも、
名は体を表すとはよくいったもので
grooveのツボをついてきて体がどうしたって揺れてしまう。
311の被災者を支援をする為に発売されたことも覚えておきたい。

11. BAYSIDE TERRACE / BTB
説明不要のサマーマッドネスチューン。
シンセサイザーとギターカッティングで白飯3杯食べれちゃう。
この曲はaffectionの面々で和歌山白浜のバグースにて
開催されたパーティーでかけたことを覚えている。
「ちょうどサンセットのときで …」と言いたいところだけど、
当日はあいにくの曇天の模様だった。楽しかった思い出。

12. Test Of Wind / Vynl Jam
デジタル機材を使わないポリシーを掲げている
というフィンランドのバンド。言われなければ、
この曲が2008年生まれだなんて絶対わからない。
そのぐらい普遍的なメロウネスで最高に心地よい。
当時通販でもよくレコードを買っていて、
福岡のthirty three recordsで購入。
ソウルやディスコシングルの再発の品揃えが充実してて、
かなりお世話になったけど閉店していた …諸行無常。

13. Valdez In The Sky / Donny Hathaway
好きなソウルシンガーを1人選ぶとすれば
Donny Hathawayと言いたい。
ここでピックした曲はインストだが 、
彼のエレピプレイが炸裂する彼のクラシックの1つ。
LIVE版のテイクも捨てがたいがここは7inchで。ノイズはご愛嬌。
最近ではTerace Martinがカバーしている。
池袋のレコフェスでMASHさんにレコメンドしてもらった。

14. My Life My Street / cro-magnon Feat. MC 漢
東京、新宿。
昔に比べて安全になったと言われるが、
まだまだ危険の残り香が存在する街。
そんな街で今聞くべきのなのはMC漢のライムだろう。
新宿という街の磁場が菊地成孔と
彼を結びつけたことも記憶に新しい。
Takumi Kanekoのピアノプレイと
畳み掛けるライミングのアンサンブルが心地良い。
雨の中、傘をささずにフードをかぶりながら歌舞伎町で聞きたい曲で、
この頃から巻くのはポリスとガンジャだけだと分かる。

15. Down The Street / Guru
夜の新宿からNYへと場所を移そう。
煙たいジャケットが印象的なGURUのJAZZMATAZZの1作目。
サンプリングで使うのではなくジャズプレイヤー自身を呼んできて、
共演することは当時としては画期的なことだった。
この曲に参加するのはLonnie Riston Smith。
彼のピアノが胸を締め付けるほどグッとくる。
もうGURUはこの世にいないと思うと悲しいし、
世代ではないものの、90’s HIPHOPを聞くと
大阪でよく見たストロングスタイルな
ヒップホップDJたちのプレイを思い出す。
最近だとフリースタイルダンジョンでZEEBRAがレコメンドしていた。

16. Girls, Girls, Girls (instrumental) / JAY-Z
Hello Brokryn!! (ここは敢えてLil Wayneの声で脳内再生希望)
JAY-Zの名盤”Blueprint”から、
Just BlazeがProduceした泣きのメロウソング。
今回改めてインストで聞いて
初めてビートボックスが被せらていることを知った。
インストなんだけどソウルボーカルをサンプルしていること、
単純なワンループではなく展開が
きっちりあるのでインストでも楽しめる。
こういったヒップホップシングルは
売る対象の第一候補になる訳だけど、
インストやアカペラが入っててなかなか踏ん切りがつかない。
大阪のキングコングで購入。
茶屋町にあった梅田店が好きで大学帰りによく行っていた。

17. Alicia Keys / Unbreakable
JAY-Zと共にNYを歌い上げたクイーン。
名ライブ盤「Unplugged」からライブバージョンで。
有名人の名前を使ったワードプレイをまじえながら
高らかに愛と夢を歌い上げる曲。
PVでドゥーラグを被った彼女の姿が鬼カワイイ。
友人たちと三重へレコードディグツアーへ行ったときに購入。
いなたいレコード屋でソウルやディスコを買った後、
最後に訪れた四日市のレコードショップ。
新譜中心のお店でイケイケなミックスCDと共に、
AK-69やMOSADの大きなコーナーがありローカルを感じた。

2016年11月14日月曜日

留学

留学 (新潮文庫)

