2023年2月27日月曜日

父ではありませんが 第三者として考える

父ではありませんが 第三者として考える/武田砂鉄


 タイトルと著者を見ただけで即買いした。去年犬のかたちをしているものを読んだときに感じた居心地の悪さやモヤモヤが本著でほとんどすべて言語化されており打ち震えた。何の前提もなく子どもの話をするときの圧倒的無防備さとその危うさについては生まれる前から感じていたが、実際に父になったことで余計にその危うさが頭をもたげる場面に遭遇する。そこには性格差、性差別の問題が横たわっているのだけど、著者が繰り返し主張する「普通」や社会全体の慣習がそれらを霧散させることを改めて認識した。しかも父ではない第三者の男性が書いているという点でかなり革命的な一冊だった。

 本著では子どもがいることを前提とする考え方、社会の仕組み、家族制度などについてひたすら考察している。これまでの著者の作品同様、目の前の現実を愚直なまでに真っ直ぐに見つめ理路整然とおかしいと思う点を述べており、いつものスタイルは健在している。しかし今回は子どもがいないという社会における最大レベルの「普通」が跋扈するテーマかつ著者自身に子どもがいない第三者の立場という二つのチャレンジングな要素が含まれている。いずれも乗り越えるには相当なエネルギーが要すると思うのだけど、著者の持ち前のロジカルさですぱーっと視界を切り開いていく文章の数々に何回も唸りまくった。枚挙にいとまがないパンチラインの数々に悶絶死したので一部引用。

「おーい、どうしてまだそんなところにいるの?」と声をかけられる。早くこっちに来なよ、と。でも、そもそも、その山は、皆が登らなければならない山なのだろうか。そんなはずはない。自分が登るべき山を、誰かから指定されたくはない。

私こそ世間の総意、みたいな顔をしている。善意の総意、これを浴びずに避けるという選択肢が用意されない。親子や夫婦で作ったオリジナルブレンドよりも、大量生産の総意を優先するように言われてしまう。

 子どもの話をするときにその喜び、苦労などを含めてどうしたって当事者の声が大きくなるし、その声の大きさに当事者以外の声は消されてしまう。実際父になった今、消えるのも分かるくらいに子育ては大変だと当事者としては思う。しかし本著で書かれているように当事者ではない人も含めて社会は構成されており、その第三者の意見を軽視することは社会設計において適切ではないと読後には思い直した。「子どもがいる/いない」について外からジャッジされたり監視する空気を変える必要があるし。子どもの不在だけが特別視され常に好奇の目にさらされるのは理不尽だと思う。コロナ禍も明けつつある中、久しぶりに会う人の中で子どもの有無を確認する人が想像以上に多いのもなんだかなと思っていた。家族にはそれぞれの事情があるのに「子どもを持って当然」という印籠を振り翳して土足で踏み込んでいる感じがするから。とここで1人でもやもやしても社会のムードは変わっていかないので本著がたくさんの人に読まれてほしい。

2023年2月20日月曜日

2023年2月 第3週

Proof of Magnetic Field by MONJU

 MONJUのアルバムがLPでリリース。1年前に予約しててすっかり忘れてた。しかも今回はピクチャー版!改めてLPで聞くと16FLIPのビートのオリジナリティと3本マイクのコンビネーションにぶっ飛ばされるアルバムだった。そろそろ仙人掌の新しいアルバムを聞きたい。

Odorata by Le Makeup

 Le Makeupによる3rdアルバム。『微熱』で初めて知ってそのときの衝撃もそのままに本作も最高だった。日本語にこだわったポエティックかつ等身大の表現は唯一無二。日本語にこだわっている点は舐達麻と同じ方向性というか日本のらしさを追求していくことでそれが世界に訴求するようなアートになる感じ。ブレイクビーツ、ドラムン、2ステップ、ロックなんでもござれの中で音の質感は統一されメロウさは常にそこにある。そこで彼の憂いのある歌声が加わって美しい音楽になる。好きな曲を選ぶのは難しいのだけど、クラシックなブレイクの上で大阪の思い出を歌う”Dress”が好きな曲。

Enter The Wu-tang by Wu-Tang Clan

 Wu-tang clanのドラマをDisney+で見てブチ上がった流れでアルバムを久しぶりに聞いた。ヒップホップの初期衝動を思い出したしドラマを見たことで当時より解像度の上がった状態で聞くことで改めてこのアルバムのかっこよさや渋さにヤラれた…
 ドラマでも強調されていたがRaekwon、Ghostface Killahのラップのうまさは本当に異常。今週からFinal Seasonが始まるので、こんなポストも。
https://www.okayplayer.com/originals/how-true-is-wu-tang-an-american-saga.html
 2人が仲悪かったのはフィクションなんすね〜ストリーミング時代が素晴らしいのはここから各メンバーのソロとか無限にディグできるところ。クラシックだけど聞けてないのいっぱいあるので毎日の楽しみになった。

Panorama Apartments Series by HI-TEK

 HI-TEKのロストテープがリリース。タイトルにあるようにMPC60によって作られたビートの数々は全く古びない音で、サンプリングベースかつヘビーなドラムサウンドは大好物の音。 コンピューターでこういった音の質感は再現できると言われる最近だけども、やはりここにはサンプリングマジックが宿っているのでは?と思わされるビートの数々だった。毎月リリースで5月まで続くっぽいので続編も楽しみ。

Rihanna’s FULL Apple Music Super Bowl LVII Halftime Show

 スーパーボウルのハーフタイムショウでRihhanaが久しぶりに公の場で歌うとなれば見るしかない。この人が持つクラシックの数々が惜しげもなく詰め込まれた10分強でブチ上がった。Kanye West関連曲をしこたま入れてくるあたりに批評性があってオモシロかったし、実際Kanye Worksの素晴らしさは間違いない。キャンセルされてしまったのは仕方ないが何とか持ち直して欲しいという思いも込められたパフォーマンスではないのだろうか。

Exclusive! J.PERIOD & Black Thought Present The Live Mixtape: Dilla Day Edition [Recorded Live]

