2017年3月30日木曜日

パブリック・ハウジング


渋谷のシネマヴェーラでこないだ
フレデリック・ワイズマン特集が開催されていて、
その中で一番興味が惹かれた本作を見ました。
というのも先日までヤバい経済学という本を読んでいて、
シカゴのプロジェクトについて興味持っていたところで、
これは見ねば!と思い見た次第です。
そもそもフレデリック・ワイズマンとは?
って話ですがドキュメンタリーの映画監督です。
僕が彼の名前を知ったのは、
想田和弘監督の著書において、
観察映画と呼ばれる彼のドキュメンタリー手法が、
ワイズマンの多大なる影響下にある
と繰り返し引用されていたからです。
本作は3時間強というかなり長い尺で、
なおかつ観察スタイルなので、
良い意味でとても疲れる映画体験でした。
1997年の映画なので読んでいた本と
ほぼ同時期だったので頭で想像していたことが
どんどん可視化されていくのが楽しかったです。
警察、プロジェクトの住人、公務員など、
本当に色んな人が出てくるんだけど、
当時のファッションが
90年代回帰の今見ると恐ろしくフレッシュ!
街のおじさん、おばさんの何気ない格好までもが、
とてもクールに切り取られていました。
日常に密着しているだけで
ナレーションもないんだけど、
生活する姿がひたすら興味深いなーと。
(去年から日記に感じているオモシロさに近い)
特筆すべきは映される側の人達が
まったくカメラを意識していないところ。
特定の人物に長期密着という訳ではないはずなので、
監督の気配の殺し方が尋常ではないということなのか?
あとHIPHOPのMV撮影シーンも映っていて、
誰だ!?と思って調べたところ、
Berry Juice Recordsというクルーでした。
1曲だけYoutubeにアップされてるけど、
本作内で撮影されてたシーンはカットされてた。


ワイズマンの映画はレンタルもできないので、
名画座で特集されたら、また見に行きたいです。

プリズン・ブック・クラブ

プリズン・ブック・クラブ--コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年

「彼らが夢中になっているのはもはや麻薬ではなく書物なのだ」
という文言が帯に添えられていて、
刑務所の読書会?!なんて聞いたら読まずにはいられない。
しばらく積読していましたがようやく読めました。
カナダの刑務所で実際に刑務所の読書会運営に
携わったジャーナリストのノンフィクション手記です。
人はなぜ本を読むのか?もしくは読まねばならぬのか?
この問いへの答えは、それぞれが持っていると思いますが、
「知らない世界へ最も濃密にダイブできるメディアだから」
と考えています。
他者への不寛容が顕在化する今の世界でこそ、
知らない世界を知り他者のことを想像することの
重要性は昔よりも高まっていると思います。
前置きが長くなりましたが、
本作は読めば本を読むことの豊かさ、意味について
理解できる素晴らしい作品でした。
著者はイギリスで強盗未遂の被害にあった経験もあり、
初めは受刑者に対して怯え、彼らにコミットすることに
躊躇しているんですが、読書会で交わされる
鋭い意見交換、受刑者の人柄にに心惹かれ
活動にのめり込んでいきます。
僕は音楽、映画が好きでたくさん聞いたり見たりして、
人と話すことがとても好きなんですが、
一番テンション上がるのは本の話です。
本作中でも語られていますが、
同じ本を読み、そこで感じたことを共有することは
めちゃめちゃオモシロいんですよねー
それは映画や音楽に比べて、
読み方が人によって大きく異なり、
それぞれの感受性がモロに出てくるからかなと思います。
紹介される本は知らないものばかりだけど、
受刑者たちが過酷な人生経験と照らし合わせて繰り出す
意見の数々を読むと読みたくなってくる。
作者、時代背景等を踏まえたファクトベースの批評と対照的に、
読んだことからダイレクトに出てくる
瑞々しい感想が読み手の心に響きました。
単純に読書会の事情説明したノンフィクションではなく、
カナダの刑務所事情を知ることができるし、
なにより著者の心情変化が興味深かったです。
(ハイソ側からの施しの要素が強い部分もありますが…)
最後に一番シビれたラインを引用しておきます。

どれが好きっていうのではなくて、
本を一冊読む度に、自分のなかの窓が開く感じなんだな。
どの物語にも、それぞれ厳しい状況が描かれてるから、
それを読むと自分の人生が細かいところまで
はっきり見えてくる。そんなふうに、
これまで読んだ本全部がいまの自分を作ってくれたし、
人生の見方も教えてくれたんだ。

2017年3月25日土曜日

パッセンジャー


<あらすじ>
20XX年、乗客5000人を乗せた豪華宇宙船アヴァロン号が、
新たなる居住地を目指して地球を旅立ち、
目的地の惑星に到着するまでの120年の間、
乗客たちは冬眠装置で眠り続けていた。
しかし、エンジニアのジムと作家のオーロラだけが
予定よりも90年近く早く目覚めてしまう。
絶望的で孤独な状況下で生き残る方法を模索するうちに、
2人は惹かれ合っていくのだが…
映画.comより) 

