2016年10月2日日曜日

ハドソン川の奇跡



<あらすじ>
09年1月15日、乗客乗員155人を乗せた航空機が
マンハッタンの上空850メートルでコントロールを失う。
機長のチェズレイ・“サリー”・サレンバーガーは
必死に機体を制御し、ハドソン川に着水させることに成功。
その後も浸水する機体から乗客の誘導を指揮し、
全員が事故から生還する。
サリー機長は一躍、国民的英雄として称賛されるが、
その判断が正しかったのか、
国家運輸安全委員会の厳しい追及が行われる。
映画.comより)

クリント・イーストウッド監督最新作。
あと何本、最新作を劇場で見れるか分からないので、
公開されれば必ず見ている監督の1人。
上映時間、内容ともにタイトながら、
王者の風格を携える作品になっていました。
「映画」を見たなという感覚がとても心地よかったです。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

本作は実際に起こった飛行機事故を題材にしています。
NYから離陸直後、バードストライクにより両エンジンが停止、
ハドソン川へ不時着を成功させた機長の判断を巡る話。
川へ着陸できたことは良かったけど、
実際は空港に引き返すことができたんじゃねーの?
という追求が物語を通じて行われます。
しかも無事に帰還してから一度も家に帰ることなく、
ホテルに缶詰にされてというのが驚きました。
ほぼ容疑者のような扱いをされている訳です。
実話ベースという点はこの辺りがオモシロいところ。
国家からは疑念の目を向けられている一方で、
マスコミ、世間では奇跡を起こし乗客全員の命を救った
英雄として扱われる。このギャップに戸惑う、
トム・ハンクスの演技が抜群でした。
自分の決断が間違っていなかったこと確信しながらも、
周りからの疑念の目に心を惑わせる姿。
あの犬みたいな顔は悩むのがよく似合う。
にしても、ここ最近のトム・ハンクスは
スピルバーグのブリッジ・オブ・スパイ、
ロン・ハワードのインフェルノと非常に精力的。
(意外にもイーストウッドとのタッグは本作が初めて)
実話系の映画って起こった事実自体に変わらないから、
主人公の感情とかニュースに出てこない情報を付加して
物語として肉付けしていくと思うんですが、
本作はさらに時系列の扱いが巧みだなーと感じました。
冒頭は事故の様子から始まったかと思いきや、
肝心のハドソン川への着水は見せないまま。
中盤あたりで回想として実際の事故を詳しく描く訳ですが、
同じシーンでもカットやより細かい描写を加えて、
観客に彼の決断に間違いが無かったのか検証させてくれる。
さらに最後の公聴会で決定的な場面を見せてくれる。
無事だったから別に気にしなくていいじゃん!
となってしまうことを上手く回避し、
サスペンスとして成立させてるところが良かったです。
あと僕が好きだったのはしミュレーションを巡る話。
様々なパラメーターがあったとしても、
そこに人的要因が加えられなければならない。
この議論はデータを使って人の思い込み(および勘)を
検証する仕事をしている身からすると刺さりました。
(監督作品ではありませんが、イーストウッドが
出演していた人生の特等席も同じようなテーマでしたね。)
前半で話し合われるのはハドソン川への着水の妥当性ですが、
後半の実際の事故を描いた場面では、
着水して助かったね、良かったね!で終わらない点も素晴らしい。
飛行機内に満ちあふれてくる水、漏れる燃料、
徐々に沈んでいく機体、真冬の川という極寒の状況など。
パイロットたちの危機回避能力だけではなく、
アメリカの危機処理能力の凄さも伝わってくる作り。
NY×飛行機事故となれば否が応でも911を思い出す訳で、
それを払拭するかのように「アメリカここに在り」
というイーストウッドの宣言のようにも思えました。
賛辞しちゃうとシラケちゃうこと多いけど、
イーストウッドのバランス感覚の良さがすべてだなと。
あと何作見れるか分からないけど、
生きてる限り作り続けてくれ!イーストウッド!

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