2023年6月28日水曜日

2023年6月 第3週

 今週は韓国のヒップホップレーベルAOMGがパルコ渋谷でバイナル即売会やるというので馳せ参じた。当日はGRAYのサイン会も用意されていて、混んでいるかな〜とか思っていたら想像以上で5時間近くかかって入手できました…(サインはもらえず) 薄々勘づいてはいたけど、Kpopカルチャー普及の結果、韓国ヒップホップの人気もパナい今日この頃なんですね。買ったのはGRAY”grayground.”、Code Kunst ”People”の2枚。どちらもマスターピースなので入手できて最高の気分。

犯行予告 by NORIKIYO

 NORIKIYOの10thアルバム。大麻で逮捕されて勾留時から制作が始まったアルバムということでここ数年の作品の中ではベスト。ライミングを重視して聞くタイプでは無いけど、そのレベルでも分かるライミングと意味の両立のレベルが尋常じゃ無い。主張したいことを長いライミングと共に伝える。こうやって言うと簡単なように思えるが日本語でそれを成立させるのは相当困難な中、針の穴を通すように紡いでいく言葉にクラった。色んな角度で話せるアルバムになっており、詳しい話はポッドキャスト聞いてくれ。

mind, white by Akoorum

ビートメイカーのKMが自身で買ったカセットテープの初期不良を購入店舗に訴えるストーリーをインスタで上げていてそこで知った。久しぶりにビートテープでぶち上がったかも。この手のインストアルバムはとりあえずLofiみたいなものが多い中、バラエティに富んだ構成で繰り返し聞くのに良い。好きな曲は”anicca I”

SHAM by Alive Funk

 ビートメイカーであるAlive Funkのアルバム。ファンキーなビートに韓国の多種多様な才能が結集した快作だった。こういう「ブラックミュージック」のレイドバックしたノリがアンダーグラウンドなシーンで大切にされていることに韓国のシーンの懐の深さを毎回感じる。ラッパー、シンガーともに背伸びすることなく足元のコネクションで作っていることがよく分かる人選でそれが良い。特に複数の曲で参加しているBona zoeはアップカミングで才能豊かな人だと思うし、数年で有名になるはず。好きな曲はウエストコーストバイブス満点の”Where Should I Go”

Lotto and Lotto Pt.2 by 24Flakko & Cribs

 24FlakkoというラッパーとCribsというプロデューサーによる連続EPリリース。韓国のラッパーなんだけど”Osaka”という曲は日本語でラップしていたりして面白い試み。Jin Doggを招いた曲などもあるので日本でセッションしていたのかなと思う。2枚出てるけど1枚目の方が好き。中でもunofficialboyyをfeatした ”Mr.Gang”が好きな曲。

The Omnichord Real Book by Meshell Ndegeocello

 ンデゲオチェロの最新アルバムがリリース。2018年にリリースされた”Ventriloquism”を確か粋な夜電波で知って、その衝撃が今でも忘れないレベルなので楽しみにしていた。今作は前作のようなR&B要素はほぼ皆無。ミュージシャンシップがかなり強い作品になっていてかっこよかった。どういう変化があったのかなど、このアルバムに関するインタビューがめちゃくちゃ面白い。「”即興的ブラック・アメリカン・ミュージック”とでも呼ぶべきものを私は作っているつもり。」というのが本当に言い得て妙でラフな部分もありつつ、エッセンスがギュッと凝縮されているような。18曲72分あるけどあっという間に感じた。

OPEN by Lunice

 TNGHTの片割れLuniceのソロアルバム。定点観測しているわけではないけど、ハドモ含めてたまにこういう前のめりな勢いのあるビートを聞くと世代的にはブチアガる。シンガーやラッパーを迎えている曲が多く飽きずに聞ける構成になっているのもよい。まさにタイトルどおりで開かれている。好きな曲はメロウさとLunice節がいい感じに混ざった表題曲の”OPEN”

「差別はいけない」とみんないうけれど

「差別はいけない」とみんないうけれど/ 綿野恵太

 この時代にスリリングなタイトルだなと思って読んでみた。半分タイトルは釣りのようなもので、著者自身は差別に同調するわけではなく今やすべての前提となっている「ポリティカルコレクトネス」を紐解いてくれていて勉強になった。差別に対して意見を発するときにどのポジションなのかが肝心だと分かった。