クリス・プラット×ジェニファー・ローレンスという組み合わせで、
宇宙SFということで楽しみにしていた作品。
(監督はイミテーション・ゲームのモルテン・ティルドゥム)
ゼロ・グラビティ、オデッセイ、アルマゲドンなど
様々な宇宙SFの要素が含まれているんですが、
ヒューマンスケールの人生の話に昇華されていてオモシロかったです。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

宇宙船が舞台になっていて、
冒頭で映画内の設定、時代、
すべての原因となる隕石群との衝突を描いていきます。
設定、時代はセリフで説明されていくんですが、
冬眠から覚めるという設定があるため、
抵抗感なく世界に入っていける仕掛けになっていました。
この宇宙船はすべてが過密化した社会からエスケープする、
いわばノアの箱舟のようなもの。
あらすじにもあるように、
ずっと遠いところにあるスペースコロニーへの移動の際に
起こった事故が原因で冬眠から予定より早く目覚めてしまう。
1人、船内で皆が冬眠から目を覚ますより前に年を取って
死んでいく運命とストラグルするお話です。
前半は宇宙船での孤独との向き合い方を描いています。
仕事も家事もしなくてよくて、
映画見たりゲームしたりできるなんて、
マジで最高の生活じゃん!と思っていたんですが、
人は1人では生きていけないのか…ということを
まざまざと見せつけられた気がします…虚無感よ!
とくに僕が心に刺さったのは空き瓶の演出。
自暴自棄になったジムが床に投げるんだけど割れない上に、
そのビンを踏みつけて、まるでバナナの皮ですべって転んでしまう。
1人で暮らしていて誰にも言えないハプニングというか、
恥ずかしいことに対する感情って最もむくわれないことだと思っていて、
それがモロにスクリーンで展開されていたので居たたまれなかったです。
(今はSNSがあるので、ある程度成仏されていると思うんですが)
宇宙空間に出ることができる!と感動する部分も
1人だとより孤独が際立つ仕掛けになっているし、
後半に向けたフリとしても機能しているので良かったと思います。
後半はジムが最高で最悪の決断を行い、
オーロラが冬眠から目を覚ますところから始まります。
(この決断に関しては自分ならどうするということを考えさせられる)
彼女は自分が目を覚ましてしまい、死ぬまでにスペースコロニーに
到着できないことを知り動揺するものの、
ジムと生活していく中で彼に惹かれていき蜜月の関係に。
ハンガーゲームシリーズ見ていないので、
個人的に久々のジェニファー・ローレンス出演作だったんですが、
フィジカルの強さがやっぱり最高でした。
それはセクシーさとバイオレンスな訳で、
とりわけ後者のバイオレンスが最高最高!
彼女が冬眠から目覚めた原因を知り、
ジムにぶち切れるわけですが、ベッドルームの夜間襲撃のダイレクトっぷりは
彼女にしかできないよなーと思いました。
宇宙空間での話なのでSFではあるんですが、
男女関係に大きくフォーカスされているのが、
いわゆる宇宙SFと異なる点でしょう。
ジムとオーロラ以外に第三者が終盤まで登場しないので、
出会い→蜜月→喧嘩による倦怠期→成熟という
過程をまざまざと見せつけられる。
さらに宇宙船が自動修復機能を持っているものの、
それが機能せずに危機的事態を迎えること、
ジムの職業が機械エンジニアリングで修理することを得意としていること。
悪くなった関係が自然に良くなるということは難しく、
それは能動的に自ら修復すべきという風に見えて、そこもオモシロいなーと。
終盤、宇宙船の故障によるトラブルが加速していくわけですが、
無重力×プールのシーンは見たことないシーンで圧巻!本当に息が苦しくなる。
ただ、トラブルが加速していくに従ってご都合主義な部分が
少し目につくようになってラストのリアクター放熱処理は、
ちょっと無理あるくね?と思ってしまいました。
アルマゲドン meets ゼロ・グラビティな感じのは楽しくて、
ギリギリまでバッドエンドを思わせるのは良かったかな?
人生という名の宇宙船における愛の在り方。

2017年3月22日水曜日

モアナと伝説の海



<あらすじ>

かつて世界を生んだ命の女神テ・フィティの心が、
伝説の英雄と言われたマウイによって盗まれ、
世界に闇が生まれた。それから1000年にわたり、
モアナの生まれ育った島モトゥヌイでは、
外洋に出ることが禁じられていた。
そんなある時、島で作物や魚たちに異変が発生。
海の不思議な力に選ばれた少女モアナは、
いまもどこかで生きているマウイを探し出し、
テ・フィティの心を元あった場所に戻すことができれば
世界を救えると知り、父親の反対を押し切り大海原に旅立つ。
映画.comより)

ディズニー映画の最新作ということで見ました。

昨年見たズートピア、ファインディング・ドリーの
クオリティの高さに比べるとアレな感じでしたが、
アナ雪のエルサばりにプリンセス自らが立ち上がり、
然るべき成長をするという点ではオモシロかったです。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。


