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2024年3月20日水曜日

2023 KOREAN HIPHOP BEST 100

 pH-1の新曲を聞いて去年の好きな曲を100曲選んだ。今のシーンに対するフラストレーションを感じたからだ。自分自身は韓国のヒップホップの楽曲がとにかく好きでひたすら新譜を聞いているのだが、彼からするとかつてのヒップホップの在り方からかけ離れてしまっている、つまり音楽以外の要素で注目されることを憂いている。こういった発言はOGに多い傾向があるが、第一線にいる彼から発せられるのは重い話だ。(サムネイルが松屋と吉野家と牛角で全部牛系なんだけどBeef を意図している??)

 去年はShow Me The Money(SMTM)が開催されないという異例の事態が発生した。毎年お祭りのように開催され、メンターのラッパー、プロデューサーたちが期待の若手をフックアップし、その年のトレンドが浮かび上がる。賛否があるにせよシーンを総括する役割を担っていたのは間違いない。それが無くなったことで何となく1年が経過したのは確かに否めなかった。そしてお祭りがない中でpH-1からするとネガティブな出来事が目に付いたのかも知れない。

 ただ2023年は本当に素晴らしい楽曲が多かったと個人的には感じている。特にSMTMがないから今がチャンスと見た数年単位でリリースのなかったベテランたちのリリースがHIPHOP、R&Bともに充実していた。当然若手も有望なラッパーが雨後の筍のごとく沢山でてきているのだが、アルバムやビデオのリリースだけではどうしても頭ひとつ抜けるのは難しい状況でありオーディション番組の効果を思い知る結果となった。今年は何らかSMTMの代替番組が登場してほしいところ。

 こういった背景の中でも100曲選ぶのは本当に楽しかったし難しかった。シングルはなるべく選んでいなくて、アルバムもしくはEPからお気に入りの曲を選んだ。なので各曲をきっかけに好きなアーティストを見つけられるはず。あと曲順もDJ的に選んでいて前半はトラップ、中盤はメロウな感じで、後半はダンサブルな感じ。どの曲もビートのクオリティとフロウの豊かさがとにかく最高でUSのトレースではあるのだけど、どのアーティストも絶妙にそこにオリジナリティを加えている。その点が韓国ヒップホップの好きなところであり、日本でもっと盛り上がるポテンシャルがあるので、このプレイリストが誰かの入口になればと祈る。

2024年1月4日木曜日

2023年12月 第4週

Only Built 4 Human Links by MOMENT JOON & Fisong

 次のアルバムを最後に引退宣言していたMOMENTが新たにレーベルを立ち上げ若手のFisongというラッパーとコラボしたアルバムがリリース。『Passport & Galson』は彼がどこからきてどこへ向かうのか、それがハイコンテキストなアルバムという形でリリースされたのとは対照的で、本作はミックステープ量産時代を彷彿とさせるラップマシーンとしての魅力がふんだんに詰まっていて感動した。イケてるビートを選んでいかにかっこよくラップできるか?このコンペティションに再エントリーしてきた感じといえば伝わりやすいか…Watsonのリリシズムがもてはやされるのであれば、MOMENTのリリシズムの偏差値の高さも同じく評価されるべきだと思う。そして、MOMENTを再びこのモードへ引き摺り込んだFisongというラッパーが本当にかっこいい。彼は在日韓国人らしく、日本語、英語、韓国語の三言語を巧みに駆使してラップを構築している。音としての韓国ヒップホップに魅了されている身からすると、彼のリリックのバランスがめちゃくちゃハマった。韓国語のパーカッシブ性を活用してフローで魅せていきつつ日本語では意味を求めていく。1曲目でKhundi Panda & JUSTHISの”뿌리”からリリックを引用してきたところでガンフィンガー立てまくり。(そして、この曲はMOMENTもビートジャックしている)前半はハードモード、ボースティングで攻めまくりつつ後半はメロウな展開になっていくのがジャケからすると意外。そしてラストの”Light”で大団円を迎える形はやはりアルバムというフォーマットでしか味わえない感動があった。(ここにちゃんとスクラッチを入れている点に彼らのヒップホップへの愛を強く感じた。)韓国を別のベクトルでルーツとして持ちながら日本でヒップホップをかますこと、2人だからこそできるアルバムになっていたので最高だった。タイトルはRakewonの1stアルバムからもじっているけど、その背景とか知りたいところ。好きな曲は複雑な気持ちになるけど、やっぱり”Robbin’ Time”

Hall & Nash 2 by Westside Gunn, Conway the Machine & The Alchemist

 もともと2017年にリリースするつもりだったアルバムが時を経て年の瀬にリリース。最近来日したことも記憶に新しいアルケミストの2023年のハードワーキングっぷりはえげつない。彼のソロアルバムを聞いてたわけでもないのに今年よく聞いたアーティストのトップ10にランクインしてた。つまりラッパーとの共同名義でたくさんリリースしたことがよくわかる。本作もここ数年のドラムレスもしくは鳴りの弱いスタイルのビートの上でGunn氏、Conway氏がハードにスピットし倒すというヒップホップ好きにはたまらない仕上がりだった。なかでも異質だったのはSchoolboy Qが参加した”Fork In The Pot” 今の時代に東も西ももはや関係ないとはいえ、Schoolboy Qの参加は意外だしビートのネタも皆目見当つかないけどかっけぇ!というヒップホップ純度めちゃ高い曲だった。

Knlls by Maalib & WRKMS

 Wooのインスタで知って聞いてみたら、特大ヒットだった。インディロック的なアプローチによるR&Bは最近のトレンドである中、もろにそのアプローチでめっちゃかっこいい仕上がりになっている。2人は韓国のプロデューサーのようで、クレジットによると本作は全編バンドサウンドで構成されている。バンドではあるものの抑制されていて引き算で作られている。最低限の音数でグルーヴ作られている感じが上品で好き。JOONIEという女性ボーカリストが半分ほど参加していて英詞多めなのも特徴的。当然グローバル視野に入っているだろうなと思うし全然通用すると思う。Wooはラップで参加、SUMINは6曲目にコーラスで参加しており彼らがフィールするのもよく分かる。インスト2曲が本当にいいアクセントになっていて、好きな曲はKim Okiのかっこよすぎるサックスが雄弁に語るラストの”Mounds, Knulls”

Naive by Ourealgoat

 前作のEPがかなりポップで「どうした?」という方向転換を始めているOurealgoat。今回のEPもその路線を踏襲しつつ若干ヒップホップに戻してきた、という塩梅。韓国ヒップホップのポップさというよりKポップ的なアプローチなのでそこまで好きになれず…ルックスもいいから人気の獲得という観点では間違いではないと思う。ただラッパーとしての素質めちゃ高いので、アルバムではドープさを期待したい。ポップな中でもヒップホップさを感じた”Can’t stop”が好きな曲。

2023年12月27日水曜日

2023年12月 第3週

 年末ということでリリースも収まりつつあるし、新譜チェックもそこまで進まず…今年のクリスマスはZION.T率いるSTANDARD FRIENDSのクリスマスプレイリストにお世話になった。かなりバランスの取れたプレイリストでジャズ、ヒップホップ、R&B、クラシックなど幅広いレンジのクリスマスソングを堪能できる。一番「彼ららしいな」と思ったのはDevin MorrisonとRemi Wolf。来年も多分聞くと思う。

appendix by GIRIBOY

 GIRIBOYがレーベル離脱にあたって最後にリリースしたEP。こないだ出たアルバムの当たり障りなかった内容はレーベルとの契約で必要に駆られて作ったものだと考えれば納得できる内容だった。で今作はそのAppendix、つまり付録扱いとなっている。とはいえ正直アルバムより好内容だった。4曲収録でいずれもバンドサウンドになっていて、3曲は既発曲のバンドアレンジ。新曲も含めてGIRIBOYのサウンドとバンドの相性の良さがこれでもかと発揮されていて、正直バンドカバーアルバムとしてフルサイズでやったほうがよくね?と思うくらい素晴らしかった。好きな曲は新曲の”tree”

RAYSONTAPE by ARCHYPE

 友人から教えてもらったアルバム。年末にこんなかっこいいアルバムがくるなんて。。。認知度とクオリティが比例していない系で、韓国ヒップホップの懐の深さに毎度驚かされる。Frank Ocean,Tyler the Creatorの系譜にあることは一聴して明らかなんだけど、要素を抽出してオリジナリティーの高い作品に落とし込む能力が段違い。誰々風と指摘するのは簡単だけど、実際にここまでのクオリティを叩き出せる人がどれだけいるか。ARCHYPEはコレクティブの呼称のようでいろんなラッパー、シンガーが参加していて各メンバーの動きを追っていきたいと思わされたし、それこそ近いうちにBalming Tigerのようにグローバルヒットしていくと思う。好きな曲は”DOMINO”

 あとペコ氏をゲストに迎えたポッドキャストを公開した。もう聞いた人しかこのブログ読んでいない気がするけど、まだ聞いていない人がいれば是非。2023年の締めにふさわしい音楽の話ができたと思う。

2023ベストは尊敬している後輩のアルバムを聞いてからゆっくり考えたい。Fisongかっけー!