 初っ端のまえがきの中でも言及されているのだが、全体を通底するのは民主主義と自由主義の違いについて。つまりはアイデンティティ・ポリティクスとシチズンシップの違いなんだけども、この論点が超重要。読む前後で世界が違って見えるようになった。端的にいうと今までは被差別者が差別に対してNOを突きつけていたが「差別はいけない」ことだという社会全体のコンセンサスがかなり取れるようになった結果、当事者以外も含めた市民社会全体で差別へカウンターするようになってきたということ。ただ、そのシチズンシップが見据える平等というのは本当に実現可能なのか?とか差別構造と経済はどうしても切り離せないとか。個人的に嫌だなと思ったのは統治功利主義の広がりに伴って合理化が進むうちに差別が肯定されてしまう話。なんでもCPを突き詰めてもしょうもない社会しか生まれないことを再確認した。あと差別は意図的かどうか問わないという話もあり、こないだ読んだWe Act! 3 で感じた居心地の悪さは然るべき反応だったのかもしれない。その不快さについて言語化することが必要であり、自分がどういう考えなのか、そこに論理の飛躍や矛盾がないか確認するべきと書かれていて納得した。こんな感じで普段考えもしない論点ばかりで興味深かった。

 ただ正直なところ内容の半分か半分ちょいくらいしか意味が取れていない気がする。ポイントポイントでラップアップしてくれて論点を整理してくれているのだけど、固有名詞の馴染みの無さと話の難しさでなんとなく読み流していく場面も多かった。まだまだ頭を鍛えねば…

2023年6月21日水曜日

2023/06 第2週

 今週はRiverside Reading Clubのパーティーへに遊びに行った。会場のBUSHBASHがローカルに根ざした音楽の場所という感じで音がめちゃくちゃ良くて最高だった。こんな素晴らしいベニューが近くにあったらめっちゃ通っていると思う。客層もいろんな人がいて、各々が自由に過ごせる空間になっているのも居心地が良かった。そこで久しぶりに仙人掌のライブを見た。ライブの地力が本当にパないラッパーの1人で毎回見るたびに背筋がピッとなる。この日はERAもいて、ERA名義の”Passport”をやったり、韓国のシンガーであるsoguumがfeatで参加した”World Full Of Sadness(RLP REMIX)”をやったり珍しいセットリストで楽しかった。その曲の前のMCがTwitterに上がっていて現場でもグッときたのでシェア。

 夕方帯でDJもあってライブもあってみたいなクラブのようなイベントがお酒も飲めて一番楽しい。またトラスムンドが出店しており、店主の浜崎さんとJJJのラジオ特典付きでJJJのアルバムをゲットできて良かった。今回のアルバムのインタビューはまだ出ていないので貴重な話が多かった。

Stargaze by Skinny Brown

 Skinny Brownのニューアルバム。キャッチーなシンギンスタイルのイメージがあったけど、今回はちょうどいいバランスでドープかつポップなバランスで好きだった。Futureとかのアトランタスタイルのトレースといえばインスタントに思えるかもしれないが、クオリティが死ぬほど高い…Q様とパロ兄が揃い踏みしている時点でマスターピース確定案件だしSUPERBEEとの曲がスネアなしのめっちゃ攻めたオーケストラ的構成なのもアガッた。好きな曲は泣きのギターリフが最高な”Meet Me At The Lobby”

98’s UP by 98jams

 RAPSTARとなったeyden のクルー98jamsとしてのEP。KANDYTOWNもBADHOPもいなくなる中、その穴を埋めていきそうなクルー系の快作だった。正直、eyden以外のMCを個別認識できていないけど、皆ラップのスキルがめっちゃ高い。リリックの中身はeyden同じく深みはないにせよインパクトで持っていける魅力が皆にあった。あとビート選びが秀逸で、ザコいビートは1曲もないところが一番のポイントかなと個人的には感じた。今後も期待。

