2017年1月31日火曜日

沈黙 SILENCE



スコセッシの沈黙が公開されたタイミングで、
過去に日本で映画化された沈黙が
早稲田松竹でかかる!ということで見てきました。
スコセッシ版を見た後なので、
どうしても比較しながら見てしまったんですが、
そうなると少し食い足りない感が。。。
主人公のロドリゴが出てきて最初に放つ日本語のセリフで、
一気にそこで興醒めしてしまいました。
それはスコセッシ版が言語問題に
なるべく違和感を抱かないように
配慮していたからだと思うんですが。。。
あとスコセッシ版との比較でいうと、
ガーフィールドの演技がかなり抑えめだったのに対して、
本作のロドリゴは激情的で
裏切り者のキチジローを怒鳴りつけたりする。
これはこれで人間臭くて良かったです。
拷問で超シュールなのがあって、
体を土に埋められて頭だけ出てる状態のところを
馬が勢いよく走り抜けるっていう…
確かに怖いし踏まれたら即死だろうけど、
凝り過ぎで何を見ているのかよく分からなくなりました。
僕が一番好きだったのは、
先に棄教したフェレイラを演じる丹波哲郎。
降臨系illnessを久々に見た!って感じで最高最高!
最後は肉欲に堕ちるというなんとも言えない味わいでした。
スコセッシ版と見比べると楽しいと思います。

2017年1月28日土曜日

沈黙 サイレンス



<あらすじ>
17世紀、キリスト教が禁じられた日本で棄教したとされる
師の真相を確かめるため、
日本を目指す若き宣教師のロドリゴとガルペ。
2人は旅の途上のマカオで出会った
キチジローという日本人を案内役に、
やがて長崎へとたどり着き、
厳しい弾圧を受けながら自らの信仰心と向き合っていく。
映画.comより)

遠藤周作×マーティン・スコセッシということで、
前からずっと楽しみにしていた作品。
この作品が公開されるニュースを見たときに、
原作を読んで、そのあまりのオモシロさに
昨年は遠藤周作固め読みしていました。
さぁこのオモシロい作品をスコセッシが
どんな映画に?!と期待してましたが、
神は人間に干渉しないというテーマが、
スクリーンから強烈に滲み出ていて、
とても素晴らしかったです。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