2023年12月20日水曜日

2023年12月 第2週

Street Knowledge by lobonabeat!, BILL STAX & oygli

 SKRRGANGというレーベルのlobondabeat!, BILL STAXの両名に加えて飛ぶ鳥を落とす勢いのoygliが参加した3名によるアルバムがリリース。今どき珍しいどストレートなトラップビートに対して三者三様のアプローチがかっこいい曲ばかりだった。友人から言われて気付かされたのは、この手のトラップでUS、UKのゴリゴリのやつは1回聞くと疲弊して2周目するケースはほとんどないけど、このアルバムはいい感じで力が抜けていて何回も聞いてしまう中毒性があるということ。大ベテランのBILL STAXが若手2人に挟まれても遜色なくやっていることに感動するし、やっぱ今年はoygliの年だったな〜と思わされる彼の仕上がり具合も最高。好きな曲は相撲の押し出しをワードプレイした”Sumo” 力士=相撲になっているけどオモシロいので良し。

podo by Jambino

 SMTM11で活躍したJambinoが1stアルバムをリリース。素晴らしいポップス的な感性をラップに落とし込んでいくスキルが存分に発揮された、彼らしさを存分に楽しめる作品だった。韓国ヒップホップのキャッチーな部分を最も体現しているといったも過言ではないくらい。feat陣はSMTMでのコネクションをフルに活用してLEE YOUNG JI, JAY PARK, Loco, toigoといった豪華メンツになっている。なかでもLocoとの曲はビートがGRAY。しかもモロにファレル節炸裂しまくりで最近の彼のビートの中でもかなり好き。その上を軽やかに踊るようにラップする2人がめちゃくちゃかっこいい。LocoのアルバムでもJambinoはComposerとして数曲に参加しているし、SMTMでの”Water”で相性の良さを両名とも感じたのだろう。2人でEPとか作って欲しい。好きな曲は”ping” 彼はラップ自体がポップネスに溢れているのでビートはちょっとドープくらいの方が相性がいいと思っている。

Blood & Bones(BLOOD) by Jin Dogg

J in Doggのアルバムが急にリリース。前作同様、二部構成となっているらしくBLOODサイドが先に聞けるようになった。1曲目からゴジラサンプリングの超バイオレントなドリルが炸裂しており、そのトーンでアルバムを走り切るというハイカロリーアルバムとなっている。こういうアルバムを聞くのはシチュエーションが限られるけど、仕事で腹立つヤツにメールするときにとても有用(当社比)。Jin Doggのラップは人を鼓舞するエナジーが本当にハンパなくて聞いているだけで自分が強くなった気分になれる。ヒップホップという音楽がもたらす福音の一つを最大限に体現してるラッパーだと思う。あとはガヤが日本のヒップホップの中でも最強クラス。Dipset以来Migos以降、ガヤはヒップホップの特に重要なファクターになっているが、ガヤのエナジーもエグいんすよねぇ…自分が若かったらライブ見に行ってはしゃいでたと思うし、先日のポッドキャストで話した日本のアンダーグラウンドで沸騰する詰め込むタイプのドリルに影響を与えている1人だろうなと思う。好きな曲は”OMG”

Wisteria by CreativeDrugStore

 CreativeDrugStoreの1stアルバムがリリース。緩やかなコレクティブだった彼らが、各人の活躍を踏まえてどんなアルバムを作るのか楽しみだったが、思ったよりどストレートなヒップホップアルバム。いい意味で予想を裏切る好内容だった。というのもBIMやVavaのポップスフィールドに配慮したかのようなメロディ、コード感に辟易していたから。若者たちはそれを入口にヒップホップが好きになっているのだろうから裾野を広げる活動としては大きな意味があると思う。ただ2人のラップが好きなおじさんにとっては物足りなかったこの数年。そのフラストレーションがすべて解消されるような内容だった。特にVavaがオートチューンを使わずストレートにラップをかましているところにかなりグッときた。
 各人の強みをグループにフィードバックするというよりもグループとして新たにサウンド像を作り上げていく姿勢がかっこいいなと思う。ビートはRascal、Vavaがメインを担い、doooo、DJ MAYAKUが味変として機能。全ビートのクオリティが高い上に幅広いスタイルを抑えている。ここ20年くらいのビートのトレンドをさらっていくかのような感じなので、ずっと流していても楽しめた。個人的には”Menthol”のビギーの”Juicy”オマージュなドラム使いや”Retire”のダブステップにブチ上がり。好きな曲は”180”

LOYALTY by LUNV ROYAL
JETLIFE by JETG

 LUNV LOYALの新しいアルバムがリリース。ドリルを積極的に取り入れた内容でめちゃくちゃかっこよかった。Watsonとも呼応するワードプレイの数々、デリバリーの豊かさ、声質の気持ちよさ。ラップのレーダーチャートにおいてキレイな五角形を描く全方位的なかっこよさがあり聞いていて気持ち良いし全く飽きない。  秋田出身でフッドをレペゼンするリリックがたくさんあるのが興味深い。最も顕著なのは”Shibuki Boy” 上ネタの笛の音色が本当にかっこよくて、下手うつとめっちゃダサい「和風」ビートになるところを絶妙なバランスで「和」を体現していると思う。これは日本人にしか作れないかも。あと”高所恐怖症”で自殺率が高い負の側面を曲に落とし込んでいる点もかっこいい。そして今作で一番フィーチャーされている、いぶりがっこ!語感がオモシロいし隠語としての使い方が最高だった。なので、好きな曲は”Iburi Gacko Flow Pt.2” これで「JETGかっけー!」となって友人からそのアルバムを教えてもらってヤンガンのドリルを色々ディグった今週でした。

Hood Boy Story by YELLASOMA

 前にPanDeMicsを後輩から教えてもらって知ったYELLASOMAのソロ作品。リリックを引用しているくらいにかなりT-Pabrow節が強い。このスタイルだとフレックス系多いけど、彼は等身大のリリックでラップしていてギャップがオモシロかった。最近は本当に背伸びするリリックがなくなっている傾向にあり、自分の身の回りの話をいかにラップでかっこよく語るかレースになっていること再認識した。それは雰囲気よりも中身が大事ということであり音楽に対しても「リアル」を希求する時代なんだなーという隔世の感。そうなってくるとヒップホップは最強の音楽であり今若者に人気があるのはこういう点なんだろうなと思う。この観点で見ると彼のラップはとてもかっこいい!好きな曲は若者の考えが肌感で伝わってくる憂いを帯びた応援ソング”がんばっぺ”

TORiO by Only U, Tim Pepperoni & Puckafall

 ラッパーのOnly U, Tim PepperoniとビートメイカーのPuckafallによるEP。オートチューンバキバキのSinging Styleで今っぽさ満点でかっこよかった。完全にユース向けの音楽だと思っていて、その中でリリックが興味深い。ADHDに対する価値観を反転させようと試みる”ADHD RiCHHH”とか、”±”で訴えるセルフケアの大切さ、自分達の色を”MULTiCOLOR”と呼び多様性を主張したり。自分が若かったら刺さっているだろうな〜というリリックが多く青春を感じる。(遠い目)こういうのを説教くさくなく、かつ絵空事でもないように聞かせる2人の自由なラップとPuckafallのキャッチーなビートが癖になった。好きな曲は”ADHD RiCHHH”

Ornamental by TERRACE MARTIN

 2023年のTerrace Martinは本当に精力的で今回はクリスマスアルバムをリリース。オーナメントにあるのはMPC3000とシンセサイザーで今回のアルバムは生演奏というより打ち込みメインとなっている。(シンセは弾いているだろうけど)こういういい感じのインストは色んな場面で重宝するので家で結構聞いていた。いわゆるLAノリであるレイドバックしていてメロウなシンセサイザーな音色はいつまでも聞いていられる。ただクリスマス要素があるかといえば、それはパッケージング側の都合であり季節問わず聞ける内容になっていると思う。好きな曲は唯一のfeat曲である”Angle View” DJ Battlecat のトークボックスと Terrace Martinのボーコーダー&サックス、Courtyanaのボーカルのコンビネーションで荘厳な気持ちになった。

