2016年10月26日水曜日

きのうの神様

([に]1-2)きのうの神さま (ポプラ文庫 日本文学)

映画、小説ともに大好きな永い言い訳の、
西川美和監督の小説ということで読みました。
これまでディア・ドクターのメイキング本、
エッセイの「映画にまつわるxについて」を読んでいますが、
永い言い訳以前の小説を読んだことがなかったので、
楽しみにしていました。
あとがきに本作が執筆された経緯が書かれていて、
ざっくり説明すると
西川監督が僻村の医療を題材にした映画を作りたく、
それには膨大な量の取材が必要だがお金がない。
そこで出版社が本作を書くことを前提に
取材費用を負担してくれたという経緯。
原作なしで映画を製作することが、
いかに難しいことかを示すエピソードな訳ですが、
その取材で作られた映画はディア・ドクター。
僕は西川監督のフィルモグラフィーの中で、
3本の指に入るくらい大好きな作品です。
本作は5つの短編で構成されていて、
ディア・ドクターを匂わせる部分がありますが、
原作という訳ではありません。
(同じタイトルの短編も映画原作ではない)
先日、直島を含む瀬戸内海の島々へ旅行したこともあって、
より作品の世界観を楽しむことができたような気がします。
都会、とくに東京で働いていると、
自分の存在価値ってなんだろう?
と考えることがあると思います。
祭りかよ!というくらい毎日多くの人が街に跋扈し、
様々なものが恐ろしい速度で消費されていく。
そこに心地よさを感じる訳ですが、
人と人がテクノロジーの発達前に保っていた距離、
半径5mの世界で生きることの良さと辛さ、
両方を描いている点がオモシロかったです。
僻村医療が題材となると、
あたたか〜い人情話になりそうなところを、
シビアな現実が合間に挟まれることで、
物語全体がウェットになり過ぎない。
映画しかり、小説しかり、
この温度感が西川監督の作品で好きな部分だなと改めて。
久々に映画を見返して見ようかなーと思います。

2016年10月25日火曜日

八本脚の蝶

八本脚の蝶

本屋大賞の中に発掘部門というものがあり、
そこで選ばれ、bookbangで紹介され、
その記事を見て読みました。
著者である二階堂奥歯さんは編集者で、
本作は2001年から2003年まで
web上で書かれていた日記をまとめたものです。
すでに彼女はこの世にいなくて、
2003年に自ら命を絶ってしまっています。
実はこの日記は未だweb上にあって、
読むことが可能です→リンク
最後の一言から始まる、その衝撃にやられて、
一体どういった過程で命を絶ってしまったのか、
少し下世話な気持ちがあったことは否定できません。
実際読んでみると彼女が亡くなったことへの
寂寥感に苛まれてしまいました …
こんなに頭脳明晰なのになんで ?という気持ち。
僕が最初に驚いたのは彼女の衝撃的な読書量。
児童文学、幻想文学、宗教関連の書籍が中心で、
これだけたくさんの本を読んでいた人にとって、
世界はどんな風に見えていたのか、
その断片的な論考も本作では多く語られています。
この論考の数々も本当にオモシロくて、
女性であること(フェミニズム)、
物語に対する姿勢、宗教を信仰することなど。
エログロに関する記述も多いことから、
「メンヘラ」いう言葉で
語りたくなる人もいるかもしれません。
しかし、そんな安い言葉で片付けられない、
圧倒的な筆の力が本作にはあります。
本を読むことは世界を拡張することだと
僕は信じてやまないんですが、
彼女の場合、宇宙のように広がり続けたその世界が、
どこかで逆向きに縮小していってしまったのかなーと。
とくに宗教に関して数多く言及しながら、
神様の存在を否定し続けながらも
宗教を信仰することへの希望も同時に語っているんですね。
僕自身は特定の宗教を信仰していませんが、
もしかして彼女を救えたのは信仰だったかもしれない
と思うと、それで命が救われるなら
十分に価値、意味があることだと初めて思いました。
終盤にかけて彼女が追い込まれていく様子は
文章からもヒシヒシと伝わってきて、
前半の元気な頃に語っていたコスメや香水のことを
楽しそうに書いていたときとのギャップがかなり辛かったです。
彼女の仕事相手や近しい人々のあとがきが
最後についているのですが、
それによって彼女の姿がより立体的になったので、
本を買って良かったなと思いました。
(蛇足だと思う人もいるでしょうが)
ブログに掲載されている冒頭の部分だけ見ると、
亡くなった人の死の直前の言葉という、
刺激の強さだけしか残らないけれど、
すべてを読めば彼女は今生きている僕達と
同様に精一杯生きていた。
自分の身の回りで起こらない保証はどこにもないんだなと。
中古本でしか手に入らないですが、
本好きに読まれつがれるべき日記文学。

2016年10月24日月曜日

何者



<あらすじ>
演劇サークルで脚本を書き、人を分析するのが得意な拓人。
何も考えていないように見えて、
着実に内定に近づいていく光太郎。
光太郎の元カノで、拓人が思いを寄せる実直な瑞月。
「意識高い系」だが、なかなか結果が出ない理香。
就活は決められたルールに乗るだけだと言いながら、
焦りを隠せない隆良。
22歳・大学生の5人は、それぞれの思いや悩みを
SNSに吐き出しながら就職活動に励むが、
人間関係は徐々に変化していく。
映画.comより)

原作が発売された当時、後輩に勧めてもらって、
就活を舞台とした自意識と対人関係について。
徹底的に攻めた内容に打ち震えた記憶があります。
(就活時期と近かったこともあったので…)
誰がいつ映画化するのかなーと思っていたんですが、
やっと見れるということで楽しみにしていました。
これ以上ないでしょ!という原作の魅力を
最大限に生かした100点の映画化でした。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