遠藤周作作品。
自分がこんなにハマるとは思いもしませんでしたが、
今年で4冊目となりました。
時代背景は今と異なるのだれど、
書かれているテーマはと普遍的であり、
かつ自意識をエグってくる内容がオモシロかったです。
本作は3つの話で構成されていて、
タイトルの通りどれもが留学する人の話。
遠藤周作は戦後初めてフランスに留学した人であり、
その経験を最も反映しているのが本作であり、
作品内での留学先もすべてフランスとなっています。
(タイトル作の「留学」は除く)
1つめは「ルーアンの夏」という話で、
キリスト教を勉強するために留学する学生が主人公。
彼はフランスへ行くこと自体は良しとしていたが、
キリスト教への思い入れが現地の人ほど深い訳ではない。
そこでフランス人から日本での布教を過剰に期待され、
しかも、泊めてくれる家の息子が亡くなっていて、
家族たちは息子の幻影を見るかのように彼に接する。
そんな息苦しい生活で思いつめていく様子を描いています。
今でこそ異文化交流は楽しくて為になるもの!
という理解が広まっていると思いますが、
当時のフランスにとって日本人は
敗戦国の得体の知れない黄色人種といった認識でした。
互いに理解しようと姿勢があって初めて、
交流が成立するのであり、
一方的に奇人扱いされる辛さが描かれており
胸が痛くなりました。
またキリスト教を絶対的正義と信じる恍惚に対する、
主人公の疑念が行間から滲み出ていました。
2話目はタイトル作である「留学」。
これは沈黙のプロローグと言ってもいいと思います。
荒木トマスという人を追ったもので、
彼もまた江戸時代に初めてヨーロッパを訪れる人であり、
訪れた先、ローマでの過度な期待を嫌がり、
日本へ帰国後キリスト教を棄教し幕府へと寝返り、
キリシタンの迫害に手を貸してしまう。
この2作品はキリスト教を日本へ輸入し、
根付かせることの難しさ、
日本人がキリスト教を信じることって、
どういう意味があるんですか?
ということを考えさせてくれました。
そして、一番ボリュームのある3話目の「爾も、また」
これが抜群にオモシロかったです!
遠藤周作の作品は読むたびに、
一番好きな話が更新されていくようで超楽しい。
(あくまで個人的な話ですが、、)
前2つの話は共にキリスト教が題材でしたが、
この話は文学にまつわるお話で、
主人公はフランス文学を研究する大学助手。
オモシロいと思ったのは大きく分けて2点。
1つ目は外国文化と日本人というテーマ。
主人公は作家のサドを研究しているんですが、
最初に訪れたフランス人のサド研究者に、
「日本人がなぜサドを研究するのか分からない」
と言われ、いきなり梯子を外される。
これってもう永遠のテーマだと思っていて、
僕は海外の映画や音楽をむさぼるように摂取してる訳ですが、
そこにどんな理由があるのか、、と自問せざるを得ない。
日本の音楽、映画を敬遠して、
海外至上主義な人ってたまに見かけるけど、
テメエのその浅い了見は何なんだ?
と問い詰めたくなるときがあって、
そのときの気持ちを思い出したり。
「だってオモシロいんだもの」という
居酒屋の便所に飾っている、
あいだみつをみたいな回答もできるけど、
そんなしょうもないことはしたくない。
今ここでズバッと回答できる訳ではないけれど、
いつか答えが見つかれば良いなと思います。
そして2つ目は対人関係を巡る自意識。
天の邪鬼で頑固な彼の姿は、
まるで自分を見るようで何回かエズくレベルでした…
コミュニティの中でドンドン孤立していき、
研究対象であるサドひいては留学先であるフランスと
自分自身の乖離をひたすた悩み続ける。
そこへ象徴として現れる城跡の揺るがなさの
対比が素晴らしかったです。
エッセイもたくさん書いているようなので、
次は目先を変えてエッセイでも読んでみようかと思います。

2016年11月13日日曜日

ジャック・リーチャー NEVER GO BACK



<あらすじ>

元アメリカ軍のエリート秘密捜査官ジャック・リーチャーは、
現在はたったひとりで街から街へと放浪の旅を続けている。
ある日、ケンカ騒ぎの末に保安官に連行されそうになったリーチャーは、
この騒動が何者かによって仕組まれたものだと気づく。
元同僚のターナー少佐に会うため軍を訪れると、
ターナーはスパイ容疑をかけられ逮捕されていた。
ターナーを救い出したリーチャーは、
軍内部に不審な動きがあることを知り、
真相を探り出そうとするが……。
映画.comより)

ブルーレイで見た前作のアウトローが無類にオモシロくて、
今回こそは劇場で …と意気込み十分で見てきました。
前作ほどではないにせよ、
プログラムピクチャーとして十分楽しめました。
コーラでも飲みながら映画でも見るか、
と思ったときには是非これを見て欲しいです。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

