2016年10月24日月曜日

何者



<あらすじ>
演劇サークルで脚本を書き、人を分析するのが得意な拓人。
何も考えていないように見えて、
着実に内定に近づいていく光太郎。
光太郎の元カノで、拓人が思いを寄せる実直な瑞月。
「意識高い系」だが、なかなか結果が出ない理香。
就活は決められたルールに乗るだけだと言いながら、
焦りを隠せない隆良。
22歳・大学生の5人は、それぞれの思いや悩みを
SNSに吐き出しながら就職活動に励むが、
人間関係は徐々に変化していく。
映画.comより)

原作が発売された当時、後輩に勧めてもらって、
就活を舞台とした自意識と対人関係について。
徹底的に攻めた内容に打ち震えた記憶があります。
(就活時期と近かったこともあったので…)
誰がいつ映画化するのかなーと思っていたんですが、
やっと見れるということで楽しみにしていました。
これ以上ないでしょ!という原作の魅力を
最大限に生かした100点の映画化でした。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

今回監督を務めたのは三浦大輔。
(最近引退した横浜のピッチャーではないです)
彼が舞台を手がけた恋の渦、愛の渦は
映画化されていて2作とも好きなんですが、
あの空気感が就活という状況に
ピターッとハマっている印象を受けました。
肥大化した自意識を抱えた人間を描くのが
本当に上手いなーと思います。見ていてウッとなる。
最初三浦監督と聞いたときは、
「それなら大根監督の方が …」と思ったんですが、
本当に申し訳ない。最高の監督キャスティング!
キャスティングといえば役者陣も抜群。
主人公の拓人を演じるのは佐藤健。
どちらかといえば好青年役が多いと思うんですが、
映画冒頭でライブを上から見ているときの
物憂げな目線からして期待しちゃうし、
それにバッチリ応えてくれるんですなぁ。
就活というのは大人が学生をジャッジして、
採用 /不採用を決めるというシステム。
それを考慮してのことなのか、
大人に主要キャストを用意してないんですよね。
ゆえに今の時代を代表する若手俳優のアンサンブルに
バッチリピントが合っていて見応えがありました。
キャスティングの仕掛けという意味では、
かつて拓人と同じ劇団に所属していたが就活せずに、
自分の劇団を立ち上げた烏丸銀次役に、
有名俳優を持ってこなかったことも、
思い切ったことするなーと思いました。
監督自身の過去を反映しているのかなーと思いつつ、
彼の正体を大っぴらにしないことは、
必死にもがいて0から1を生み出そうとする、
「何者」になる前の人は無名なんだ、
というメッセージなのかと思ったりしました。
本作でキャリアハイを叩き出しているのは岡田将生だと思います。
残りの俳優陣は何かしら好きな作品があるんですが、
彼だけどうしても好きになれる作品がなかったんですね。
(完全に個人的な好みの問題なんですが …)
口だけで分かった気なこと言って、
実際の行動が伴わない割に、
ちゃっかり裏をかこうとする比較的憎まれキャラなんですけど、
それをキッチリやり切っていたことに好感を持ちました。
SNS、とくにTwitterが軸として存在していて、
これがもうキツイんですよね …
 Facebookはある程度まとまった投稿しかできないし、
カッコつける場所のような空間になっている一方で、
Twitterは東京ポッド許可局でも言われていましたが、
脳のおならのようなもの。
思いついたこと、感じたことを言い放てる空間なわけで、
そのおならの香ばしさが原作時点でも大好きだったんだけど、
映像になると差し込まれるタイミング込みで、
よりリアルなものになっているなーと感じました。
僕は完全に拓人みたいな人間で、
それをSNSに書き込んだりはしないけど陰口たたいちゃう。
ゆえに彼の気持ちが痛いほどに理解できるし、
どんどん孤立していく姿が見ていて辛かったです。
(とくに山田孝之パイセンの言葉が重い …)
まるで彼を突き放すかのごとく、離れた場所から彼の姿を撮り、
そこからフェードアウトしていく流れが繰り返される。
こういったショットによる演出が随所に効いているし、
劇伴の中田ヤスタカがまた素晴らしかった!
デビッド・フィンチャー作品のトレント・レズナーのようで、
バキバキシンセのイメージを勝手に持ってましたが、
繊細な重低音の使い方が終盤にかけての、
不穏な空気とバッチリ合ってました。
ラストにかけてが三浦監督ならではの仕掛けというか、
物語のテーマともバッチリな文字通りの
ドンデン返しが圧巻だったと思います。
文字通り、人生という名の舞台において
「何者」なんだというメタ構造のオモシロさがあります。
何よりも原作で味わった、
あのジェットコースターのような畳み掛けの地獄っぷりが、
映像として体感できる点が最高最高!
映像化した物語の締め方として
これほど鮮やかなものはないでしょう。
三浦監督作品は本作に続き、
「裏切りの街」という映画がこれから公開されるそうなので、
そちらの作品も見てみたいと思います。

0 件のコメント: