2020年1月28日火曜日

燃え上がる緑の木

「救い主」が殴られるまで
 
第一部
 四国のある村で立ち上がっていく新興宗教の話。独特の英語表記、鉤括弧を使わない会話表現など文体として取っつきにくい部分はあるものの、ストーリーの駆動力が強くグイグイ読めた。日本は宗教の概念が希薄なので信仰する気持ちを理解しにくいと思う。その中で、この小説は信仰の発生/終焉/再生を描いており興味深かった。
 まだ残り2巻もあるので総論的なことは言えないにしても一番オモシロかったのは「一瞬よりはいくらか長く続く間」というフレーズに基づいた説法。宇宙の時間スケールで見て自分の人生を相対化する。死んだ後に流れる時間と死ぬ前に流れた時間は等価ではないか。詭弁のようにも思えるけど、こうやって人間は実態のないものに振り回されながら生きていくしかない。
 スピリチュアルな要素は少ないにも関わらず、徐々に大きな意思の存在が確からしいものになるのが著者の筆力なんだろうか。それぞれ役割を持ってそうな職業/特徴の人々が信じることで始まろうとするボトムアップ型の宗教。教祖の施しと人智を超えたものがすれ違う偶然の交差点、それが宗教/信仰の震源地であることがよく理解できた。

揺れ動く(ヴァシレーション)

第二部
 治癒能力の欠如でインチキ扱いされたところから再興する新興宗教の話。文体の独特さは慣れるとクセになる感じで読みにくさも全くないし、それよりも物語がグイグイとドライブしていくところに惹きつけられた。
 とくに教祖であるギー兄さんの父親である死期間近な総領事、ギー兄さんの糺弾者だったものの、心を変えて信仰し始めた亀井。この2人のおじさんの立ち振る舞いがオモシロい。それは2人が宗教に対して懐疑的なスタンスから、どっぷりハマるところまで駆け抜けて行くから。
日本人の宗教との距離感を前提にしているので、これなら信仰するかもしれないという納得できる雰囲気があるからこそ説得力があった。お祈りのことを「集中」と呼び、偶像崇拝ではなく祈りの言葉がなかったり。
 そこそこfeelするなーと思ったところで、ある人から指摘される中心の空洞、究極的な責任者の不在=天皇制だよねという議論が展開。社会において、いつも責任者が不在となるのは、天皇制に端を発するとも読みとれるような内容でスリリング。そもそも神様って必要なんだっけ、勝手に出てくるだろ、わざわざ空洞を埋めなくていい。というのも日本ぽい。
 アイルランドの詩人イェーツを多く引用し、彼の言葉が思想のベースになっていく過程がオモシロかった。とくにサブタイトルにもなっている” vacillation ”2つの極値を揺れ動いて生きていくのが人生、という解釈のあたりはグレイが許されない白黒社会を生き抜いていく上では役に立つ思想なのかもしれない。揺れているからこそ人間だ。