最近のディズニー映画では、

本編の前に短編アニメーションが用意されているんですが、
それがなかなかマッドな仕上がりで苦笑いしてしまいました。
サラリーマンが仕事に束縛され、
自らの願望が抑圧されているところから、
自分の気持ちに正直に生きる過程を描いています。
祝日、昼間、ビール飲んで楽しい気持ちで
映画を見ようとしていた大人へ
冷や水をぶっかけるような内容でくらいました…
それはさておき、本作はモアナの子どもの頃から始まり、
彼女が世襲で村の女王として君臨する過程と、
この世界の成り立ちの背景が並行して描かれます。
モアナは島の外、海に心を惹かれているものの、
1人娘として村の王でもある父親から
過保護に育てられているため海に出ることを許されません。
女王として一人前になろうかという頃に、
島全体で植物、漁業が原因不明の不作に陥る。
モアナは唯一の理解者である祖母との対話を通じて、
島の外に解決策があることを知り、
なんとかして島の外に出て問題を解決しようとする。
前提としてモアナは海に選ばれた神童という設定が
あるんですが、ここに結構抵抗があって…
この時代に特別なオンリーワンかつナンバーワンな
主人公を持ってこられても乗りにくい。
海がほぼチート機能状態で、物語を進める上で
都合が悪くなると海が何とかしてくれる。
モアナが1人で小舟で海へ出たときには、
容赦なく海の怖さが襲うのに、
終盤の決定的場面では彼女を助けてくれる。
優しさと怖さの部分にロジックがあれば、
全然ウェルカムなんですけどねーそこは皆無。
ただモアナが自分の島を救うために、
何とかサバイブしている姿は、
おじさんからすると可愛く感じました。
途中、マウイという神のような男が登場し
バディムービーとなっていくんですが、
バディ間のコンビネーションが見れなかったのが、
もったいないなーと思いました。
マウイは何にでも変身できるという、
またもやチート機能を持つキャラで、
2人のチート機能をかけ合わせて、
オモシロいことできそうなのに…
マウイがモアナと打ち解けていく過程は好きで、
モアナが航海術を身につけていくシーンが
もっとも成長が分かりやすくて良かったです。
(あと遭遇する海賊がイオークみたいで、
乱暴だけどカワイイというGAPがナイス!)
設定的にアナ雪と近いと思うんですが、
エルサのように負い目を感じる部分を
モアナが持っていないので
物語にカタルシスが生まれにくくて、
全体にノペーッとしたお話に見えてしまう。
それでもある程度楽しめるのは画の力でしょう。
自然表現は「ほぼ実写やん!」と思わず
口に出てしまうぐらいのクオリティ。
とくに夜の海のシーンは本当に美しかったし、
終盤の溶岩での戦い→緑化のシーンは、
画の力で「世界が救われて良かった…」と思わされました。
1人の少女の勇気が
保守的な大人の世界を変えていくという帰結は、
最初の短編アニメーションとも通じていました。
然るべき少女の然るべき成長譚なので、
ある程度の満足は得られる映画。

網走番外地 吹雪の斗争



昔にロードショー録画した高倉健の
網走番外地シリーズを録画整理として見ました。
見終わってから調べたら、
これがシリーズ最終作品だったんですね…
逮捕された囚人の高倉健が主人公なのに、
シリーズ化しているのはなぜなんだ?
という疑問を抱きつつも楽しく見ました。
脱獄囚が昔ハメてきたやつに復讐する話なんだけど、
正直、お話自体のオモシロさはそこまでなかったです。
だがしかし!映像が本当に圧巻。
北海道の一面銀世界の中で、
ゴロツキたちが暴れ倒す姿が見ていて楽しい。
とくに後半の馬を使ったアクションが、
これは一体どうやって撮ったのか?という場面の連続で、
あまりに無茶苦茶過ぎて笑けてくるレベル。
(レヴェナントに引けを取らないと思う!言い過ぎ?)
あとは俳優陣の顔力。
昔の映画見ると、どうしても古くさく
感じてしまうことが多く敬遠してしまうんですが、
俳優たちの顔から放たれる迫力、
顔圧とでも言いましょうか、
それがたまらないんですよねー
僕が好きだったのは安藤昇。
仁義を大切にする男で、
梅宮辰夫の肩を担いで敵討ちするシーンが好きでした。
露骨に怖い感じというより、
目が笑っていない感じが怖かったです。
あかんやつら読んでから巻き起こった東映映画見たい!
という熱が冷めてしまっていますが、
松方弘樹や渡瀬恒彦等がどんどん亡くなってしまっている
今こそ昔の作品を見ていきたいと思います。
シネマヴェーラで実録ヤクザ特集始まるし、
そっちに通ってみようかと思案中。。。

2017年3月21日火曜日

ロスト・バケーション



予告見てシンプルにくだらなさそう〜と思って、
映画館で見ようと思ってたんですが、
見逃していたのでDVDで見ました。
軽い気持ちで見たのが申し訳ないくらい、
とてもオモシロかったです。
10年代を代表するシャーク映画として、
名を残してもおかしくないと思います。
シャーク映画はある方向にインフレしている作品が
近年目立っていますが、シンプルに鮫怖いやん
と思わされる作りが潔くて良かったです。
サーフィン好きの女の子が、
鮫が徘徊する海に取り残されてサバイブする話なんですが、
まず海の撮り方が超絶カッコ良い!
おそらくCGだとは思うんですが、
海の美しさと怖さの両方が画でしっかり伝わってくる。
あとはスマホやGoProといった新しいデバイスと
パニック映画の掛け合わせも見事。
(おじさんがスマホ触るところ最高最高!)
丁寧に前半でフリをつけといて、
きっちり後半で回収するお手本のよう。
海から約100mという近いような、遠いようなところで
生きるか、死ぬかを迫られるのも胸が苦しくなりました。
グッドシャーク映画!