今回監督を務めたのは三浦大輔。
(最近引退した横浜のピッチャーではないです)
彼が舞台を手がけた恋の渦、愛の渦は
映画化されていて2作とも好きなんですが、
あの空気感が就活という状況に
ピターッとハマっている印象を受けました。
肥大化した自意識を抱えた人間を描くのが
本当に上手いなーと思います。見ていてウッとなる。
最初三浦監督と聞いたときは、
「それなら大根監督の方が …」と思ったんですが、
本当に申し訳ない。最高の監督キャスティング!
キャスティングといえば役者陣も抜群。
主人公の拓人を演じるのは佐藤健。
どちらかといえば好青年役が多いと思うんですが、
映画冒頭でライブを上から見ているときの
物憂げな目線からして期待しちゃうし、
それにバッチリ応えてくれるんですなぁ。
就活というのは大人が学生をジャッジして、
採用 /不採用を決めるというシステム。
それを考慮してのことなのか、
大人に主要キャストを用意してないんですよね。
ゆえに今の時代を代表する若手俳優のアンサンブルに
バッチリピントが合っていて見応えがありました。
キャスティングの仕掛けという意味では、
かつて拓人と同じ劇団に所属していたが就活せずに、
自分の劇団を立ち上げた烏丸銀次役に、
有名俳優を持ってこなかったことも、
思い切ったことするなーと思いました。
監督自身の過去を反映しているのかなーと思いつつ、
彼の正体を大っぴらにしないことは、
必死にもがいて0から1を生み出そうとする、
「何者」になる前の人は無名なんだ、
というメッセージなのかと思ったりしました。
本作でキャリアハイを叩き出しているのは岡田将生だと思います。
残りの俳優陣は何かしら好きな作品があるんですが、
彼だけどうしても好きになれる作品がなかったんですね。
(完全に個人的な好みの問題なんですが …)
口だけで分かった気なこと言って、
実際の行動が伴わない割に、
ちゃっかり裏をかこうとする比較的憎まれキャラなんですけど、
それをキッチリやり切っていたことに好感を持ちました。
SNS、とくにTwitterが軸として存在していて、
これがもうキツイんですよね …
 Facebookはある程度まとまった投稿しかできないし、
カッコつける場所のような空間になっている一方で、
Twitterは東京ポッド許可局でも言われていましたが、
脳のおならのようなもの。
思いついたこと、感じたことを言い放てる空間なわけで、
そのおならの香ばしさが原作時点でも大好きだったんだけど、
映像になると差し込まれるタイミング込みで、
よりリアルなものになっているなーと感じました。
僕は完全に拓人みたいな人間で、
それをSNSに書き込んだりはしないけど陰口たたいちゃう。
ゆえに彼の気持ちが痛いほどに理解できるし、
どんどん孤立していく姿が見ていて辛かったです。
(とくに山田孝之パイセンの言葉が重い …)
まるで彼を突き放すかのごとく、離れた場所から彼の姿を撮り、
そこからフェードアウトしていく流れが繰り返される。
こういったショットによる演出が随所に効いているし、
劇伴の中田ヤスタカがまた素晴らしかった!
デビッド・フィンチャー作品のトレント・レズナーのようで、
バキバキシンセのイメージを勝手に持ってましたが、
繊細な重低音の使い方が終盤にかけての、
不穏な空気とバッチリ合ってました。
ラストにかけてが三浦監督ならではの仕掛けというか、
物語のテーマともバッチリな文字通りの
ドンデン返しが圧巻だったと思います。
文字通り、人生という名の舞台において
「何者」なんだというメタ構造のオモシロさがあります。
何よりも原作で味わった、
あのジェットコースターのような畳み掛けの地獄っぷりが、
映像として体感できる点が最高最高!
映像化した物語の締め方として
これほど鮮やかなものはないでしょう。
三浦監督作品は本作に続き、
「裏切りの街」という映画がこれから公開されるそうなので、
そちらの作品も見てみたいと思います。

2016年10月22日土曜日

グッド・ウィル・ハンティング



いわゆるクラシックな作品は、
見なきゃいけないなーと思いつつも
ついつい目先の新作に飛びついてしまって、
なかなか見れていません。本作もそんな作品の1つ。
じゃあ、なんで見る気になったかといえば、
最近よく聞いているMac Millerの最新アルバム、
「Divine Feminie」 に収録された、
Soulmateという曲で本作が引用されているからです。
歌詞リンク


Mac Millerが引用したのは、
ロビン・ウィリアムズ演じるカウンセラーが
マット・デイモン演じるウィルに問うた、
孤独の中で救いの手を差し伸べてくれる、
ソウルメイトの存在に関する質問の部分。
本作が描いているのは天才でありながら、
不遇な家庭環境ゆえスラムでくすぶっているウィルが、
自分の人生と向き合い未来へ歩み出す過程です。
ウィルは天才といっても生半可な天才ではなく、
MITの数学者さえ余裕で蹴散らしちゃうレベル。
これを聞くと感情移入しにくいと思うかもしれないですが、
過去の養父からの虐待、天才ゆえ共感者がいないという、
モラトリアム期の青年であり、種類は違うかもしれませんが、
孤独ということに変わりありません。
僕が本作でが好きだったのは、
自分のことは自分で決めるという主張です。
誰かがどうだから、環境がどうだから、
そんなことは二次的要因で結局は自分で決めなければ、
人生が前に進んでいかないということを、
積極がましくなく伝えてくれる。
(主人公の名前がウィル(Will)というのは必然でしょう)
映画の冒頭でウィルが喧嘩をふっかけるシーンがあり、
その喧嘩におけるバイオレンス性は彼のラディカルさについて、
見る側に強烈なインパクトを残しますし、
これによって天才という強いプラスが打ち消され、
天才ではない観客も物語に入っていける有効な演出でした。
ウィルは抜群の頭脳を駆使し、
大人の包囲網から抜け出して自由に生きているように見えて、
実際には自分と向き合っていないことを、
カウンセラーとの話し合いの中から浮き彫りにしていく。
なかなか心を開かないウィルなんだけど、
最後最後でロビン・ウィリアムズが放つ、
「It's not your fault」でウィルが背負ってきた、
重い十字架をおろす瞬間がたまんなかったです…号泣。
あと僕が好きだったのは、
ベン・アフレック演じるチャッキーとウィルの関係性。
毎日のようにつるんでバカやっている仲で、
確かな絆がそこには存在する。
それは2人が脚本を担当していることも影響していると思います。
当時マット・デイモンは無名の俳優だったけど、
これがスターダムにのし上がるきっかけになって、
アカデミー賞において脚本賞を受賞しているんですなー
終盤にかけての2人の一連の流れが特に好きで、
チャッキーが最も恐れていることを告げて、
その瞬間が訪れる刹那。
あのリアクションは名演技としか
言いようがない絶妙なバランスで最高最高。
クラシックはクラシックたる所以があることを、
頭に刻み込んで色々見ていきたいと思います。