テキサスのダイナーの前に横たわる男たち。
警察が駆けつけると犯人はまだダイナーにいると。
そこにいるのは勿論ジャック・リーチャー。
いきなり最強っぷりを発揮するかと思いきや、
抑えめに宣告するだけだし、
そこからのタイトルの出方もめちゃくちゃ地味。
でも、この地味な展開こそが僕がアウトローを
好きになった理由の1つだったかもと思い出してました。
バカっぽいアクション映画の見た目をしながらも、
実は映画としての格調が高いというか。
つまり上品なんだと思います。
とくに今回は娘かもしれないという
非常に微妙なニュアンスの女の子が登場。
娘かもしれないというのは軍側に娘の母親から
「ジャックの奥さんなんだけど金払ってよね!」
という申し立てがあったため。
娘を持った最強なやーつ、
この設定を聞いて映画好きの紳士淑女はピンとくるはず。
そう、96時間です!なんでそこに寄せる必要が!
と思わずにはいられないわけですが、
前作で最強だった彼に弱みができることで、
新たな展開となっていました。
ジャックの完全無敵っぷりを見たい人にとっては、
少し物足りなく感じるかもしれません。
守る存在ができた彼の人間の部分にフォーカスしているので。
人間の根源は家族であると言わんばかりに、
バディを組むのが女性少佐というのもあって、
娘、女性少佐、ジャックの3人が
疑似家族となる設定がオモシロいんですよねー
娘をかくまう場所として選ぶのが少佐の母校。
母親が元ジャンキーで決して恵まれた家庭で
育ったわけではない彼女を無理くり、
ハイソな学校に押し込むというのが笑える。
しかも、そこでたくましさを発揮しちゃう娘が最高最高!
最高に笑ったのは飯買ってきたジャックへの対応。
飯買って帰って来たら、女の子2人がガールズトークに
花を咲かしているんですが、
娘が飯だけ受け取ってすぐにドア閉める。
からのベッドで孤独に飯を食うジャックのショット。
笑かし方を分かってるなぁという絶妙な間の編集でした。
あと、娘が人質になるに決まってるじゃん!
という鬼丁寧な前フリも最早笑えてくるレベル。
さらにここから単独で動くと言う
ジャックへの怒りを炸裂させる少佐とジャックの喧嘩も最高で、
完全に家族内で巻き起こる喧嘩にしか見えない!
けれど揉めてる内容は国家レベルの問題っていう、
このギャップが好きでした。
アクションは安定したトム・クルーズのクオリティ。
いきなり窓ガラス越しに殴るのとかフレッシュだったし、
調理場でのどつき合い、刑務所からの脱獄、
飛行機内での一撃など見所はたくさん用意されています。
どのシーンも茶目っ気を用意してくれていて、
黒いセダンだらけの駐車場は笑ったし、
バスでのジャックと少佐の2ショットの表情は、
卒業オマージュか?と思ったり(勘ぐりすぎ?)
今回は登場人物たちが走るシーンがとても多くて、
それによって映画に躍動感が生まれていると思います。
前半の刑務所からエスケープ後、
公園を爆走するのとかギャグかな?と思わせる一方で、
ニューオーリンズの空港のシーンでの、
室内の敵側と屋外のジャック側のダッシュシーンは壮観。
ただ、前作の採石場での銃撃戦レベルのアクションは
見られなかったのが少し残念なところ。
いい意味でも悪い意味でもコンパクトにまとまりすぎたかなと。
ラストのハロウィンバトルでは
きっちりと前述したフリが回収されるんですが、
そこの見せ方が下手な再現ドラマみたいな感じで、
ホントにもったいないなーと思いました。
(観客みんながアレが炸裂する!と期待している訳なので)
エンディングの血の繋がりではない、
本当の絆なのであるというのが少し無理くりかなと思ったり、、
しかし!ラストのヒッチハイクする彼の姿でサムアップ!
またいつの日かジャックと会えることを期待しています。

2016年11月12日土曜日

ミュージアム



<あらすじ>
雨の日だけに起こる猟奇殺人事件を追う刑事の沢村久志。
犯行現場に残された謎のメモや、見つけられることを
前提としたかのような死体から、
カエルのマスクを被った犯人像が浮かび上がる。
通称・カエル男と呼ばれるようになった犯人を
追い詰めていく沢村だったが、
カエル男の仕組んだ残酷な罠にはまり、
絶望的な状況に追い込まれてしまう。
映画.comより)