Next Floor by Kidney Fuji

 個人的にRAPSTAR2023で一二を争うくらいに好きだったKidney FujiのEP。やっぱり間違いない才能があるMCだと証明されているEPだった。ストレートなラップの安定感が特徴だと思っていたら、後半のシンギンスタイルがめっちゃいい。RAPSTARでサイファー突破していたらと考えさせられるレベル。もうこのレベルが当たり前でその上が必要な状況なのであれば、もう日本のヒップホップはネクストレベルへ移行したと言えると思う。

Before I Saw the Sea by Me and My Friends

 TLで見かけてジャケからして最高の気配しかなく実際聞いたらめっちゃよかった系。UKのブリストルベースのバンドでフォークというかギターベースでチェロやクラリネット、ウクレレといった変化球のサウンドも取り入れられており南米っぽい独特なムードが好きだった。こういうサウンドは朝、準備しながら聞くのに最適。好きな曲はレゲエっぽいノリのタイトル曲”Before I Saw the Sea”

6 by Kenny Mason

 前に友人に教えてもらって知ったKenny Masonのアルバム。9曲なのにディスク1、2の設定がされていて謎。それはさておき今回はサウンドがかなりバラエティ豊かでProject Patをfeatに呼んだ正統派トラップもあれば、最後の”BACK HOME”は正統派ロックサウンド、”SIDE II SIDE”は最近流行りのインディーロックスタイルなど。Wikiを見るとマイケミ、スマパン、マイブラといったロックから音楽を好きになったらしいのでベースに返っているのかも?あとソウルサンプリングの曲が多くてそこが一番好きだった。favoriteな曲は”RICH”

DETWAT by HiTech

 TLで見かけて聞いた。Omar Sのレーベルからリリースされており、3人組のデトロイトのラップクルーである。King Milo、Milf Mellyの2人がラッパーで47Chopsプロデューサーという構成。ゲットーテックなるサブジャンルのビートらしく、最近の四つ打ちな気分にフィットしつつHIPHOP的なガラの悪さが加わってめっちゃアガるアルバム。これ系で上音がミニマルなのが多いけど、メロウな上音なのも好きなポイントだった。チャリ乗ってるときによく聞いていた。好きな曲は”WHYYOUFUGGMYOPPS (feat. Link Sinatra & Ciarah)”

2023年6月20日火曜日

ダンス・ダンス・ダンス

ダンス・ダンス・ダンス/村上春樹
 

 これまで読んでこなかった村上春樹をたまに読んでおり、その流れで読んだ。タイトルと装丁から気になっていた1冊。なんとなくリアリストだと思っていたけど、本著は長尺ということもあり色んな要素がてんこ盛りで楽しかった。

 34歳の男が主人公で彼の周りで起こる奇妙な出来事をメインに話が進んでいく。いつもどおりスノッブな感じでそこはブレないのだけども、羊男をめぐるファンタジー要素や人が死にまくるサスペンス要素が加わることで物語に幅が出て比較的親しみを持ちやすかった。見ず知らずの13歳の女の子と友達関係になる34歳はちょっとキモいなと思うけど、著者の文体とキャラ設定で不思議とバディ感のあるものとして読めた。互いに種類の違う孤独を抱えていて、それを埋め合う様が擬似親子でもあり擬似カップルでもある。主人公が子どもに諭す形で人生に対するアプローチの話が展開するので、そこは興味深かった。孤独に苛まれている時期に読むとめちゃくちゃ刺さると思う。

 今まで春樹と龍で比較されるのがよく分からなかったけど、本著を読むとプロットの材料が龍と似ている。ただアウトプットは再生と破壊くらいベクトルとしては真逆であり各人のオモシロさがあることにやっと気づけたかも。春樹の淡みの良さを理解できるようになったというか。

 厭世的なふるまいを繰り返しながらも踊るしかないという、タイトルにある「ダンス」のメタファーがオモシロい。自由に踊るというよりも決まった振り付けを踊るダンスを意味しており、つまり決まったルーティンをこなしていければ事態はなるようになるだろうということ。全体に主人公が受動的なのが特徴的だと思う。物語の婉曲的な雰囲気が海外の人にとっての日本人のイメージに当てはまるから海外で人気なのかなと邪推した。(そもそも相対的に見れば日本人は実際に婉曲的なのだろうけど)村上春樹を読んで毎回感じる高いリーダビリティは読書の楽しさを思い出させてくれるのでこれからも定期的に読みたい。