日本の黒い夏 冤罪

日本の黒い夏 [冤enzai罪] [DVD]

遠藤周作の沈黙がスコセッシによって
映画化されるというニュースがありました。
しかも窪塚洋介、浅野忠信が出演しているとのことで、
とても楽しみにしています。
過去に遠藤周作の作品を映画化している人はいないのか?
ふと疑問に思って探してみたら熊井啓という人が、
海と毒薬、深い河を映画化していることを知りました。
Huluで見れる監督の作品がないかと思って調べたら、
本作が出てきたので見てみました。
(遠藤周作はとくに関係ありません。)
オウム真理教が引き起こした松本サリン事件について、
高校生がマスコミに検証取材を行うという設定で、
事件の真相を探っていく作品です。
地下鉄サリン事件は内容のショッキングさゆえ、
当然知っていましたが松本サリン事件の詳細は
全く知らなくて勉強になりました。
サリンによってヒドい被害が出たわけですが、
本作がフォーカスしているのは
マスコミ・警察による報道被害です。
初動捜査とマスコミのミスリードにより、
全く関係のない神部さんという人が容疑にかけられます。
彼への容疑は本当に正しいのか?と疑問に思った、
TV 局が当時を回想して真相を語っていくんですが、
教養としてのマスコミ論入門編として非常に分かりやすい。
本作で語られていることがどこまで真実なのか、
それは分かりませんがニュースは斜め読みして
ちょうどいいくらいなんだなーと思いました。
中井貴一が主人公でTV局の部長。
自分たちが他社に抜かれたとしても、
あくまでファクト、取材内容に基づいて報道する
という姿勢を守っているのがカッコ良かったです。
ギリギリのところで踏みとどまるジャーナリズム。
僕が一番好きだったのは刑事の石橋蓮司と、
中井貴一が取調室でサシで向かい合うシーン。
倫理観について問いつめてくる中井貴一に対して、
「てめぇ、どの口が言ってんだよ?」という、
石橋蓮司のカウンターの決め方よ…!
そしてラストに冤罪が証明されたのち、
神部さん宅付近で出会う2人の距離感が
なんとも言えない塩梅でナイスでした。
フィクションだからこそ、デフォルメすることができて、
この事件の問題部分が浮かび上がってくる、
構成・演出も良かったと思います。
海と毒薬、深い河も見てみます。

2016年10月17日月曜日

永い言い訳



<あらすじ「>
人気作家の津村啓こと衣笠幸夫は、突然のバス事故により、
長年連れ添った妻を失うが、
妻の間にはすでに愛情と呼べるようなものは存在せず、
妻を亡くして悲しみにくれる夫を演じることしかできなかった。
んなある時、幸夫は同じ事故で亡くなった妻の親友の遺族と出会う。
幸夫と同じように妻を亡くしたトラック運転手の大宮は、
幼い2人の子どもを遺して旅立った妻の死に憔悴していた。
その様子を目にした幸夫は、大宮家へ通い、
兄妹の面倒を見ることを申し出る。
なぜそのようなことを口にしたのか、
その理由は幸夫自身にもよくわかっていなかったが……。
映画.comより)

西川美和監督最新作。
すでに監督自身が書いた小説が発表されていて、
それがとても素晴らしい内容だったので、
本木雅弘主演で映画化の話を聞いた時から
ずっと楽しみにしていました。
加えてAppleのMeet The Filmmakerの
公開収録で西川監督から本作に関する話を
直接聞いたことも思い出深かったです→リンク
前置きが長くなりましたが、
僕にとっては忘れがたい、
人生の節目で思い出すであろう作品でした。

