2023年6月2日金曜日

2023/05 4th week

  日本のアーティストのアルバム2枚がワールドクラスのとんでもなく素晴らしい作品でそれに感動した1週間だった。この2組のアーティストについては、ここ数年のあいだシングル出る度に「早くアルバム出して〜」と思っていたのだが、それは情報の流れが超加速している現代社会の尺度の価値観であり、アーティスト側が時間と人生をかけて生み出したアートや音楽は聞いた人間を大きく鼓舞するのだと心底思わされた。なんでもすぐに結果を求めたり、他人の意見、評価を気にするよりも己と向き合わねばとも思った。
 あとラップスタア誕生とPop Yoursの若者への刺さり具合を見て、ヒップホップが完全にポップカルチャーの領域に到達していることも痛感した。今までは村の音楽の側面があったけど、世界的な潮流に追いついてついに日本でもヒップホップがマジョリティの音楽になる日が近づいている。その一方で自分含めたオタク的なリスナーたちの各種戯言を見ていると虚しさを覚えた。

MAKTUB by JJJ

 まずはその1枚目はJJJの3rdアルバム。”Cyberpunk”の世界標準で見ても全く遜色がないビートからして次のアルバムはエグいことになるだろうと思っていた想像の何倍も上の上のアルバムだった。最高クオリティのビートの上を天性のかっこよさを持つフロー、声で乗りこなし、リリックは散文性と固有名詞のバランスの良さで情景を結んでいく。すべてが信じられないレベルで達成されていて、いわゆる五角形チャートでパーフェクトに近いものだと思う。ドリルや2ステップなどのUKの要素がサウンド的にはフレッシュだけども、”心”、”Jigga”のようなリリックから滲み出るペインがrawでdirecetに響いた。KEIJUの『heartbreak』を彷彿とする感情の在り方で深い内省を感じた。またアルバムで聞くことが意図されていて、最後3曲の響き方が特に最高だった…これらの曲はプレイリストで聞いても絶対に同じ気持ちにはならないと思う。
 韓国ヒップホップ好きとしてはOui DaehanがProduce、sogummがHOOKを歌った”July”に驚いた。仙人掌の曲のRLP REMIXでsogummが参加したこともあり、その縁かと思ったけどApple musicの解説を読むと違っていた。Ugly Duckとの制作で訪れたAOMGのスタジオでビートをピックして、sogummがそこでHOOKを入れて風のように去っていったらしい…このエピソード含めて聞くと味わいが増した。(なおこれに限らずApple musicの各曲解説は必読)間違いなく今年を、いや2020年代を代表するヒップホップのアルバムだと思うし、日本のヒップホップを海外の人に紹介するのであれば、このアルバムだと思う。

e o by cero

 もう1枚は夫婦ともどもずっと好きなバンドのceroのニューアルバム。 アルバム毎にテイストを変えてくる中でも最終的にやっぱceroだなとなるのは健在ながら、今回はそれが今まで以上に何歩も進んでいた。今現時点でもとんでもなくかっこいいことは伝わっているのだけど、時間が経てば経つほど楽曲への理解が増して好きな具合も増していくのだろうなと思う。今の時代、曲がリリースされれば、それが何のジャンルなのか、どういうリファレンスなのかを探って分かった気になったあと、次の新しいものを聞くみたいな場面をよく見るし自分もそういうことをしている。そういう仕草を全て無にする、ceroの音、リリックが炸裂しまくっていて、これがceroをずっと好きな理由の一つだなと思う。月並みな言い方すれば、これを言葉で表現できれば音楽いらんやろ的な音楽。先のJJJと同じく、アルバムとして聞くことが意図されていて、シングル既出の曲もアルバム向けにチューンナップされていて、特にアルバムの流れで聞く”Fdf”の爆発力が最&高。ヒップホップだと音数の少なさでどれだけヤバいものを作れるか?に価値があったりするけど、ceroの音楽のレイヤーの多さはそれとは真逆で一体何トラック入っているんだろうと思う緻密さがある。本当はCD買いたいけど、去年レコードで全部揃えたのでレコード出るまで待ちます。

Hit Different JP THE WAVY & JIGG

 ここにきてJIGGとの共同名義でのEPリリース。新鮮味は特にないかなーと思いきや、今までの作品で一番好きかも!と驚いている。いろんなテイストの曲が入っているのが良くて、JIGGのなんでもできる上に出音のデカさが最高。(インストも同時に出ているの最高!)そのバラエティなビートの上でシンギンスタイルもスピット系でもいけるし、トピックもパーティー、フレックス、ヘイターディスなど王道スタイルを真正面から取り組んでいて潔い。  白眉なのはLANAを迎えた”What’s Poppin” 2000年台のR&Bぽさとレゲエノリが合わさった上で超キャッチー。LANAを最近いろんなところで聞くのだけど、どの曲も打率がめちゃくちゃ高い。歌がうまくてコブシを効かせるスタイルが何年も見かけなかったスタイルで超フレッシュだと思う。アルバム出たら全部まくっていくと思う。あとはVINGOとの曲が色々言われて大変なんやろなぁと察するくらいにイキイキしていて良かった。フルアルバムを期待したい。