2017年3月19日日曜日

逆行



<あらすじ>
ラオスでNGOの医療ボランティア活動に
従事するジョン・レイクは
上司から2週間の休暇を取るように勧告され、
激務により疲弊した体を休めるために
南部のリゾート地コーン島にやってきた。
宿でくつろぎ、夜には近くのバーでバーテンダーと意気投合し、
ウィスキーを飲んで酩酊したジョンは宿へ帰る途中で
地元の娘が若いオーストラリア人観光客に
暴行を受ける現場に遭遇する。
加害男性に詰め寄ったジョンは男から殴られたことで
理性を失い、相手を何度も殴り返し、
男を死なせてしまう。
翌朝、自分のしたことに恐ろしくなったジョンは、
事件捜査中の警察から逃走してしまう。
映画.comより)

僕の好きな数多くの日本の映画監督が
コメントを寄せていたので見てみました。
(コメントはここで見れます→リンク
監督であるジェイミー・M・ダグは
本作が長編デビュー作とのことですが、
善悪の彼岸を彷徨うストレンジャーって感じで、
とてもオモシロかったです。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

舞台はラオスで主人公は
国境なき医師団のようなNGOで働く医師。
映画の冒頭で繰り広げられるのは
ERさながらの救命治療シーンでした。
設備も人手も不足している状況で、
何とか1つでも命を救いたいという、
志の高い姿勢がスクリーンを通じて伝わってくる。
(ギョッとするゴア描写も良かった)
誰がどう見たって明らかに善側にいる、
そんな彼が悪へと巻き込まれていく様が、
あまりに不憫だけどオモシロいんですよねぇ。
映画の基本構造である「行って帰る」ことに
非常に忠実な作りになっていて、
最初のバカンスへ行く過程が丁寧に描かれることで、
主人公が災難に巻き込まれ、
そこからエスケープする際の過酷さが
より伝わってくる仕掛けになっていました。
コーン島ってところでバカンスを過ごすんですが、
それがすげー優雅。ハンモックに寝そべって本読んで、
酒飲んで、宿の目の前の綺麗な川で泳いで。
あんな休暇取りたいものよ…と羨ましい気持ちになりました。
そして夜はローカルなバーで飲み倒す、
そこまでは完璧な休暇なんだけど、
バーで遭遇したオーストラリア人が悪夢の始まり。
ここの見せ方が個人的にニクいと思っていて、
女の子たちを心配してというのが建前で、
俺が狙っていた女の子たちを横取りしやがって!
というニュアンスが含まれているかなーと。
あの座席の配置はそうに違いない!(あくまで個人的見解)
そして、あらすじにあるように男を殺してしまうんですが、
ここの見せ方が抜群!
いきなり部屋に戻ってきたショットになって、
さっきまで最高の休暇を過ごしご危険だった彼が
挙動不審でシャワーを浴び始めると傷だらけになっている。
虚をつかれたのも束の間、手持ちカメラのグラグラの
ショットの連続で息をつかせぬまま、
事態がどんどんと進行していくところが圧巻でした。
財布を殺害現場に取りに戻るという
どんくさい行為なのに恐ろしくカッコいい!躍動感!
後半はバレる/バレないサスペンスが展開。
ハラハラもするんだけど、情けなさが勝つ場面も多く、
ちょっと笑いそうになったりする。
とくに船でエスケープするくだりは、
言葉通じない異国あるあるがオモシロかったです。
命からがら自分の診療所まで戻って来ても、
警察はすでに先回りしていて万事休すかと思いきや、
仕事仲間がラオスからタイへの亡命を
斡旋してくれることに。
メコン川渡れと言われたときの
「おいマジかよ…」という表情が素晴らしかったです。
結局タイで捕まってしまい刑務所へ送られる。
ここからラストの展開が本作最大の見所。
それは邦題にも現れている訳ですが、
自分に嘘ついて生きていくのか、
すべてを清算するのか、究極の選択。
正直、動機付けが少し弱いかなーと思ったけど、
この人はあくまで善の人なんだと
冒頭のシーンを思い出して納得。
上映時間のタイトさもちょうどいいし、
最後のタイトルどーんも気持ちよかったです。
バンコクナイツとあわせて見ると
味わい倍増だと思います。