※ここから盛大にネタバレして書きます。


本木雅弘演じる主人公の幸夫が

深津絵里演じる美容師の奥さんに
髪を切られるシーンから本作は始まります。
原作をすでに読んでいて話をある程度理解している中で、
映画である意味を最も感じたのは髪を使った演出です。
原作の中でも髪のことは書いているんですが、
ビジュアルできっちり見せてくる、
その心意気に相当グッときました。
本当に時間がかかっているんだなぁと。
単純に時間の経過だけではなく、
髪の毛を切れないことって切迫感を持ってるんだなーと、
本作を見て初めて思いました。
他人が介在しなければ成し得ない身近なものというか、
美容院/理容院にいけばいいじゃん!というけれど、
幸夫も子どもたちは自分で行くことができない。
「髪の毛」だけでこれだけ雄弁に語れるのが、
映画ってオモシロいなぁと思いました。
何と言っても本作のMVPは本木雅弘!
このキャスティングが大成功していると思います。
(僕は原作から吉岡秀隆をイメージしてましたが…)
自意識過剰で他人との距離感に敏感で、
自分の姿をさらすことを拒む。
超〜ややこしい人なんだけど、
僕は彼に近い考えを少なからず持っているため、
他人事とは思えなかったです。
ちなみにパンフレットに特典DVDが付いているんですが、
現実とフィクション、つまり本木雅弘と衣笠幸夫の
混濁っぷりがめちゃめちゃオモシロかったので、
パンフレットは絶対買った方がいいです。
とくに作品内に登場する奥さんの下書きメールに対する、
アクロバティックとも言える解釈に驚きました。
このこじらせ男子が向き合う子どもたちも抜群。
前半、幸夫が妻の死に全く向き合おうとしない中、
兄妹が登場した瞬間、死によって時間が止まっていることを
彼らの存在感だけで痛感させられてしまう。
子役演出に長けた師匠の是枝監督に
負けず劣らずの子役演出が素晴らしかったです。
是枝作品よりファニーな場面が多いのがよくて、
妹の演技なのか、マジなのか境目が曖昧な感じには
何度も笑わせてもらいました。
(従兄弟のくだりは本作最大の爆笑ポイント)
片や兄には泣かされまくりでした…
なんとか母の代わりを担おうとするものの、
自分の受験との折り合いに苦悩する姿は
見ているだけでウルル状態。
誰も悪くないのに自分の至らなさを悔いる長男マインド。
僕はバスを寝過ごして泣くシーンと、
ラストに幸夫と電車で語るシーンで涙腺決壊しました。
この兄妹の父を演じる竹原ピストルも素晴らしくて、
見た目は強面でおっかないし、
幸夫とは真反対の直情型の人間であると
登場したときには感じると思います。
当然、幸夫と対をなすようなキャラではあるんですが、
そこで紋切型の筋肉バカのようなキャラにすることはない。
人間をある一面で語りきれる訳がないということ。
彼の内面の変化も丁寧に救っていく点が、
西川監督らしいなと思います。
あとトラックで東京ポッド許可局が流れてブチ上がった!
しかも西川監督が許可局にゲスト出演していて、
キャスティング論を語っていて、
それもとてもオモシロかったです→リンク
作品の設定からすれば、
もっとエモ要素多めにできたと思いますが、
比較的ドライな仕上がりなのも好きなところ。
ドライさに対するショット1つ1つの力強さ、
このギャップが魅力的でした。
夜の街の艶やかさ然り、海のロングショットの儚さ然り。
ショットといえば、幸夫の背後から撮影したものが
とても多い点も印象に残っています。
先立った妻の視点だとも解釈できるし、
男の悲哀は背中が語るという意図なのかなーと。
坂を自転車で漕ぐ姿、子どもを夜迎えにいく姿。
季節の変化とともに彼が変わっていく。
妻の死と向き合わず、他人の家族と関係を深めていくことは
ともすれば逃げとしか言えるかもしれないけど、
そうすることで救われる何かがあれば、
それはそれでいいんじゃない、、くらいのニュアンス。
ファジーな部分を残しながらも、
何か人生において必要で大切なものを見た気持ちになる、
なかなかこんな映画ないと思うんですよねー
ラストの打ち上げシーンの多幸感もナイスだし、
そこで終わらずに幸夫の今後の人生を匂わせる、
少し突き放したようにも見えるエンディングでサムアップ!
もう一度原作を読み直してみようと思います。

2016年10月15日土曜日

鬼才 五社英雄の生涯

鬼才 五社英雄の生涯 (文春新書)

映画好き必読の名著あかんやつらの
著者である春日太一最新作ということで読みました。
あかんやつらでもフィーチャーされていた五社英雄監督。
本作は彼にフォーカスし、作品および人物像が深堀りされていて、
めちゃくちゃオモシロかったです。
春日太一さんの本の何がオモシロいかって、
監督のキャリアを時間の縦軸と、
同時代の状況を描いた横軸で整理している点は勿論のこと、
映画の場面や裏話をドラマティックなタッチで書いているところ。
本のイントロからブチ上がらざるを得ないんですが、
それはすでに五社英雄監督の術中にはまっているという、
仕掛けからしてニクい構成でニヤリとさせられる。
今でこそTV主導で邦画作品が多いですが、
当時は映画が娯楽の王道でTVが下に見られていた中、
フジテレビのプロデューサーだった五社監督は亜流扱い。
そこから映画スタッフの信頼を獲得して、
己の映画を作り上げていく姿が超かっこいい!
丹波哲郎、夏八木勲、仲代達矢、夏目雅子といった、
日本を代表する俳優陣とのエピソードもオモシロくて、
当然知らないことだらけだし作品が見たくなります。
また監督の作風の変化も興味深く、
時期によって作り方が異なる点を丁寧に解説してくれています。
その中で五社監督が貫いた姿勢が、
どこか1つでもいいから出色のシーンを作ること。
たとえ物語の流れが破綻したとしても、
観客の心に残る場面を作り上げるんだ!という心意気は、
ツッコミ過多な批評が多い中だと、
少なくなっているかもしれません。
本作の中には写真が多く掲載されているんですが、
それも超かっこよくてウットリしてしまう。
とくに五社監督の背中のモンモンの迫力たるや …
カタギではなくなるその覚悟を見ました。
本当に死ぬ寸前まで映画を作り続けた、
映画への愛が滾りまくった人生に最大限の敬意を。
Huluに松竹配給の作品がたくさんあるので、
時間かけて見ていきたい所存です。