Sail the Seven Seas by Park Hye Jin

 Park Hye Jinが2ndアルバムをリリース。Peggy Gou,Yaejiといった一連の韓国の女性プロデューサーの系譜にあるアーティスト。前作はNinja Tunesからのリリースだったが今回はセルフレーベルからのリリース。前作はそれまで彼女がEPで紡いできた四つ打ちに加えてトラップなどBPMの遅い曲を含めて世界観が出来上がっていたと思う。今回はこの何とも言えないインスタントなジャケのように作った曲を単純にパックしたようなミクステのような印象だった。個人的にはこう言うラフな感じでアーティストが表現したいものがダイレクトに伝わってくる作品は好きなので前作よりも愛聴している。なかでも終盤の”California”は日本受けするような泣きのシンセ(tofubeats”水星”とか)がたまらない。ただ好きな曲は彼女の本領が発揮される四つ打ち曲”Keep Going”

2023年12月13日水曜日

2023年12月 第1週

Zip by Zion.T

 なんとZION.Tのアルバムが5年ぶりに出た!ここ数年は毎年のようにSMTMに参加していたことでリリースできていなかったと考えればSMTMが無くなって良かったかもと思える。(いや思えない)肝心の中身は大人のR&B仕様になっていて唯一無二の世界観を構築しているアルバムだった。(ジャケのセンスからしてキマりすぎ)後進を育てる意味でSTANDARD FRIENDSというレーベルを立ち上げWonstein, Slomをデビューさせたのがここ数年の出来事であり、その成果としてビートはSlom, Peejayを代表とするSTANDARD FRIENDSとしてのプロダクションになっている。生音(もしくは生音っぽい素材)を使ったマチュアなムード、これもまた韓国の音楽の懐の深さ。普段低音パツパツ系のヒップホップとかをよく聞いているから、これくらい引き算されているのは逆に新鮮。従来のネオソウル的なアプローチというよりもポップスにベクトルは向きつつベースはR&Bなのでちょうど好きなバランスだった。(あと時期的にクリスマスを狙ったと思わせる曲が多いのも特徴的)ピチカートファイヴっぽい”V(Peace)”という曲ではサビに日本語詞が!VLOGで日本語タイトルつけたりしてたから日本語に興味ある流れからなのか?しかもMVの監督はOKAMOTO'Sのオカモトレイジとギブン!ここまできたらマジで日本でライブして欲しい… 
 結局何が良いかといえばZion.Tの歌の素晴らしさに尽きる。トーンがとにかく好き。ささやくような声だけど力強い相反するバランスが奇跡的に成立している声だと毎度思う。この冬のヘビロアルバム。好きな曲はエレピの音が気持ち良すぎる”Dolphin”

Mcguffin by offthecuff

 Apple musicのプレイリストでジャケに引っかかって聞いたらとても好きだった。クレジットを見ると彼はビートメイカーのようでシンガーやラッパーを召喚してアルバムを作った模様。ほとんど情報がないものの、どのビートもめちゃくちゃクオリティーが高く、途中でKanye Westの”Runaway”のピアノの引用があることからも顕著でKanye Westのムードは感じる。つまりポップとドープの境界線を溶かしたかっこよさ。客演がQim Isle, UNI, GongGongGoo009, Khundi Pandaというスキルを重視した審美眼を感じるメンツなのもアツい。好きな曲はブギーな”Hands On”

REBORN by hyeminsong

 AP Alchemyの一部であるMineFieldから、これまたビートメイカーであるhyeminsongのアルバムがリリース。ハンパじゃないメンツが集まったアルバムとなっており、SMTMの不在を埋めるかのように結構聞いていた。ビートはかなりバラエティに富んでいて聞いていて飽きないし、一つ一つのクオリティめっちゃ高い。もう何回言っているか分からないけど、このレベルのビートメイカーがごろごろいるの本当えぐい。しかも女性というのも業界的には珍しい。ラッパーのチョイスが渋くていわゆるスピット系を中心に実力派が一堂に会している感さえある。好きな曲はHuhのフックが素晴らしいのとドリル的なベースがかっこいい”Reborn”

ISSUES DELUXE by CYBER RUI

 CYBER RUIがついに1stアルバムをリリース。小刻みにEPをリリース、その世界観を崩すことなく独自のカラーを突き詰めていく姿勢が本当にかっこいい。リリースまでの流れもオモシロい。まず同じタイトルのEPをリリース、そこからREMIX盤をリリース、そして最初のEPに曲を追加したデラックス盤としてアルバムをリリース。グローバルで見ても同じ流れを辿ったものはないと思う。アルバムはとてもかっこよく今までで一番好きな作品となった。デラックス盤って既存のものに3曲くらい「アウトテイクか?」みたいな曲を追加して構成されてることが多いけど、今回は1stアルバムなので追加された曲が軒並みかっこよい!というのがアガるポイント。特に終盤これまでドライで無機質なトラップビートが多くの割合を占めていた中で、”Yonige”はBPMが速いバウンシーチューン、W.I.Mは3拍子、最後の”Courage”は本格的な四つ打ち。すべてが新基軸であり、やれることがいくらでもあるのだなと感じさせられたし、彼女にとってまだまだ序章なんだなと思った。
 この手のアーティストの場合、雰囲気重視でリリック二の次というケースも多いけど、彼女はかなりリリカルな点も好きなポイント。英語の多用も「サイバーパンクな世界観をグローバルで魅せていく」というコンセプトにフィットしていて良い。若いのにこんなにブレずに世界観を構築できる、しかもインデペンデントで。Tohjiか彼女かくらいだと思うので今後の活躍が楽しみ。好きな曲は2バース目が超かっこいいしビートが気持ち良すぎる”Courage”

Mi Yama by Campanella

 CampanellaのEPがサプライズリリース。2020年に出た『Noodle』でも魅せていたのも記憶に新しいRAMZAとの黄金タッグ多めの構成で大満足だった。1曲目のタイトルソングからして今年の日本のヒップホップの曲の中で最長のイントロだろう、RAMZAのビートで開幕。最初にスピットするのはアンクレジットのJJJというヒネリっぷり。正攻法にはないオモシロさが1曲目から詰まりまくっているし、そのギミックさえどうでもよくなるラップのうまさ。「誰々っぽい」ではないオリジナリティが炸裂しまくりな音節を自由に行き来するフローが本当にかっこいい。心地よいときもあれば、ブチアガるときもある。まさかの苗字ソング”YAMAMOTO”ではACE COOLとの邂逅が果たされており、64BarsでのRAMZAとの共演から相性の良さを見せていたACE COOLはここでもかましている。もう一つのfeat曲のMFSもかっこよかったが、好きな曲は”DUDE” 韻、フロー、ビートのマリアージュが気持ち良すぎる〜

Soul Quake by Watson

 Watsonが1stアルバムをリリース。これまでの作品はMixtape的な位置付けなのか?このアルバムがリリースされるまでに異様な量の客演をこなし、どの曲でも主役を喰ってしまう勢いのパンチラインの雨あられを浴びてきたわけだが当然アルバムでもそれは健在。ダブルミーニングを使ったライムが「なるほど〜」という一種のアハ体験の連発だった。本人がSNSで言っていたように自身と同じく各地のフッドスターを召喚してアルバムを作っている点が、ヒップホップど真ん中を進んでいく意気込みを感じた。個人的に彼がすごいなと思うのはフック。まるでバースのような情報量のフックを平気でぶち込んできて、並のラッパーならToo much感があるんだけど、彼の独特のリリックのセンスで繰り返し聞いても全然飽きない。SEEDAが主張していたケン玉理論を歴史上最も忠実に実践しているラッパーがシーンのトップにいるのが時代の潮目が変わった気がする。
 全曲Koshyがビートを手がけていて、彼のビートの懐の深さにも驚いた。同じく全曲プロデュースしていたSANTAWORLDVIEWのときはあんまりピンとこなかったのだけど今回はバッチリ。特にサンプリング中心なのが特徴的だと感じた。ギターの音色が多く、ラテンノリのフレーズも多い。日本のヒップホップであまり見ないスタイルなので新鮮(Harry Fraudっぽい)。好きな曲は”Working Class Anthem”

Noodle by JUMADIBA

 今年出たMixtapeが大好きだったJUMADIBAの新しいEP。featでも参加しているRYON4によるフルプロデュース作品らしい。とにかく全ての曲の上ネタが心地よくてビートだけでも一生聴いていたいレベル。そこに乗ってくるJUMADIBAのスティッキーかつメロディアスなフロウ。「メロディアス」というのが個人的にはポイントでラップと歌の絶妙な合間の「メロディー」ではないフロウがとにかく心地よい。声質的にもゆるいムード含めてERAが2023年モードになったら?みたいなスタイルだと思う。この気持ち良さはグローバルに受け入れられる可能性が十分にあるラッパーだと思うのでフルアルバムを早く出してほしい。好きな曲は”paypay”

乱反射 by ペトロールズ

 ペトロールズがついにストリーミングで聞けるようになるということで聞いた。元々の曲を再度MIXしなおしているそうで結構アレンジもされていた。ストリーミングで海外含めたくさんの人がペトロールズの魅力に簡単にアクセスできるようになったことは素晴らしい。ただ既存ファンからすると馴染みの曲が別の形になっていることに直面させられる。しかも言語化が難しいかなり微妙なレベルなので、さらに何とも言えない気持ちになった。決して悪くなっているわけではないのだけど違和感が最後まで拭えず結局手元のライブラリにあるアルバムを聞き直したりしていた。新しいものへの耐性が無くなっているのかも。