セブンを思わせる予告編を見て気になったので見てきました。

過去のシリアルキラー映画を彷彿とさせる要素が
たくさん詰め込まれていて楽しかったです。
ただ、説明過多っぷりが目について
残念な気持ちにもなりました …
ネタバレするとアレな映画なので、
これから見る人はそっと閉じてください。。。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

過去の回想を思わせる夢から始まり、
家族がいたと思わせる部屋が荒れ放題の状態の中、
その夢から目覚めた男が本作の主人公である沢村。
彼は刑事で呼び出しに応じて事件現場へ向かうところで
監視カメラのようなショットともにタイトルが出る。
こんな意味深な前振りがありつつ、
しかも最初の事件からして女性が犬に食い殺されたいう、
なかなかのハードっぷりで期待が高まっていく。
これがシリアルキラーの一連の犯行の始まりとなり、
事件自体のギミックが手がこんでいるのオモシロい点なんですが、
それに加えて死体の造形の作り込みがかなり攻めてる!
素晴らしい美術の仕事だと思いますし、
その死体を逃げずにしっかりと画面に収めているのが最高。
なぜなら本作は「殺人現場」というものを1つのアートと捉えて、
犯行を繰り返すタイプのシリアルキラーだから。
メジャーな邦画でここを手抜かずにやり切ることって、
おそらく大変なんだろうけど最後まで徹底していました。
(「大変」というのは観客側の勝手な妄想で余計なお世話かもですが)
くだらなくて最高だなぁと思ったのは2つめの犯行。
お母さんの痛みを知りましょうの刑。
アニメ好き、実家暮らしの引きこもり、デブ。
という極度にデフォルメされたオタク像に辟易するかもしれませんが、
カエルの犯人が侵入してくるところが好きでした。
ドアがガチャガチャなって必死に「いますよ~」と大声で叫ぶのが、
とても気持ちがわかるというか。。
子どもの頃、幽霊怖くて似たようなことをやってたのを思い出しました。
ただし、前述したとおり僕が本作でとても残念な気持ちになった、
説明過多な感じがこの辺りから気になり始めてしまった …
「まさかドア裏なんて…」っていうことは、
観客の多くが思っているから言わなくていいですよと。
被害者のあいだに共通点が見つかり、
それがある事件の裁判官もしくは裁判員を務めたというもの。
そこに沢村の奥さんも参加していたことで、
彼が取り乱し始めて事件が良からぬ方向へと進んでいきます。
この取り乱し方がまた叫びまくりの暴れまくりの
紋切型な邦画でよく見るタイプのやつでテンションが下がる。
直情型の人間であることが前フリであれば、
あの感じも飲み込みやすいんですけど、
いきなり「ウォー!なんだよ!」できたのでビックリしました。
あと沢村の心情を説明するナレーションが
合間合間に挟まれるのも本当にノイズ。
本作の小栗旬は相当気合入っているのがスクリーンから伝わってくるし、
彼の所作を見て感情の機微は伝わってくるはず。
観客をバカと思っているか、俳優のことを信じてないか、
どちらかとしか思えなかったです。
小栗旬の演技も見所ですが何よりも最高だったのは
妻夫木聡が演じる霧島というシリアルキラーでした。
今まで見た中で一番MADな妻夫木くん。
しかも、そのマッドネスが相当ぶっ飛んでいて、
見た目の特殊メイクの作り込み、illnessを感じる話し方、
どれを取っても素晴らしかったです。
最初に予告で名前を見たときに「えー?」と思う人もいるかもですが、
その想像を遥かに超えてくるので安心してください。
個人的に感じた一番の見所はカーチェイスのシーンですかね。
細い路地で競り合うのがカッコよく撮られていたし、
衝撃のカークラッシュは迫力ありまくり。
トラックによるカーサンドイッチ攻撃もオモシロかった!
前半はセブン的な展開だとすれば、
後半はソウを思わせる密室スリラー。
ただのモノマネやん!と言ってしまえばそれまでなんだけど、
その心意気を買いたいし、マネキンの気持ち悪さ、
さらにスウィーニー・トッドを思わせる、
人肉ハンバーガー展開もオモシロかったです。
後輩にドヤ顔で語っていたことが
自分の身に振りかかってくるんだからたまんない。
終盤のカレー味のウンコか、ウンコ味のカレーか?という、
究極の選択のところは俳優陣の迫力が炸裂してて、
全員のうめき声が爆音でコダマするのは圧巻。
結果的に家族全員が助かったー、良かったねとなって、
「あーずいぶん丸まったなー」とか思っていたら、
想像を超える悪夢の展開が …
個人的には沢村が病院で訪れたときに
光線過敏症の特性について説明されていた方が、
さらにゾッとするような気持ちになったかも。
大友監督は日本アクション映画を担う人だと思っているので、
次の作品も楽しみにしたいです。
(先日公開された脳の映画は見ていないけど。。。)