2016年10月13日木曜日

やがて海へと届く

やがて海へと届く

彩瀬まる最新作ということで読みました。
友人に紹介してもらってから、
読み続けている数少ない女性作家の1人です。
というのも骨を彩るという作品が
生涯ベスト級の短編集だから。
その作品以降は短編が続いていましたが、
久々の長編ということで楽しみにしていました。
当たり前だった日常が実はそうでもない。
死は常に隣り合わせにあることを311で痛感した訳ですが、
そこを丁寧にすくい取った作品でした。
モロ女性作家な文体が久々で初め少し面食らい、
前半は乗り切れなかったです…
しかし、中盤で主人公の上司が自殺する時点から、
物語のギアが一段上がり2つの死が対比されて、
世界が一気に広がっていく感じが好きでした。
つまり亡くなった友人の魂の行方という
少し幻想性の強い世界から、
過労による自殺という現実性の世界との往来によって、
死がグッと迫ってきたんですよね。
ファンタジックさと現実味のバランスを
取ることができたというか。
当たり前のように「悲惨な過去は忘れない」という
フレーズがことあるごとに使われていますが、
確かに社会全体としては風化阻止の意味もあるので、
大切なことだと思います。
その一方で、一個人のレベルでどこまで
他人の死を受け止めて生きていくべき?
といったあたりの論考が興味深かったです。
論理的に考えるのではなく、
彼女が考え続けるその姿勢が好きでした。
しかも、その逡巡する姿、死後の世界を
惚れ惚れするような文体で、
丁寧に紡いでいるのだから心地良かったです。
永い言い訳は同じようなテーマで、
よりリアルスティックに迫った訳ですが、
リアルだけでは到達できない世界の豊かさを
味わうことができたので読んで良かったと思いました。
そして、宇多田ヒカルの最新アルバム、
Fantomeに収録されている「道」という曲が
本作のテーマとあまりにピッタリなので
最後に一部引用しておきます。

どんなことをして誰といても
この身はあなたと共にある
一人で歩まねばならぬ道でも
あなたの声が聞こえる
It's a lonely road
But I'm not alone
これは事実

私の心の中にあなたがいる
いつ如何なる時も
どこへ続くかまだ分からぬ道でも
きっとそこにあなたがいる
It's a lonely road
But I'm not alone
そんな気分

淵に立つ



<あらすじ>
町で小さな金属加工工場を営みながら
平穏な暮らしを送っていた夫婦とその娘の前に、
夫の昔の知人である前科者の男が現われる。
奇妙な共同生活を送りはじめる彼らだったが、
やがて男は残酷な爪痕を残して姿を消す。
8年後、夫婦は皮肉な巡り合わせから男の消息をつかむ。
しかし、そのことによって夫婦が互いに
心の奥底に抱えてきた秘密があぶり出されていく。
映画.comより

深田監督最新作ということで見ました。

ほとりの朔子がとても好きな作品で、
その後のさようならはアンドロイドが登場し、
トリッキーながらも深田色がある作品でした。
本作はテーマが重めでしたが物語がオモシロいし、
それに呼応する役者陣の迫真の演技が抜群でした。
今年を代表する邦画の1本であることに
疑いの余地は無いと思います。
ネタバレしないで見た方が絶対いいので、
見ようと思っている人は、
そっとウインドウを閉じてください。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

オープニングが素晴らしくて、
少女がオルガンを弾いている姿の画に、
クレッジットが乗っていく作り。
何が粋かってタイトルがメトロノームのリズムに合わせて
明滅していくところ。スタイリッシュ。
さらにオルガンの音が地獄のメロディと化す過程を
見るにつれて、このオープニングが効いてくる作りでした。
前半は家族と突然現れる同居人の八坂の生活が描かれます。
八坂を演じるのは浅野忠信。
これぞillness!と言いたくなる存在感が素晴らしかったです。
ノーネクタイで白シャツのボタンを上までとめて、
ハイウエストな黒いズボンにシャツをインしている。
正装といっても過言ではないこの服装が、
禍々しさを強調する役目を果たしているのがオモシロかったです。
八坂は殺人の罪による服役を終えて、
主人公の古館寛治演じる夫の工場で働き始めるんですが、
その作業着も真っ白のツナギ。
illnessの発火を衣装で語っていく のが、
アートのようでとてもかっこ良く感じました。
あと自分の犯した罪を国産に告白するシーンが
彼の出演シーンで一番痺れましたね。
自分の罪を客観的に説明するのは、
サイコパス臭がプンプンするし、
この後、彼が品行方正な行動をいくら取っても、
どこかで疑念を抱かずにはいられなくなる。
僕にとっては浅野忠信のベストアクトでした。
映画で家族を描く際に大切なのは食事のシーン。
下手に口で説明するより関係性、立場が露骨に現れるからです。
本作でも食事は象徴的な扱いとなっています。
冒頭、父、母、娘で朝ご飯を食べるシーンは最たるもの。
母、娘はキリスト教の祈りを唱えてから
食事を始めるのに対して父は新聞を黙々と読んでいる。
家族の距離感が一発で掴める素晴らしい演出。
前半は引きのワンショットによるシンメトリーな画面が多く、
登場人物同士が向かい合っています。
その状態からここぞというときに
登場人物の顔を押さえる緩急の付け方が素晴らしかったです。
一番分かりやすい唯一手持ちカメラになる瞬間は
感情と画面が一致して、それまでのタメがある分、
ゾワッとしました。
僕が本作が好きな最大の理由は、
登場人物が罪と罰の狭間で必死にもがいているところです。
各登場人物は過去に罪をおかし、
それぞれが罰に対するスタンスが異なる。
あるものは罰を欲し、あるものは罰から逃げ、
あるものは罰に飲まれている。
それが親子関係の中で展開されるため、
より濃厚な仕上がりになっていると思います。
驚いたのは後半部へのブリッジ。
10本映画があれば10本とも
娘が死ぬであろう事態が起こるんですが、
本作では全身麻痺で命を取り留めるんですよね。
正論で言えば助かって良かったという話なんですが、
母にとっての十字架にしか見えなかった…
タイトルどおり淵に立った母娘の最後は見るに堪えない、
ハードさで言葉を失いました。
さらに幸せだった頃と同じ川の字の俯瞰ショットが、
もの悲しさを煽るんですなぁ…からのキレの良い幕切れ!
人は過去を背負い、それが辛いものだとしても、
生きねばならぬと思った映画でした。