Larger Than Life by Brent Faiyaz

Resavoir(second album) by Resavoir

La Villa by Stro Elliot

 Flip Side Planet の新譜回は毎度聞き逃していたものや新たな発見があり一年間大変お世話になった。今週もそんな3枚。Stro Elliot, Resavoirはちょうどいい塩梅のインストアルバムで家族でいるとき大変重宝した。Brent Faiyazは2000年代R&Bオマージュというご褒美アルバムでこちらは移動中に聞きまくった。

2023年12月5日火曜日

2023年11月 第5週

48 Hours by Ryder & Skepta

 SNSで流れてきてなんとなく聞いたらぶっ飛ばされたEP。SkeptaはUKのベテランMCで、そんな彼がRyderという19歳の若手プロデューサーと48時間で作成したらしい。もともとRyderがサンクラでSkeptaの曲のREMIXをアップロード、それを聞いたSkeptaがアプローチして実現。久しぶりに聞くサンクラドリームな一枚となっている。(そのREMIX自体はEPの最後に収録されている#skeptacoreシリーズ)エモーショナルとしか言いようがないビートの上で弾けるSkeptaのフロウが本当にかっこよくてずっと聞いてしまう。客演のDre Sixの歌も素晴らしくて、これをきっかけにグイグイきそう。好きな曲は”For You” めっちゃリリカルで以下のラインが今を反映している感じで好きだった。

Time is money and life is a movie, so don't forget to follow and subscribe Judge in the courtroom throwin' out years, while the pavement soakin' up tears Look around see everybody's head down, if it don't affect you then who the fuck cares? It's crazy

REVENGE by ShowyVICTOR

 2023年のRAPSTAR誕生の王者、ShowyVICTORのアルバムがリリース。RAPSTAR誕生で披露された曲が2曲収録されており、さすが王者!という内容でかっこよかった。RenzoとのShowy名義も含めて一番好き。とにかくビートのクオリティが高くてLil Yukichi, Puckafall, PULP K, dubby bunny, Zot On The Wave, MET as MTHA2など。特に意外だったのはPULP KのビートにKzyboostのボーコーダーが乗っている点。しかもFeatにSeedaで、そのバースも最近のSeedaのバースの中でもめちゃくちゃアツい系で滾った。VITORがリリックで繰り返し唱えているように正直誰も彼が優勝することは想像してなかった。しかし現実は彼が優勝したことで言葉が説得力を持ち、彼のことを信じるしかない!という構図になった点がかっこいい。”GENZAI”や”REVENGE”といった既発曲と新曲でしっかりアルバムとして構成されている点もヒップホップ愛を感じた。好きな曲はドリルの”This is the one” RENZOのfeatとしての存在感は最高。

ICON by Kaneee

 オーディション審査の段階で落ちてしまったけど、YZERRやZOTが才能を高く評価、そして彼が使用したビートのプロデューサーであるSTUTSからのアプローチで”Canvas”が完成、大ヒット!という一連の流れから、ついにEPがリリース。ワンヒットワンダーで満足せず、アーティストとしてキャリア積んでいこうとしている点が良い。STUTS, ZOTがビート提供している時点で彼の才能は保証されたようなもの。実際、”Canvas”のウェルメイドなビートとKaneeeのアプローチのケミストリーはたまらないものがある。フローとメロディは抜群の才能があるのは間違いない。英詞多めなので雰囲気は抜群にあるし。(”Demon”をNSW YOONがInstagramのストーリーでシェアしててグローバルを考えれば英詞の意味はあるよな〜と思った。)あとはリリックの練度が増せば。。。好きな曲は”Young Boy” 歌詞にRIZINの選手の名前あるの初めてかも?

7 by 7 & ZOT on the WAVE

 もう「正直ZOT、お腹いっぱいっすわ。」と言いたくなるほどのハードワーキングっぷりだが、どのビートも異様にクオリティーが高く市場を独占しているのがよく分かる1週間。いっときのBACHLOGICくらいの勢いになっている。今回の7のアルバムに対しては全曲ビート提供で彼の期待も窺い知れる。最近は7と同郷のHomunculu$がZOTと共作するケースが増えており、今回も全曲にHomunculu$が参加している。全7曲から構成されており彼女のカラーがよく伝わってきた優れた1枚目だと思う。Singing Styleな曲は”ねぇ”のみで、あとはラップにフォーカスしている点もトレンドにフォーカスしているいう印象。ただ彼女のSinging Styleの完成度はかなり高いので、正直もう1曲くらいは見たかった。あと方言を積極的に採用しているところが好きだった。和歌山弁のオモシロさがふんだんに楽しめる”WAKA”, “ゆーてるまに”の流れが特に最高だった。女性のラッパーが関西弁をリリックで使うのがとても新鮮で、たとえば「振れやん」とか。好きな曲は方言を含めワードプレイがたくさん楽しめる”ゆーてるまに”

Revive by Leisu,山田ギャル神宮 & izolma

 このジャケットで聞くのだいぶ抵抗あったけど聞いてみると、自分が若い頃聴いていたロックが再解釈されたヒップホップになっていてとてもよかった。音楽のトレンドには周期性があるけど自分の青春がこうやって若い子に再解釈されていくのは不思議な気持ちになる。山田ギャル神宮は声色がTohjiに似ているので、Tohjiが世界観を極めようとせずポップフィールドでステイしていたら?という世界線を毎度妄想してしまう。それくらいに山田ギャル神宮の完成度は高いと思う。APSTARにもエントリーしていたけど、ああいった既存の価値観で測られない良さが他の2人も含めてこのEPからは感じられた。そして若い子たちがこういうの好きになるということは時代は変わっていないのだなと思うし、こういったJの発露は本当に歓迎したいので、青春映画のテーマソングとか彼らが担う時代になればいいな。好きな曲は”Xchain”

#freekitsyojii by kitsyojii

 kitsyojiiが引退を発表してリリースしたアルバム。客演が豪華でJUSTHIS, lIlBOIのスキルMC二大巨頭が参加しているのに驚いたしRakon, ROH YUNHA, Street Babyという若手の勢いあるメンツを呼んできている。(今年のStreet Babyの客演仕事量エグすぎ!)ビートは直前のプロデューサーシリーズでも共演してたHDB4ACKとAlive Funkが手がけている。材料は揃っているけれど、引退をかけたアルバムとしての完成度はどうなのか?と言われると物足りなさがある。類型的なトラップサウンドばっかりなのがオモシロくない理由なのか、なんにせよどの曲もケミストリーがなく良い意味でも悪い意味でも80点くらいな曲が並んでいる、みたいな。インスタの投稿を見ると、曲へのレスポンスがなくて辛いと書いてあったけど、こうやって日本で聞いてレスポンスしている人もいるので、まだまだ活動を続けて欲しい。好きな曲は”Oh My Bonnie”

2023年11月28日火曜日

2023年11月第4週

49 by Keem Hyo-Eun & DON MALIK

 Ambition Musikからまさかの2人、Keem Hyo-EunとDON MALIKによるデュオアルバムがリリース。タイトルの49はアメリカのカルフォルニアにおけるゴールドラッシュの年であり、金塊を求めたものたちを49ersと呼んだ。彼らは「ヒップホップ」というゴールドを追い求める男たちだ。Keem Hyo-Eunは数年ぶりにオフィシャルなクレジットのある作品となるが、これが本当にThis is HIPHOP!!と言いたくなる最高の作品だった。
 DON MALIKが変幻自在のフロウでラップのスキルを見せつけているのに対してKeem Hyo-Eunの落ち着いたスタイルの相性が抜群。声色も結構違うのでデュオとしてキャラの区別がついていて良い。1曲目からDok2をfeatで召喚、他にも”grow”にp-typeとVerbal Jintも参加していたりOGへの敬意を込めつつアップデートしたかっこよさがある。1曲目にDok2を迎えたのはKeem Hyo-EunがAmbitionから最初にリリースしたEPに対するオマージュだろうし、p-typeとVerbal Jintの参加は彼らがSNPというクルーを組み、韓国語による多音節ライムを編み出したことを考慮すると揃い踏みする意味が増す。(詳しくは名著「ヒップホップコリア」を参照)Ambition musikがフルアルバムをYoutubeに英語訳詞付きでアップロードしてくれているおかげでリリックも知ることができた。Keem Hyo-Eunの不在は鬱によるものであることが示唆されていたり、同期のchangmoやHash Swanほど上手くいかなかったことを吐露したり。彼のストレートかつリリカルな言葉がとても響く。2人ともオーセンティックなスタイルを貫きつつ研鑽をやめずにスキルで魅せていく、これがヒップホップだよな〜と改めて。DON MALIKには「色々疑って本当にすまん!」と勝手ながらに去年の無礼を謝りたい。ヒップホップと加齢について歌っている”grow”が一番好きな曲