沈黙のタイトルにふさわしく、
日本の夏を想起させる鈴の音が聞こえる、
真っ黒な画面がしばらく続くという
意表をつく始まり方でテンションがアガる。
そこから湯気立ち込める中にたたずむ、
リーアム・ニーソン演じるフェレイラ神父が登場。
宣教師たちが磔にされてチョロチョロと
熱々のお湯をかけられるという
見るに耐えない拷問シーンでこれは最高に違いない、
とさらに確信を深めました。
江戸時代に布教に来たポルトガル人が主人公なので、
当初主人公にキャスティングされていたのは、
ベニチオ・デルトロ、ガエル・ガルシア・ベルナル
といったメキシコ系俳優だったそうです。(1)
その代わりにきたのが、
アンドリュー・ガーフィールドと
アダム・ドライバーという若手で今キテる俳優たち。
それぞれアメイジング・スパイダーマンや、
スターウォーズといったエンタメ大作に出演していますが、
本作で見られる演技はそこでは見られない、
非常に繊細なもので驚きました。
とくに主人公のロドリゴを演じたガーフィールドは、
直接的なセリフのない中で表情の変化から、
信仰が徐々に揺らいでいくのが伝わってきました。
彼ら超一線のハリウッド俳優と相対するのは日本俳優たち。
彼らが作品のクオリティーを担保していて、
気迫に満ちた演技を見せてくれます。
パンフレットのインタビューを読む限り、
キャスティングにはかなりの紆余曲折があったようですが、
結果的に物語に説得性をもたらす配役になっていました。
原作では言葉の壁は取っ払われていて、
隠れキリシタンと宣教師は普通に会話しているわけですが、
映像になるとその点はどうしても気になります。
本作では英語がメインになるわけですが、
隠れキリシタンが英語を話せる背景もわかるし、
英語が拙いことが逆に物語に説得力をもたらす。
それが最も顕著なのがキチジロー役の窪塚くん。
キリストにとってのユダを体現する存在なんですが、
あの下卑な感じがたまらなかったです。
キリスト教はどんな罪人でも赦す大義名分の中で、
こんな裏切り者でさえも救われるという矛盾の象徴。
一方で日本人側で英語が流暢に話せる通辞を
浅野忠信が演じていて、
こちらは逆に流暢な英語が嫌味な感じで素晴らしかったです。
もともと浅野忠信はキチジロー役の
オーディションを受けたそうですが落選し
もともと渡辺謙が配役されていた通辞に収まったと。(2)
映画を見るともうこれしかない!
という最高のバランスになっていました。
そして、もう1人のキーパーソンは塚本晋也監督。
隠れキリシタン役なんですが尋常ではない
体の張り方をしていて驚愕。。。
(ほぼノースタントでやり切ったらしい)
本作の凄いところは拷問シーンを
正面から逃げずにやり切っているところ。
加瀬亮の首チョンパとか唐突すぎて最高最高だし、
藁に巻いて海に落とされたり、
穴吊りも原作を読んで知っていたけど、
改めてビジュアルで見せられると
グッとくるものがありました。
拷問の見せ方が上手くてロドリゴの目の前で行われるけど、
手が届かないという残酷さ。
とくに牢屋のロドリゴの主観ショットが多く、
カットを切らずにパンを振ることで
躍動感があって良かったです。
あと篠田正浩監督版の沈黙をこのタイミングで見たんですが、
相対的にスコセッシの演出力のスゴさを体感しました。
ほぼ同じ構成なのに物語の躍動感がぜんぜん違うという…
やはり巨匠は別格なんだなと。
神は決して人間に干渉しないというテーマは、
宗教を巡って世の中が混沌としている、
今の時代にこそ響くテーマなのかもしれません。
その辺りは原作に対する僕の感想は、
リンクをご参照ください→リンク
とにかくスコセッシが人生をかけて
映画化にこぎつけた本作は必見!

増補版 ドキュメント死刑囚

増補版 ドキュメント死刑囚 (ちくま文庫)

大阪帰省時にブックオフでサルベージした1冊。

ここ半年くらいノンフィクションの強度、
味の濃さにヤラれてしまっていて、
自然とたくさん読んでいます。
実録犯罪系は久々だったんですが、
やっぱりこの系統は言葉が悪いかもしれませんが、
いかんせん無類にオモシロい!
死刑囚への取材から浮かび上がってくる、
死刑制度の是非に関する議論。
何が正解か分からないけれど、
死刑はダメ!と頭ごなしに言われるよりも、
実例交えて死刑の意味を問うてくるんだから、
読んでる側も考えざるを得ません。
本書で取り上げられている死刑囚は
すでに死刑が執行されている人が多く、
なおかつ彼らは自ら死刑となることを希望し、
控訴を取り下げるた人が取り上げられています。
死刑に至るような犯罪の中身とその公判内容は、
正直読むに耐えない場面も多々ありました。
ここまで人が残酷になれるのかと。
ただ、極悪非道な犯罪をおかした人を
死刑でこの世から抹消して
事件に蓋をしてしまえばそれで良いのか?
ということを著者はひたすら問い続けています。
被害者の立場を考えれば、
極刑でしか昇華されない感情もあるでしょう。
けれど、そこに乗っかかって事件の
原因究明をおろそかにしてしまうのは、
同じようなことが再び起こってしまう可能性を
秘めているなーと感じました。
あといずれの死刑囚も家庭背景が
犯行の原因の1つになっているという考察があり、
単純に親憎しというだけではないところが複雑だなーと。
そして一番怖かったのは和歌山カレー事件。
明確な物証はなく動機は不明のまま死刑が確定しています。
限りなく黒に近いグレーだけど、
グレーで死刑になるのかと怖さを感じました。
こういう本を読んでいると、
それだけで嫌な顔してくる人がたまにいるけど、
自分の身にふりかからないと決め付けてるあなたの方が、
よっぽど危ないよと言いたいですYO!