2023年6月14日水曜日

2023年6月 第1週

  Flipsideplanetというラジオ番組を毎週聞いていて、そこで知った3枚がどれも素晴らしかった。特にPatrick Hollandの”Fog Wall”が久しぶりに衝撃を受けた四つ打ちで、これをきっかけにディープハウスを色々とディグって聞いたりしている。だがしかし今週は女性アーティスト×水ジャケ3連発で完全にノックダウン!どれも最高のアルバム。日本は梅雨真っ盛りだけども、その3枚で完全に夏モードとなった。

WHO IS VLOT by VLOT

 敷居の低さもあいまって大量のラッパーがシーンに登場している中でまだまだビートメイカーの数は足りていない。そんな中で若手最有望株であろうVLOTのソロアルバムがリリース。既にリリースされたシングルもかっこよかったが、イントロ・アウトロ付きでアルバムというフォーマットで作品として聞いても素晴らしかった。いろんなラッパーが参加している中で、Bleecker Chromeとの曲はこれまでどおりの相性の良さで余裕の世界標準だと思う。レイジっぽいビートが多いけど、やっぱシングルで出たジャージードリルの”Alot”が最高だった。

Survive by ¥ellow Bucks

 大麻の件で逮捕されて結局不起訴という一連の流れで戻ってくることが恒例化している¥ellow BucksのEP。とりあえず「俺はここにいるぜ!」的なEPだった。YZERRとの邂逅が目玉だけど、この2人ならもっとイケると思うので続編に期待。またC.O.S.A.とはジャージードリルで邂逅。猫も杓子もジャージーで食傷気味で新鮮味が薄れつつあるように思った。UKドリルすっとばしてジャージーがこんな流行っているのはなぜなのか、誰か教えてほしい。

The Age of Pleasure by Janelle Monae

 各所で絶賛されているJanelle Monaeの最新アルバムはレゲエ、ダンスホール、アフロビートという誰も想定していなかった角度。そして完全に2023年の夏の到来を告げるものとなっており、隙あらば聞いている。1曲目の”Float”で”I don't dance, I just Float”と言っていて、これはBeyonceのアルバムに対するカウンターというかアンサーなのかな?と思った。同じくジェンダーに対する価値観の再定義という話の観点で踊らなくてもいいんだぜ?的な。かなり性差別の強いレゲエをノンバイナリなMonaeがテイクオーバーしていくのと、ジェンダーに理解のあるボールルーム・カルチャーを取り入れるBeyonce。それぞれのアプローチで女性の自立を祝福していて良いなと思う。アルバム1枚で体験が完成する感じなので、1曲選ぶの激ムズだけどBボーイ魂をくすぐられる”Know Better”

Guy by Jayda G

個人的四つ打ちブームと呼応するのはJayda Gのアルバム。DJとしてキャリアをスタートした彼女の2作目となり前作同様Ninja tuneからのリリースとなっている。R&Bやブギーの要素も多分に含まれており、ハウスとの橋渡しになっているため、自分のような四つ打ちビギナーには持ってこいのアルバムで聞きまくっている。好きな曲はヒップハウス風の”Scars”

Fountain Baby by Amaarae

AmineとKaytranadaのアルバムへの参加も記憶に新しいAmaaraeのアルバム。(そして同日リリースのJanelle Monaeのアルバムにも参加している!)ガーナをルーツに持つUSのシンガーで最近のアフロポップのムードと合致して台頭してきた。なんといっても特徴的な歌声が癖になる。声が比較的細いからJanetとか想起する感じ。その声でアフロビートに限らないバリエーションのあるトラックを乗りこなしているのがかっこいい。ビートチェンジはここ何年かのトレンドだと思うけど、その中でも相当なぶっ飛び具合の”Sex, Violence, Suicide”など飽きずに聞けるようになっている。好きな曲はウエッサイっぽい上音とアフロビートの相性が最高な”Princess Going Digital”

2023年6月13日火曜日

インベンション・オブ・サウンド

インベンション・オブ・サウンド/チャック・パラニューク
 

 最近友人と『ファイト・クラブ』の話をしていたタイミングで、本屋で新刊見つけてブチ上がって即買った。個人的にこういったストレートなサスペンスを読むのが久しぶりでそれだけでも楽しい上に、チャック・パラニューク節が炸裂しているので最高だった。