THE CORE TAPE, Vol.3 by Dok2 & Holly

 Miyachi, JP THE WAVYによる新曲のビートがHollyという彼らにしては変化球なスタイルなことに驚きつつ、見落としていたDok2との共作アルバムを聞いた。オーセンティックなものから変化球まで幅広いビートのスタイルに対してDok2がかっこよすぎるラップでビートをねじ伏せていき曲としてかっこよくなるという恒例の流れ。リリックの韓国語が増えてきているし、最近のfeatの参加も韓国シーンへの復活に向けて地ならしなのかなと邪推。好きな曲はここ数ヶ月で一番ブチ上がったビートに対してまさかのKillagramzをfeatに迎えてばチバチにかましまくりな”Gushers”

HDISMYPRODUCER 2, AliveFunkISMYPRODUCER by kitsyojii

 一体どうなっているのか、異常なリリースペースが続くkitsyojii。フルアルバム『#freekitsyojii』を持って引退するらしい…ラッパーあるあるの引退詐欺によるアテンション稼ぎなのか。アルバムは来週に書こうと思うけど、まずはこの2作。HDBL4CKはおかわりで登場。正直今この手垢のつきまくった「ブームバップ」的なものでアガる要素はほとんどなく…やっつけ感は否めない。他のスタイルができることを知っているからこそかもしれない。一方でAliveFunkとの共作は歌へのチャレンジがたくさんみられて良い。単純にAlive Funkのビートがかっこいいという話もある。シンセ使いのモダンファンクはいつだって最高。好きな曲は”Ping Pong”

bury. by punchnello

 AOMG所属ながらAOMG感がほぼないpunchnelloによるEP。『ordinary.』の最後の曲”Homesickness”という名曲の延長線上にあるようなchillなムードになっていた。前作がかなりインダストリアルで音数少なめのハードなサウンドだったのからの揺り戻しなのか。寒い中、このEPを聴きながらチャリを漕いでいると最高にフィットしたので完全に冬のEP。彼の好きなところはこういうゆるい曲でも歌うのは基本フックだけでしっかりバースはラップするところ。好きな曲はそんなラップが堪能できる”wind”

four by IO

 Def Jamに所属してから2枚目となるアルバムがリリース。KANDYTOWNが活動休止したこともあり各人のソロの活動に注目が集まる中、いかついアルバムをしっかり用意しているあたり流石としか言いようがない。正直『Player’s Ballad』はタイトル通りバラードが過ぎた。Singing Styleの中でも声が細く、それが魅力ではあるものの歌う一辺倒だとお腹いっぱいになった。今回はラップの量も適度に増やしつつ、得意のムード満点な曲もありつつでバランスが取れておりアルバムとしての完成度がとても高い。またWatsonとの曲に顕著だけど、上手いこと言うスタイルも積極的に取り入れることで風通しの良さもあり聞きやすくなっていた。(Watson、Jin Doggがいてドリルをやらない美学よ…)GQの密着動画で制作の風景が流れていたがGooDeeとのディスカッションで作ることが多いようでサウンドとラップの調和もかなりうまくいっている。
 そして韓国ヒップホップ好きとしてはGRAYのビートが入っていることは見逃せないポイント。既発シングルでGRAYのビートに初めて乗る日本人がIOというのは意外!と思いつつ、シングル単体で聞いたときの物足りなさはなくアルバムで化けた。ラッパーというよりもプロデューサー気質なのだなと改めて感じた。あとInterludeが入っているの日本のヒップホップのアルバムは最近ほとんどない中で彼がやると嫌味なく「アルバムで聞いてくれ」というメッセージになるのもかっこいい。好きな曲は英語に逃げず、フリーキーなフローで新自由主義的価値観をレップする”AMIRI DENIM”

Welcome 2 Collegrove by 2 CHAINZ & Lil Wayne

 2016年にリリースされた『Collegrove』の続編。Meek Mill、Rick Rossによるデュオアルバムに続いて、この2人がリリースしてくる流れに時代を感じる。やはり大御所なので安心して聞けるし逆にいうとUSの新譜とかはもう追い切れていないことを逆説的に感じた。今のトレンドとは関係なく、まさに2010年代ど真ん中をやり抜くスタイル。音楽の消費速度が上がっているからリバイバルするのも速くなっているのか、めちゃくちゃ新鮮に聞こえる。featはUSHER, Fabolous, Rick Rossなどの往年のメンバーもいつつ、21 savage, Benny the Buther, Voryなど今のラッパーも入っていてバランスの良い配置。Bangladesh、Mannie Fresh、Hitmaka、Mike Deanなどプロデューサー側も万全なメンツの中で意外だったのはHavocが2曲も参加していること。これでアルバムが締まっている印象を持った。好きな曲はリフが懐かしさを感じざるを得ない”Millions From Now”

2023年11月21日火曜日

2023年11月 第3週

wondergoo by Crush

 アルバムとしては4年ぶりとなるCrushの新作。昨年出たBTSのj-hopeとのシングルが本当に大好きだった。ファンクど真ん中を2022年にBTSのメンバーとぶちかます、その姿勢に音楽への愛をビシバシ感じ取っていた。肝心のアルバムは聞き進めるうちに胸が苦しくなるくらいに好きな要素しかなくて死ぬかと思った…30過ぎのおじさんにこんな若い恋心のような感情を抱かせる、偉大すぎる大傑作やでほんまに。。。1人でR&Bの歴史を総ざらいする構成になっていて、Justin Timberlake, Bruno Mars, The Weeknd, Michael Jackson, まさかのChet Bakerなど正直すぎるほどにリファレンスが明らかな曲の数々。「ただのモノマネやん」と言う人がいるかもしれないが、ここまでのクオリティになるとそんなことは言えない。K-R&B(ひいてはK-Pop)バイブの曲も合間に挟むことですべてが地続きにあることを主張しているように感じた。これはもうキングの振る舞いと言っても過言ではない。Featも適材適所でDynamic Duoとの相性はバッチリだし、PENOMECOはバチバチにかましてるし、一番ビビったのはKim XimyaをInterlude的に使っているところ。「誰がやべーか分かってんだろ?」と言われてる気がした。  グローバルなマーケットを視野に入れているからこその構成とも言えるけど、このエディット感覚は音楽が本当に好きなんだろうなと愛を感じるのであった。そしてこういったアーティストが生まれる韓国の音楽的な豊かさが本当にうらやましい。J-Pop, J-Rockな曲が悪いとは思わないし、それが一つのカラーになっているのも理解できるが、隣国でこのクオリティの作品が出ているのに開き直って「ガラパゴスでいい」なんて口が裂けても言いたくない。そんなネガは本作とは無縁です、すみません。好きな曲はMJオマージュな”A Man Like Me”

Thanks For Nothing by Paul Blanco

 まさかのCRUSHと同日リリースとなったPaul Blancoの3枚目のアルバム。2021年から毎年リリースが続いている。去年はこちらもBTSのRMのアルバムに参加というトピックがあり知名度は飛躍的に増したと思われる。Singing Styleのラップというよりも、もはやR&Bそのもの。しかも歌い上げるコッテリ系なので、最近のトレンドとは乖離あるけどビート選びはドリル、ドラムンなど最近の要素を入れているので好きだった。ラスト2曲がラップ中心になっていて個人的にはそこがハイライトだった。好きな曲は”Song for you”

WOOOF! by THAMA

 今週はK-R&B week!って感じでひれ伏すしかない1週間。最後はTHAMA。個人的な好みでいえば、彼の作品が一番しっくりきたかも。ずばりネオソウル系でK-R&Bの一番のストロングポイントをこれでもかと発揮している作品となっている。声と生バンドによるビートのマリアージュが本当に素晴らしい。あと結局ベースとドラムによるグルーヴがどれだけ生まれていて、さらに上音のメロウな気持ちよさが自分の好きなポイントなのだな〜と今週の毛色が異なるK-R&B作品を聞いて感じた。好きな曲は”Bump It Up”

Seoulless by RAUDI

 RAUDIというプロデューサーによるアルバム。韓国のヒップホップシーンはビートメイカーによるアルバムがたくさんリリースされていて、それはインストアルバムというよりも色んなラッパーが参加したコンピものが多い。そこで起きるケミストリーがたくさんあって楽しい。彼の過去のディスコグラフィーを見ると個人的に好きな作品に多く参加していて、実際この作品もかっこいいビートばっかりで好みだった。ラッパーのチョイスが結構渋くて特定のレーベルに寄ったりすることなく実力派が多い。アップカミングな人からベテランまで各自にあった色んなスタイルのビートを提供しているのも特徴的で今の時代のビートメイカーは何でも作れることの証左のよう。(4曲目と5曲目のギャップが特に最高)プロデューサータグの”pull up pull up”って声、絶対聞いたことあるシンガーなんだけど一体誰のフレーズだったか…老化。好きな曲は「Keem Hyo-Eunおかえり!」の気持ちも含めて”Dance with me” なおDON MALIKとKeem Hyo-Eunの2人によるアルバムの1曲目もRAUDIがビートを担当。そのコラボアルバムについてはまた来週…今言えることはすべてが最高!!!