2017年1月24日火曜日

ザ・コンサルタント



<あらすじ>
田舎町のしがない会計士クリスチャン・ウルフには、
世界中の危険人物の裏帳簿を仕切り、
年収10億円を稼ぎ出す命中率100%のスナイパー
というもう一つの顔があった。そんなウルフにある日、
大企業からの財務調査の依頼が舞い込んだ。
ウルフは重大な不正を見つけるが、
その依頼はなぜか一方的に打ち切られ、
その日からウルフは何者かに命を狙われるようになる。
映画.comより)

遅くなりましたが今年1本目ということで、
大傑作ウォーリアーを手がけた
ギャビン・オコナー監督の最新作を見てきました。
「みんなちがってみんないい」という
至極真っ当なメッセージが良かったです。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

「ナメテタやつが実は殺人マシーンだった映画」の系譜で、
田舎街の会計士(アカウンタント)が主人公。
彼の生活のルーティンがオモシロくて、
神経障害(?)を持っていて強い刺激が苦手なわけだけど、
それを克服するためにフラッシュ 焚きながら
爆音でメタルロック流しながら スネの部分を棒で擦り続ける。
こんなシュールなことをルーティンにしてる時点で超オモシロい。
メンターとしての父の英才教育のたまもの。
彼は異常な戦闘力を身につけていて、
打ってよし、殴ってよし、なおかつ頭もよい。
会計士としてのスキルも抜群でそれを見せるのが、
会議室とホワイトボードという演出も素晴らしかったです。
今の時代だとコンピュータースキルがすごい、
という方がリアリスティックではあるものの、
見た目が地味になってしまうところを
ホワイトボードとマーカーを使って
フィジカルに彼の能力を見せつける。
あと数字が本当に好きなんだなと思わせる、
アナ・ケンドリックとのやり取り。
クイズ形式で自分が発見した不正を
楽しそうに次々に披露していく演出がナイスでした。
前半の彼の生い立ちの懐古シーンや日常生活の部分が好きで、
几帳面な殺し屋といえばイコライザーも思い出すし、
細かいギミックが大切だなーと思います。
農家の人とのやり取りはコミュニケーション能力の
レベルを示すのに上手く機能しているし、
子どもの 頃よりは改善していることが、
招待されて銃を撃ちにお呼ばれしていることから分かる。
後半は調査した家電メーカーの不正に
経理のアナケンドリックもろとも巻き込まれて、
逃げながらも反撃していきます。
この後半がかなりテンポが悪くてもったいなかったなぁと。
とくにウルフを探している警察シークエンスが、
取ってつけたように見えてしまうし、
JKシモンズが真相を部下に明かすところも、
ウルフの行動を正当化するために用意されていると思うんですが、
あまり上手く機能していない気がしました。
(そもそも正当化する必要があるのか疑問)
アナ・ケンドリックとのシークエンスもロマンスに発展しないし、
彼女との出会いによってウルフに変化が訪れる訳でもない。
とくにホテルのシーンが蛇足だと感じました。
全体の尺として130分あるんですが、
この辺削ったら100分くらいになって、
もっと見やすくなった気がします。
始まった仕事は終わらせないと気が済まないウルフは、
最後に事件の黒幕である社長の家へ殴り込み。
一方の社長の方も組んでいた裏社会の人間に
万全の警備を準備させます。
この裏社会側の敵役にジョン・バルサールを
キャスティングしていてナイス!だと思いました。
ウォーキング・デッド に出ている俳優で、
映画で見る確率が近年もっとも高い男。
そして今、悪役を演じさせたら彼の右手に出るものはいない。
露骨な悪というよりも性格の悪いネチネチした悪。
といった感じでいつも最高の演技を見せてくれる。
(登場シーンが最高すぎた…!!)
最後の直接対決でまさかの展開が起こるんですが、
ウォーリアーを見てしまっていると、
取ってつけたように見えてしまい、
完全に興醒めしてしまいました…
「なんで俺だけ仲間外れにして葬式行ってんねん!」
と言いながら殴りあう本格的な兄弟喧嘩は笑える。
ここまで文句言ってきましたが、ラストシーンが結構好きでした。
幼少期から青年期までは協調性を育むことが重視されるけど、
そこで同調にはならず己の生き方を見出すことは
大切だけど自分だけの力でどうにもならないこともある。
きっかけ、機会の重要性を教えてくれるような、
ラストシーンの諸々の回収の仕方はグッときました
本作もオモシロいんだけど、
ウォーリアー見てない人はそちらを絶対見て欲しい!

