2020年1月6日月曜日

聖なるズー

聖なるズー/濱野ちひろ

 久々に価値観がぶっ飛ばされる読書体験だった。読む前と読んだ後で世界が違って見える。動物とのセックスと聞けば嫌悪感を示す人が大多数でしょう。私もそうでした。しかし著者がセックスを含めた「動物を愛すること」について丁寧に取材した結果から浮き彫りになる事実がかなり論理立っているため、動物の性欲について認識を改めざるを得ない。言われてみれば当たり前なんだけど動物にも性欲が存在して、それを受け止めるのが同種の動物なのか異種の人間なのか、それだけでしかない。
 では、なぜ嫌悪感を持ってしまうか?それはペット自体がどれだけ年を取ろうとも、人間はペットのことを子どもと認識しているから。(ペットの去勢文化も影響している)その結果ペドフィリアと同一視されてしまう。逆に動物性愛者の多くはセックスを伴うか伴わないかに問わず、動物を成熟した存在と考えて、水を飲みたい、食事をしたいと同じように性欲に対して自然に接している。それはある種保守的とも言える愛の形であるというのが、「1周まわってそうなる?!」といった驚きがある。
 ズーフィリアと呼ばれる動物性愛者からなるドイツの団体セータに所属するメンバーを中心に、彼らの家に一定期間宿泊し紋切型のインタビューに陥らない形で引き出した様々な証言が上記で述べた著者の見解をどんどん紡いでいく過程がスリリングだった。
 そして本著は「動物とのセックス」という矮小化された「ゲテモノ」扱いされるような本ではなく、もっと広く、セックスとは?愛とは?という議論にまでリーチしているところが興味深い。それはひとえ冒頭でカミングアウトされる著者の背景があってこそ。これだけ身を切って書かれたノンフィクションは読んだことがない。

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