2016年10月6日木曜日

さすらう者たち


さすらう者たち

イー・ユンリーという作家が大好きなんですが、
長編1作目を読んでなかったので読みました。
昨年、長編の独りでいるより優しくてを読んで、
なかなかヘビー級だったんですが本作もヘビー級でした。
文化大革命後の中国の市井の生活を描いた群像劇。
中国の時代背景をある程度理解してから読んだ方が、
作品の理解はより深いものとなると思います。
恥ずかしながら僕はあまり知らなかったんですが、
調べながら本作を読み進めて、
浅いながら背景を知ることができて勉強になりました。
難しそうな印象を与えたかもしれませんが、
政治と生活が不可分なものであることがよく分かりました。
事なかれ主義と自分の意思を貫くことって、
果たしてどちらが良いのでしょうか?と問うてくる。
群像劇なので多くの登場人物が出てくるんですが、
それぞれ立場は異なるものの比較的後者のスタンス。
ある女性が反革命的分子として処刑されることで、
象徴のような存在となり、
登場人物たちの行考え、行動が徐々に変わっていきます。
共産主義の社会においては、
何よりも社会(国家)に貢献することが大前提で、
自分の意思なんて二の次で国家に反する意思を
表明することはありえない。
ダイレクトに反対行動する人物もいるし、
ゆるやかに逸脱していく人たちもいる、
このグラデーションが素晴らしかったです。
多くの人物の感情の微妙な機微を描いてるゆえに、
物語のテンポは遅く停滞しているような
印象を抱くかもしれません。
失った物語の推進力と引き換えと言ってはなんですが、
文章のかっこよさ、美しさが際立っていました。
僕が好きだったラインを引用します。

若さの喜びは一日をまばたきのように短くするが、
老いの孤独は一瞬を永遠の悪夢のように引き延ばしてしまう。

「弟たちは無知なまま生きていきたいように
生きていくだろうけど、僕は違う。
戦う価値のある主義に従って生きないなら、
何のために本を読むんだ

1つめの引用にもあるように、
そしてイーユンリーが一貫して描いてきたテーマとして、
「孤独」「家族」があります。
政治と生活と同様、この2つも不可分なものです。
本作では両者を体現する孤児が大きなテーマとなっています。
孤児側の視点だけではなく、子どもを失ってしまった、
親側の視点も拾っているので、
より多面的な世界が広がっていました。
長編2作と短編2作を読みましたが、
僕はどちらかというと短編の方が好きでした。
それは短編の方が余韻があるというか、
物語の先の余白が多い方が楽しめる作家だなーと。
最新作がどんな形なのか分かりませんが、
楽しみに待ちたいと思います。

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