2017年1月21日土曜日

甘美なる作戦

甘美なる作戦 (新潮クレスト・ブックス)


年末に友人との本の座談会飲みする前に、
本屋でオススメしてもらった作品。
昨年Session22で取り上げられていたんですが、
そこまで手が回らず読まなかったものを
オススメしてもらいました。
(なお安定安心の新潮クレストブックスです。)
海外小説は骨太で読みにくいものがあったりしますが、
とても読みやすかったですし、
終盤のあっと驚く仕掛けが素晴らしかったです。
女性スパイが主人公で彼女(セリーナ)が
自分自身の人生を語る形でお話が進んでいきます。
舞台はイギリス。
教会の娘に生まれたセリーナは
すくすくと成長しケンブリッジで数学を専攻します。
高校では数学の能力はトップクラスだったけど、
井の中の蛙で挫折してしまう。
そんな中、おじさんの愛人となり、
彼の計らいでMI5へ入局することになります。
1970年代の話なので正社員で採用されてはいるものの、
男女間の格差は大きくあり書類整理の事務仕事ばかり。
しかし、ある突然Sweet Toothという作戦にアサインされ、
スパイとして働くことに。
007みたいな話を想像しがちですが、
派手な作戦を担当するのはMI6であり、
Sweet Toothはめっちゃ地味な作戦で、
冷戦まっただ中の社会で反共産主義的であったり、
イギリスのことを賞賛するジャーナリストや作家を
基金を通じて裏から支えるというもの。
彼女の担当は小説家なんですが、その彼と恋に落ちてしまう。
ここまでが大まかなあらすじなんですが、
物語の骨格を担うのがスパイの話ではなく、
彼女自身の恋愛 に関する話なのがフレッシュでしたねー
無敵状態のときもあるし、ジメジメなときもあるし、
女の子は恋愛と共に生きているなぁと思いました。
そして愛した男達の行動が彼女の人生を規定していき、
運命の濁流に巻き込まれていく姿が
愛しくもあり辛くもありました。
小説内の小説というメタ構造も興味深くて、
小説の話自体もオモシロいんですが、
見る/見られるの関係性を生かした
驚きのエンディングが待ち受けている。
人間観察という点では小説家とスパイは表裏一体なのである、
という作者の主張に深く頷かされる一作でした。

2017年1月15日日曜日

おとぎ話みたい



山戸結希監督は昨年溺れるナイフが
公開されていますが、過去の作品を見ました。
本作は友人に以前猛プッシュされていたんですが、
長らくDVDレンタルがありませんでした。
しかし!溺れるナイフの公開に伴って
レンタルされているのを発見し見ました。
MVのような早いテンポがとても心地良いし、
「踊り」へのフォーカス具合が抜群でした。
田舎の日本の高校生が踊ることに夢中となり、
閉塞された世界を打破していくお話。
メンターとして高校の先生と
主人公と同じように東京でダンスしていた先輩が登場。
主人公が心酔 →同族嫌悪していく姿は、
そういうことあるなぁと思って胸が痛かったです。
ずっと画面が暗いのが印象的で、
とくに曇天模様のショットがカッコよかった!
田舎×曇天という鬱屈したところからの卒業式。
すべてはこのために!と言わんばかりに、
素晴らしい踊りが展開されていました。
圧倒的な抜けの良さが山戸監督だからこそ、
と言えるのかなーと思います。
それを証明するのが映画の後に付いている、
銀座の歩行者天国をワンカットで撮影したMV。