 Dilla Dayを祝う系のコンテンツは毎年2月に色々リリースされる。ミックステープ、ブレンド職人のJ.PERIODとBLACK THOUGHTによるミックステープ。 もちろんThe Roots”Dynamite!”とかもやりつつDillaのインストかけてその上にラップしまくるのが楽しい。ライブ録音らしくバイブスがとにかく高くてBLACK THOUGHTのラップおばけっぷりが発揮されていた。結構しっとりしたTributeが多い中でエネルギッシュな1枚。

Live at Tramps by De La Soul

 Plug 2ことTrugoyが逝去した。De La SoulはWUと同じくUSのヒップホップを聞き始めてすぐに買ったCDの1つであり、DJしていたときも”Me Myself & I”や ”Ring Ring Ring”を何回もかけていた。こうやって自分が好きだったアーティストが亡くなっていくニュースを聞くにつれて自分も歳をとっているのだなと思う。月並みだけど。
 でラッパーのKN-SUN氏がInstagramにポストしていたのを見て即ゲットして聞いた。ストリーミングはなし。これがハンパじゃなくかっこよかった…De La Soulはアルバム聴いてる限りだと割とクールなイメージを持っていたのだけど、ライブではバイブス満タンで盛り上げる為の仕掛けがたくさん用意されていてライブCDでもライブが上手いことが伝わってきた。またエデュテイメントなバイブスもありTrugoyがこのライブの最後のMCは今こそ聞かれて欲しい言葉だった。以下引用。これが96年時点の話なんだからすげえっす。

"Thank y'all for not forgetting what hip-hop is.Y'all make that shit for real tonight. Everybody talking about keep it real. This is real-white, black, purple, blue, green, yellow, up in here enjoying themselves, having a good time. Cut that ignorant sh-t out. We don't want to duck from guns. We don't want to call our women 'hos. We don't want to call our brothers 'niggas. Hip-hop for real. Ban the bullsh-t and get down with this ban. Native Tongues forever. We out of here."

Quest For Fire by Skrillex

 Fourtetが参加しているのでとりあえず聞いてみると、恐ろしいほどかっこいいダンスミュージックの洪水で悶絶死した。なんとなく「どうせEDMっしょ〜」くらいの偏見混じりで聞いた自分が恥ずかしくなった。友人と話していたのは、同世代のSkyrillexも若い頃聞いていただろうダンスミュージックの感じもありつつ、それが現代に向けてアップデートされているということ。どの曲も大体サンプル使いなのもアガるし特筆すべきは音の鳴りの異常なまでのかっこよさ。Kelelaのアルバムも相当鳴りの気持ちよさがあったが、これはまた別次元の鳴りでクラブで聞いたら最高なんだろうなと思う。Skrillex,Fred Again…, Fourtetの3人が満員のマディソンスクエアガーデンをブチ上げているのを見るとDJの偉大さを痛感した。どの曲を選ぶか難しいが最近はハウスな気分なので”Butterflies”

NEO TYO by MadeinTYO

 MadeinTYOのニューアルバム。こちらは通常運転でメロウなトラックの上でシンギンスタイルでラップしている。最近はもうトラップのヘビーでドープなやつはほとんど聞けなくなっていて、こういうメロウなやつをだらっと聞くのが好みです。で結局好きなやつは”Thinking to Myself”というサンプリング ベースのオーセンティックなビートだったりする。ビデオは東京で撮影されていた。しかし”Thinking to Myself”は去年リリースなので、24hrsとのナイスコンビネーションで中毒性のあるフックの”Must Be Nice”が好きな曲。

 韓国では再びレーベル再編の動きが始まっている。Swingsが既存のレーベル各種を集めてAP ALCHEMYを始動。第一弾シングルとして若手2人とSwingsによるシングルがリリースされて、それがめちゃくちゃかっこいい…ここ数年P-nation入ったり自社ビル買ったりビジネスマンっぽい動きが多くてもう余生なのかな?と思っていたら、また混ぜ返しにくるところがアツい。Jay Parkはユニティの人で彼のHIPHOPへの愛は大好きなんだが、こういうSwingsがそれら全部を薙ぎ倒すようなビジネススタイルで話題をかっさらっていく歪んだ愛もまた最高だ。ここからの動きは以下Tweetのツリーにまとまっている。

THE FROST ON YOUR EDGE by 30

 もう一つの驚きといえば、Deepflowの30への加入である。VMCのオーナーとしての役目を先日終えたばかりの中、まさか同じような後輩クルーに途中可能するなんて誰も想像していなかったと思う。30はKhundi Panda,DSEL, Som Simnba などのスキル鬼系ラッパーの集団で音楽の方向性としては納得できる。で今回アルバムがリリースされたのだけど、現時点では2023年韓国ヒップホップの個人的AOTY。まずビートが最高にDooooope!1曲目”Cakewalk”がJuke(しかも最初のバースはDeepflow)でぶっとばされたしタムでビートを刻む”The Bold Crew”とか。単純にブーンバップ志向というよりも次のサウンドを作ろうとする気概を感じた。1曲除いてすべてViannというプロデューサーによるものらしく今後要注目。そのビートに乗るラップはもちろん全員タイトでかっこいい。ラストは韓国のビールと同名の”Dry Finish”で大団円。これが一番好きな曲だった。Deepflowはアルバム内でJUSTHIS,TAKEONE,DON MALIKをディスしている模様なので、またビーフが始まるかもしれない。。。

XARCHIVE by Xwally

 changmoのストーリーで知った韓国のラッパー。現行のTravis的なUSスタイルを踏襲していてかっこよかった。NSW Yoonはドリル曲だと本当にハズしがなくてかっこいいし、Xwallyはシンギンスタイルでかっこいい。”3AMSEOUL”はジャージードリルでそのネタがJorja Smith”On My Mind”で好きだった。