大いなる日に

第三部
 新興宗教が最大まで膨張した結果、そこから萎んでいく過程を描いた3冊目。前半は物語の語り手である両性具有のサッチャンが記録者としての客観的立場ではなくなっている。自分が特別な存在だと思っていたのに、それが裏切られた結果、存在価値を追い求めて、ひたすら自暴自棄に生きていく姿が読んでいて痛々しかった。その中でギー兄さんが両膝を潰されてしまう事件が発生。ますます「救い主」として神格化は進み、組織が大きくなる一方で、教団間での軋轢や教団の対外的なポジションの難しさなど課題が山積していく。それらに対する各自の所感、対処方法がドラマになっていて、お決まりの過激派と穏健派の覇権争いがオモシロかった。
 ギー兄さんは特に自分の意志とは関係なく教会の中心に据えられて、皆の崇拝の対象となる人生を余儀なくされる。自分のコントロールが効かないまま流されていくしかない人生は虚しいものなのかもしれない。喜んで世襲に乗っかる人もたくさんいるけれど、たとえば天皇制は?という疑問も沸く。大きな意思を大事にしすぎてもしょうがないという著者の思いを感じた。
 原発が1つのテーマとして大きくフィーチャー、当時から明確にNOを示していて、311以降の今読むと小説とはいえ大江健三郎の言葉としてグサグサ刺さる。今生きている我々は次の世代に渡すバトンをあくまで持っているだけ、と言われると環境問題などのタイムスケールの大きいことも身近に考えられる気がする。先ほどの大きな意思がここでは重要視されている。特定の対象を偶像崇拝せずに世界全体の未来を考えて行動することを信仰と呼ぶのなら、信仰することも悪くないのかもしれない。
 あとがきにも書かれているとおり、身もふたもない言い方すれば本作は新興宗教の栄枯盛衰物語だけれどそんな矮小化されたものではない。仏教ベース/ほぼ無宗教に日本において祈ることの意味がどこにあるのか、そもそも何に対して祈るのか?を問うてくる小説。最後に本読みとして刺さったパンチラインを引用しておく。

本に出会うことの幸不幸ということを話しておきたいんだ。運と不運といった方がさらに正しいかもしれない。本にジャストミートするかたちで出会うことは、読む当人がなしとげる仕業というほかないんだね。選び方もあるし、時期もある。たまたま貰った本にジャストミートすることもあるし、自分が買って来た本で書棚にしまっておいたのが、ある日、ということもある。

2020年1月23日木曜日

2020年1月 第3週

ここ1週間新婚旅行でメキシコ&アメリカに行っていた。
メキシコはカンクンのリゾートで、
ひたすら食って酒飲んで寝て、
プール入って本読んでの無限ループ。
これが極楽か〜という生活を送った。
一方、アメリカではディズニーワールドを
タイトな日程でぶっかまして完全廃人モード。
何とか今日から社会にバッカゲンしました。
定期的に長い期間休みとって出かけたいところです。
旅の道中で接したものを紹介します。

映画
飛行機で映画見るのそんなに好きではないので、
軽めにゾンビランド:ダブルタップを見た。
最初の10分、Youtubeで見れる。太っ腹。



支離滅裂で適当であればあるほど魅力が増していく。
一番アガったのは
ソーシャルネットワークのジェシー・アイゼンバーグ
シリコンバレーのトーマス・ミドルディッチが対面したこと。
新旧テック映画とドラマの共演。
ギーク同士の共鳴の描き方も最高。
銃社会の在り方という真面目な問いも
終盤に用意されているのだけど、
結局ぶっ放して全部おじゃんにしちゃうあたりも、
普通の映画なら大幅にテン下げすると思うけど、
そもそもこの映画に高尚なことを期待すること自体、
お門違いなんですね、と変に納得した。


移動中およびプールサイドでグイグイ読めた。
今年冒頭から良き読書体験連発で嬉しみ。


最高の任務
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乗代 雄介
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紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)
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詳しくはブクログをご参考くださいませ。

音楽
新譜、色々リリース始まっていて
なかでも旅行中繰り返し聞いたのは
Circles/Mac Miller、RYC/Muramasaだった。
2枚とも旅情を誘うというか、
飛行機での移動中やホテルで聞くと
人生は有限で楽しまねばならぬ。そんな気持ちになった。



亡くなってからの初めてのリリース。
アウトテイク系ではなく亡くなる前まで
制作していたアルバムをMacの家族からの依頼で、
Swimmingで共作していたJohn Brionが作品として完成させた。
John Brionは映画のサントラ作家として有名で、
近年でいえばLady Birdのサントラも彼の仕事。
前作のSwimmingのメロウな流れをさらに加速させていて、
むちゃくちゃ好きなアルバムだった。
一ラッパーからミュージシャンになっていくところで
亡くなってしまったことが悔やまれる。
もともと1作目はrap+song、2作目はsong、3作目はrap
という三部作を予定していたらしく今回はまさにsongだった。
Macが自分で作っていた曲がいくつかあり、
その中のI Can Seeのコーラスが
Ariana Grandeかも?というサプライズもあった。
歌詞も死ぬことが分かっていたのかというくらいに、
エモーショナルでかっこいい。
NY TimesのJohn Brionへのインタビュー
上記の内容を説明していたし、
Apple MusicではZane Loweが詳しくヒアリングした内容が、
Webに公開されていた→リンク Youtubeでもその様子は見れる。
終始、彼がこみ上げるものを抑えているように見えて、
それでまた悲しい気持ちになった。