 映画向けの効果音としての悲鳴をクリエイトする女性と、娘が行方不明の父親の2人の物語が並行して描かれていき、徐々に交差していく。いずれも退廃的かつ孤独なムードで、それぞれが拗らせていることを丁寧に描いている。前者の女性の方は効果音の悲鳴が実は凄惨な現場から生まれているという設定で、そしてその悲鳴が世界を壊していく。中二病的と言ってしまえばそれまでなんだけども、チャック・パラニュークの場合はその嫌な部分というのをとことん突き詰めてくるので、そこが並の作家とは違うところ。ビューが鮮明に浮かぶというか極めて映画的に思えた。父親の話はヴィジランテ物語となっており、こちらは SNSやYoutubeといった現代要素が取り込まれつつ、そういった大衆監視の合間をすり抜けていく当事者の怒りが生々しかった。終盤、物語がクロスしていくのに加えて、悲鳴がもたらすさらなる中二病的展開(陰謀論等)でドライブしまくるのがオモシロかった。そしてエンディングは極めて奇妙なホームドラマのような終わり方で腰を抜かした。次は短編集のリリースがあるらしいので、それも楽しみにしたい。

2023年6月8日木曜日

レイシズム

 

レイシズム/ルース・ベネディクト

 以前から気になっておりKindleでセールになっていたので読んだ。1940年に発行された本著をが新訳で読みやすく2020年に再刊されたそう。WW2の最中にリリースされたことに驚きを感じつつも、ナチスの台頭を牽制しているあたりに当時の空気を感じてレイシズムの理解が深まるのは当然のこと、一つの記録としても楽しめた。こうやって歴史に点を打つ意味での本の重要さも改めて感じた。

 読んで一番驚いたのは今でも全然通用する話ばかりだということ。人間の思考パターンとして仕方ないのか、それとも進化、適応できていないのか。レイシストが歴史修正主義者であり、レイシズムが恣意的に生まれた思想であることを丁寧に説明してくれている。アーリア人をめぐる言説の数々や頭のサイズによる差別などぼんやり知っていたことが明確になった。今となっては鼻で笑うレベルの学問かもしれないが、頭の形と優秀さの相関を真剣に追い求めていた時代があるのだから怖い。人種で何かが決まることはなく、あくまで受け継いできた環境・文化がすべてだと繰り返し主張しているし、人種が混じり合うことは歴史を通じて起きてきたことであり、その中で文明は進歩し続けているという話に納得した。

 レイシズムが初めは宗教を対象にしていたが、各国の統治形態の変化と共に人種へと変化していった話も興味深かった。そもそも国家間の戦略戦争がなければレイシズムは産まれなかったのでは?とか国家規模になるとレイシズムは科学的客観性を装うこともしないとか。結局科学的な論拠はなく、すべては人間による政治の道具でしかないことがよく分かった。以下のラインは戒めとして胸に刻んでおきたい。

私たちが傲慢無知であったり、あるいは恐慌に煽られて平常心を失うとき、分かりやすくて耳に心地よい物語がそっと忍び入る。自暴自棄になったとき、私たちは誰かを攻撃することによって自分を慰める。

2023年6月7日水曜日

イレズミと日本人

 

イレズミと日本人/山本芳美

 日本におけるイレズミの概論とかオモシロそうと思って読んだら、めっちゃ興味深かった。ヒップホップが好きなのでタトゥーに対して全くネガティブなイメージはなく、むしろ老人になったら入れようかなとさえ思っているのだが、イレズミを受容しない/できない日本人の雑な認識を丁寧に解きほぐしており勉強になった。

 歴史から始まり、日本人のイレズミ認識に大きく寄与している映画について一つの章を割きつつ全体像を紹介している。基本的な考え方としてイレズミは身体加工の一つにすぎないという指摘にハッとした。ピアスも化粧も脱毛も身体を加工している点では同じであるが、イレズミは社会的に許容されるレンジが狭いというだけ。日本でのイレズミの歴史として江戸時代には刑罰として入墨があったのは知らなかったし、アイヌや沖縄の先住民族の間ではイレズミがしきたりの一つとして存在し、それがときに差別対象にもなったことも知らなかった。こういった伝統としてのイレズミから戦後、任侠映画が爆発的人気を得たことでイレズミ=ヤクザものという認識になってしまい、それが更新されないまま現在を迎えていることが体系的に把握できて勉強になった。