Happiness Is Only A Few Miles Away by Joel Culpepper

 Tom Misch主催のレーベルからリリースされたJoel CulpepperのEP。Tom Mischが全曲プロデュースしていて、めちゃくちゃ好きだった。往年のソウルシンガーを彷彿とさせる粘り気のあるJoelの声質、最高のファルセットとビートの相性が素晴らしい。早くアルバムサイズで聴きたい。1曲だけFeatでTom Mischがクレジットされていて歌ってないのになんでかなーと思ったら、ギターの音色、コード感含め、飛び抜けてTom Misch味が強くて笑った。それが一番好きな曲だった”Free”

Sneek by Terrace Martin & Gallant

 今年はいつになくリリースが続くTerrace Martin。今回はR&BシンガーのGallantとの共作アルバムをリリース。Gallantは”Weight In Gold”で出てきたとき、かなりインパクトが大きくてこのままシーンのトップ戦線へと登っていくのかと思いきや他人の曲への参加がほとんどないので実力と知名度が釣り合ってない気がする。ファルセットの力強さが本当にかっこよいシンガーで今回はTerrace Martinのサウンドに合わせた抑え気味のテイストがクールで良かった。彼の声質自体が濃いので、打ち込みの音だと若干too muchになるけど生音だとバランスがちょうど良くなってるように感じた。好きな曲は”Tandem”

2023年11月14日火曜日

2023年11月 第2週

THE SOLOEST by SINCE

 韓国のフィメールラッパーSINCEの2ndアルバムがリリース。SMTM10で決勝まで残って惜しくも優勝を逃したが一番プロップスを獲得したラッパーだと思う。とにかくラップがめちゃくちゃうまいしかっこいい。「フィメール」 と書いたが彼女の場合、その説明は不要だと思っている。女性であることをレップするよりも純粋にラップが彼女の一番のアイデンティティになっているから。どこかのレーベルに所属するかと思いきやインデペンデントとして活動しているのもかっこいい。CODE KUNSTの曲がオープニングを飾り、次に盟友Lean$mokeのビートでブチ上がる流れからして最高。Featも適材適所な人選で久しぶりに聞いたHash Swanのトーンがめっちゃかっこよかった。前半はハードモード、後半はメロディアスな展開になっているがSinging Styleに流れずあくまでラップにフォーカスしているところが彼女を信頼している点でもある。好きな曲は”EST” SINCEはビデオの字幕に毎回日本語を用意してくれており、これはYoutubeの統計上、日本から見ている人が多いからなのでは?と思っているので、早々に来日してくれ!!

SICHIMI by SUMIN

 SUMINによるEPがリリース。最近はプロデュースでよく名前を見る中、久しぶりの自身名義での作品。これまた間違いない最高の出来だった。ミニマルな音の構成なんだけど、クールなファンクネスが内包されている。SUMINの好きなところはドラムの音色で、ここにもミニマルさを感じる。ここ数年のLouis Cole、Sam Gendel的なものとK-R&Bの融合の結果とでも言えばいいか。好きな曲は”KIKI”

Skyblue Dreams by HD BL4ACK

 HD BL4CKの新しいアルバムはQのDaytonaからリリース。ビートメイカーの中でも相当多作の部類で今年だけでアルバム4枚も出てる。もともとLBNCというChaboomやLeebidoもいるレーベル所属だったけど今回で移籍ということなのか、ワンショットでのリリースなのか。今回の作品は両方のレーベルのコネクションを活かしたラッパーが参加している。LBNCのラッパーがオーセンティックなスタイルが多いこともあり、それに合わせたビートのスタイルだったけど、Daytonaの若手向けにはちゃんと今っぽいビートを提供していて引き出しの広さを感じた。締めのQの曲がとても好きなんだけど、シーンの現在の実力者だと個人的に感じる3人が集合した”Love”が好き。

LEAN$MOKEISMYPRODUCER by kitsyojii

 kitsyojiiが少し前から始めた特定のプロデューサーと一緒にEPを作るシリーズ。今回はLEAN$MOKE!個人的には2023年最も活躍しているプロデューサーだと思うし、実際に提供されているビートのクオリティが高くて今回も最高にかっこよかった。kitsyojiiは基本オートチューンかけたラップでビートとの相性良し。好きな曲は上音の治安が悪くてMeek Millの声が聞こえそうな”gym”

CHED&L by Way Ched & TRADE L

 Way ChedとTRADE LによるEP。Way Chedの前作『It's Your Way』に収録されたTRADE L、OSUNによる”Rewind”が大好きだったので必然に感じるコラボレーションだった。結果としてケミストリーが炸裂していて全曲最高、捨て曲なし!TRADE Lのメロディセンスが本当に素晴らしくて、それを支えるWay Chedのビートという感じ。韓国ヒップホップのSinging styleの最高峰を味わいたければTRADE Lを聞けばいいと言ってもいいくらい完成されつつあると思う。好きな曲は2023年客演王のStreet Babyを迎えた”NO BRAINER” Singing styleでなくてもラップかっけ〜

Knower Forever by KNOWER

 Louis Cole とGenevieve Artadiによるユニット、Knowerの新作アルバム。Flip side planetの新譜紹介回で知った。(毎回チェック漏れをカバーしてもらっていて大変ありがたい…)プリンスなきあと、シンセ使ったミニマルファンクな路線を受け継いでいる筆頭はLouis Coleだと思っているのだけど今回もそれを体現した内容でかっこいい。Knowerの場合は女性ボーカルなのでポップさが増して個人的にはLouis Cole単品よりも好き。Bandcamp でクレジットを見るとまさかの打ち込みなし!ストリングスとかコーラスまで信じられないくらいコストをかけていてDTM全盛の今こんな作品は見ない。その割にミックスとマスタリングはLouis Coleが手がけていて、生楽器ゆえのダイナミズムをそこまで感じさせない謎の仕上がり。好きな曲は”Real Nice Moment”

New Growth by Jesse Boykins III

 これもFlip side planetの新譜紹介回で知った。もともとThe Internetの客演で存在を知り『Love Apparatus』というアルバムは以前に聞いていた。久しぶりに聞いたら、めちゃくちゃいい…恋愛にまつわるリリックが多い中で、ファルセットによるメロディの美しさと重心のしっかりしたビートの数々がアフロビートからバラードまで幅広く配置されておりアルバムとしての完成度が高かった。好きな曲は”Convo”

The Night Shift by Larry June & Cardo

 来日を控えるLarry Juneの新しいアルバム。(デイイベントで見たかった…)USのラッパーの中では相当なハードワーカーなのは間違いないし、ここ数作でさらにかっこよくなっていて名実ともにトップラッパーだと思う。今回はCardoというプロデューサーとの共作になっていてタイトルどおり強烈に都会の夜を感じるビートにレイドバックしたフローでラップしていくのが最高。まさにウェッサイ〜前作とのアルケミとのタッグは最初うーんと思いつつも後からめっちゃハマったのに対して、今回は初速から最高なので、やっぱこういうドラムがガッツリ主役なビートが好きだと再認識した。FeatもユニークでDej Loaf、Jordan Ward、ScHoolboy Qあたりを呼んでいる点にグッときた。彼の好きなものが伝わってくるし、featに必然性を感じるケミストリーがどの曲でも起こっていた。

Heaven knows by PinkPantherless

 気づいたらスターダムの道を歩んでいたPinkPantheressのアルバム。UKのトレンドとなっているダンスミュージックをポップに解釈して彼女のシルキーなボーカルトーンが乗っかることでマジックが起こりまくりで良かった。Erika de Casier の系譜がここまでオーバーグラウンドな音楽になるとは想像もつかなかった。韓国ヒップホップ好きとしてのチェックポイントはslomがプロデュースしたZion.Tの”Sleep walker”という曲のメロディがCentral Ceeを迎えた”Nice to meet you”で引用されていた点だろう。どこにでもありそうなメロディなようにも思えるけど、大手レーベルのsamplingやIntercorpolationのジャッジ基準はとても厳しいのかなと思えた。”Feel complete”のブレイクビーツっぷりも最高なんだけど、好きな曲はKelelaとの”Bury me”