2016年10月6日木曜日

さすらう者たち


さすらう者たち

イー・ユンリーという作家が大好きなんですが、
長編1作目を読んでなかったので読みました。
昨年、長編の独りでいるより優しくてを読んで、
なかなかヘビー級だったんですが本作もヘビー級でした。
文化大革命後の中国の市井の生活を描いた群像劇。
中国の時代背景をある程度理解してから読んだ方が、
作品の理解はより深いものとなると思います。
恥ずかしながら僕はあまり知らなかったんですが、
調べながら本作を読み進めて、
浅いながら背景を知ることができて勉強になりました。
難しそうな印象を与えたかもしれませんが、
政治と生活が不可分なものであることがよく分かりました。
事なかれ主義と自分の意思を貫くことって、
果たしてどちらが良いのでしょうか?と問うてくる。
群像劇なので多くの登場人物が出てくるんですが、
それぞれ立場は異なるものの比較的後者のスタンス。
ある女性が反革命的分子として処刑されることで、
象徴のような存在となり、
登場人物たちの行考え、行動が徐々に変わっていきます。
共産主義の社会においては、
何よりも社会(国家)に貢献することが大前提で、
自分の意思なんて二の次で国家に反する意思を
表明することはありえない。
ダイレクトに反対行動する人物もいるし、
ゆるやかに逸脱していく人たちもいる、
このグラデーションが素晴らしかったです。
多くの人物の感情の微妙な機微を描いてるゆえに、
物語のテンポは遅く停滞しているような
印象を抱くかもしれません。
失った物語の推進力と引き換えと言ってはなんですが、
文章のかっこよさ、美しさが際立っていました。
僕が好きだったラインを引用します。

若さの喜びは一日をまばたきのように短くするが、
老いの孤独は一瞬を永遠の悪夢のように引き延ばしてしまう。

「弟たちは無知なまま生きていきたいように
生きていくだろうけど、僕は違う。
戦う価値のある主義に従って生きないなら、
何のために本を読むんだ

1つめの引用にもあるように、
そしてイーユンリーが一貫して描いてきたテーマとして、
「孤独」「家族」があります。
政治と生活と同様、この2つも不可分なものです。
本作では両者を体現する孤児が大きなテーマとなっています。
孤児側の視点だけではなく、子どもを失ってしまった、
親側の視点も拾っているので、
より多面的な世界が広がっていました。
長編2作と短編2作を読みましたが、
僕はどちらかというと短編の方が好きでした。
それは短編の方が余韻があるというか、
物語の先の余白が多い方が楽しめる作家だなーと。
最新作がどんな形なのか分かりませんが、
楽しみに待ちたいと思います。

海と毒薬

海と毒薬 (新潮文庫)

遠藤周作にハマっていて芥川賞受賞作品を読みました。
めちゃくちゃオモシロかった!!
沈黙深い河と読んできたけど一番好きかも。
第二次大戦中の病院でアメリカ人捕虜の生体解剖を行った、
日本人医師たちのお話です。
宗教なき日本における罪と罰の概念について、
スリリングな物語を通じて描かれていました。
物語の構成が巧みでとくに導入部分が抜群。
郊外に住むサラリーマンの話から始まり、
それは物語の本筋とは関係がありません。
そのサラリーマンが結核の治療で近所の病院を訪れ、
そこで出会った医師が実は …という展開。
戦後日本が「暴力」とまだまだ地続きであり、
人を殺めた経験を持つ人がそこかしこにいた、
考えてみれば当たり前なんですが、
史実として語られるよりも物語の方が深く刺さる。
そして戦時中の病院へと舞台は変わるんですが、
僕たちが思うような戦時中の病院の話ではなく、
白い巨塔的な派閥争いが描かれています。
その病院は田舎にあるので、
空襲のターゲットにはならないものの、
屋上から空襲されている様子が見えるという設定。
戦争で毎日たくさんの人が亡くなっていく状況で、
そこで人の命を救うことって意味あるんだっけ?
どうせ救っても戦争で死ぬんじゃん。
という強烈な厭世観が物語に通底していました。
夏目漱石等をはじめとした、
クラシックと呼ばれる本は時代を超えた普遍性を
携えているものだと思っていますが、
本作もその系譜に間違いなく連なる作品だと思います。
とにかく自意識を描くことに長けているのが遠藤周作。
沈黙や深い河では宗教を信じる側の話でしたが、
本作はその逆で明確に神の存在を意識しない日本人が、
罪をおかしたときに何を感じるのかという点を
生体解剖に携わった背景の異なる人たちを通じて描いていく。
主人公はノーと言えない日本人の典型といった感じで、
なんとなく周りの空気に流されて、
良くないとは思いつつも自分の意思を決めきれず、
悪化していく状況に流されてしまう。
客観的に見ると、このように感じてしまうけれど、
いざ同じ立場に置かれたら、、と考えずにはいられない。
その主人公の同級生の対比が見事で、
同級生はどんな悪いことをしても罪悪感を感じない。
彼の過去の悪事は読むに耐えない出来事の数々。
彼は一切の罪悪感を感じない自分が異常ではないのか?
と気にはしているものの彼も具体的な行動を起こさない。
そういった意味では2人は似た者同士と思ったり。
日本でも「お天道様が見ている」という言葉がありますが、
神の存在を明確に意識している外国人との差については、
生体解剖に参加した看護師とドイツ人女性の対比で
ダイレクトに描いていました。
また、実際の生体解剖の描写が超スリリングで息を呑みました。
その解剖を見学に来た軍人たちのジョークで、
捕虜の肝臓でも食わせてくれよという、
迂闊なでくだらない冗談はこの頃からあるんだなと思いました。
あとがきに本作と「留学」「沈黙」を
三部作として読むと良いと書いていたので
「留学」を読もうと思います。