 とにかく知らない話の連発で、日本の彫り物が昔から海外では人気があってヨーロッパなどの権力者たち(皇帝とかそういうレベル)がわざわざ日本まで渡航してイレズミを入れたとか。小泉純一郎の祖父が石屋で、イレズミのある背中を純一郎が流していたとか。今ではイレズミ=反社と脊髄反射で考える人も多いかもしれないが、そんな認識が形成されたのはたかだか30年程度の話というのは目から鱗だった。また入浴習慣の変化の影響も示唆しており銭湯→自宅での入浴により身体への感受性が変化し、身体が人によって様々であることを観念的に捉えるようになったことも原因ではないかと推察していた。

 イレズミ自体が持つ他人への圧力の大きさは認めつつも、そもそもイレズミを拒否する目的が何なのか、あらためて考えるフェーズに来ていると筆者は主張しており至極納得できた。そもそも他人が肌に柄を入れていることの何が問題なのかよく考えてみると分からない。選択的夫婦別姓と同じで他人の意思決定を阻害するような法律や考えはなるべく少ない方が皆幸せになる気がするのでヒップホップが価値観を転覆してほしい。

2023年6月2日金曜日

2023/05 4th week

  日本のアーティストのアルバム2枚がワールドクラスのとんでもなく素晴らしい作品でそれに感動した1週間だった。この2組のアーティストについては、ここ数年のあいだシングル出る度に「早くアルバム出して〜」と思っていたのだが、それは情報の流れが超加速している現代社会の尺度の価値観であり、アーティスト側が時間と人生をかけて生み出したアートや音楽は聞いた人間を大きく鼓舞するのだと心底思わされた。なんでもすぐに結果を求めたり、他人の意見、評価を気にするよりも己と向き合わねばとも思った。
 あとラップスタア誕生とPop Yoursの若者への刺さり具合を見て、ヒップホップが完全にポップカルチャーの領域に到達していることも痛感した。今までは村の音楽の側面があったけど、世界的な潮流に追いついてついに日本でもヒップホップがマジョリティの音楽になる日が近づいている。その一方で自分含めたオタク的なリスナーたちの各種戯言を見ていると虚しさを覚えた。

MAKTUB by JJJ

 まずはその1枚目はJJJの3rdアルバム。”Cyberpunk”の世界標準で見ても全く遜色がないビートからして次のアルバムはエグいことになるだろうと思っていた想像の何倍も上の上のアルバムだった。最高クオリティのビートの上を天性のかっこよさを持つフロー、声で乗りこなし、リリックは散文性と固有名詞のバランスの良さで情景を結んでいく。すべてが信じられないレベルで達成されていて、いわゆる五角形チャートでパーフェクトに近いものだと思う。ドリルや2ステップなどのUKの要素がサウンド的にはフレッシュだけども、”心”、”Jigga”のようなリリックから滲み出るペインがrawでdirecetに響いた。KEIJUの『heartbreak』を彷彿とする感情の在り方で深い内省を感じた。またアルバムで聞くことが意図されていて、最後3曲の響き方が特に最高だった…これらの曲はプレイリストで聞いても絶対に同じ気持ちにはならないと思う。
 韓国ヒップホップ好きとしてはOui DaehanがProduce、sogummがHOOKを歌った”July”に驚いた。仙人掌の曲のRLP REMIXでsogummが参加したこともあり、その縁かと思ったけどApple musicの解説を読むと違っていた。Ugly Duckとの制作で訪れたAOMGのスタジオでビートをピックして、sogummがそこでHOOKを入れて風のように去っていったらしい…このエピソード含めて聞くと味わいが増した。(なおこれに限らずApple musicの各曲解説は必読)間違いなく今年を、いや2020年代を代表するヒップホップのアルバムだと思うし、日本のヒップホップを海外の人に紹介するのであれば、このアルバムだと思う。