これは完全にエモだった。
23歳の若者がこんな音楽を作っていることに驚くし、
ノスタルジーから見えるその先、
というテーマはフレッシュに思う。
なぜならノスタルジーは悪とされがちなので。
インタビューでのこれらの発言がクリティカル。

“So the wider message of the album [is] 
that nostalgia is a good way of learning from the past, 
and using it to find some sort of joy in this quite difficult territory 
that we’re in now, socially, politically and whatever else.”

“I wanted to write an album about nostalgia,
and noticing that people my age are very heavily reliant on 
throwback things,” he explains. 
“#tbt, ‘you’re not a nineties kid you don’t remember this’, 
every film now is a reboot…we’re caught in this weird era where,
 because of what’s happened with digital integration, 
nothing is over anymore. It just gets recycled, 
and exists in some cloud server forever. 
I think it’s given us a real sense of cultural and shared nostalgia, 
and I wanted to explore that.”

ギターを大きくフィチャーしていて、
それがノスタルジーのキーだとも言っていた。
これでFeatに過去の人を呼んできたらイケてないけど、
Clairo, Georgia, slowthaiといった新しいタレントを
ゲストに迎えているところがかっこいいところ。
また本人がボーカルで歌っている曲も多く、
誰かに歌ってもらうのではなく
自分の声で伝えたいという気持ちの表れだろう。
今回のアルバムの曲をライブでやるために
バンドを組んでいるらしく生で見たい。
そこで若者たちが飛び跳ねているところも見たい。

2020年1月12日日曜日

2020年1月 第2週

仕事始まって早々に胃腸炎に罹患してしまい、
自分の不甲斐なさにうんざりしつつ、
本をたくさん読めてよかった。(サボりすぎ…)
世の中は大変物騒なことになっており、
すわ、戦争か!という空気が漂っていたものの、
今はだいぶ落ち着いて良かったなと素直に思う。
こういうときに何か言うのか、言わないのか、
という内容をSNSで散見した。
FBでの情報操作を筆頭に悪い方向での
echo chamberがメディアで取り上げられがちだけど、
良い方向でのecho chamberもあるのでは?と思っている。
ポピュリズムとこの辺の現象を絡めて、
丁寧に解説している本を読みたいですね。
今週はたまたまworking classがテーマのものに多く接していた。

映画
「わたしは、ダニエル・ブレイク」をNETFLIXで見た。



社会福祉のあり方をめちゃくちゃシビアに描いた映画で、
見ていて心が何度も苦しくなった。
初めてのケン・ローチ監督作品。
ずっと曇天のイギリス、ニューカッスルを舞台に
役所に振り回される恒例の老人の話で
それがオモシロくなっているのは監督の手腕なんだろうな。
自己責任論の台頭は日本に限らず、
資本主義国家ではどこでも顕在化しているのだなと知れた。
働かざる者食うべからず。という言葉の響きはいいが、
それが上手くいかなくてがんじがらめになるのは
誰のせいなんだ?国がある意味とは?
良くないことが色々と発生するけれど、
誰も悪くないのが切ない。
人間が自分たちで構築したシステムで、
自ら首を絞めている様を見ているようだった。
残酷な社会の中でも各人のギリギリの良心が
垣間見えるシーンが用意されていて、
それで多少は救われた。
逆にその臨界点ギリギリを超えてしまう、
フードバンクでの2人の子供の母親であるケイティの振る舞いは、
これまで見た映画でもトップクラスにしんどかった。
それぞれの得意なところを生かして、
ラストなんとか辿り着く直前に…世の中は残酷。
これはフィクションかもしれないけれど、
今起こっていることだという主張を強く感じた。