2016年10月2日日曜日

ハドソン川の奇跡



<あらすじ>
09年1月15日、乗客乗員155人を乗せた航空機が
マンハッタンの上空850メートルでコントロールを失う。
機長のチェズレイ・“サリー”・サレンバーガーは
必死に機体を制御し、ハドソン川に着水させることに成功。
その後も浸水する機体から乗客の誘導を指揮し、
全員が事故から生還する。
サリー機長は一躍、国民的英雄として称賛されるが、
その判断が正しかったのか、
国家運輸安全委員会の厳しい追及が行われる。
映画.comより)

クリント・イーストウッド監督最新作。
あと何本、最新作を劇場で見れるか分からないので、
公開されれば必ず見ている監督の1人。
上映時間、内容ともにタイトながら、
王者の風格を携える作品になっていました。
「映画」を見たなという感覚がとても心地よかったです。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

本作は実際に起こった飛行機事故を題材にしています。
NYから離陸直後、バードストライクにより両エンジンが停止、
ハドソン川へ不時着を成功させた機長の判断を巡る話。
川へ着陸できたことは良かったけど、
実際は空港に引き返すことができたんじゃねーの?
という追求が物語を通じて行われます。
しかも無事に帰還してから一度も家に帰ることなく、
ホテルに缶詰にされてというのが驚きました。
ほぼ容疑者のような扱いをされている訳です。
実話ベースという点はこの辺りがオモシロいところ。
国家からは疑念の目を向けられている一方で、
マスコミ、世間では奇跡を起こし乗客全員の命を救った
英雄として扱われる。このギャップに戸惑う、
トム・ハンクスの演技が抜群でした。
自分の決断が間違っていなかったこと確信しながらも、
周りからの疑念の目に心を惑わせる姿。
あの犬みたいな顔は悩むのがよく似合う。
にしても、ここ最近のトム・ハンクスは
スピルバーグのブリッジ・オブ・スパイ、
ロン・ハワードのインフェルノと非常に精力的。
(意外にもイーストウッドとのタッグは本作が初めて)
実話系の映画って起こった事実自体に変わらないから、
主人公の感情とかニュースに出てこない情報を付加して
物語として肉付けしていくと思うんですが、
本作はさらに時系列の扱いが巧みだなーと感じました。
冒頭は事故の様子から始まったかと思いきや、
肝心のハドソン川への着水は見せないまま。
中盤あたりで回想として実際の事故を詳しく描く訳ですが、
同じシーンでもカットやより細かい描写を加えて、
観客に彼の決断に間違いが無かったのか検証させてくれる。
さらに最後の公聴会で決定的な場面を見せてくれる。
無事だったから別に気にしなくていいじゃん!
となってしまうことを上手く回避し、
サスペンスとして成立させてるところが良かったです。
あと僕が好きだったのはしミュレーションを巡る話。
様々なパラメーターがあったとしても、
そこに人的要因が加えられなければならない。
この議論はデータを使って人の思い込み(および勘)を
検証する仕事をしている身からすると刺さりました。
(監督作品ではありませんが、イーストウッドが
出演していた人生の特等席も同じようなテーマでしたね。)
前半で話し合われるのはハドソン川への着水の妥当性ですが、
後半の実際の事故を描いた場面では、
着水して助かったね、良かったね!で終わらない点も素晴らしい。
飛行機内に満ちあふれてくる水、漏れる燃料、
徐々に沈んでいく機体、真冬の川という極寒の状況など。
パイロットたちの危機回避能力だけではなく、
アメリカの危機処理能力の凄さも伝わってくる作り。
NY×飛行機事故となれば否が応でも911を思い出す訳で、
それを払拭するかのように「アメリカここに在り」
というイーストウッドの宣言のようにも思えました。
賛辞しちゃうとシラケちゃうこと多いけど、
イーストウッドのバランス感覚の良さがすべてだなと。
あと何作見れるか分からないけど、
生きてる限り作り続けてくれ!イーストウッド!

SCOOP!



<あらすじ>
数々の伝説的スクープをモノにしてきたカメラマンの都城静は、
輝かしい業績も過去のものとなり、
今は芸能スキャンダル専門の中年パパラッチとして、
借金や酒にまみれた自堕落な生活を送っていた。
そんなある時、ひょんなことから
写真週刊誌「SCOOP!」の新人記者・行川野火と
コンビを組むことになり、
日本中が注目する大事件に巻き込まれていく。
映画.comより)

「ましゃ」がパパラッチ?!という
センセーショナルな予告編から楽しみにしてた作品。
しかも大根仁監督となれば期待しまくりで見ました。
オモシロかったんですが過去の作品に比べると、
そこまで好きになれなかったです。
次作が渋谷直角の漫画の映画なんで期待しています。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