Too Good To Be True by Rich Ross & Meek Mill

 2010年代リバイバルな空気を少しずつ感じる中で真打ちが登場!アツい!アツすぎる!と言いたくなる仕上がりで世代的にはブチ上がった。ラッパー稼業はソロアーティストが大勢となって久しいが、トップどころのラッパーがガッツリタッグ組んで作れば、これだけ最高なアルバムになるのかと底力を感じた。この2人のバイブスの高いラップの掛け合いはたまらないものがある。ゲストも2010年代的な配慮があり、Fabolous, Wale, Jeremih ,The Dreamあたりはどうしたってアガらざるを得ない。好みとしてはやはり後半にかけて、Snoop Dogの”Tha Shiznit”使いの”Above The Law”でムードがガラッと変わってくるところが好き。懐古主義といえば、それまでだが2023年にリリースされたことに嬉しく思う。好きな曲は”Fine Lines”

2023年11月7日火曜日

2023年11月 第1週

DONG JING REN by Jinmenusagi

 今年のベストアルバムきたか?くらい今週ずっと聞いていたJinmenusagiの新しいアルバム。コンセプト、ビート、ラップどれを取っても一級品で彼の長いキャリアの中でも一番好きなアルバムとなった。日本のヒップホップでドリルが取り入れられるようになってしばらく経つが、ドリルの肝になるのはベース、キックであり、そこだけは外さなければ形式として成立するゆえのアプローチのオモシロさ。とにかく新鮮だし、セルフプロデュースでこれ作っているのもすごい。シーン的にはとにかくジャージーというフェーズにあるが、楔を打つかのようにドリルのアルバムが出たことも嬉しい。現状のシーンに対するカウンターもリリック内に含まれており等身大を訴えているのが印象的だった。また逆輸入のコンセプト、つまり海外から見た日本という視点で日本の考えているのは伝わってきたし、昨年のSKOLORとの共作アルバムからさらに進んだ独特のアジア感がかっこいい。Denzel Curryのように日本を愛してくれて、その要素を取りこんで発信してくれるのも当然嬉しいけど、こうやって自国のカルチャーのオモシロい部分をレップするのは大切なことだと思う。(ナショナリストではないけど)
 あと本当に今更だけどラップが超うまい…今どき珍しい固有名詞連発なのが最高。ゲーム関連を筆頭に自分の語彙の完全に範囲外なので、その名詞を調べてもう一回歌詞みて意味を理解してニヤニヤ。みたいなことが何回もあった。複雑なフローはあえてせず、ビートに合わせたラップの軽やかさとうまさが本当に際立っている。今回のアルバムのビートはラップがうまくないと音が派手ではない分、物足りないものになる。ゆえに客演はシーンきってのスキルメーター振り切れている若手の面々というのは納得だった。POP YOURSを含めて若手の活躍は今回のアルバムを作る動機にもなっているそうで、彼は全く飲まれてないので目的を達成されていると思う。完全に桜庭〜好きな曲を選ぶのめっちゃむずいけど、やっぱり”Opp Otaku”

Mother by BUPPON

 BUPPONがKojoe のJ.Studioからアルバムをリリース。なんてウェルメイドで素晴らしいアルバムなんだと感心させられた。先行シングルのBOSSを迎えた曲はカントリーサイドからの狼煙のような曲で2人のパッションがビシバシ感じる曲だったが、アルバムはもっと落ち着いたトーンの仕上がりになっている。彼のリリシズムがこれでもかと炸裂しているのはこれまでどおり。過去作は1枚通して聞くとtoo much感が否めなかったけど、今回はちゃんと抜けのある作りになっていて1枚通して楽しめた。特にKojoeとの”HONDAI”で仕切り直す点が好き。いきなり具体性のある描写へ行く前の抽象的な表現に意味があると思う。タイトル曲の”Mother”以降は亡くなったであろう母との思い出に関する曲で構成されていて、彼のリリシズムが炸裂しまくり。今回初めて知ったyamabequoのビートはいい意味で癖がなくリリックが映えながら感情が昂った。BUPPONの歌もいい。ガキくさいFLEXがしょうもなく思えてくる日本のヒップホップのアルバム。好きな曲はやっぱ”Mother”

SCRAP by SHO-SENSEI!!

 SEEDAが参加した『THE BLUES』というアルバムは結構聞いていたSHO-SENSEI!!の新しいアルバム。Singing Styleのエモラップというスタイルだと国内でもトップクラスだと思う。十代の頃に出会っていたら、間違いなく好きになっていたと思う。ヒップホップ側からRADWIMPS的なアプローチしているのが興味深い。有名なラッパーを青田買いして意義のないfeatを繰り返している本家には彼のような存在を知ってほしい。彼のパートナーと言っても過言ではない10PMのビートがとにかくフレッシュでかっこいい。Airpodsだとダイナミズムを感じにくかったけど、スピーカーでしっかり聞くとドラムがデカい音で最高。特に”ミシン”という曲はめちゃくちゃいかつい。エレキギター、ストリングス、ボーカルのカットアップなどがてんこ盛りなんだけど調和していて超かっこいい。この曲だけドラムは生で叩いているのは、ライブサポートもしているAge factoryのドラマーの人。この路線は日本産のヒップホップと言えると思うのでどんどん拡張していってほしい。好きな曲は当然”ミシン”

No.00 by Olive Oil

 Febbのバースが入っていると知り聞いたOlive Oilのニューアルバム。ボーカルをフィーチャーした曲は3曲だけで残りはインスト。最近だとオジロのアルバムにビート提供していたことも記憶に新しく聞けばOlive Oilと分かるビートの数々で楽しめた。やっぱドラムの音はデカいに越したことはないし、その辺のローファイビートメイカーと一緒にすんなよという気概を感じる。1曲で6分、7分のインストが入っているのもオモシロい。REMIXや上音の弾き直しなど既存の曲の再構築しているのも特徴的で紅桜の”悲しみの後”のREMIXである”Favorite Song”は彼の出所を祝う叙情性があって素晴らしかった。Aaron Choulaiが5lackの”早朝の戦士”のメロディを弾いている”TO BE CONTINUE SHAKE FINGA”が好きな曲。タイトル的には次がありそうなので今後も楽しみ。

POP OFF by pH-1

 pH-1がmixtapeをリリース。昨年のアルバムも素晴らしかったけど、今回のEPもかっこよかった。本作はバックDJを務めるSprayがすべてのビートを担当している点が聞きどころでバリエーション豊富な引き出しをこれでもかと披露している。Featは韓国に閉じずにグローバル化しているのも特徴的。CHIKAというのが個人的にはかなり意外な人選でビックリした。韓国のラッパーはoygliが参加。来年あたりにアルバム出て、それがマスターピースになるのでは?と予想しているほど今アップカミングなラッパー。彼との曲はDilla系のビートで好きだった。声の色気とフローが最高なんすよね。前作のアルバムも相当完成度高かったけど次のアルバムも楽しみになった。好きな曲は”COSIGN”

Occam’s Razor by Deepflow & JJK

 DeepflowとJJKによる共作EP。DeepflowはVMC解散後、30への加入、『Dry Season』というアルバムのリリースなど精力的に活動している。恥ずかしながらJJKを今回初めて知ったのだけど、とてもかっこよかった。タイトルはオッカムという学者が提唱した「ある事柄を説明するためには、必要以上に多くを仮定するべきでない」とする指針のこと。必要最低限でかっこいいだろ的なニュアンスだと言える。ファンキーなビートが多くて最近のアルケミ的なアプローチのビートが多く、そこで2人がスピットし倒してる感じ。好きな曲はオルガンとベースがいかついタイトル曲”Occam’s Razor”

An Ever Changing View by Matthew Halsall

 Apple musicのレコメンド精度も前よりはマシになってきていて、Kammal Williams繋がりでレコメンドされたUKジャズ。本人はもともとトランペッターでそこからコンポーザーとして楽曲を制作するようになったっぽい。Alice Coltrane,Pharoah Sandersの影響を受けてスピリチュアル志向があるらしいのだけど、この作品ではそこまで感じなかった。トランペットをベースにしたジャズに対してエレクトロニカ、ソウルなど色んな要素がごった煮になっているのだけども、本当に各楽器のアンサンブルが美しくて聞き心地がよい。毎朝のBGMとして最高だった。好きな曲は”Natural Movement”

2023年11月1日水曜日

2023年10月 第4週

 突如BEEFが勃発して目を皿にしてSNSを追いかけてしまい、もう30後半なのにこんなことやってて何になるのか?と思い直し、Xをログアウト。その結果、気分的に改善した。乱暴な文字のインプットを減らした結果、自分のアウトプットが増えた。今週リリース量が多かったのもあるけど文字数が異様に増えたのは自分ごとだけど興味深い現象。AwichがSpotifyライナーボイスという企画において、現代は他者のことばかりが目に入ってきて自分にフォーカスする時間が少ないと話ており、それがとても刺さった。その対策として日記が挙げられていたのに納得したし、日記によるセルフケアの重要性を別のことでも実感したので自分の時間を大切にしたい。