2017年3月18日土曜日

ヤバい社会学  一日だけのギャングリーダー

ヤバい社会学

メインタイトルはいただけないけれど、
副題に惹かれて読んでみました。
(原題は副題の英語です。)
筆者は社会学者でギャングがはびこるプロジェクトに
入り浸る中で、とあるギャングのリーダーと懇意になり、
その様子をルポした1冊になります。
社会学の用語でエスノグラフィーと呼ばれる
定性調査の1つなんですが、
僕はこのタイプの本がとても好きです。
日本でいうと岸政彦さんの街の人生という本は
分かりやすいエスノグラフィーの1つです。
舞台はシカゴ。シカゴと聞いてイメージするものは
人それぞれ異なるかと思いますが、
USのヒップホップ好きからするとNY、LAと並ぶ聖地。
Common、Kanye West、Lupe Fiascoを
僕は高校、大学の頃から愛聴しています。
近年は治安のさらなる悪化に伴い、
ドリルと呼ばれる、よりハードなサウンドが生まれており、
Chief Keef、Lil Herbなどが台頭している状況。
(個人的にはSasha go hardが好きです。)
そして、そのカウンターというと語弊があるかもしれませんが、
シカゴのヒップホップが持つメロウな部分を
今もっとも体現しているのはChance The Rapperで
今年のグラミー賞を受賞したことは記憶に新しい。
彼のシカゴラブな記事やラブゆえに憂うインタビューは
Webでじゃんじゃん出ているので興味ある人は
そちらも読んでみるといいかもしれません。
なお、シカゴとヒップホップの関係については、
リンク先のサイトがChief Keefを中心に
まとまっているの参考まで→リンク
前置きが長くなりましたが、
そんなシカゴのギャングたちの実態が
刻明に記録されている本作がオモシロくない訳がない!
はじめは明らかな外様なんだけど、
ギャングリーダーと共に行動し、
コミュニティにどんどん溶け込んでいくところが
興味深くもある一方で緊張感も当然あり、
このバランスが絶妙だと思います。
ノンフィクションだけど、文体を含め、
まるで映画を見ているような気持ちになる。
クラックの売買が中心なんだけど、
その他にも様々なケツ持ちを行うことで、
ギャングはシノギを成立させていることがよく分かりました。
そして、ギャングを中心にそのコミュニティ独自のルール、
もはやそれが法律よりも上位にあるということは
何となく分かっていたんですが、
実態として読むと驚くことが多かったです。
その街を浄化してしまえば悪の根源は断たれる
というのはミクロで見れば、
その通りかもしれないけど、
マクロで見た場合には根本的に解決されていない。
このことがプロジェクトの住人を中心として、
立体的に浮かび上がってくる。
著者も語っていますが、机上の空論では
何も解決しないことが突きつけられていると思います。
また、翻訳もオモシロくて登場人物たちが話す、
スラングというべきか、柄の悪い言葉を
日本語でしっかりと再現してくれてるのがアツい。
終盤のギャングリーダーと著者の別れのシーンは
ボロボロと泣いてしまいました…
この本で描かれていることは90年代ですが、
現在のシカゴ=シラクのルポも読んでみたいです。

2017年3月12日日曜日

哭声/コクソン



<あらすじ>
平和なある村にやってきた、得体の知れないよそ者の男。
男が何の目的でこの村に来たのかは誰も知らない。
村じゅうに男に関する噂が広がる中、
村人が自身の家族を虐殺する事件が多発する。
殺人を犯した村人に共通していたのが、
湿疹でただれた肌に、濁った眼をして、
言葉を発することもできない状態で現場にいることだった。
この事件を担当する村の警官ジョングは、
自分の娘に殺人犯たちと同じ湿疹があることに気付く。
娘を救うためにジョングがよそ者を追い詰めるが、
ョングの行動により村は混乱の渦が巻き起こってしまう。
映画.comより)

チェイサー哀しき獣のナ・ホンジン監督最新作。
とにかく國村隼が怖いというのは
Webで読んでいたんですが、
それはあくまで本作のピースの1つでしかなく、
とんでもない映画を見た感触が
見終わってからずっと拭えませんでした。
素晴らしい作品を見ると「傑作!」と
すぐに言いたくなりますが、
本作はディケイド単位の傑作!

