2016年10月17日月曜日

永い言い訳



<あらすじ「>
人気作家の津村啓こと衣笠幸夫は、突然のバス事故により、
長年連れ添った妻を失うが、
妻の間にはすでに愛情と呼べるようなものは存在せず、
妻を亡くして悲しみにくれる夫を演じることしかできなかった。
んなある時、幸夫は同じ事故で亡くなった妻の親友の遺族と出会う。
幸夫と同じように妻を亡くしたトラック運転手の大宮は、
幼い2人の子どもを遺して旅立った妻の死に憔悴していた。
その様子を目にした幸夫は、大宮家へ通い、
兄妹の面倒を見ることを申し出る。
なぜそのようなことを口にしたのか、
その理由は幸夫自身にもよくわかっていなかったが……。
映画.comより)

西川美和監督最新作。
すでに監督自身が書いた小説が発表されていて、
それがとても素晴らしい内容だったので、
本木雅弘主演で映画化の話を聞いた時から
ずっと楽しみにしていました。
加えてAppleのMeet The Filmmakerの
公開収録で西川監督から本作に関する話を
直接聞いたことも思い出深かったです→リンク
前置きが長くなりましたが、
僕にとっては忘れがたい、
人生の節目で思い出すであろう作品でした。

※ここから盛大にネタバレして書きます。


本木雅弘演じる主人公の幸夫が

深津絵里演じる美容師の奥さんに
髪を切られるシーンから本作は始まります。
原作をすでに読んでいて話をある程度理解している中で、
映画である意味を最も感じたのは髪を使った演出です。
原作の中でも髪のことは書いているんですが、
ビジュアルできっちり見せてくる、
その心意気に相当グッときました。
本当に時間がかかっているんだなぁと。
単純に時間の経過だけではなく、
髪の毛を切れないことって切迫感を持ってるんだなーと、
本作を見て初めて思いました。
他人が介在しなければ成し得ない身近なものというか、
美容院/理容院にいけばいいじゃん!というけれど、
幸夫も子どもたちは自分で行くことができない。
「髪の毛」だけでこれだけ雄弁に語れるのが、
映画ってオモシロいなぁと思いました。
何と言っても本作のMVPは本木雅弘!
このキャスティングが大成功していると思います。
(僕は原作から吉岡秀隆をイメージしてましたが…)
自意識過剰で他人との距離感に敏感で、
自分の姿をさらすことを拒む。
超〜ややこしい人なんだけど、
僕は彼に近い考えを少なからず持っているため、
他人事とは思えなかったです。
ちなみにパンフレットに特典DVDが付いているんですが、
現実とフィクション、つまり本木雅弘と衣笠幸夫の
混濁っぷりがめちゃめちゃオモシロかったので、
パンフレットは絶対買った方がいいです。
とくに作品内に登場する奥さんの下書きメールに対する、
アクロバティックとも言える解釈に驚きました。
このこじらせ男子が向き合う子どもたちも抜群。
前半、幸夫が妻の死に全く向き合おうとしない中、
兄妹が登場した瞬間、死によって時間が止まっていることを
彼らの存在感だけで痛感させられてしまう。
子役演出に長けた師匠の是枝監督に
負けず劣らずの子役演出が素晴らしかったです。
是枝作品よりファニーな場面が多いのがよくて、
妹の演技なのか、マジなのか境目が曖昧な感じには
何度も笑わせてもらいました。
(従兄弟のくだりは本作最大の爆笑ポイント)
片や兄には泣かされまくりでした…
なんとか母の代わりを担おうとするものの、
自分の受験との折り合いに苦悩する姿は
見ているだけでウルル状態。
誰も悪くないのに自分の至らなさを悔いる長男マインド。
僕はバスを寝過ごして泣くシーンと、
ラストに幸夫と電車で語るシーンで涙腺決壊しました。
この兄妹の父を演じる竹原ピストルも素晴らしくて、
見た目は強面でおっかないし、
幸夫とは真反対の直情型の人間であると
登場したときには感じると思います。
当然、幸夫と対をなすようなキャラではあるんですが、
そこで紋切型の筋肉バカのようなキャラにすることはない。
人間をある一面で語りきれる訳がないということ。
彼の内面の変化も丁寧に救っていく点が、
西川監督らしいなと思います。
あとトラックで東京ポッド許可局が流れてブチ上がった!
しかも西川監督が許可局にゲスト出演していて、
キャスティング論を語っていて、
それもとてもオモシロかったです→リンク
作品の設定からすれば、
もっとエモ要素多めにできたと思いますが、
比較的ドライな仕上がりなのも好きなところ。
ドライさに対するショット1つ1つの力強さ、
このギャップが魅力的でした。
夜の街の艶やかさ然り、海のロングショットの儚さ然り。
ショットといえば、幸夫の背後から撮影したものが
とても多い点も印象に残っています。
先立った妻の視点だとも解釈できるし、
男の悲哀は背中が語るという意図なのかなーと。
坂を自転車で漕ぐ姿、子どもを夜迎えにいく姿。
季節の変化とともに彼が変わっていく。
妻の死と向き合わず、他人の家族と関係を深めていくことは
ともすれば逃げとしか言えるかもしれないけど、
そうすることで救われる何かがあれば、
それはそれでいいんじゃない、、くらいのニュアンス。
ファジーな部分を残しながらも、
何か人生において必要で大切なものを見た気持ちになる、
なかなかこんな映画ないと思うんですよねー
ラストの打ち上げシーンの多幸感もナイスだし、
そこで終わらずに幸夫の今後の人生を匂わせる、
少し突き放したようにも見えるエンディングでサムアップ!
もう一度原作を読み直してみようと思います。

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