THE CORE TAPE, Vol.1 by Dok2

 Mixtapeという形でラフなリリースが定期的に続いているDok2。今回も録ってだしな感じだが、ラップかっけぇということと最近の中ではビートのバリエーションが豊富で好きな方だった。ハングルも最近の中では使っている方だと思うし、英語で意味を取れるよりもハングルでスピットしているDOK2の方がカッコよいと思っているのでシーンにカムバックする日を待っている。好きな曲は2010年代のエモバイブスをそこはかとなく感じた”Pursuit Of Happiness”

2023年2月18日土曜日

ラーメンカレー

ラーメンカレー/滝口悠生

 新刊が出れば必ず読む滝口さんの最新作。海外旅行記系小説でオモシロかった。2023年の今はだいぶ戻りつつあるが、海外旅行に気軽に行けて世界の距離が近かった時代の話として貴重なように思える。異文化交流の中で生じる喜びや悲しみが惜しげもなく表現されていて、自分の過去の経験を思い出したりもした。加えて最近はオンライン英会話で海外の方と月内に何回か話す中で自分の気持ちや意見が伝わらないときの切なさや悲しみ、一方できちんと通じて盛り上がったときの喜びを経験する日々を過ごしている。こういった感情の機微が逐一言語化されている感覚があった。

 大きく分けて前後半あり、前半では夫婦での海外旅行の話。夫婦それぞれの視点があり旅行中にピリッとする感じが絶妙に表現されていて身に覚えがあった。あとはまさか滝口さんの小説でウィードの話が出てくるとは思わず、そこでテンション上がったし赤ちゃんの描写は植本さんとの共著『ひとりになること 花をおくるよ』に通じる部分があった。海外旅行での疲労感とかどうしようもなさを小説を通じて実感、その苦労も含めて旅に出たいなと思わされた。

 そして後半は窓目君という人物の一大恋愛物語となっていて、いったい何を読んでいるか分からない良い意味で謎のメロドラマだった。この人物は『長い一日』で登場した人物であり、そこから地続きの物語のように読める。今回は特にこの窓目なる人物のすべてにおいてToo much、けど憎めない人物像が全面に展開されており読んでいて楽しかった。元は手記があってそれを滝口さんが語り直したらしく、手記ではないからこその蛇行があり、それがまさに滝口さんの小説らしさが存分に出ていてオモシロかった。また調理過程がここまで細かく書かれている小説を読んだことがなく、読んでいるとカレーをスパイスから作りたくなった。最近ビリヤニを作ったりしているのだがミックスされたスパイスを買ってそれを混ぜてるだけなので水野氏の書籍など読んでベースから勉強したい。文學界も買って読んだのだけど合わせて読むと本著の理解が深まってオモシロかったので両方読むのがなおよし。

2023年2月14日火曜日

言葉を離れる

 

言葉を離れる/横尾忠則


 Riverside Reading Clubが「SOME RAPs, SOME BOOKs ラッパーと本に関するいくつかの話」というテーマで代官山蔦屋書店でブックフェアを開催しており先日行ってきた。そこでISSUGIがレコメンドする1冊として紹介されていたので読んだ。彼がこんなふうに具体的なインプットを提示する場面をほとんど見たことないので楽しみにしていたのだけど、現場主義のBボーイマインド溢れるさすがの選書だと読んで感じた。

 著者である横尾忠則は日本のアート界の第一人者であり、そんな彼がどのようなキャリアを歩んできたか、読書と本について交えながら語る内容となっている。タイトルどおりひたすら「本を読んでいない」「本を読むのが苦手だ」という話が繰り返され、その代わりに大切にしているのは自分のアウトプットだったり、行動した結果手に入れたものであると繰り返し主張している。彼の周辺人物である寺山修司の「書を捨てよ、町へ出よう」と主張としては近い。確かに読書でわかった気になっても実際には見てみないと分からないところも多いと思う。またコロナも明けようとしている今、現場の重要性や価値は以前よりも高まっていると読んでいて感じた。そしてこれはBボーイイズムでもあると思う。

 偉大な芸術家として順風満帆かと思っていたが、実際には多くの葛藤を経ていることを知れた。特にデザイナーから画家へのキャリアチェンジに関して相当苦労していた模様。周囲は彼のスタイルを絵画になっても評価していた。しかし、デザインと絵画の違いが彼自身には重くのしかかり深みにハマる中、彼にとっては「描く」ことしか解決する方法はなかった。つまり本の中に答えはないjust do it的な考え方。これには同意するが、そのjust do itに至る補助線としての本や読書を否定する必要はないと思う。実際本著はクリエイティビティに関する金言がたくさん収録されており、何か作っている人にとって悩んだりするときに支えになると思う。刺さったラインを引用しておく。アート系の本は読むとクリエイティビティが刺激されるので積極的に読んでいきたい。

時代が未来を展望する時、ぼくは本能的に過去に遡りたくなるのです。というのはぼくにとっての未来は過去に存在するからです。

何を描いているかじゃなくて、いかに描くか。何を描くかは昔で、いかに描くかは今日的で、でもでそれもダメで、いかに生きるかだと思うんですよ。

役に立つことを一生懸命、これをやることで社会に還元するとかいうことは人生じゃなくて、実に役に立たないことを一生懸命やるということが人生なのかなということです。

2023年2月13日月曜日

2023年2月 第2週

 Rainbow by Nihil

 新譜紹介サイト経由で知った新人。歌もラップもかっこよくてビビった…アルバムタイトルどおり各曲名が色の名前になっておりサウンドもそれぞれ異なる。ヒップホップ、R&Bもあればレゲエノリのものやフォーキーなものまで。どの曲もめちゃくちゃかっこいい。声が低いのでWooを思わせるところもある。なのでWooが好きな人には間違いなく刺さるはず。どの曲も魅力的なのだが最後にQ the trumpetのトランペットソロが泣かせる”Purple”が好きな曲。

feel you, kon by Rakon

 Rakonのアルバムがリリース。もはやクラシックと化したSINCEの”Spring Rain”で存在を知ったラッパーでシンギンラップ、いやもはやシンギンというレベルでかっこよかった。Leellamarzがfeatで参加しているが、彼とスタイル的には近い。まぁFeatにPaloaltoとThe QuiettのP&Qが揃い踏みしている時点で間違いない。ギターベースのヒップホップは日本でも流行っているし1曲目の”mistakes”とかdubby bunnyのサウンドタグ聞こえてきそうな感じなので、そういうのが好きな人にはおすすめ。久しぶりに聞いたThe Quiettのラップに昂った”fire danger”が好きな曲。