※ここからは完全にネタバレして書きます。

新約聖書の意味深な引用、
雄大な自然のロングショットと釣りに勤しむ國村隼。
なんだか嫌な予感がするんですが、
それは杞憂だと言わんばかりに
主人公ジョングと家族の日常から本格的に映画が始まります。
本作では笑わせる部分がとても多くて、
前半はとくにギャグが冴えまくりで楽しい。
ジョングの愉快な太っちょとしての立ち振る舞いが
警察官で巡査部長なのに臆病で、
いちいち笑わせてくれました。
(派出所での停電シーンのベタなおびえ方!)
カットをパッと切り替える見せ方が冴えていて、
冒頭の「朝飯食うんかい!」と
「めっちゃ石投げるやん!」は声だして笑ってしまいました。
楽しい場面もあるんだけど、
起こっている事態はあまりに謎で奇怪。
このギャップがたまらなくオモシロいんですよねー
最初の事件現場で手錠されている
犯人の姿からしてもう。。。って感じで。
犯人の血液からキノコの幻覚成分が検出されたことで、
事件は解決したかの様に見えたものの、
陰惨な殺人事件が田舎街で立て続けに起こっていく。
そして、その犯人が山間に住む謎の日本人では?
という流れになりジョングと國村隼が初めて邂逅。
ここに至るまでに何回もインサートされた、
國村隼がふんどし一丁で山中を走り回り、
動物の生肉にかぶりついている姿が
脳にこびりついて離れない。
そこに彼の家の中のおぞましさが加わって、
恐怖がどんどん増長してく。
はっきり言って、本作で展開される事態は
友人から聞かされたら、「そんなバカな」で
片付けられるぐらい荒唐無稽な話なんですよね。
にも関わらず、これだけ没入させてくれるのは
嫌な予感の積み重ねが本当に丁寧で、
その積み重ねの1つ1つがストーリーに
帰結していくからだと思うんですよね。
ジョングの娘が変化していく様がその最たる例。
國村隼の家で靴が見つかってから、
時間をかけて彼女にふりかかる呪いの怖さが膨らんでいく。
ここで子どもを選ぶナ・ホンジンの容赦なさに震えるし、
それにあまりある応えっぷりを見せる子役も凄まじい。
本作をまとめる言葉として、
「オカルトサスペンス」という言葉が
一部で使われているのを目にしましたが、
そんな甘っちょろい世界観ではないことは
見た人には分かってもらえると思います。
もっと広い範囲にリーチしていると思っていて、
普遍的な目に見えない不可抗力が
映画に浮かび上がっていました。
その点における最大の見せ場が、
中盤で登場する祈祷師と國村隼の戦い。
ハリーポッターばりの世界観なんだけど、
あまりに異様過ぎて言葉を失う。
祈りの演出、音楽すべてが圧倒的な力を示す中、
娘の言う通り祈祷をやめるべきなのか、
それとも呪いを解くために堪えるべきなのか?
究極の選択を迫られる主人公の辛さ。
前半にあんだけヘラヘラしてたジョングが
ドンドン追い込まれていく姿は見ていて辛いけど、
グイグイ映画に引き込まれました。
終盤、ジョング、國村隼、石なげの女の子、祈祷師の
四つ巴となってからは何が真実なのか分からなくなる。
ルックの面で言えば、四つ巴のキッカケとなる山間での
チェイスシーンが超カッコ良かったし、
祈祷師の盛大なゲロは僕が今まで見た映画の中で、
最多量だったので目ん玉ひんむきました。
さらにキリスト教にフォーカスがあたり、
もう十分お腹いっぱいなのに、
宗教の要素が入ってきてさらに考えさせられる。
キリスト教は救済の宗教だけど、
目の前の事態に対しては、「沈黙」していることは、
スコセッシが描いたことが記憶に新しいですが、
ナ・ホンジンもキリスト教の無力さを描いていました。
(2人ともペトロの否認を引用している点でも共通)
誰が本当のことを言っているか分からない、
極限状態のところは胸が張り裂けそうになるし、
これまでのナ・ホンジン監督の作品を見ていれば、
考えうる限り最悪の事態が起こることは
ある程度想像つくがゆえにまた辛い訳です。
哀しき獣でも終盤ストーリーをかき混ぜていましたが、
本作でも一体誰が何だったのか、
という核心の部分を濁すあたりにシビレてしまいました。
最近、韓国映画から遠ざかっていたので、
DVD借りて色々ディグしていきたい!

2017年3月9日木曜日

クヒオ大佐



こないだ舞台を見に行ったときにもらった、
フライヤーの中でひときわ目を引かれたのがこれ。


宮沢りえ×吉田大八という紙の月コンビで、
実在したクヒオ大佐を題材に舞台が始まるんですが、
本作はその吉田大八監督が
同じ題材で2009年に撮った映画です。
超トリッキーな作りながら、
嘘を巡る物語がとてもオモシロかったです。
実際の事件をベースにするとリアリティを
どれだけ高められるか、という方向に向かいがちだけど、
本作は真逆で現実から拡張していく
フィクションのオモシロさが炸裂していました。
主人公のクヒオ大佐は結婚詐欺師で、
アメリカ人パイロットになりきって
女性からお金を騙し取って生きています。
詐欺師が主人公の映画は、
詐欺師のテクニック自体は隙が無く、
自分以外の外的要因から立場が危うくなって、
嘘を突き通して逃げ切れるか?というところが
見所になっていることが多いと思います。
しかし本作では最初は彼の嘘の巧みさに
なるほどなーと感心するんですが、
途中から「あれ、こいつ…?」という綻びが
ボロボロと出てきて自滅していく。
その姿がめちゃくちゃオモシロいんですよねぇ。
本人は本気なんだけど、少し客観的に見れば、
バレバレやん!っていう。
クヒオ大佐を演じるのは堺雅人。
映画よりもドラマが主戦場というイメージが強いんですが、
僕が見た彼の出演した映画は、
南国料理人その夜の侍と好きな作品が多いので、
他の出演作も見てみたくなりました。
(新井博文との掛け合い最高!)
嘘も思い込むと真実に…という
世界が歪んでしまう切なさが
ラストに用意されていて、
ヘラヘラ見てたこちらがドキッとしてしまった。
さらに嘘と建前への話から日本とアメリカの関係性を
クヒオ大佐と女性で見せるというアクロバティックさ。
吉田監督は桐島〜以前の作品は見ていないので、
これからチェックしていきたいなー

2017年3月7日火曜日

八月の路上に捨てる

八月の路上に捨てる (文春文庫)