これが好きな人は映画必見です。

マジカル・ガール



まだまだ過去作をDVDで見ていて映画館に行けていない …
来週から一気に始まっていく感じなので、
それまでにレフン監督のネオン・デーモンで映画始めしときたい。
それはともかく見逃していたスペイン映画である本作は、
不思議な世界観とソリッドな演出でオモシロかったです。
ただ尺が長くてDVDで見ると少しダレました。。
お話自体はシンプルで、病気を抱えた娘を持つ父親が、
娘の欲しがるアニメグッズを買うために、
ある女性を恐喝するようになって…というもの。
資本主義システムの縮図そのもので
肥大化する誰かの欲望を満たすために、
誰かが犠牲になってしまい痛みが増していく。
その欲望というのが、超高い日本のアニメの衣装
というのがシニカル過ぎる!笑えない。
1回目のプレゼントで「あれ、足りない…?」
と見せる部分が素晴らしすぎたなぁ。説明しないことの潔さ。
本作の良さは、すべてを説明しないことだと思います。
最たる例が女性のメイクマネーの方法ですよね。
手前の部分まで見せといて実態を見せないことで、
緊張感が高まるし、トカゲの部屋に入るときの
「白紙」があんなに怖くなるなんて。。。
終盤のおじさんが実は怖い人でしたという演出も
スーツ着込むところがフォトジェニックだし、
極めてドライなエンディングも素晴らしかったです。

2017年1月11日水曜日

ぼくと アールと彼女のさよなら



まだ映画館始めできていないんですが、
DVDをチョロチョロと見ています。
青春もの見たいなーと思い本作を見ました。
信頼のFOX SEARCHLIGHTのロゴが冒頭に出て
期待していたんですが、めちゃくちゃ素晴らしかった…
これDVDスルーってどうなってんねん!
と言いたくなるぐらい。要素でいえば、
きっと星のせいじゃない。
ゴンドリーの僕らのミライへ逆回転の
組み合わせと言っていいかもしれません。
ただ、その組み合わせの妙と
しっかりとアップデートしているのが素晴らしかったし、
最近見たアメリカ青春もので一番好きです。
主人公のグレッグの高校3年生。
誰とも深く仲良くならないことで、
アメリカの高校内のスクールカーストから
距離を置くことで自分が傷つかないように生きている。
そんな中で同級生のレイチェルという女の子が白血病になり、
お見舞いに行ったことをきっかけに、
仲良くなり始めて …というお話。
日本で病気恋愛ものというジャンルが
一時流行し紋切型の作品が量産されていましたが、
そんな人たちに本作を煎じて吐くまで飲ませたい。
病気になった人に対するスタンスって
難しいものだと思っていて
「あきらめないで」「絶対治るから」と言う側は
当人と会った1度だけですが
言われる側は同じようなことを
何度も繰り返し言われるわけです。
そこにウンザリしているレイチェルに対して、
グレッグは人に深入りしたくないゆえに、
レイチェルと良い意味でフラットに接することができる。
彼女との関係を通じて、「何者」でもない高校卒業直前に、
グレッグが主体性を獲得していく姿がとても眩しかったです。
あと、グレッグが唯一情熱を注いでいることが映画を作ること。
映画といっても過去作のパロディの短編なんですが、
それを共作しているのがアールという男の子。
彼の動じない強さがかっこいいし、
グレッグ、レイチェル、アールの
アイスクリーム屋での3ショットは最高最高!
監督解説付きで再度見たんですが、
計算され尽くされた1つ1つの構図と、
計算できない俳優の瞬間的な魅力のバランスが
良いんだなーと思いました。
あとストップモーションアニメが
合間合間に挟まれていくんですが、
ベタベタ触りまくる女子表現として抜群でした!
そしてラストの病室でのシーンが圧巻。
劇中音楽を手がけたBrian EnoのBig Shipが鳴り響く中、
感動的なグレッグの映像が流れる。
単純なビデオレターではなく
抽象的な内容にも関わらず涙が出てしまう、
これこそ映画マジックだと思います。
現代アメリカ青春物語の最高峰!