好きになれなかったのは後半部分で、
オープニングから中盤までは最高に楽しかったんです。
まずオープニングが超素晴らしかった!!
喘ぎ声が暗闇の中から聞こえてきて、
車の後部座席を映すとそこには福山雅治 a.k.a ましゃの姿が!
激しいセックスから始まる映画ということで、
ダラス・バイヤーズ・クラブの冒頭を思い出したりしました。
デリヘル譲が車を降りるまでワンカットで見せつつ、
一旦車のフラッシュライトでとばしーの、
ドローンで神宮前の美しい東京の夜を映し出して、
タイトルどーん!かっこいい!
都城はフリーランスのカメラマンで、
そこへ合流してくるのが二階堂ふみ演じる新人の野火。
中年パパラッチと若い女の子のバディという、
この組み合わせがオモシロかったです。
パパラッチのテクニックを次々と披露してくれて、
その結果得られる有名人のスキだらけな瞬間。
そこへ魅了されていく野火という構図が良かったです。
とにかく下世話に振り切っているところが最高過ぎる!
彼がラジオでは下ネタを…とか、
ファンは知っているのかもしれませんが、
「パーフェクトヒューマン、福山雅治」という、
パブリックイメージを持つ僕からすると驚きの連続でした。
僕が一番好きだったのは斉藤工演じる議員の
不倫をパパラッチするシークエンス。
激写という言葉にふさわしい手法と、
現場からの逃亡という一連の流れが抜群。
花火を使ったトリックと構図の巧妙さよ!
あとカーチェイスは迫力があって、
東京都内でもここまでできるのか!と感動しました。
ひたすら有名人のケツを追い続ける中で
中盤の見せ場となる凶悪殺人犯の顔取りへ突入。
予告編で多く使われていたのはこの場面で、
話題になった滝藤さんのベロンチョが
まさかのハカという展開には笑ってしまいました。
(宮嶋茂樹のカメオ出演もナイス!)
ただ僕が物語に乗れなくなったのはこの辺からで、
前半に比べて、ここでのギミックはリアリティが落ちるし、
都城と野火の恋愛の流れが要るのかなぁと思いました。
(吉田羊との関係で十分だったような…)
少しヌルいなーと思ったときに本作最大の飛び道具として、
イイ意味で冷や水をかけてくれるのがリリー・フランキー!
凶悪を最近見直して、やっぱリリーさんの悪役は
最高だなぁと思ってたんですが、
本作は凶悪を越える新たな境地に達してました。
シャブやって頭蓋骨だらけの雀荘を経営し、
元ボクサーなのか異常に喧嘩が強い。
都城は彼に大きな借りがあるらしいんですが、
その理由が作品中で具体的に明らかにならないのが
かなり思い切った作りだなーと思いました。
ラストでリリーさんが暴走する前に、
2人で遊ぶシーンがあって、おっぱぶのところとか最高で、
仲の良さを見ているだけに
都城がフィルムカメラ片手になだめようとする姿がグッとくる。
僕がうーんと思ったのは都城の最後およびその後を描いたシーン。
あまりに野火の行動がずさん過ぎるというか、、
あんなモロバレのところまで近づいて
望遠で撮るシチュエーションに納得できなかったし、
掲載/非掲載を巡る取って付けたような道徳論が
本作に必要だったんだろうかと。
プライバシー保護なんておかまい無しに、
人のプライバシーで飯食ってるから、
その当事者に拒否権はないとはいえ、
死ぬ瞬間ってどうなんかなーと思ってしまいました。
ただ品行方正過多でジャスティス・ウォーリアーが
雨後のタケノコのように蔓延る現代では、
このぐらいのパンチは必要だったのかなとも思います。
不倫はダメ!と言う人は不倫する人と
ベクトルは別にせよ同じくらいにゲスいと僕は考えているので。
パパラッチものだとナイトクローラーの方が
圧倒的に好きだけど「東京の夜」というテーマにおいて、
本作の右に出るものはない!と断言しておきたいです。
原作となった原田眞人監督の「盗写 1/250秒」を
1秒でも早くソフト化して欲しい!!

2016年10月1日土曜日

硫黄島からの手紙と父親たちの星条旗

映画頭脳破壊で取り上げられていたし、
イーストウッド監督最新作見る前に …ということで。
両作とも過去に1回DVDで見ていて、
その頃はドンパチが派手な硫黄島の方が
好きだったなーという印象でしたが、
今改めて見ると星条旗のメッセージの重さがグッときました。
歳を取ったこともあるし、当時から変わった
日本の情勢、空気が影響しているかもしれません。
この2作品をみれば、ハード/ソフトの両面から
戦争がいかにくだらなくて嫌なことか分かると思います。

硫黄島からの手紙




渡辺謙が栗林中将を演じ負け戦になることを覚悟しつつ、
硫黄島を死守しようとした日本兵たちの話。
硫黄島の戦いの壮絶さが克明に描かれているし、
今回見て思ったのはバランスの良さ。
アメリカ人からしてみれば、Remember Pearl Harborな訳で、
当時の人にとって日本兵は憎むべき存在。
それにも関わらず、日本も戦争に巻き込まれた被害者である、
という姿勢がビシビシと伝わってきました。
ハード(身体的)な戦争の残酷さを担うのが本作で、
ゴア描写が結構攻めているんですが、
手榴弾による自決シーンはかなり辛かったです。
暗闇で 坂の上から撃たれる構図は野火にもありましたが、
棒切れのように人が倒れる様子も辛かったなー
袋小路の中でも己が正しいと思う方向に進むしかない、
その大切さも知ることができました。

父親たちの星条旗



硫黄島の擂鉢山にアメリカ国旗を立て、
その様子を収めた写真が熱狂を巻き起こして、
若い兵士が政争の具とされていく話。
ソフト(精神的)な戦争の残酷さを担うのが本作で、
戦争に英雄なんていないことを示していました。
分かりやすい物語を求めて大衆が裸の王様を生み出す、
その過程を丁寧に描いていくことで、
英雄扱いされた側の苦悩が伝わってきました。
戦争従軍者の息子が、父親や周辺の話を聞いて、
戦時中のことを浮き彫りにするというストーリーラインは
永遠のゼロと同じですが中身は正反対。
最近アメリカン・スナイパーでも戦争による
PTSDを描いていましたが、本作の方がより濃厚で、
回想のタイミングを含めて全体の構成がPTSDそのもの。
身体だけではなく心も蝕まれるのが戦争。