<3 by 1300

 オーストラリアベースの韓国ヒップホップコレクティブによるEP。いわゆる逆輸入型だけどオーストラリアというのは珍しいパターン。前作のアルバムのエッジな感じが好きだっただけに今作は個人的にはポップ過ぎたかも。タイトル通りLOVEがテーマのようなので仕方ないかもしれない。好きな曲は”brb”

I Have a Dream. by DJ RYOW

 名古屋のDJ RYOWによる13枚目のアルバム。続けることの重要性や意味を教えてくれる素晴らしいアルバムだった。ストリーミング全盛で細分化が進むシーンにおいて、こういったある種の「まとめ」は時代を切り取るアーカイブの意味でも貴重で大切なことだと思う。
 ビートを手がけるSPACE DUST CLUBのビートのクオリティがめちゃくちゃ高くなっていてUSや韓国と遜色ないレベルにある。その素晴らしいビートに旬のラッパーもしくはローカルのラッパーを呼んで曲にする。まさにHIPHOPのProduce業と言えると思うし、これは誰でもできるわけではなくラッパーからプロップスを得ている人間にしかできない。その中で1曲選ぶなら¥BとAnarchyの初めての邂逅”I know What”かな。。”MVP”、”Slide”、”Bling Bling”、”All Through the Night”とかもマジで好きなんだけども。それはそうとFREE ¥B!!

Beatitudes by J Rocc

 J Roccのビートアルバム。去年もリリースしてたのでかなり精力的で、なおかつ圧倒的にあ今回のビート集の方が好きだった。20世紀のゴスペルにインスパイアされて作られたビート集らしく確かにソウルフルなトラックが多かった。なかでもドラムの鳴りがデカくてピアノとサンプルの声がマッチしている”The Best”が好きな曲

Raven by Kelela

 Kelelaの久しぶりのアルバム。エレクトロニクミュージックといわゆるブラックミュージックの接合点的なアーティストのイメージがある。過去作に比べてかなりサウンドの抽象度は高く感じた。一方でインタビューにもあるようにブラックフェミニズムやアフローフューチャリズムの観点で音楽を捉えクラブミュージックへの愛がふんだんに詰まっている。音の気持ちよさがハンパなくて家で無限に聞いていた。KAYTRANADAとかMockyが参加しているけど、いい意味で彼らの色はそこまで出てなくてKelelaの音楽になっている。今回知ったLSDXOXOがProduceした”Bruises”が好きなタイプのハウスで最高。
 このアルバムの前段としてKelela&Asmara 『Aquaphoria』っていうmixtapeがあることを知って、それがアンビエントのその先みたいな音楽で最高だった。これも音がめっちゃ気持ちよいし、2019年にヒップホップでいうところのビートジャックをこんな形で作品にしているのがかっこいい。大元のsoundcloudは消えているみたいだけど、誰か有志の人がYoutubeで権利対応してアップロードしてくれている。

Audiodidactic by Lance Skiiwalker

 TDE所属、シカゴ出身のラッパー。揺蕩うようにフローして歌っているようなラップしているような、いやポエトリーリーディングに近いのか、それがかっこよかった。しかもこのスタイルに珍しく比較的オーセンティックなドラムとベースのビートだから余計に新鮮に感じた。”Sample Talkは ベースのかっこいい曲の上でLance Skiiiwalker & Isaiah Rashadがサンプリングのかっこよさについて語っていて斬新な曲だし、タイトル曲の”Audiodidactic”や “(Ni)Radio Whispers”とかはほぼインスト。TDEって割とスピット系のイメージがあるので彼の存在は意外。前のアルバムも聞いたけど同じようなスタイルなのでこれが彼のスタイルなのだろう。好きな曲は”Everybody Hurts Somebody”

Girl in the Half Pearl by Liv.e

 先月のリードシングルを経てついにアルバムリリース。いきなりドラムンっぽいのから始まって意表をつかれつつ、そこからは音の洪水にただ身を浸すのみ…という感じだった。今どきこんなにジャンルで形容できない音楽をやっている人はおらず、圧倒的なオリジナリティがあると思う。いろんな音がコラージュされているけど調和しているし、ただ単にアブストラクトなだけではなく根底にメロウネスがある。なのでドープ一辺倒というわけでもなく飽きずに聞ける。あとイヤホンとスピーカーで聞くのでは全然音の聞こえ方が違ってびっくりした。(特に”Clowns”とか”Snowing”のハイファイ系のサウンド)好きな曲は展開がかっこいい”RESET!”

The Rebirth of Marvin by October London

 Snoop Dogの支配下となったDeath Row Records所属のR&Bシンガーのアルバム。ライターの川口真紀さんのポストで知った。タイトル通りMarvin Gaye再誕!といっても過言ではなく、声が似過ぎ。その声でトロトロのR&Bを歌われたらそれはもう最高…しっかり今の音というか懐古主義ではなくヒップホップ好きが好きなソウルミュージックになっていて、その辺はSnoop御大の意向かなと思う。あと合間にSnoopがシャウトしていてミックステープっぽさがあるのも好きだった。
 これまでSnoopのアルバムでFeatでいくつか参加しているので聞いているはずと思って聞き直すとそのときはマービンっぽさはそこまで感じない。今回はビート含めて完全に仕掛けている模様。好きな曲はカッティングギター、サックスの音が気持ちいいミッドチューン”Make Me Wanna”