2017年1月7日土曜日

アヘン王国潜入記

アヘン王国潜入記 (集英社文庫)


今年もたくさん本を読んでいこう!
ということで大阪帰省の際に大量購入したんですが、
とりあえず積んでいるものから読んでます。
昨年読んだアジア未知動物紀行がオモシロかった、
高野秀行さんの作品を読みました。
数多くの作品がリリースされているんですが、
このタイトルの強さに惹かれて思わず購入。
ゴールデントライアングルと呼ばれる、
世界最大の麻薬製造地帯のうち、
ミャンマーにあるワ州というエリアにオフィシャル潜入。
アヘンの原料であるケシの実栽培に
村人に混じって参加したルポタージュです。
この時点でオモシロい気配しかしないわけですが、
読んでみると想定を超える事態の連続で最高最高でした!
単純に麻薬ビジネスの背景や勢力図を書いたものも
オモシロいし好きなんですが、
高野さんの作品が特別な点は生活者の話だからです。
本作でも村に暮らす人々にまつわる、
ときにハードで、ときにキュートな
エピソードの数々がたまらない!
アヘンの原料を作っていると危険な匂いを
勝手に感じてしまうんですが、
想像ではなく高野さんが自分の目で見た事実の
1つ1つが読者の抱くイメージを氷解させていく。
終盤に村を出て行く場面は思わず泣いてしまいました…
とはいえ、アヘンはアヘンであることに変わりない。
アヘンと聞いてすぐに思い浮かべるのはアヘン戦争。
なかでもアヘン窟の絵は今でも覚えています。
著者も例外なくアヘンの虜になっていく姿は
とてもスリリングでした。。。
一方でアヘンはモルヒネの原料でもあるため、
死の苦痛を和らげていたのだという、
アヘン吸いのおじいさんが亡くなるエピソードは、
死との向き合い方について考えされられました。
アメリカでは医療大麻の合法化が進んでいますが、
日本ではドラッグ=危険!という
非常に硬直した考え方になっているなーと思います。
(酒というドラッグは肯定しているのに)
もっと大局的に見たミャンマー内の、
民族間の違いに関する記述は現在進行形の問題で、
少数民族を抑圧する政府という立場は
アウンサンスーチーが国の中枢に入った今も変わらない。
こういった世界に横たわる現実知るか/知らないか問題は、
自分が当事者ではなく日本でのうのうと生きているという、
矛盾がつきまとうんですが、僕は好きなので
これからもノンフィクションを読んでいきたいです。
高野さんはミャンマー系でもう1冊、
ミャンマーの柳生一族という著書があるので、
そちらも読んでみようと思います。

草原の実験



信頼するマイメンの去年ベスト!
と聞いて見ない訳がないということで見ました。
久々に前情報、一切なしで見たこともあって、
かなりグッとくる映画でした。
ロシア人監督の作品なんですが、
セリフが一切なく時代背景の説明もありません。
1人の男と少女が草原にある部屋で
共に暮らしている姿を描いていきます。
セリフがないにも関わらず恐ろしく雄弁!
それは映画が持つ画面、ショットの力に基づくもの。
基本フィックスが多いんですが、
光と影の使い方を含めた完全に計算された
画面構成で映し出される自然 界が恐ろしくかっこいいし、
ここぞ!というときに手持ちカメラを使う。
緩急のつけ方が素晴らしかったです。
さらに本作を特別ものにしているのは、
主人公の少女を演じるエレーナ・アンの圧倒的魅力。
必ず近いうちにハリウッドデビューするだろう、
その美貌と仕草におじさんは心を撃ち抜かれました。
とくに白人の青年と知り合ったときの、
あのハニカミは必見だと思います。
(私が気持ち悪いことは百も承知です。)
抑圧された環境に身を置かれた少女が
自分の力で外の世界へと旅立つ、
このテーマは僕の去年2位だった裸足の季節と
似たようなテーマなんですが、
本作ではそれがなし得ることないまま、
想定外!と言わざるを得ないラストが待っています。
文明との衝突という話だとは思いますが、
それまでの世界観との違いに良い意味で腰を抜かしました。
本作に大林宣彦監督が寄せているコメントが
最高だったので転載しておきます。