ISSUGI "DAY AND NITE" RELEASE PARTY


ISSUGIの最新作「DAY AND NITE」の
リリースパーティーに行ってきました。
今回のアルバムは現在NY在住のGradiceniceとの共作で、
ソウルフルで力強いビートの上に、
ISSUGIのラップが映える傑作で、
僕はこれまでのアルバムで一番好きです。
また、本作のリリースにあたって、
web上にアップされているインタビューも必読の内容で、
彼のB-BOYイズムがビシバシ伝わってきて、
最近ブームの中にある「日本語ラップ」とは
別次元でヒップホップを体現する人なんだと感じました。
一番てっとり早く分かるのは、
MCバトルの大会であるKING OF KINGS東日本予選準決勝での
T-Pablowとのバトルでしょう。
韻踏み合戦のスポーツライクな形のバトルも
それはそれでオモシロいんだけど、
スタイルウォーズならぬスタンスウォーズとしての
バトルが一番心沸きたつし、
このバトルにおけるISSUGIのブレなさは
むちゃくちゃカッコいいなと思いました。
(ファンの人からすれば何を今更な話かもですが、、)
こんな感じで心を高ぶらせて楽しみにしてたライブですが、
アルバム全曲をやり切りながら、
非常にタイトなステージで最高最高でした。
フリースタイルもあったし、
ゲストにBES、仙人掌まで駆けつけて華やか。
DOWNNORHTCAMPの面々は
いつ見てもカッコ良いなーと思う訳ですが、
結局はラップをいかに「スピット」できるのか、
ということに尽きるのかなと。
要するに自分の言葉を自分のリズムで放つということ。
「綺麗なものじゃ満たせない」
そんな人間が求める音楽が
ヒップホップだと感じた代官山の夜でした。
16FLIP×TRASMUNDOのビートテープも調子良いので、
聞きながら街をヘッドバンクして歩きたい。

2016年11月6日日曜日

エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に



リチャード・リンクレイター監督が
1980年代の大学野球部を舞台に描いた青春群像劇。
大学野球部の仲間たちが、
新学期が始まるまでの3日間に織り成す人間模様を
懐かしの80'sサウンドに乗せて描き出す。
映画.comより)

リチャード・リンクレイター監督最新作。
前作の6才のボクが、大人になるまで
人生ベスト10に入る大好きな作品だったので、
今回も楽しみにしていました。
極めて過去作のバッド・チューニング的な世界でありながらも、
アップデートされている印象を持ちました。
今を生きる若者に見て欲しい作品。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