秋葉原事件 加藤智大の軌跡 (朝日文庫)
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聖なるズー (集英社学芸単行本)
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やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)
滝口 悠生
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CONFUSED! (ビームコミックス)
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病で床に伏せていたので結構読んだ。
どれもめちゃくちゃオモシロかった。
詳細はブクログ参照。

音楽
The Circus/Mick Jenkinsが今週の1枚。



派手じゃないけど渋くてかっこいい。
先行シングル CarefreeはBlackmilkがプロデュース。
MVもリリースされていて、そこからも分かるように
アフリカンアメリカンが警察からの当たりが強くて、
生きにくいことをシニカルにラップしている。

If you living carefree then you probably don't look like us

EARTHGANGをfeatに迎えたThe Lightも好き。
作家性強いラッパーだと思うけど、
EPでサクッとしているのも時代なのか。
で、あとはシングル。
Life is good/Future Feat. Drake
何回目かのコンビネーション。
MVで2人がいろんな仕事に従事しているのオモシロい。
全カット、ミームになりそうな勢い。
最近よくあるトラック違うパターンのやつで、
個人的にはDrakeの方が好きだった。



Underdog/Alicia Keys
Ed Sheeran周りがProduceしている、
次のアルバムからの先行カットとのこと。
タイトルどおりこれもworkers classから
rise upしようぜという曲。
Aliciaはエモい曲を歌うと本当に映える。



あとMac Millerのアルバム「Circle」が
来週リリースされるにあたり、
先行シングルで出たGood Newsも良かった。



リリックを読んでいると亡くなったことが悲しくなる。

I'll finally discover 
That there's a whole lot more for me waitin'

Swimmingと対を為すらしいCircle、超楽しみ。

2020年1月8日水曜日

やがて忘れる過程の途中

 

やがて忘れる過程の途中/滝口悠生

 アイオワ大学のInternational Writing Program(IWP)という作家留学プログラムに参加した著者が各国の作家とアイオワで過ごした日々を綴った日記。もともとfavoriteな作家とはいえ、とてもエモーショナルな作品でオモシロかった。
 出自が異なるのはもちろん、小説家、詩人、劇作家など様々なバックグラウンドを持っている人たちと共同生活する中で見えてくる考え、景色がとにかく興味深い。初めは緊張感のあるところから徐々に打ち解けて特定の友人関係が形成されていく過程を日記で読めるのはなかなかないと思う。
 海外に行くことで客観的に自分のことを考えざるを得ない場面が多く書かれており、ライター同士の英語の議論が理解できなかったり、翻訳する際の微妙な意味の差異に敏感になっていたり。著者の英語に関する葛藤は同じように思うことが多く、おおいに共鳴した。英語が理解できるようになったときにアクセスできる情報が何倍にもなることを本著を読み改めて痛感する。なぜなら正直に「英語が分からない」と書き、分からないことがどういうことなのか?真摯に自分と向き合っている様も日記として綴っているからだ。
 日々リーディングプログラムなどに参加しているものの、日記から垣間見えたのは、良い意味でのモラトリアム(=アオハル)だということ。前半は終わりのない緩やかな日常でオモシロく、読み進めるにつれて他国のライターたちのパーソナリティも知ることになり終盤別れの場面のエモーショナルさは相当グッときた。モラトリアムは終わってしまえば「やがて忘れる過程の途中」となるのであるというタイトルが効いてくるし、表紙の絵も意味も最後まで読んで明らかになる仕掛けもよかった。That's life.