e o by cero

 もう1枚は夫婦ともどもずっと好きなバンドのceroのニューアルバム。 アルバム毎にテイストを変えてくる中でも最終的にやっぱceroだなとなるのは健在ながら、今回はそれが今まで以上に何歩も進んでいた。今現時点でもとんでもなくかっこいいことは伝わっているのだけど、時間が経てば経つほど楽曲への理解が増して好きな具合も増していくのだろうなと思う。今の時代、曲がリリースされれば、それが何のジャンルなのか、どういうリファレンスなのかを探って分かった気になったあと、次の新しいものを聞くみたいな場面をよく見るし自分もそういうことをしている。そういう仕草を全て無にする、ceroの音、リリックが炸裂しまくっていて、これがceroをずっと好きな理由の一つだなと思う。月並みな言い方すれば、これを言葉で表現できれば音楽いらんやろ的な音楽。先のJJJと同じく、アルバムとして聞くことが意図されていて、シングル既出の曲もアルバム向けにチューンナップされていて、特にアルバムの流れで聞く”Fdf”の爆発力が最&高。ヒップホップだと音数の少なさでどれだけヤバいものを作れるか?に価値があったりするけど、ceroの音楽のレイヤーの多さはそれとは真逆で一体何トラック入っているんだろうと思う緻密さがある。本当はCD買いたいけど、去年レコードで全部揃えたのでレコード出るまで待ちます。

Hit Different JP THE WAVY & JIGG

 ここにきてJIGGとの共同名義でのEPリリース。新鮮味は特にないかなーと思いきや、今までの作品で一番好きかも!と驚いている。いろんなテイストの曲が入っているのが良くて、JIGGのなんでもできる上に出音のデカさが最高。(インストも同時に出ているの最高!)そのバラエティなビートの上でシンギンスタイルもスピット系でもいけるし、トピックもパーティー、フレックス、ヘイターディスなど王道スタイルを真正面から取り組んでいて潔い。  白眉なのはLANAを迎えた”What’s Poppin” 2000年台のR&Bぽさとレゲエノリが合わさった上で超キャッチー。LANAを最近いろんなところで聞くのだけど、どの曲も打率がめちゃくちゃ高い。歌がうまくてコブシを効かせるスタイルが何年も見かけなかったスタイルで超フレッシュだと思う。アルバム出たら全部まくっていくと思う。あとはVINGOとの曲が色々言われて大変なんやろなぁと察するくらいにイキイキしていて良かった。フルアルバムを期待したい。

My Soft Machine by Arlo Parks

 先行シングルの”Weightless”からしてかなり期待値の高かったArlo Parksのアルバムがリリース。前作がR&Bの要素が高かったけど、今作はグッとポップスに振ってきた印象。そもそもR&B自体が全体にインディーポップスとの接近が最近のトレンドなので、特段珍しいわけではないのだけど”Devotion”などガッツリロックな曲もあり一歩踏みこんでいる感じがした。個人的には “Puppy” からの後半の流れが好きで、ベースやドラムがヒップホップ的なアプローチを感じるからかな?  Apple music editionとしてAcoustic ver が収録されていて、アルバム曲以外に”Mystery of Love”が収録されており、これはCall Me By Your Nameという映画のサントラに入っている曲。 自身のqueerなidentityを反映しているのだろう。

Akousmatikous by Salami Rose Joe Louis

 Lindsay OlsenによるソロプロジェクトのSalami Rose Joe Louisのニューアルバム。ceroと同じく何かに形容するのが難しい彼女独自の音楽を作っていて聞き応えがあった。Brainfeederからのリリースなのも納得の音像。RolandのMV-8800で作った音が多いらしく、それと関係あるかは定かではないが、とにかくベースやキックといった低音が最高。HIPHOPみたいにガツン系というよりももう少し柔らかいのだけど強さを失ってないという感じ。好きな曲はToro y moiコネクションのBrijeanを呼んだブギー”Propaganda”

Love Notes by Monty Alexander

 TLで見かけて軽く聞いてみたら極上だったので即レコードで買った。ジャマイカ人のジャズピアニストらしいのだけど、これが76作目で初のボーカルを含む作品集らしい。カバー曲が中心になっている。そういった細かい情報を抜きにして、音楽だけで骨抜きにされてしまった…レゲエなんだけどジャズアプローチなんで、爽やかさがマシマシでこれからの季節にピッタリな感じ。Roy Hargroveが参加しているのもアツい。こういう全く守備範囲ではないけど、めっちゃ最高な音楽を秒で聞けるのはまさにストリーミングサービスの恩恵…と感じた。