The KNACKの「My Sharona」が
車のカセットデッキから高らかに鳴り響き、
主人公である新入生のジェイクがレコードケースを抱え、
意気揚々と野球部の寮へやってくるところから物語は始まる。
車に乗っている彼の視点が女の子のお尻ばっかり
見ているというショットからして何をか言わんや、
イイ感じの下世話感が伝わって来てアガる。
6才〜比較的センシティブな若者像だったのに対して、
本作で描かれるのは体育会系のいわゆるジョックス。
寮に到着して本作の登場人物を初対面ということを活かして、
手際良くキャラ説明するのが上手いなぁと思いました。
ジェイクが到着したのは入学3日前で、
ここから野球部の面々と共に学校が始まるまで
ハメを外し倒すのを見守るという作りになっています。
その中心にあるのが80'sの音楽です。
先日紹介した西寺豪太さんの著書および、
タマフルへのゲスト出演において、
80'sとは何ぞやという話が深く解釈されていましたが、
本作はリンクレイターなりの80's解釈といってもいいと思います。
登場人物は野球部の部員で特別音楽にこだわりがあるのは、
一部の人間に限られていて享楽的に音楽を楽しむ人の方が多いんですね。
この設定があるので特定の音楽ジャンルに限られることなく、
ディスコ、ロック、カントリー、パンク、
そしてヒップホップとジャンルを横断した幅広い選曲が
可能になっていてオモシロかったです。
初日に先輩の車でフォックスという酒場まで、
車で移動する際に皆で大合唱する、
THE SUGARHILL GANGの"Rapper's Delight"がとにかく最高最高!
ディスコやライブハウス、カントリークラブ等で
とにかく音楽を楽しんでいる姿勢が眩しくて、
こんな風に無邪気に音楽を楽しむ心を忘れたくないなーと思いました。
一方で完全に体育会系のノリがずっと続くので、
端から見て笑うことはできるものの、
「こんなにイケてなかったなぁ大学生活」と思わずにはいられない。
そんな気持ちにさせてくれるのは俳優陣、
登場人物のキャラクターの豊かさに起因するのではと思います。
いわゆるハリウッド俳優は1人もいないんだけど、
キャラ立ちがハンパなくて皆濃いんですよね。
体育会ノリで常に勝ち負けを意識している様はオモシロいし、
強烈な同族意識も懐かしく感じました。
無茶苦茶やっている中でも、急に核心を付くようなセリフを
忍ばせてくるのでリンクレイターは好きなんですよね。
単純なジョックスのパーティー物語で終わらない。
全キャラクターがとても愛しいんですが、
僕が好きだったのはフィン。
彼は茶目っ気とメンターとしての矜持を持ち合わせた
理想の先輩像だなぁと思うんですよね。
(演劇部のダンスパーティー行く前のくだり爆笑した)
心が痛くなるのはマリファナ大好きなウィロビーの話。
いつまでも大人になりきれない僕みたいな人間には、
仲間たちが容赦なく笑いとばす声が
心に重くのしかかってしまった…
ウィロビーはTVドラマのトワイライト・ゾーンを
コレクトしている設定があるんですが、
ここに込められた意味がIMDBに書かれていて、
それまたグッとくる。。
名前がすでに暗示しているという話→リンク
野球部の話なのに野球のシーンが
かなり少ないのもかなり思い切った作りでしょう。
監督のインタビューでスポ根物語を描くつもりはなかった、
と言っていましたし、僕がなるほどなーと思ったのは、
「野球部でも世間と同じ比率でセンシティブな人はいる」
というジェイクが劇中で放つセリフでした。
リンクレイター節が炸裂するのは、
ジェイクが運命の恋人と関係を深めていく後半で、
これはビフォアシリーズから脈絡と続く十八番。
特に今回は甘酸濃度がかなり高め。
電話のシーンが特に好きだったなぁ。
いとうせいこうの我々の恋愛でも描かれていた、
むかしの恋愛への憧憬とでも言うべきか。
ラストシーンが彼らにとって
始まりのシーンになる訳ですが、
先生が黒板に書く言葉、そして居眠りする。
これぞCollege Lifeの始まり!と言いたくなる、
最高の終わり方!超眩しかった。
からのエンディングロールでの"Rapper's Delight"に
出演メンバーがライミングしていくところで完全にサムアップ!
6才〜以上に好き嫌い別れそうですが、
80's音楽と無限大の可能性を秘めた青春は
最高の組み合わせだなと思いました。
本作の続きはビフォアサンライズになる、
リンクレイターユニバース総決算の作品。

SAPEURS The Gentlmen Of Bacongo

SAPEURS  - Gentlemen of Bacongo

先日、神保町の古本市に行ったときに、
出版社のブースで40%オフになっていたので買いました。
そもそもSAPUERSとは何ぞや?という話ですが、
帯に書いてある説明をそのまま引用します。

コンゴ共和国の首都郊外バワンゴ地区に、
平日は普通に働き、貧しい収入のほとんどを洋服に費やし、
週末になるとハイブランドのスーツを着こなし町を闊歩し、
人びとの羨望と尊敬を集めセレブへと変身する、
世界でも例を見ないSAPUERSと呼ばれる集団が要る。
正式名称は「おしゃれでエレガントな紳士協会」、
通称「サップ(SAPE)」。19世紀のフランス統治の時代から、
1980年代にフランスから戻ったコンゴ移民がもたらした
「フランス的エレガンスへの憧れ」が原動力となっている。


序文をポール・スミスが寄せていて、
彼が語るとおり服を着ることへの意識が改められる
素晴らしい写真集でした。
周りの背景はスラムのような荒れた街の中に、
突如現れるハイブランドのスーツで身を固めた男達。
このギャップに驚くし、彼らが着るスーツは
日本人がよく着ている黒や灰色ではなく、
めちゃめちゃビビッドな色使いなんですね。
それがもう、、超かっこいい!の一言に尽きる。
言葉で説明するのが野暮なので見てくれ!