2020年1月6日月曜日

聖なるズー

聖なるズー/濱野ちひろ

 久々に価値観がぶっ飛ばされる読書体験だった。読む前と読んだ後で世界が違って見える。動物とのセックスと聞けば嫌悪感を示す人が大多数でしょう。私もそうでした。しかし著者がセックスを含めた「動物を愛すること」について丁寧に取材した結果から浮き彫りになる事実がかなり論理立っているため、動物の性欲について認識を改めざるを得ない。言われてみれば当たり前なんだけど動物にも性欲が存在して、それを受け止めるのが同種の動物なのか異種の人間なのか、それだけでしかない。
 では、なぜ嫌悪感を持ってしまうか?それはペット自体がどれだけ年を取ろうとも、人間はペットのことを子どもと認識しているから。(ペットの去勢文化も影響している)その結果ペドフィリアと同一視されてしまう。逆に動物性愛者の多くはセックスを伴うか伴わないかに問わず、動物を成熟した存在と考えて、水を飲みたい、食事をしたいと同じように性欲に対して自然に接している。それはある種保守的とも言える愛の形であるというのが、「1周まわってそうなる?!」といった驚きがある。
 ズーフィリアと呼ばれる動物性愛者からなるドイツの団体セータに所属するメンバーを中心に、彼らの家に一定期間宿泊し紋切型のインタビューに陥らない形で引き出した様々な証言が上記で述べた著者の見解をどんどん紡いでいく過程がスリリングだった。
 そして本著は「動物とのセックス」という矮小化された「ゲテモノ」扱いされるような本ではなく、もっと広く、セックスとは?愛とは?という議論にまでリーチしているところが興味深い。それはひとえ冒頭でカミングアウトされる著者の背景があってこそ。これだけ身を切って書かれたノンフィクションは読んだことがない。

2020年1月 第1週

日別に日記をつけること、それはそれで意味があって
オモシロいと思い約2年ほど書いてきた。
しかし、そこまで日常を微分できなくなっており、
振り返っても読み切れない。
ということで振り返りやすく、
もう少しログを取るという認識で
今年はブログを運営してみようかと思います。
そういう意味では各種SNSは有用で
ハブとしてTwitterを久々に使い始めた。
今のところはいい感じだけど、
諸々リリース量が多くなると回らなくする気もしている…
とりあえずやれるところまでやってみたい。

映画
久々に年始東京にいて、
元旦/2日と映画を見に行ったけれど、
道中、お盆とか比べものにならないくらい、
人がいなくて快適だった。
見たのはスターウォーズとパラサイト。
スターウォーズはほぼoldファン向けの接待かつ、
フォースの拡大解釈でお茶を濁しつつ終わっていった印象。
戦闘シーンはさすがのJJでエピソード8に比べたら
迫力あったし随分オモシロかった。
ただスカイウォーカー・サーガの
エンディングがこれかと思うと、
そこまで思い入れないけど複雑な気持ちに…
この作品をもって、
それぞれのスターウォーズ史観ができたと思うので、
色んな人の意見を聞いたみたいなと思う。
対照的に「パラサイト」はすべてが超フレッシュで
めちゃくちゃオモシロかった。


これを超える映画に今年出会えるのだろうか。
ネタバレしないでね!と上映前に監督であるポンジュノから
直々に言われているので詳細は語りませんが、
「スノーピアサー」好きとしてはアガるしかなかった。
水平から垂直へ、格差社会はそこにある…ここまでにしましょう。
僕の友達でこれを読んでいる人は全員見てほしい。
ストリーミングでは「マリッジ・ストーリー」
「1987、ある闘いの真実」を見ました。
2つとも圧巻の出来で正月は、
オモシロい映画しか見ていない。幸福。

