2016年10月13日木曜日

やがて海へと届く

やがて海へと届く

彩瀬まる最新作ということで読みました。
友人に紹介してもらってから、
読み続けている数少ない女性作家の1人です。
というのも骨を彩るという作品が
生涯ベスト級の短編集だから。
その作品以降は短編が続いていましたが、
久々の長編ということで楽しみにしていました。
当たり前だった日常が実はそうでもない。
死は常に隣り合わせにあることを311で痛感した訳ですが、
そこを丁寧にすくい取った作品でした。
モロ女性作家な文体が久々で初め少し面食らい、
前半は乗り切れなかったです…
しかし、中盤で主人公の上司が自殺する時点から、
物語のギアが一段上がり2つの死が対比されて、
世界が一気に広がっていく感じが好きでした。
つまり亡くなった友人の魂の行方という
少し幻想性の強い世界から、
過労による自殺という現実性の世界との往来によって、
死がグッと迫ってきたんですよね。
ファンタジックさと現実味のバランスを
取ることができたというか。
当たり前のように「悲惨な過去は忘れない」という
フレーズがことあるごとに使われていますが、
確かに社会全体としては風化阻止の意味もあるので、
大切なことだと思います。
その一方で、一個人のレベルでどこまで
他人の死を受け止めて生きていくべき?
といったあたりの論考が興味深かったです。
論理的に考えるのではなく、
彼女が考え続けるその姿勢が好きでした。
しかも、その逡巡する姿、死後の世界を
惚れ惚れするような文体で、
丁寧に紡いでいるのだから心地良かったです。
永い言い訳は同じようなテーマで、
よりリアルスティックに迫った訳ですが、
リアルだけでは到達できない世界の豊かさを
味わうことができたので読んで良かったと思いました。
そして、宇多田ヒカルの最新アルバム、
Fantomeに収録されている「道」という曲が
本作のテーマとあまりにピッタリなので
最後に一部引用しておきます。

どんなことをして誰といても
この身はあなたと共にある
一人で歩まねばならぬ道でも
あなたの声が聞こえる
It's a lonely road
But I'm not alone
これは事実

私の心の中にあなたがいる
いつ如何なる時も
どこへ続くかまだ分からぬ道でも
きっとそこにあなたがいる
It's a lonely road
But I'm not alone
そんな気分

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