写真中心ながらも被写体たちのコメントや、
サプールがどういったものか説明するテキストも掲載されています。
なんとなく服装でかっこつけることに、
恥ずかしい気持ちを抱いていたんですが、
本作はそんなくだらない自意識をすべて吹き飛ばしてくれる。
アイテムの組み合わせによる表現なのである、
という言葉はサンプリング精神そのものだよなと思ったり。
「ハイブランドの服を買って着こなす」という、
一番ダイレクトな資本主義を宗教のように仕立てている
彼らの姿が違和感を抱く人もいるかもしれませんが、
本作を読めば彼らの崇高さに心打たれると思います。
最後にSAPUERSの十戒が書かれていたんですが、
それを見て思い出したのは今話題沸騰中の
KANDYTOWNが掲げている「KoolBoy ― 10のルール ―」


ISSUGIの最新アルバムやインタビューで語られていた
ヒップホップへのスタンス、美学にも近しいものを感じました。
要するに自分のスタンスを保持している男たちはかっこいい!
ということ。ブレブレの自分への戒めとして持っておきたい本。

2016年11月4日金曜日

アルカトラズからの脱出



先日友人と飲んでいたときに、
サンフランシスコ舞台の映画って何あるっけ?
という話になり猿の惑星(リブートね)やヒッチコック監督作品が
思いついたんですが、友人から本作の名が出ました。
見た気でいたけど全然思い出せないから見てみました。
結果、見ていませんでした!ゴメン!
監督ドン・シーゲル×俳優クリント・イーストウッドという
黄金タッグで脱獄ものなので最高最高でした!
この組み合わせはダーティーハーリー1作目と同じもの。
海に浮かぶ難攻不落の監獄、
アルカトラズからの脱出サスペンスとして、
それはそれは無類にオモシロい訳ですが、
イーストウッドの色気が映画に真空パックされていました。
とにかく超カッコいい!!囚人なのに。
囚人たちが運動の時間に外へ出るとき、
ピーコートを着ているんですが、着こなしの渋さといったら。
イングリッシュという図書係とのwitに富んだ会話も好きでした。
とくに「Boy」の言い方が最高最高!
ドン・シーゲル×イーストウッドは
他にも作品があるので見てみたいと思います。

2016年11月3日木曜日

コンカッション



<あらすじ>
ナイジェリアからやってきた医師ベネット・オマルは、
NFLを引退し、心筋梗塞で亡くなった
マイク・ウェブスターの変死解剖に携わる。
オマルはプレイ中の頭部への激しいタックルが
原因である脳の病気「CTE(慢性外傷性脳症)」を発見し、
論文を発表するが、NFLサイドはオマルの見解を全面否定。
権力を使い、オマルと彼の周囲に圧力をかけていく。
映画.comより)

映画館に行きたくなるような映画がないなぁ
と再び食傷的な気持ちを抱える中、
せっかくの祝日だしということで飛び込みました。
ウィル・スミス主演の実録医学サスペンス。
ウィル・スミスといえばスーサイド・スクアッドで
なかなかに残念な感じでしたが、
本作は人間のエゴイズムと科学の戦いが
めちゃくちゃオモシロかったです。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