映画は長方形。光と影の芸術。
ロシアの大自然も人の暮らしも、
この映画的制度の整いの中で息を呑むほどに美しい。
声の要らぬ映画だがラストに至り
「陽はまた昇りまた沈む」の宇宙の法則に反する、
衝撃の言葉を発する。
人みな、この映画と対話せよ!
公式サイトより)

2017年1月6日金曜日

THE ICEMAN 氷の処刑人


公開当時気になっていた作品。
(もう4年も前という事実に震えた)
これは劇場で見たかったなーと思うほどに、
とてもオモシロかったです!
いろいろ好きだった要素はあるんですが、
一番大きかったのはキャスティングです。
主人公のククリンスキーをマイケル・シャノン、
その奥さんをウィノナ・ライダー、
マフィアのボスをレイ・リオッタ、
のちにククリンスキーの相棒となる殺人鬼を、
クリス・エバンスという豪華布陣。
本作は実際に存在した殺し屋を描いた
半自伝的映画なんですが、
マイケル・シャノンから滲み出るマッドネスが最高。
僕が持ってるシャノンのイメージは、
スーパーマンの近年のリブートシリーズでの、
ゾッド将軍しかなくて …(偏りすぎ)
イメージが異なるという点では、
キャプテン・アメリカのイメージしかない
クリス・エバンスも衝撃で。。。
見てるときは全然気づかないくらいに別人でした。


あとはレイ・リオッタはいつものレイ・リオッタ。
すげー汚いマフィア役がよく似合っていました。
(ジェームス・フランコの雑な使い方も最高)
この布陣で見せる殺し屋の話なんてオモシロくないわけない。
実話ベースということ何が真実か見極めつかないんですが、
お話の展開がとにかくオモシロい。
単なるビデオダビング屋さんが
殺し屋へと変貌していく過程を描いてくんですが、
物語が進むにつれてククリンスキーのマッドネスの源が見えて、
実は昔から。。という展開が怖かったです。
それが炸裂するのが、家族とのドライブ中におかま掘って
相手のドライバーにブチ切れてのカーチェイス。
Mr.アンストッパブルを体現していました。
舞台が70年代NYというのもアガるポイントで、
なおかつ夜の撮り方が上手いんですねー艶やか。
殺し屋実話系ではかなりオモシロい部類に入ると思います。

2017年1月4日水曜日

ハッシュ!



新幹線移動の際に見ました橋口亮輔監督作品。
年末に先輩たちと映画飲みした際にも、
フィルモグラフィーが少ないながらも、
どれもが傑作という稀有な監督だという話をしていました。
本作はゲイカップルと1人の女が主人公で、
代理出産について考えさせられるような お話。
2010年代はLGBTの権利について、
世界中で議論が大きく進展していて、
渋谷区で同性婚が認められたり、
特定の企業では先進的な取り組みが行われていたり→リンク
こういう抜本的改革が必要なことは国が大枠を決めて、
「はい、従ってください」というトップダウンにしないと
状況が変わらないよなぁといつも思います。
(クールビズがいい例でしょう?)
本作が作られたのは2001年なんですが、
監督自身の当事者性も強いからなのか、
かなり先に進んでいる内容だと感じました。
ゲイカップルの生活だけを描くのではなく、
彼らの両親、独身女性といった
他の登場人物を交えた群像劇として描くことで、
家族のあり方が立体的に見えてくる作りになっています。
群像劇の名手!と言いたくなる、
人と関わることの多幸感、絶望感の両方が詰まっています。
終盤のリビングでワンカットを多用した、
ある種の地獄絵図シーンは本当に素晴らしくて、
なかでも片岡礼子の独白するシーンは圧巻。。
過ちを犯した人が幸せになったらダメなのか?というねぇ …
そして家族とは何なのか?を考えざるを得なくて、
いつの時代だよ!という家長制度的思考の人は
たくさんこの世にいますが、
人間が形成する一番ミクロな社会である家族が、
べき論で語られるのは変だよなーと感じました。
あとは渚のシンドバッド見る!