今年は読書の年にしようと思い、
隙間時間および家にいるときも読書している。
今週は年末にセールで買った、
「折りたたみ北京」を読了。





レビューはブクログにつけた→リンク
ブクログ、旧世代SNSとして牧歌的な感じが逆に良い。

音楽
新譜のリリースがないので
去年のベストとか見たりして聞いていた。
その中ではKiwanuka/Michael Kiwanukaが
めちゃくちゃかっこいい。


ビンテージソウルの雰囲気をまといつつ、
ジミヘンの要素も含んでいて
全方位に強いブラックミュージックといった感じ。
前作のLove&HateからDanger Mouseが
producerとして参加しており、
そのおかげか温故知新が達成されて、
古臭くないサウンドになっていると思う。
(1STはその古臭さが評価されたのかもしれなが)
政治と音楽がHeroという曲で表現されており、
警察に暗殺されたFred Hamptonという
ブラックパンサー党のactivistと、
最近のBlack Lives Matterを絡めたオマージュとなっている。
(今回初めて知ったけどKendrick Lamar、
Jay-Z、Rick Rossも彼のことを曲で引用している模様)
ラップに限らず歌だとしても
自分の態度を示してるのはかっこいい。
では日本では?という問いにはMOMENT JOONと答えよう。
Youtubeで公開されたTENO HIRAが素晴らしかった。


日本でぶっちぎりにHIPHOPやってる。
“俺の英雄は二度と死なせない”
とECDのことを歌えるラッパーは、
あと日本にどれだけいるだろうか。
わずかだけど一緒にやっていたというのもあるし、
胸糞悪いラッパーの素行の数々が目に付くからこそ、
真剣に向き合っている彼みたいなラッパーこそ成功して欲しい。

2020年1月2日木曜日

2019年12月 第4週

12月23日
ZION IV/9th wonderで出社。



1分くらいのが山ほど入っているタイプのbeat tape。
雑なサンプルの組み方のものもあれば、
うおーっ!となる曲もあったりで玉石混交。
シンガーのSmittyが参加しているCan’t breathがめっちゃ好き。
夜、納会的なものが社内で開催されたので一応参加した。
立食でめっちゃ面倒な感じだったので、
食べるだけ食べ、飲めるだけ飲んでそそくさと退散。
帰宅してアイス食べながら、
Rhythm+Flowを見ていたところで
選考過程としてラップバトルがあった。
日本のようにフリースタイルではなく
曲にして互いにディスしあうバトル。
参加者たちの多くがバトルを嫌がっているのが印象的だった。
USでも当然バトルの文化は存在するけれど、
それといわゆるHIPHOPシーンは分断していて、
USにおけるHIPHOPの価値観は
アートにかなり近接した自己表現の1つなんだなと思った。
日本だと当たり前やけど同じクルー同士とか尊敬している相手なのに、
悪口言って戦わないといけないのは相当しんどいよなと思う。
しかも今回はcompetitionでお互いライバルという、
比較的イージーな状況でもこの感じなのは意外だった。
バトルして負けた方が落ちるというシステムだったので、
良いラッパーなのに落ちてしまったり、
たいして光るものないのに残っている
ラッパーがいたりで残念な感じだった。
あとTIPと麻生太郎、顔似てる。

12月24日
クリスマスなので自由が丘のレストランで食事した。
毎年家でモスチキンを食べる生活だったけど、
今年はレストラン行きますかーとなってイタリアンを食した。
こじんまりした街のイタリアンだったけど、
とてもおいしかった。また行きたい。