最近、ノンフィクションばっかり読んでいるので、
ここらで軽く小説でも挟もうと思って読みました。
伊藤たかみという人の作品で、
タイトル作で芥川賞を受賞しています。
3つの話が収録されていましたが、
どれも夫婦を描いた作品でオモシロかったです。
タイトル作を読んで思い出したのは、
現在話題沸騰中のカルテットも手掛けている、
坂元裕二が手掛けた最高の離婚というドラマ。
主人公の職業が自動販売機の管理だし、
離婚にまつわる話だし、っていうだけなんですが…
夫婦間の生々しい離婚に至るまでの過程が、
克明に刻まれていて胸が痛くなりました。
あともう1つ思い出したのはラ・ラ・ランド。
ラ・ラ・ランドでは恋を追うのではなく、
夢を追うことを肯定していた訳ですが、
本作では同じ様に恋愛(結婚)と夢を追うことを
並行して描いているんですが、
夢を追うことの残酷さにフォーカスしていました。
僕が震えたのは、奥さんがアナウンサーの教材を
ある日突然買ってきてアナウンスの練習を始める描写。
もはや軽いホラーの領域なんですが、
自分の存在意義を確かめることって必要だし、
他人事とは思えないなーと。
津村記久子さんが解説を担当しているんですが、
主人公の職業からの語り口がめちゃ素晴らしかった!
グッときたラインを引用しておきます。

仕事も結婚生活も、それがどれだけ世間に対して、
不可視的で、不成功なものに終わったとしても、
携わる人々は常に本気であり、
誰にもそれを否定する権利はないのだ。

トリプル9 -裏切りのコード-



去年、劇場で見ようと思ったけど見逃した系。
予告編でケーパーものかーと思っていましたが、
さらに汚職警官ものであるという、
好きな要素多めで楽しみました。
キャストがとても豪華で、
映画、海外ドラマでメインキャストとなる
メンツが出し惜しみなしでクルーを組んで
銀行強盗を行うオープニングはかなり好きでした。
ロシアンマフィアと警官汚職の話を
並行して描きながら、上記のキャスト陣が
どういった人間なのかも説明しなきゃいけなくて、
そこがあまり上手ではなかったところが残念。
あと個人的に死んで欲しくなかった人が、
いの一番に死んでしまうのも勿体ないなーと。
アトランタが舞台なんですが、
最近のMigosの大活躍っぷりとか、
Outcastのイメージでご機嫌な土地柄なのかと
勝手に思っていたんですが、
なかなかのハーコー描写の数々にはビックリしました。
アトランタが舞台なので、
当然Migosの曲がかかってはいるものの、
劇中で一番フォーカスされてるはサイプレス・ヒル!
ストリップクラブでかかるし、
エンディングでは同じ曲の
リミックスがかかる徹底っぷりでした。



ラストの裏切りに次ぐ裏切りの応酬は
見ていてかなり歯応えあって好きでした。

国道20号線



バンコクナイツ公開記念ということで、
新宿のK's Cinemaで空族の映画が特集されていて、
全部は見れないので本作を見ました。
なぜ本作なのかと言えば、
田我流の1stアルバム「作品集- just-」に
スキットで本作の音声が使われているから。
これまで見たサウダーヂ、バンコクナイツは
長い尺で心身ともに映画に没入させられる
タイプの映画ですが、本作は尺が短めながら、
鋭い切れ味の映画だなーと思いました。
国道20号線が象徴のように登場し、
その付近に住む男女2人組が主人公で、
2人とその周りの人びとの日常を描いています。
日常とはいうものの、
2人組は毎日スロットしてて、シンナー吸いまくりだし、
ゴルフクラブの押し売り、シャブ中、闇金などなど、
少なくとも僕の日常とは乖離している。
闇金ウシジマくんのようなドラマティックなことはなく、
ただただヒリヒリした毎日がそこにあるだけっていう、
かなりドライな内容。
しかし、そこを役者陣と撮影の力で
結果的にウェットな仕上がりになってました。
役者陣は芝居が上手という話ではなく、
実在感で勝負しているところが空族の映画が
多分に魅力的に見える部分だと思います。
地方のヤンキーと言われて思い描く、
そのままの人物像がスクリーンに映し出されていました。
(Can you celebrate?のカラオケシーン最高)
また撮影は2007年の作品ですが16mmで撮っているため、
時代をトリップしてる感じが見てて楽しかったです。
今やどの地方にいっても、
国道沿いは同じような光景が繰り広げられていて、
それに対してクリティカルな姿勢を取りたくなりつつも、
実際に住む人は便利だからいいのか…
と逡巡するのがここ最近僕が考えることです。
この病んだ状況ここだけじゃねーな!