I Thought It’d Be Different by Rory

 PodcasterのRoryという人が作ったUS R&Bのコンピアルバム。(Emotinal Orangesのマネジメントにも噛んでいるらしい)いわゆるDJ Khaledスタイルだと思うのだけど、それをPodcasterが担うというのは時代を感じる。ジャケから漂うクラシック感から分かるように内容は本当に素晴らかった!Conway, Ari Lennox, GoldLink, dvsn, Jay Electronica, Emotional Oranges,DRAMといった有名どころはもちろんのこと、そこまで名の知られてないR&Bのアーティストもフックアップされていてプレイリスト感覚のアルバムになっている。こういうのは1人のアーティストが作品としてリリースするのは難しいので、意味あるプロジェクトよなーと思えた。締めでREASONがひたすらスピットしまくっているのも最高。好きな曲は”Enough”

DEMO by Wonstein

 SMTM9で跳ねたWonsteinのEP。全曲peejayビートなので当然ハズレなし。ZION.Tが立ち上げたSTANDARD FRIENDSは韓国のある種のメロウ要素の集合知みたいなことになっていきそうなので、どんどん活動範囲を広げてほしい。Wonsteinも所属してからはフルアルバムまだ出ていないので楽しみにしている。好きな曲はど頭で意表を突くシンセが魅力的な”Cool”

BEIGE by Kid Milli

 Kid Milliがアルバムをリリース。この人もなんだかんだリリースが途切れず定期的にアルバムをリリースしていて、しかもクオリティが毎回死ぬほど高い。今回はめちゃくちゃゴツいラップアルバムとなっており彼のラップスキルの非凡さを再認識させられた。interludeやfree styleを合間に挟んでおりアルバムとしての構成を意識した作品となっている。オモシロいの大抵interludeはインストや小芝居などが入っていることが多いけど、がっつりラップしているところ。特にLeellamarzのそれはビートがPublic Enemyオマージュになっており「今そこ!?」という驚きがあった。あとKid Milliのフロウの豊かさがどんな定番っぽいビートでもフレッシュにしてしまう点にも改めて驚いた。1曲選ぶのむずいけどスピットしまくりのタイトル曲”BEIGE theme”

われわれの雰囲気

 

われわれの雰囲気/植本一子、碇雪恵、柏木ゆか

 植本さんが友人たちと作ったZINEということで読んだ。柏木ゆかさんが大きな事故に遭い、意識不明になってから回復するまでのあいだのそれぞれの状況や気持ちを綴った日記という非常に変わった内容で興味深かった。直近リリースされた集合、解散!と同じく近い関係の人たちのあいだにおける同期間の別視点を1冊の本にすることでこれだけオモシロくなるのは一つの発見だとも思った。

 友人が事故で意識不明になってしまったという超悲日常な出来事を受け止めながら日常を生きていくことの大変さ、難しさが切迫感を持って伝わってくる。当然生き延びるとは分かっているものの「どうなるの?」というハラハラを追体験している感覚だった。こういう大きな出来事が起こったときに誰にどこまで伝えるのかはとても神経を使う。色んな人にあまねく知られて当人に過剰な情報やプレッシャーがもたらされてもダメだし、かといって近い距離の人にも伏せ続けるのも心が痛む。2人がその点を逡巡しながら情報を共有していく過程が記録されており何気ないけど大事なことだなと思った。

 2人が心配する様子を先に読んだ後、事故にあった当人の視点を読むことになるのだが、この本が本当に画期的なのは物理的に切り返しがあること。2人の日記は縦書き、左びらきで読ませて、柏木さんの日記は横書き、右開きで読ませる。こうやって文字にするとシンプルなギミックにしか思えないかもしれないが、実際に読むと思った以上のダイナミックさがあってオモシロかった。あとチャットツールやSNSが生存確認のツールになっている点が2020年代だなと感じた。(友人のラッパーの好きなリリックで”ログインしてなきゃ死人扱いか?”をレミニス)あとがきにあった死との距離感の変化は他人事ではないなと病気がちな最近は特に身にしみるので懸命に生きていきたい。