Space 2 by Marlon Craft

 okayplayerの新譜紹介で知ったNYのラッパー。メロウなトラックの上で内省的な内容をスピットしておりかなり好き。Mac MillerやKota The Friendとか好きな人には刺さるはず。日本で人気出そうな感じなのに全然聞いたことない割に他国ではかなり再生されている。アンダーグラウンドなラッパーでもいい曲出していれば報われるのはストリーミング時代の産物だと思う。ひびの入った窓をそのままにしておいてくれとフックで言い放つ”Window Cracked”が好きな曲。

2023年2月7日火曜日

学校するからだ

 小説家の滝口悠生さんにポッドキャストでおすすめいただいて読んだ。「現場」の重要性というのは大好きなヒップホップのカルチャーでもよく語られることで、それは学校にも当てはまると知った。そして自分の学校に対する理解のなさ、解像度の低さを恥じた。というくらいに先生、生徒を含めた今の学校がどういう実情なのか知ることができてオモシロかった。

 学校の先生かつ批評家という特殊な立場の著者だからこそ語れる現在の学校。コロナによりディスタンスを保たなければならない社会になったからこそ改めて見えてきたであろう、学校における身体性に対する考察はどれも興味深かった。学校の先生と現在のお笑い芸人の相似性の見立ては考えたこともなかったし、論文執筆とヒップホップのサンプリングカルチャーはヒップホップ好きとしては唸りまくりだった。こういった学校教育に対する批評的な視点が一番好きな点だった。

 後半はより具体的な先生や生徒のエピソードを引用しながら著者の意見を知れる構成。エッセイに近いのでかなり読みやすかった。文章がうまくて読みやすいのはさることながら、一つの事象に対して何が議題なのか?の論点整理がめちゃくちゃ分かりやすい。そして本著の主張の中で一番刺さったのは物事を単純化して分かった気にならないことである。安易な二項対立を用意してコスパや勝ち負けでなんでもすぐにジャッジしようとするが社会でそんな単純な問題は存在しないことを痛感した。机上ではいくらでも吠えることができるが、実際の世界、社会には人がいて身体がある。学校という不特定多数の集団の中で考えると見方が変わるし、今のインターネットを中心とする言論がいかに幼稚化しているのか痛いほど伝わってきた。一番エネルギーを内在しているだろう学生たちの身体性を著者経由で少しでも体感できて良かったと思う。まだまだ家にいがちなので、分かった気にならないで何かあれば現場を大事にしていきたい。

2023年2月6日月曜日

2023年2月 第1週

97’s BABY by DADA

 SINCEがfeatで参加していることで知った。タイトル通りのジャケがキュートだしオーセンティックなR&Bでかっこいい。これがまだまだアンダーグラウンドレベルだ思うと韓国のレベルの高さに恐れ慄く。MckdaddyとのドリルR&Bも捨てがたいが、やはりSINCEが好きなので彼女が参加した”Trust me”が好きな曲。

Strawberry by Epik high

 韓国ヒップホップのベテランEpik HighのEP。当たり障りないといえばそれまでだけど、このくらいのキャリアになるとそれを続けることに意味があると思える内容だった。ベースとドラムとラップでぐいぐい引っ張る”Down Bad Freestyle”が好きな曲。

Slur by KONA

 女性プロデューサーKONAによるEP。4曲入りなんだけど1曲が長いこともあり聞き応え十分。EPの1曲目で6分強のインストの時点で攻めまくり。しかもそれがブロークンビーツ。久しぶりに聞いたけど2STEPリバイバルとかあるしこれからくるかも?と思えた。SUMINしかり韓国の女性のプロデューサーのエッジが効いているのかっこいい。Jiselleとの曲はブギーって感じでいいのだけど、Michael Jacksonかよ!みたいなメロディのXin Sehaが参加した”Tremble”が好きな曲。

Object by Kuonechan

 Wonsteinのインスタで知ったKuonechan。これぞKorean R&Bという感じの大好きなメロウネスで最近かなり聞いている。ビートがユニークなものが多くて繰り返し聞いても全然飽きない。Wonstein参加の”Scarecrow”はかなりのキラーチューンなんだが、もっとミニマルでドラムのエフェクトがオモシロくHookがかっこいい”Glass”が好きな曲。

ocaenfromtheblue by ocaenfromtheblue

 Korean R&Bを代表するocaenfromtheblue によるセルフタイトルアルバム。個人的にはラッパーとの絡みが多く、サウンド的にもよりR&Bよりだった”forward”が好きだけど、本作は誰にでも勧めやすいポップさがあって良かった。好きな曲はシティポップを彷彿とさせる”Close to You”

In My Mood by NSW yoon

 SMTM11で一躍シーンに躍り出たNSW yoonのEP。もちろんドリルで哀愁メロウ系で好きだった。FeatにGistとMarvというのが分かってるな〜と思ったし、彼の声とフロウはドリルにフィットしていてかっこいい。それについてHypebeast Koreaでも言及していたので、なるほどという感じ。しっかりしたアルバムを聞きたい。強めにスピットしている”Do You Love Me”が好きな曲。

9th Wonder by VMC

 VMCがレーベルとして解散するため、その花道を飾るようにリリースされたEP。各MCが思いっきりスピットしており好きだった。クルーとしては存続するらしいので、今後どうなるかはわからないけど間違いなくラップがかっこいいメンバーばかりなので皆の未来に幸あれ!と願っている。好きな曲はもちろんタイトル曲でメインメンバー勢揃いのマイクリレー”9th wonder”