冒頭、本作のキーマンとなるマイク・ウェブスターが
NFL殿堂入りした際のコメントのシーンから始まる。
栄光を掴んだ彼の姿をはじめに見せることで、
この後の目に余る彼の堕落していった姿が
余計に辛く感じる作りになっています。
主人公のオマルは監察医で検視が彼の仕事です。
非常に優れた頭脳を持っていることは、
法廷での経歴自慢から分かる。
また、頭がいいだけではなくクリスチャンであるため、
死体への敬意も忘れない人格者でもあります。
彼の手術が独特でメスは毎回使い捨てで、
解剖時はイヤホンをして音楽を聞いている。
この音楽のチョイスが渋くてTeddy Pendergrass!
実話ベースなので本当に彼が聞いていたのかもしれませんが、
ちょっとした音楽チョイスのセンスが
映画をグッと品の良いものにすると思います。
ウェブスターの解剖で脳に異常があって然るべきなのに、
CTや剖検では異常が見当たらない彼は、
病理検査を行うことに決めます。
通常の検視で病理検査まで行うことは稀、
なぜならお金も手間もかかるから。
しかし、彼は起こっている事象を客観的事実によって
明らかにするという科学に対する従順な気持ちから、
病理検査を行ったところ、ウェブスターの死因が
アメフトで行った激しいコンタクトによる、
脳へのダメージが原因だと突き止めます。
(Concussionは脳しんとうの意味
突き止めた瞬間までを描いたシーンの構成が見事!
テンポの良い展開とアメフトのコンタクト時の
脳へのダメージを可視化したシーンがかっこ良かったです。
あと、マイク・ウェブスターの堕落っぷりが、
前述した通り、かなりキツかった…
ホワイト・トラッシュそのもので
アンモニア吸引シーンが強烈だし、
その後、病院で助けを求める姿があるからこそ、
後半の展開に感情移入しやすくなっていました。
日本では野球やサッカーが人気で、
アメフトはそこまで知られていませんが、
アメリカでは野球、バスケと並ぶ人気スポーツ。
そのアメフトでのコンタクトによって
脳にダメージが蓄積されて病気になるかも…
と言われてしまうとアメフト側は超困りますよね。
アメフトの魅力の1つである激しいコンタクトを
全否定されるようなものなんですから。
中盤からNFLという巨大組織vs一介の監察医という
スリリングな展開になっていきます。
オマルは何にも間違ったことは言っていなくて、
人の命を救いたいという強い意志があるだけ。
一方で彼が提示した事実がNFLというスポーツの根幹、
ひいてはアメリカ全体を揺るがす。
そのぶつかり合いから、民主主義というシステムについて、
考えさせる作りになっているのがオモシロかったです。
要するに多少の犠牲は伴うかもしれないが、
よりたくさんの人が幸せになれるのだからしょうがない。
たとえそれが命だとしても。
どっちが悪いとは一概に言い切れないので、
観客側も答えを探しながら見るという
僕が好きなタイプの映画でした。
ただ僕は科学にbetしたくなる気持ちが強いし、
なぁなぁにしようとするところを
ヒドい人種差別を受けながらも科学を信じ抜く
オマルがかっこ良く見えました。
監督はピーター・ランデスマンという人で、
本作の前にケネディ暗殺を題材にした作品を撮っているので、
そっちも見てみようかなーと思います。

2016年11月1日火曜日

ジャネット・ジャクソンと80'sディーバたち

ジャネット・ジャクソンと80’sディーバたち (星海社新書)

ノーナ・リーヴスの西寺豪太氏の新書。
マイケル・ジャクソン、プリンスといった、
アメリカのブラックミュージックを担ったスターについて、
これまで書いてきた彼が総決算として、
ジャネット・ジャクソンを中心とした、
80'sディーバの話を書いたもの。
むちゃくちゃオモシロかったです!
当然、マイケル、プリンスも好きなんですが、
2人よりもジャネットの方が思い出深いといいますか。
DJ始めたての頃、Got till it's gone、
That's the way Love Goesなど
彼女の曲が大好きでよくかけていました。
ただ80年代の彼女について、
僕はほとんど知らなくて、その部分が綺麗に穴埋めされて、
彼女の全体像が自分の中でよりはっきりとしました。
豪太さんの文章が 普通の音楽評論家と異なるのは、
単純に史実を並べたり、音楽性を語るだけではなく、
点と点を線で結びつけていくところ。
本作は過去の作品よりもその点が群を抜いていると思います。
あと僕は「Control」がデビューアルバムだと思っていましたが、
その前に2作品もあったことを知りませんでした …
(とくに「Young Love」というデビューアルバムが最高最高)
さらにウ オー!と思ったのはDaft Pankが
2013年にリリースしたRandom Access Memoriesへの言及。
好きなアルバムで何回も聞いていましたが、
再び楽しめるようになりました。
当時の音楽と今の音楽との接点も
西寺さんの著書で素晴らしく勉強になる。
ジャネットを語るにあたって外せないのは
音楽プロデューサーのジャム&ルイス。
彼らとジャネットが発明した音楽が今のトレンドに繋がり、
いかに世界を変えたのか痛感しました。
ディーバとなっていますが、本作に登場するのは
マドンナとホイットニー・ヒューストン。
彼女たちがそれぞれどういった運命をたどるか、
僕たちはすでに知っている訳ですが、
そこに至る布石となる80年代において
鮮やかにクロスする様が描かれていて勉強になりました。
ジャネットがもたらした功績が何だったのか、
当たり前になり過ぎた彼女のスタイル、存在を
「出汁」と例えているんですが、
本作を読み終わった後「まさしく出汁や!」と。
最新作の「Unbreakable」を聴いたときに感じた、
強烈なマイケルの匂いについても書かれていて溜飲を下げました。
出産も控えたジャネットですが、
あとどれだけ彼女の曲が聞けるか楽しみです。