THE 4TH KIND フォース・カインド


FALCON a.k.a NEVER ENDING ONELOOP
というビートメイカーのCDを最近よく聞いているんですが、
そのインタビューで登場した映画→リンク
(FALCONは田我流のビートメイク名義と思われる)
いわゆる宇宙人遭遇ものなんですが、
ファウンド・フッテージ×モキュメンタリーな作りで、
とても楽しかったです。
子どもの頃見てたゴールデンタイムで
放送されていたX-FILEをレミニス。
映画始まってすぐにミラジョボビッチが、
本人として登場し、わざわざ彼女の口から
「本当にあったことです」と語られる。
アラスカのノームという街で
行方不明が多発していて、
主人公のミラジョボビッチ演じるタイラー博士が
その真相に心理学(催眠術)を使って迫っていくという話。
ドキュメンタリー部分と再現映像の混ぜ方が、
とてもオモシロくて怖かったです。。
特にスプリットスクリーンを使った対比によって、
観客側の半信半疑の気持ちを揺さぶってくる。
僕はこういったSF系あんまり見れていませんが、
一番「宇宙人いるかも…?」と思わされました。
あと実際のタイラー博士から放たれる
マッドネスが尋常じゃなくて驚きました。
真実はあなたの心の中に。

2017年3月4日土曜日

バンコクナイツ



<あらすじ>
バンコクにある日本人専門の歓楽街タニヤ通り。
タイの東北地方イサーンから出稼ぎに来て5年になるラックは、
現在は人気店「人魚」のトップにのぼりつめ、
ヒモの日本人男性ピンを連れ回し
贅沢な生活を送る一方で、
故郷の家族に仕送りをしていた。
ある晩、ラックはかつての恋人である
元自衛隊員オザワと5年ぶりに再会する。
ラックとオザワはそれぞれの思いを
胸に秘めながらバンコクを離れ、
ラオスとの国境にあるラックの故郷へ向かうが…
映画.comより)

サウダーヂを手掛けた映像制作集団空族最新作。
スタジオ石が撮影を担当していることもあったし、
VIDEOTAPEMUSIC×sakamoto shintaroの
サントラ12inchも購入していたので楽しみにしてました。
サウダーヂの世界がさらに拡大したような内容で、
グローバリゼーションの空気を感じる映画体験でした。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

上映時間は約3時間と比較的長めなんですが、
体感時間はそこまで長くなかったです。
詰め込み系の映画でもなく、
この体感時間の短さはなんなのかなーと思いましたが、
僕は登場人物たちへの興味の持続によるのかなと
見終わった後に感じました。
とくに主人公のラックが本作最大の魅力。
彼女の一挙手一投足が見逃せない。
それは見た目の美しさもありますが、
もともと地方の子が出稼ぎで都会にやってきて。
そこで体はって金を稼ぎ家族に仕送りするという、
サバイブする姿がとてもたくましいからだと思います。
バンコクのタニヤという歓楽街が舞台なんですが、
日本の場末のスナック街に見えて既視感が凄い。
そこのメインの客は日本人で、
キャバクラで働く彼女たちも日本語を話す。
海外で日本人が商売でターゲットになるというのは、
見聞きしたことはあるけれど、
実際に映像で見るとインパクトが強かったです。
とくにキャバクラのシーンはどれも強烈で、
大量の女の子が待機している状態で、
そこから選ぶというダイレクトなシステムだったり、
中島美嘉「雪の華」のカラオケのシュールさなど、
知らない世界を覗き見る楽しみがありました。
さらにタイ語で話す際の字幕が山梨弁!
(東京ポッド許可局で話題になった
「て」も出てきて個人的にテンション上がった)
海外映画の字幕で日本語の方言を使って、
ニュアンス、ノリを伝えるっていうのは、
フレッシュだなーと思いました。
あとバンコクの夜の街の美しさも素晴らしくて、
夜がかっこよく、美しく見えるだけで
僕はそこに映画の価値があると思っているので。
スタジオ石さすが!の仕事だと思います。
もう1人の主人公である
ラックの恋人であるオザワを演じるのは冨田克之監督。
彼以外の日本人の登場人物がバンコクで暗躍する、
悪そうな男たちばかりで、
彼の朴訥なスタンスがグッとくるし、
真面目なんだろうなというのが伝わってくる。
中盤、オザワとラックのロードームービーになるんですが、
ここはバンコクと打って変わってザ・田舎で、
ラックが故郷に抱える苦悩を描きます。
とくにお母さんのシーンが強烈で、
とてつもなく大きい家でシャブやってて、
やたらとコーラ飲むっていう。。
一方のオザワはラックの田舎に魅了される。
都会で疲弊して地方に魅了される感覚って、
共感できるなーと思いつつ、
それはたまに行くからだよなと思い返したり。
村社会にいきなり入れないことが
ラックの家族を見ているとよく分かる作りでした。
オザワは単身ラオスへビジネスのために行くんですが、
そこで遭遇するのが地元のギャング集団で、
ヘッドを務めるのはラッパーの田我流!
このシーンが本当にとてつもなかった!
ベトナム戦争がフラッシュバックするようなシーンは
そこまで少しずつ織り交ぜられてたんですが、
強烈な爆発音とベトナム戦争の爆撃の跡を
空撮で押さえたショットが超絶カッコよかった!
(爆発音なのに音が割れていない処理に感動!)
空族の映画は軒並み未ソフト化で映画館でしか見れないんですが、
この体験は映画館でしか味わえないなーと納得。
他のstillichimiyaの面々もカメオ出演しているのも楽しくて、
ラックにどつかれるMr.麿が個人的にはアツかったです。
本作って結局なんだったっけ?という夢のような部分と、
強烈にリアリスティックな部分が
最高のバランスで結晶化している作品だと思います。
それは都会と地方と言い換えてもいいのかもしれません。
本作のバンコクの風景を見ると、
画一化していく世界を目撃することになるし、
それに対して抗う空族の映画は今の時代にこそ響く。