12月25日
息吹(Exhalation)/Ted Chiang を読了。
息吹
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年末駆け込み読書としてはマジで最高の体験だった。
短編集作家でこれが2作目という寡作っぷりなんだけど、
リリースされるものは抜群にオモシロい。
事実の不確かさ、忘却といったテーマが全作品に通底していて、
時代とマッチしつつ、少し先のテクノロジーが合わさることで
読み応えがある素晴らしい作品となっていた。
表題作品の息吹がぶっちぎりに好きだ。
こんなに短い小説でこれだけ心が動かされるようなことがあるだなんて、
本を読む喜びここにあり、と思わされた。
exhalationに「息吹」と意訳したの天才かよ!最高!
動的平衡を早々に読みたくなるような、
すべてフロウしているという話が最高にスリリング。
全体的に題材としているテクノロジー自体は
特別フレッシュではないけど、
どの短編もテクノロジーと人間の関係について、
新鮮な視点の提示がある。
今回はその点が圧巻だなと思う。
冒頭の「商人と錬金術師の門」とかまさにそれ。
あと過去は変えられない、という強い意志も感じる。
SFだと変えてしまったことで
云々みたいな話が多いと思うけど、
彼の中ではかたくなに過去は変えられない。
それが一番顕著なのは「偽りのない事実、偽りのない気持ち」で、
お父さんの過去の認識のずれの件とかめっちゃ辛かったな…
今年の初めにあなたの人生の物語を読んでから、
SFを積極的に読む年として
今年は積極的に古典から新刊まで読んだけど、
これまでと異なる読書体験が多くあったので楽しかった。
来年はどこまで何を読めるだろうか。
帰り道、東京駅周辺で開催されている
イルミネーション行事に遭遇。
光にまとわりつく蛾のごとく、
あまりの人の多さに頭がくらくらする。
丸善で滝口悠生の新刊をゲットして帰宅。

12月26日
年末のにおいしかしなかった。

12月27日
午前中テレワーク。昨日届いた16FLIPのミックスを聞きながら。
良い意味で「らしくない」選曲の連べ打ちで新鮮だった。
てかこの辺も抑えているのかーと思うと興味深い。
最近PUNPEEのラジオに出演した際に発言していたことが
めちゃくちゃオモシロくて、
Boon bap至上主義でもなんでもないと言って、
スネアの音色1つ取ってもトラップの影響を
受けていないとはいえないと。
書き起こしあるので是非読んで見てほしい。

PUNPEEとISSUGI ラップスタイルの変遷を語る

仕事をひっそりと納めて、午後からRhythm+Flowを見終えた。
めちゃくちゃ良かった…HIPHOPは最高の音楽。
オーディションの過程がHIPHOPゲームで
必要な要素が散りばめられているのが肝で、
出場者たちがオーディションが終わったあと、
この番組に関係なく勝ち上がっていく姿が想像できる。
年齢、人種、性別に関係なくかっこよければ、
すべて良しな姿勢もHIPHOPの大事な要素だなと思った。
あとHIPHOPは完全に自己を表現するための、
アートの1つなんですよ、ということを痛感した。
バトルもあったし当然好きだしオモシロいと思うけど、
やっぱりアート、カルチャーとしてのHIPHOPが好き。
HIPHOPがグローバルに拡大した21世紀、
最初に始まったアメリカでの競争は
信じられないくらい厳しいことが
オーディションを見ているとよく分かる。
同じような内容が日本で開催されたときに、
決勝の4人が魅せたようなパフォーマンスが見れるのか。
まだまだそこには開きがあるというか、
get richな気持ちだけではもはや勝てない世界になっている。
出場者の皆が一様に家族を思う気持ちを
正直に吐露しているのがカルチャーギャップとして印象的。
個人的には一番好きだったD Smokeが優勝して嬉しかった。
なかでもサンプリングを使うステージで披露した、
When The Kids Pull upが好きすぎて、、、
めちゃくちゃ泣いてしまった…
音楽的素養が高くてアイデアマンだから、
Kendrickなポジションまで行くかもしれない。
余韻があまりにも強烈だったので、
決勝出場者をApple music で検索すると、
皆しっかりアルバムリリースして、その辺の抜かりなさも
皆が真剣に音楽と向き合っている証拠だなーと感心した。
アルバムで聞くと、Troyman、Flawless Realtalkが良きだった。
前職の会社の人と年末恒例の飲み会。
音楽とか映画とか色んな話をできるのが楽しい。
金の蔵でさっくり飲んだ後に、
ミッケラン→tangleとハシゴして喧騒まみれの渋谷を渡り歩いた。