My 21st Century Blues by RAYE

 今週聞いた中で一番ブチ上がったアルバム。Okayplayerの新譜紹介で聞き始めたのだけど、サウンドデザインの幅広さとかっこよすぎるボーカリゼーション、ポップとドープの混ぜ具合、全部が揃っていてめちゃくちゃかっこいい。特に”Hard Out Here.”、”Escapism.”の2曲はベーシックなブレイクビーツをベースにしているのに今まで聞いたことないサウンドでブチ上がった。オーケストラの使い方、転調、歌とラップ、どれをとっても一級品。それと同時にバラードもあるしダンスポップもあるしアルバムでいろんな音像を提示しているアーティストが個人的には好きなので最高だった。もともとソングライティングで名を上げており既に著名とはいえ、これでデビューアルバムというのだからこの先楽しみししかない。彼女はUKのアーティストでしかもここ数年の音楽の震源地であるサウスロンドン育ち。これがメインストリームど真ん中で鳴っているUKの今の勢いを感じた。
 1曲選ぶの激ムズなんだがディケイド単位の名曲になるだろう”Escapism.”が好きな曲。BBCのチャンネルでライブもアップされていたのだけど、レイドバックしたフローが死ぬほどかっこいい…日本でライブあるなら絶対に行く。

ebony by Ebony Riley

 これもOkayplayerの新譜紹介で知った。デトロイト出身でモデルの彼女によるデビューEP。R&Bど真ん中な感じは最近聞いていない中でとてもフレッシュだった。Frank Oceanの”Thinking about you”やBeyonce,Ariana Grande,Rihannaなど近年のR&Bのトップどころに深く携わるShea Taylorがメインプロデューサーとなっているのでクオリティの高さは保証済み。彼のプロデュースではないけど“Champagne” King の “Love Come Down”を大胆にサンプリングした”Draw”が好きな曲。

Communication by 八神純子

 レコ屋パトロールしてたら先月にLPがリリースされていた。ONRAのミックスで”Johannesburg”を知ってからずっと探していたレコードなので買おうかどうか悩み、とりあえず検索したらApple musicに入っていて即聞いた。いわゆるシティポップの文脈にありナイスブギーがたくさん入っているアルバム。その中でもやはり”Johannesburg”が最高としかいいようがない…シティポップならぬシティレゲエ。このキックの音は一体どんなことしたら、こんな鳴りになるのか?と毎回聞くたびに思うし歪み合う世界に疲れたらレゲエを聞くのが一番!

A440 by DJ Q & tofubeats

 UKのプロデューサーDJ QとtofubeatsのコラボEP。UKガラージmeets日本のヒップホップでかっこよかった。最近ガラージ、2STEPが日本のラップのビートで使われているケース増えている中で、本場のプロデューサーの要素と、さらにtofubeatsの日本のヒップホップへの理解度の高さが加わってこれぞプロデュース!というEPになっている。3曲とも本当にいいのだけどKohの新たな側面を見れたので”440hz”が好きな曲。

That's Life by EVISBEATS

 久しぶりのEVISBEATSのアルバムはインストアルバム。(田我流との1曲を除く)いわゆるローファイ、チルビートにおける日本の先駆者と言ってもいいと思うのだけど、彼がどうこうではなく巷にこの手のビートが溢れまくっている結果、あたりさわりないサウンドにしか聞こえなくて無念…いやそもそも自分の解像度が落ちているだけかもしれない。彼のオリジナリティがコモディティ化してしまっていると思う。ただ部屋でBGMとして流すにはマジで最高。

2023年2月3日金曜日

Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生

 

Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生/スベン・カールソン, ヨーナス・レイヨンフーフブッド

 ずっと前から気になっていてついに読んだ。自分自身は宗教上の理由でApple musicを使っているのだけどSpotifyのサービスの成り立ちについて知ることができて勉強になった。そしてスタートアップ企業の成り上がり物語として抜群にオモシロかった。

 違法ダウンロードの横行とそれに伴うCD売上高の減少に伴い音楽業界の先行きが不透明になる中で聞き放題を合法化して稼ぐ、というビジネススキームを考えたSpotifyの創業者の1人であるダニエル・エク。ナップスターがうまくいかなかったこの茨の道を乗り越えて全世界で使われる音楽アプリになるまでの軌跡は信じられないくらいハードに思えた。音楽をストリームする技術的課題、音楽の権利にまつわる課題、PCからスマホへの移行にまつわる課題など、これだけ大きなビジネスを一つの形にするまでには苦労が絶えないことがよく分かった。一方でその苦労の先にはとんでもない富が待っているからビッグテックドリームは読んでいてワクワクもした。

 ストリーミングサービスのプラットフォームには双方向で顧客が存在し、音楽でいえばリスナーとアーティスト(レコード会社、版権会社も含む)の2つ。このうちSpotifyはリスナーに向けたサービスに特化している印象がある。広告入りだと無料で聞けるというビジネスモデルを含め、リスナーを確保することが最重要課題だと念頭におけば彼らが提供するサービスには合理性があり、その経緯は本著を読んで理解できた。

 Spotifyを使わないのは、音楽を好きな人が作ったサービスではないと思っていたから。しかし彼らがリスナーを大事にするのは音楽を民主化したいという裏テーマのようなものがある。レコード会社に持っていかれるお金がある程度存在する背景を考えれば、アーティストおよびSpotifyにとってはミドルマンがいない方が都合がいい。それゆえに最大の魅力であるDiscovery weekやRelear Ladarといったレコメンデーション機能が発達し、インディーアーティストに脚光を当てて音楽を民主化していく取り組みをしている。したがって、一概にSpotifyが音楽をないがしろにしているわけでもないことを知れたのは良かった。

 実際音楽好きの友人や先輩たちはSpotifyユーザーであることがほとんどだし、たまにレコメンドプレイリストを覗くとこんな曲が!という曲に出会うこともある。最大の機能であるレコメンデーションについて経営陣が当初ほとんど敬意を示さず関係者がほとんどやめた話や、レコメンデーションの仕組みとして、楽曲の構造分析、似たようなリスナーのマッチング、そしれSpotifyのユニークな点としてはリスナーが作ったプレイリストも分析対象としている点らしく興味深かった。

 Appleとの戦いがSpotifyの歴史の大半を占めると言っても過言ではなく、そこはかなり読み応えがあった。マーケティング的にはSpotifyはプレイリストを作るような能動的なユーザー、Apple musicはラジオ番組が充実していて、とりあえず音楽を聴きたいユーザーに向けているという話にはなるほどと思った。AppleがiPhoneというハードウェアを持ち、アプリマーケットを寡占、iTunes Storeで先行者利益があるといった状況で、それらを活用した妨害が日常茶飯事に起こっている様はアメリカのビジネスの厳しさをヒシヒシと感じた。またレコード会社との戦いもスリリングでどこで妥協して何を手に入れるか1つでも間違えばビジネスがポシャって違う未来があったかもしれないと思うとスリリング。