2017年1月3日火曜日

カリートの道



新年1発目、何を見るかはその年を占うと言っても
過言ではなく1月1日の映画の日に、
君の名は。をぶっ込もうかなとか考えましたが、
ブライアン・デ・パルマ監督×アル・パチーノ!
ということで今更ながら見ました。
このコンビでマフィアものといえば、
どうしたってスカーフェイスが有名です。
特にヒップホップカルチャーにおいて、
アル・パチーノが演じる、
アントニオ・トニー・モンタナは
憧れの存在として描かれることも多いですし、
リリック、トラック共にサンプリングソースとして
今もなお輝きを放ち続けています。
who sampledというサイトで確認できます→リンク
同サイトでカリートの道を見ると、
スカーフェイスほど引用されていません→リンク
同じマフィアもので、なぜここまで差が出るのかなーと思うと、
描いているテーマが大きく異なるからです。
スカーフェイスが「破滅」ならカリートの道は「更正」
主人公のカリートは元大物ドラッグディーラーで、
友人の弁護士の力を借りて出所。
バハマ諸島でレンタカー業を始め足を洗うための
何とか最低限のお金を溜めようとする話。
ただしトラブルは向こうからやってきて、
彼は否応無しに巻き込まれていく。
極めてクリーンであろうとするカリートと、
もともとカタギの弁護士なんだけど、
コカインに毒されていく友人のクラインフェルド、
この対比がとてもオモシロかったです。
クラインフェルドを演じるのはショーン・ペン。
仁義もクソもない最低な男を見事に体現してました。
コカイン漬けのクズは最悪の結果に陥る、
ここはスカーフェイスと同じなんだけど、
英雄として描くのではなく情けない男として描いている。
ヒップホップは野蛮でナンボという側面を持つ
音楽のジャンルなのでカリートの道よりも、
スカーフェイスの方が受けるのかなと思います。
あと、カリートの道は映画として
ちゃんとし過ぎている点も
あまりフィーチャーされない理由なのかもしれません。
とくに終盤のタイムリミットサスペンスの部分は、
もろにアンタッチャブルズなシーン然り、
スカーフェイスに見られる衝動の部分がないので。
ヒップホップにおいてスカーフェイス至上主義の中、
JAY-Zのカリートの道好きっぷりがオモシロい。
1stアルバムのReasonable Doubt収録の
Biggieをfeatに招いたBrooklyn's Finesや
In My Lifetime, Vol.1〜3すべてのイントロで、
カリートのセリフを引用しています。
今の彼を見れば分かりますが、
ドラッグ稼業から足を洗いカタギとなり、
事業家として活躍している姿は、
カリートが成し得なかった未来を
彼は体現していると言えると思います。
大統領と仲が良い元ドラッグディーラー、
改めて文字にするとカッコ良さに痺れますね。
そして今カリートといえば
彼のことに触れない訳にはいかない!
フリースタイルダンジョンでもおなじみChico Carlito.
昨年末に出たアルバムが本当に素晴らしかったです。
フリースタイラー音源あんまり良くない問題を
鮮やかに乗り越えて音楽としてもカッコイイのに加えて、
今、レベルミュージックとしてのヒップホップが
どこで機能するかといえば沖縄しかない訳で、
そこをも汲み取ったデビューとは思えない完成度でした。
(カリートの出自と映画の製作年に基づいた、
MCネームという話も興味深かった→リンク
リスペクトとリサイクルに基づく、
ヒップホップと映画の関係性について考える
新年1発目から濃い映画体験。

2017年1月1日日曜日

2016→2017

ぼんやりと始まった2017年。
昨年は何か腰据えて取り組むことを目標としていましたが、
ふわふわしてたら1年過ぎ去った感じでした。
今年は何か作っていきたいなーと思います。
あと日記も書ければ(カルチャー備忘録のような)
どうなるか分からないですが精一杯生きる。