12月28日
午後、新幹線で移動。B席に大きな豚がいると思ったら、
それは人間だった。A席で圧力を感じつつ、
ノイズキャンセルヘッドホンのおかげで名古屋手前まで爆睡。
寝起きスッキリで、猫のあしあと/町田康を読了。


猫のあしあと (講談社文庫)
町田 康
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町田康を色々と読んでいこうモードで読んでみた。
保護猫を迎えて暮らしていく生活に関するエッセイで、
猫日記とも言える内容でオモシロかった。
自治体に殺処分されるかもしれない猫を
次々に引き受けていき、彼ら彼女らを病院に連れていって、
何とか命を紡いでいく過程が本当に尊い。
猫たちが怯えるのは人間たちにひどい目にあったからで、
その警戒心を日々の生活で解いていく。
オモシロいのは猫たちにセリフを当てているところで、
本作はそこで町田節が発揮されていた。
猫に大阪弁当てるのオモシロい。
最後の方でゲンゾーという猫の話が出てくるのだけど、
そこは泣いてしまった。
命を預かっているという自覚を持たないで
生き物の命に安易に干渉することだけは
絶対に避けなければならない。
ペットというのは決して下僕ではないのである。
そういったことがひしひしと伝わってくるエンディングで、
あとがきも含めてグッときた。
これを読んでいたときに聞いていたのは
Ancestral Recall/Christian Scott aTunde Adjuah



昨日の飲み会で教えてもらって早速聞いてみた。良き。
10年代のジャズを代表するトランペッターのアルバム。
ヘッドホンで聞くとトランペットの
空間的な鳴りをしっかりと味わえる。
こういうジャズ系は作業するときのBGMにはぴったり。
帰宅後、ポッドキャストを収録。実家でポッドキャスト。
今年の本の話をした。本の話をすると本を読みたくなる。

12月29日
昨日収録したポッドキャストの編集したり、
本を読んだりを行ったり来たり。
収録翌日即アップロードスタイル。
夜、久々に先輩と天満で飲んだ。
仕事の話とかエンタメの話とか積もる話を
延々としていたら4時間くらい飲みあげていた。
その後、また別のパイセンの家にお邪魔して、
オールザッツを見るという、
いつかの年末を思い出すような夜だった。
その後、タクシーで大阪の街を走り抜けて泥酔で帰宅。

12月30日
墓参りとおばあちゃんの家に訪問。
毎年恒例の行事だけど今年は奥さんがいるので、
不思議な感覚だった。
おばあちゃんがとても喜んでいるようだったので、
それを見ると天邪鬼な僕でもグッとくることがあった。
気をきかせて幼い頃の写真を用意してくれていて、
それを見るとなぜこんな無邪気な子どもが
ここまでヒネくれた人間になってしまったのか…
と自分で思う不憫さがあった。来年のテーマは素直かな。

12月31日
東京に帰るのは夜の新幹線にしていたので、
奥さんが大阪で行きたいところをブラリすることに。
昼食で食べたのは人類みな麺類というラーメン屋。
死ぬほど寒い中、2時間並んで死ぬかと思った…美味しかったけど。
梅田の阪急とか北浜とか色々行くものの、
人が死ぬほど多いか何も営業していないかのどちらかだった。
最後に予約していたレストランに行くものの、
二人とも疲労困憊で早急に退散。
新幹線の時間を早めて帰京。
大晦日の新幹線はめっちゃ空いていて快適だった。
帰宅後はRIZIN。どの試合も見所だらけで最高だった。
バンタム級戦線はとくにカオス。
ケイプvs扇久保が最優先カードなのか。
朝倉海と堀口の再戦はどうなるのか。
石渡、元谷は好きだから何とか1勝してカムバックして欲しい。
なんとなくチャンネルをザッピングしていたら、
なんとなく2019年が終わっていた。
今年1年、少しでも読んでいただいた
皆様ありがとうございました。
2020年はこの形では更新しないと思いますが、
なんらか書いて、生きたい所存です。
気が向いたら読んでください。