2016年10月6日木曜日

海と毒薬

海と毒薬 (新潮文庫)

遠藤周作にハマっていて芥川賞受賞作品を読みました。
めちゃくちゃオモシロかった!!
沈黙深い河と読んできたけど一番好きかも。
第二次大戦中の病院でアメリカ人捕虜の生体解剖を行った、
日本人医師たちのお話です。
宗教なき日本における罪と罰の概念について、
スリリングな物語を通じて描かれていました。
物語の構成が巧みでとくに導入部分が抜群。
郊外に住むサラリーマンの話から始まり、
それは物語の本筋とは関係がありません。
そのサラリーマンが結核の治療で近所の病院を訪れ、
そこで出会った医師が実は …という展開。
戦後日本が「暴力」とまだまだ地続きであり、
人を殺めた経験を持つ人がそこかしこにいた、
考えてみれば当たり前なんですが、
史実として語られるよりも物語の方が深く刺さる。
そして戦時中の病院へと舞台は変わるんですが、
僕たちが思うような戦時中の病院の話ではなく、
白い巨塔的な派閥争いが描かれています。
その病院は田舎にあるので、
空襲のターゲットにはならないものの、
屋上から空襲されている様子が見えるという設定。
戦争で毎日たくさんの人が亡くなっていく状況で、
そこで人の命を救うことって意味あるんだっけ?
どうせ救っても戦争で死ぬんじゃん。
という強烈な厭世観が物語に通底していました。
夏目漱石等をはじめとした、
クラシックと呼ばれる本は時代を超えた普遍性を
携えているものだと思っていますが、
本作もその系譜に間違いなく連なる作品だと思います。
とにかく自意識を描くことに長けているのが遠藤周作。
沈黙や深い河では宗教を信じる側の話でしたが、
本作はその逆で明確に神の存在を意識しない日本人が、
罪をおかしたときに何を感じるのかという点を
生体解剖に携わった背景の異なる人たちを通じて描いていく。
主人公はノーと言えない日本人の典型といった感じで、
なんとなく周りの空気に流されて、
良くないとは思いつつも自分の意思を決めきれず、
悪化していく状況に流されてしまう。
客観的に見ると、このように感じてしまうけれど、
いざ同じ立場に置かれたら、、と考えずにはいられない。
その主人公の同級生の対比が見事で、
同級生はどんな悪いことをしても罪悪感を感じない。
彼の過去の悪事は読むに耐えない出来事の数々。
彼は一切の罪悪感を感じない自分が異常ではないのか?
と気にはしているものの彼も具体的な行動を起こさない。
そういった意味では2人は似た者同士と思ったり。
日本でも「お天道様が見ている」という言葉がありますが、
神の存在を明確に意識している外国人との差については、
生体解剖に参加した看護師とドイツ人女性の対比で
ダイレクトに描いていました。
また、実際の生体解剖の描写が超スリリングで息を呑みました。
その解剖を見学に来た軍人たちのジョークで、
捕虜の肝臓でも食わせてくれよという、
迂闊なでくだらない冗談はこの頃からあるんだなと思いました。
あとがきに本作と「留学」「沈黙」を
三部作として読むと良いと書いていたので
「留学」を読もうと思います。

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