My Soft Machine by Arlo Parks

 先行シングルの”Weightless”からしてかなり期待値の高かったArlo Parksのアルバムがリリース。前作がR&Bの要素が高かったけど、今作はグッとポップスに振ってきた印象。そもそもR&B自体が全体にインディーポップスとの接近が最近のトレンドなので、特段珍しいわけではないのだけど”Devotion”などガッツリロックな曲もあり一歩踏みこんでいる感じがした。個人的には “Puppy” からの後半の流れが好きで、ベースやドラムがヒップホップ的なアプローチを感じるからかな?  Apple music editionとしてAcoustic ver が収録されていて、アルバム曲以外に”Mystery of Love”が収録されており、これはCall Me By Your Nameという映画のサントラに入っている曲。 自身のqueerなidentityを反映しているのだろう。

Akousmatikous by Salami Rose Joe Louis

 Lindsay OlsenによるソロプロジェクトのSalami Rose Joe Louisのニューアルバム。ceroと同じく何かに形容するのが難しい彼女独自の音楽を作っていて聞き応えがあった。Brainfeederからのリリースなのも納得の音像。RolandのMV-8800で作った音が多いらしく、それと関係あるかは定かではないが、とにかくベースやキックといった低音が最高。HIPHOPみたいにガツン系というよりももう少し柔らかいのだけど強さを失ってないという感じ。好きな曲はToro y moiコネクションのBrijeanを呼んだブギー”Propaganda”

Love Notes by Monty Alexander

 TLで見かけて軽く聞いてみたら極上だったので即レコードで買った。ジャマイカ人のジャズピアニストらしいのだけど、これが76作目で初のボーカルを含む作品集らしい。カバー曲が中心になっている。そういった細かい情報を抜きにして、音楽だけで骨抜きにされてしまった…レゲエなんだけどジャズアプローチなんで、爽やかさがマシマシでこれからの季節にピッタリな感じ。Roy Hargroveが参加しているのもアツい。こういう全く守備範囲ではないけど、めっちゃ最高な音楽を秒で聞けるのはまさにストリーミングサービスの恩恵…と感じた。

I Thought It’d Be Different by Rory

 PodcasterのRoryという人が作ったUS R&Bのコンピアルバム。(Emotinal Orangesのマネジメントにも噛んでいるらしい)いわゆるDJ Khaledスタイルだと思うのだけど、それをPodcasterが担うというのは時代を感じる。ジャケから漂うクラシック感から分かるように内容は本当に素晴らかった!Conway, Ari Lennox, GoldLink, dvsn, Jay Electronica, Emotional Oranges,DRAMといった有名どころはもちろんのこと、そこまで名の知られてないR&Bのアーティストもフックアップされていてプレイリスト感覚のアルバムになっている。こういうのは1人のアーティストが作品としてリリースするのは難しいので、意味あるプロジェクトよなーと思えた。締めでREASONがひたすらスピットしまくっているのも最高。好きな曲は”Enough”

DEMO by Wonstein

 SMTM9で跳ねたWonsteinのEP。全曲peejayビートなので当然ハズレなし。ZION.Tが立ち上げたSTANDARD FRIENDSは韓国のある種のメロウ要素の集合知みたいなことになっていきそうなので、どんどん活動範囲を広げてほしい。Wonsteinも所属してからはフルアルバムまだ出ていないので楽しみにしている。好きな曲はど頭で意表を突くシンセが魅力的な”Cool”

BEIGE by Kid Milli

 Kid Milliがアルバムをリリース。この人もなんだかんだリリースが途切れず定期的にアルバムをリリースしていて、しかもクオリティが毎回死ぬほど高い。今回はめちゃくちゃゴツいラップアルバムとなっており彼のラップスキルの非凡さを再認識させられた。interludeやfree styleを合間に挟んでおりアルバムとしての構成を意識した作品となっている。オモシロいの大抵interludeはインストや小芝居などが入っていることが多いけど、がっつりラップしているところ。特にLeellamarzのそれはビートがPublic Enemyオマージュになっており「今そこ!?」という驚きがあった。あとKid Milliのフロウの豊かさがどんな定番っぽいビートでもフレッシュにしてしまう点にも改めて驚いた。1曲選ぶのむずいけどスピットしまくりのタイトル曲”BEIGE theme”

0 件のコメント: