2023年6月2日金曜日

われわれの雰囲気

 

われわれの雰囲気/植本一子、碇雪恵、柏木ゆか

 植本さんが友人たちと作ったZINEということで読んだ。柏木ゆかさんが大きな事故に遭い、意識不明になってから回復するまでのあいだのそれぞれの状況や気持ちを綴った日記という非常に変わった内容で興味深かった。直近リリースされた集合、解散!と同じく近い関係の人たちのあいだにおける同期間の別視点を1冊の本にすることでこれだけオモシロくなるのは一つの発見だとも思った。

 友人が事故で意識不明になってしまったという超悲日常な出来事を受け止めながら日常を生きていくことの大変さ、難しさが切迫感を持って伝わってくる。当然生き延びるとは分かっているものの「どうなるの?」というハラハラを追体験している感覚だった。こういう大きな出来事が起こったときに誰にどこまで伝えるのかはとても神経を使う。色んな人にあまねく知られて当人に過剰な情報やプレッシャーがもたらされてもダメだし、かといって近い距離の人にも伏せ続けるのも心が痛む。2人がその点を逡巡しながら情報を共有していく過程が記録されており何気ないけど大事なことだなと思った。

 2人が心配する様子を先に読んだ後、事故にあった当人の視点を読むことになるのだが、この本が本当に画期的なのは物理的に切り返しがあること。2人の日記は縦書き、左びらきで読ませて、柏木さんの日記は横書き、右開きで読ませる。こうやって文字にするとシンプルなギミックにしか思えないかもしれないが、実際に読むと思った以上のダイナミックさがあってオモシロかった。あとチャットツールやSNSが生存確認のツールになっている点が2020年代だなと感じた。(友人のラッパーの好きなリリックで”ログインしてなきゃ死人扱いか?”をレミニス)あとがきにあった死との距離感の変化は他人事ではないなと病気がちな最近は特に身にしみるので懸命に生きていきたい。

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