 最後にはポッドキャスト事業の話も出てきて、それはまさに自分がガッツリお世話になっている領域。今のところは配信サービスのAnchor含めて広告なしの完全無料になっているけど、本著を読んでいるといつ課金されてもおかしくないなと思う。ストリーミングサービスの前日譚として誰が音楽をタダにした?と一緒に読むのが超おすすめです。

2023年2月1日水曜日

2023年1月 第4週

Souly by Marv

 Featで参加しているOwenがおすすめしていたので聞いた。いわゆるアフロビーツと歌フロウでモロにDrakeのそれなんだけど、こういうトライの積み重ねでどんどん他のアーティストも乗っかっていくことが多いので韓国ヒップホップにおけるアフロビーツの隆盛の可能性はあるかも。ちょっと遅いか。とはいえビートのレベルめちゃくちゃ高いしメロディも心地よいので繰り返し聞いていた。好きな曲は”Vinyl”

HOLY by HOLYDAY

 レーベルとしての解散が近づく中、VMCからHOLYDAYというビートメイカーのアルバムがリリース。VMCは韓国ヒップホップのアンダーグラウンドの屋台骨であり、それを象徴するようなドープなシットがたくさん入っていて最高だった。ビートメイカーのアルバムならではの組み合わせがオモシロくて”ANTI Feat YUMDDA, QM & punchnello”、”Last Call feat. Jambino & Deepflow”とか。またドープというもののメロウ系もいくつか入っており、その中で”Wavin’ feat. Paloalto”のオーセンティックなサウンドとPaloaltoのフック、バースがめちゃくちゃ心地よい…Paloaltoは昨年のアルバムも素晴らしくてこの年齢でキャリアを更新していくのは本当にかっこいいと思う。
 ビートとしてはオルガンっぽいサウンドが多用されていたり、SEとしてKANYEのシャウトを使っていることもありKANYEの影響が強くあるように感じた。DingoではVMCメンバーによるメドレーが公開。ラップがうまいやつしか入れない厳しいスタンダードがあることがこの動画からもよく分かる。

Toast by TOIL & Gist

 ビートメイカーのTOILとシンガーGistのコラボアルバム。2人ともDaytona所属。TOILのポップなビートとGistの声の相性が良く聞きやすい。ただGistはもう少し深めのR&Bテイストの曲を聞きたいのが正直なところ。その点でいうとJason Leeの泣きのサックスがいいアクセントになっている”On Repeat” が好きな曲。

Raw Gems Vol.1 by Miso

 プレイリストで聞いて「うぉ!」と思って聞いたらアルバムとしてもめちゃくちゃ好きだった。DEANのレーベルyouwillknovv所属で、もともとアイドルグループ出身。しかし楽曲はセルフプロデュースかつ歌も自分で歌う。最近だと椎名林檎のREMIXアルバムで”丸の内サディスティック”を手がけているし、韓国サイドでいえばoffonoffによる大名盤『Boy.』にも参加している。
 アンニュイな声と隙間の多いメロウなトラックとの相性が良くてかなり好みなサウンドだった。Raw Gemというのはまさにそのとおりでビートがブラッシュアップされる前だからこそ感じる繊細な要素がふんだんにあった。韓国のアーティストだけど歌詞は英語なので意味が取れるのもありがたい。好きな曲はシンセの音が気持ちいい”Ache”

COLOR PAPER HOTEL by 87dance

 Khundi panda, Deepflowという渋いFeatに惹かれて聞いてみると生音ベースのR&B、FUNKな音でかなりご機嫌&シャレ乙サウンドだった。3人組でオリジナルメンバーはシンガー、ギター、ドラマーの3名でサポートメンバーが他の楽器を担当してる模様。ギターの音色は渋くて哀愁たっぷりだしドラムもかっこいい、ボーカルは色気たっぷりで言うことなし。上記2人のラッパーがfeatしてる曲はいずれもかっこよくて特にKhundi Pandaは最近のバースの中ではかなり好きだったので”Tommy cooper”が一番好きな曲。

King of Everything by LEX

 LEXは毎度アルバム通して聞いても結局なんだっけ?みたいになってピンとくることがなかったけど今回はアルバムとして完成度がめちゃくちゃ高くて好きだった。前半のイケイケモードと後半の内省モードで躁鬱を表現する。ここまでなら他のラッパーでもできるだろうけど、彼がスペシャルなのは音楽のスペクトラムの広さゆえにリリックだけでなく音でも表現できる点だと思う。普段何を聞いていてどういう音楽にインスパイア受けているのか知りたくなった。それはつまりオリジナリティがめちゃくちゃ高いということだと思う。アルバム公開に合わせて公開されたドキュメンタリーも興味深くKMの言うとおり日本人のアーティストとしてどこまでも羽ばたいてほしい。(ドキュメンタリー内でsokodomoが出演しており彼のニューアルバム(!) を聞いてLEXがブチ上がっていたのでそちらもとても楽しみ)色んなタイプがあって好きな曲を選ぶのむずいけど、やはりタイトル曲の”King of Everything” 職種は問わ〜ない

Candemic by Candee

KowichiのレーベルSELF MADEにサインアップしてついに1stアルバムをリリース。各種客演でメロディセンスを見せていてアルバムでもそのメロディーのよさが存分に発揮されていた。自分の性の奔放さについてラップするラッパーは山ほどいると思うけど、キャッチーなビートの上でここまでディテールを語るラッパーはいないと思う。ゆえに聞いていると、しんどい部分があった。
 ダブルミーニングやウマいこと言うリリカルなスタイルかつ音がUS志向なのは珍しい。Watsonは1ラインで沸かす感じだけど、Candeeはバース全体で沸かすフリオチスタイルで個人的にはこっちの方が好き。好きな曲はそれが炸裂した”Tokyo Druggy Land”

Xlarge ✖︎ Chillaxing

 アパレルブランドのXlargeとChillaxingというイベントがキュレートして若手を中心にまとめたコンピ。Xlarge recordsとしてシングルではCyber Rui, Showy lit、Skaaiなどラップスタア誕生で跳ねた若手をフックアップしていたが、その流れをコンピでも汲んでおりeyden、Fuji Taito、Ken Francisが今回参加している。彼らの曲もいいのだがやはりOVER KILL,Jin Dogg, Henny K, Ralphの”Never Get It”がぶっちぎりにかっこよかった。最近猫も杓子もジャージだけど、個人的にはNYドリル、UKドリルが好きなので流行ってほしい。

Let’s Start Here by Lil Yatchy

 今週はもうこれにすべて持っていかれた感じだった。友人からもヤバいとは聞いていたしTwitterでもこのアルバムの話で持ちきりで聞いてみたら即ブッ飛ばされた。。。いわゆるプログレロックの音の上でLil Yatchyが歌い、ラップしている。すべてが謎なのだけど中毒性が本当に高くて聞き始めてから隙あらば再生、耽溺している。語り口は死ぬほどあるから、それゆえ話題になっていると思うのだけど、やっぱりバランス感が素晴らしいと思う。単純にプログレの音でラップしましたとかそういう次元ではない。何をどういう塩梅で演奏し歌うかラップするか。温故知新によって新しい音楽を生み出していることに意義がある。センスない人が同じことやっても単純に昔を懐かしんだものになってしまうし。とにかくしばらくは聞きたいアルバム。好きな曲は本アルバムの助演賞であるDiana Gordonが冒頭からかましまくりのディスコティックな ”drive ME crazy!”

To What End by Oddisee

 定期的にアルバムをリリースしているイメージあるNYベースのラッパー、ビートメイカー。オーセンティックなスタイルのビートとラップが心地よい。1人で両方できる人がどんどん減っている中でこのクオリティを3年ごとに出せるのめちゃくちゃカッコいい。同世代なので好きなものが似ているのだろうなと聞くたびに思うし安易にローファイせずに生音っぽいタッチのビートが多くクオリティに妥協がなくてアガる。好きな曲は生音チキチキ感とラストのバイオリンソロがたまらない”Already knew”

Love Is War by Reuben Vincent

 9th wonderのレーベルJamla Records(Rocnation傘下)からのリリース。9th wonderのレーベルということは言わずもがなでオーセンティックなヒップホップを体現している。御大Young GuruもProducerとして参加しておりドラムの鳴りだけで飯三杯食えます!みたいな曲の上でスピットしまくるラップはどの曲もかっこいい。ヒップホップ原理主義者なので否が応でも上がってしまう。FeatにはレーベルメイトのRapsodyやTDEからReasonなど。好きな曲はJanet Jackson使いの9th wonderがプロデュースした”2time Flies”

Lyrics to GO, vol.4 by Kota the Friend

 定期的にリリースを怠らないKota the Friendのバース集。まるで日記のようにラップを滔々とビートの上でスピットするシリーズの四作目となる。ビートがどれもかっこよく良い意味で軽いので聞きやすい。Statik Selectahとの相性はいつも通りだし今回知ったGC beatsというプロデューサーは『Lyrics to GO, vol.2』でかなり使われていた模様でこちらもいわゆるChill系で心地よい。Genius見てたら、たかやんというアーティストに曲提供していてタイプビートの世界は複雑でオモシロいなと思えた。歌詞はかなりポエティックでじっくり読んでいると楽しい。一番好きな曲は”LIFE LESSONS”

Soulection Takeover:2K23 Edition by Soulection

 NBAのビデオゲーム向けにリリースされたSoulectionのコンピ。以前にもお伝えしたとおりSoulectionは本当に好きなレーベルでこういうのはもう大好物。四つ打ちもあるし、トラップもあるし何でもござれだけど、その中でも彼らのサウンドシグネチャーを感じるのがすごいところ。今回知ったアーティストで Jbirdというマルチインスト演奏者によるラストトラック”The Shattuck Effect (B.99 Suite, Pt. II)”が一番好きだった。

Portrait of a Dog by Jonah Yano

 広島産まれ日系カナダ人のJonah Yanoの2ndアルバム。Clairoのツアーでサポートしたりすることもあり前作は比較的フォーキーであり、そこにエレクトリックミュージックの要素もあり好きなアルバムだった。
 今回のアルバムは全曲でBADBADNOTGOODが演奏、アレンジに参加しておりYanoをボーカルに迎えたBBNGのアルバムとも言える。なのでがっつりジャズ。BBNGの前作のアルバムよりも少し柔らかさを伴っていて何となく優しく感じる。彼の声がそのバイブをもたらしているのかもしれない。アルバムの細かい話や彼のバイオグラフィーはBandcampが有益だった。好きな曲は”So Sweet”

Mama’s Gun by Erykah Badu

 Jose Jamesのアルバムをふまえて再聴。Soulequliansがアルバム全体に大きく貢献しているアルバムという認識がまったくなかった。あらためて聞くと音の気持ちよさがハンパない。Roy Ayer Ubiquityが参加している”Cleva” とか特にたまんない。このアルバムは生音中心なのでJose Jamesがバンドでカバーするとなると一番スムーズだったのかもしれない。色々調べていると、このアルバムがリリースされた2000年って『Voodoo』『Like Water For Chocolate』もリリースされていて恐ろしい年…両方とも聞き直したけど、いつ聞いても洗練された音に自然と首を振ってしまう。Soulequliansは最高。

LOUIE by KENNY BEATS

 ストリーミングでリリースされたときに相当聞いたのでレコードも発注しておりやっと今月届いて聞いていた。新譜のレコードを割と買う方だけど、その中でもマジックが発動しているレコードだと思う。この感覚が言葉で表現できたら音楽いらんやろと思うのだけど、レコードというフィジカルが誘う感情というか何というか。KENNY BEATSが父に捧げたスペシャルなアルバムだからなのか。