THE UNION by Awich

 話題のBEEFでSNSが地獄の業火と化す中で、それを予期して鎮火するために作られたような、ユニオンをタイトルに冠したアルバムがリリース。フェスを含めてかなりの露出がある中で、こんな超クオリティ高いアルバムを作っているのは本当にかっこいい。キャリアの積み上げ方を真剣に考えていることがよく分かる内容だった。”United Queens”でかましてていた女性としてのカウンター要素はかなり減っていて、もっと普遍的な内容に仕上がっている。個人的には”Burn Down”が圧巻だった。Trill dynastyの18番であるペイン系ビートでネットの地獄をラップしていくのだけど近々の騒動を踏まえるとグッとくる。そして何よりもビビったのはGADORO。もともとリリシストだとは思っていたけど、このリリックはめちゃくちゃかっこいい。やることやっている人は進化していることを痛感…ビートは鳴りも展開も最高でこの曲が一番好きだった。『Queendom』ではラップにフォーカスしていたが本作は従来からあった歌も含まれている。なかでも30-40代に刺さりまくるのは”Call On Me”だと思う。Ashantiとかその辺の00年代のR&Bをfeelするような曲でたまんない。正直最後の3曲は置きにいっているのは否めないが、その辺のJ POPがこういう曲で塗り変わっていくのは大歓迎なので続けてほしい。

Restart by GADORO

 ということでAwichのアルバム経由で最新作を聞いたら、めっちゃ良かった。1曲目からいきなりGファンクでビックリしたし、いろんなテイストの曲が入っているけどGADOROのアルバムになっている点が良い。ゴリゴリの「日本語ラップ」チルドレンなのは間違いなく、それゆえにリリックの素晴らしさは言うことなし。まだまだ日本語で表現できる幅はあるのだなと感心させられるくらい言い回しがうまい。内容が真っ直ぐ過ぎて昔だったら気恥ずかしくなっていたかもしれないけど、このくらい直球投げているラッパーはな最近いないので新鮮に思えた。PENTAXX.B.Fが数曲提供していて、ベタベタに踏みまくった韻、ダブルミーニングで清貧を讃歌していることもあり過去のZORNを想起するのは間違いない。ただZORNと違うのは彼は歌フロウを取り入れている点。その歌フロウもUSのスタイルというよりも日本の歌、演歌のバイブスさえ感じるスタイルでかっこいい。ケツメイシっぽさとも言えるかな?hokutoがビートを手がけている”PINO”はその良さが最大限に出ていると思う。ここまで書いてさらに考えることは、R指定に別の未来があったら、こうなっていたのでは?ということ。それはともかく最後の曲で箕輪厚介のフレーズ引用してるのはマジで辛かった…ラッパーは話すとロクなことにならへんで。好きな曲は笛の上音でこのBPMは最近意外な感じもする”頭文字G”

82_01 by 仙人掌 & S-kaine

 仙人掌とS-kaineによるEPが突如ドロップ。この2人でEPをリリースするのは正直意外。S-kaineのこれまでの作品を考えれば、Dogearの面々が作ってきたヒップホップのムードの最有力後継者ではあったと思うけど、まさかこのタイミングとは。2人の相性がとても良くかっこよかった。このEPで仮に仙人掌だけだったら、これまでの流れと変わらない感じもするが、S-kaineが入るだけでこんなにフレッシュになるのも驚き。(とはいえ仙人掌のリリックはこれまでよりも一歩踏み込んで具体性が増して進化していると思う)ビートはENDRUN, GQ, Gwop Sullivanなど馴染みのメンツに加えて、S-kaineのビートメイク名義Judaのビートも含まれていて彼のビートもかなりいい。好きな曲は”Wish”

East Clap by The Clap Brothers

 意味たっぷりのリリックもいいのだが、音の気持ちよさも好きで今年一番くらい日本語の気持ちよさが詰まっていた。ラッパーのチプルソとビートメイカーのKEIZOmachine!によるユニットのEP。ユニット、EPにもある通りクラップ音がどの曲にも入っていてノリの良さが気持ちいいし、そこに乗ってくるチプルソの韻とフロウの気持ちよさの相乗効果でブチ上がった。好きな曲は昔のL-Vokalを想起する”ChipToe”

Madness Always Turns to Sadness by Tabber

 Tabber がついにアルバムをリリース。SMTM10で注目を集めたのち、The InternetのSydとのコラボなどシングル単位での活動はあったなかで満を辞してのアルバム。といってもサイズ的にはEPで若干物足りなさはあるもののチャレンジングな要素もあり楽しんだ。それは特に最初の2曲に顕著でスクエアなビートかつBPMが速い。彼の強みとしてはレイドバックしたフローと素晴らしい歌声なので意外だった。後半はその特徴を生かした曲となったので個人的には後半が好み。好きな曲はミッドディスコとファルセットが最高に気持ちいい”Being”

Life is Once by Leellamarz

 Street Baby,NSW Yoon という若手を連れてドープなヒップホップのアルバム『DAYDATE』を春にリリースしてLeellamarz。年も暮れようかとするところでフルアルバムをボム。この人も相当なハードワーカーで2017年からアルバムリリースのない年がない…どうなってんねん。『DAYDATE』と対をなすようにかなりポップな仕上がりとなっている。もともとバイオリンをやっていたこともあり音楽的素養が高く、なんでもできるのは本当に才能だと思う。 本作はFeatを迎えている曲が好きだった。兵役を終えたCHANGMOの復活はアツいし、既発シングルのSik-Kとの2ステップは最高に気持ちいいし、GistとJayci yucca の曲はミニマルファンクでかっこいい。全体にアコギを中心のサウンドとなっており、ほとんどの曲でTOILがプロデュースに関わっていることも影響していると思う。

Novel by GIRIBOY

 SMTMマスターのGIRIBOYがアルバムをリリース。最近はSNSでの露出も控えている中でも製作は続けているそのハードワーカーっぷりに畏怖の念を抱く。ただ肝心の中身は今までのGIRIBOYの作品の延長戦上にあるメロウな曲が中心で特にアップデートがないように感じた。とはいえクオリティは高いのでずっと聞いてられる。好きな曲は”Issu du Feu”

Bad Nights by ZENE THE ZILLA

 ZENE THE ZILLAの新しいアルバム。リリースごとに熱心に追えているわけではないが、久しぶりに聞いたらウェルメイドな作品で好きだった。個人的にはSinging Styleよりもスピット系が好きなのだが、彼は味変でもう少しスピットしてもいい気がする。どの曲もパッと聞きはいい曲で好きなんだけど引っかかるものがなかった…好きな曲はDON MALIKがその引っ掛かりになっている”Great Life”

BOLD CREW BOOTLEG by 30

 年始にアルバム出した30がEPをリリース。全曲VIANNプロデュースのかっこいいビートの数々で皆がスピットしてい良かった。”BOLD CREW”という曲が前のアルバムに収録されており、このEPはその延長上にあると思われる。 ジャケにあるのはMF DOOMの仮面であり”OLD BOY”のアウトロ、"JAL IT SUH”の声はMF DOOMな気もするのだけど有識者の人に教えてほしい。ジャケのとおり後ろノリの首が振れるやーつ系ビートでひたすらラップ、ラップ!という感じ。DeepflowがまたJUSTHISのこと言っていて相当根に持っているのだなと思う。好きな曲は”COCK BLOCK”

Love & Life by Chip Wickham

 Kamaal Williamsと横並びでレコメンドされていて何気なく聞いたらめっちゃ良かった。ジャズミュージシャンでいろんなミュージシャンのサックス/フルート奏者として活躍していたところから自身のキャリアをスタートさせ作品をリリースするようになったらしい。UKをルーツに持ちイギリスのファンク、ソウルシーンとの繋がりが強くNew Mastersoundsとも活動を共にしていたこともある。本作はファンクというよりジャズソウル的なアプローチ。フルートの音が全面的にフィーチャーされている2023年のジャズというのがかっこいい。好きな曲はフルートに加えてVibraphoneの音色もたまらない”Space walk”

For All Time by Mayer Hawthorne

 Mayer Hawthorneの新しいアルバムがリリース。個人的な音楽史としては重要なキーパーソンであり、往年のソウルやディスコをアップデートした形でStones Throwから提示してくれて、自分がソウルやディスコを好きなった大きなファクターの一つ。そんな彼が1stの頃を彷彿とさせるソウルフルなサウンドの連発しており唸りまくった。何も新しいことはないと言われればそれまでなんだけども、個人的な思い入れが強いのでどうしたって上がらざるを得ない…結局エバーグリーンなソウルなムードが自分を支配していることを痛感した秋でした。好きな曲は”Eyes of Love”

The Interludes by Ojerime

Flip side planetで存在を知ったOjerimeのEP。ストリーミング隆盛により発達したプレイリスト文化の影響で、Interludeというものが過去の遺物と化す中でこのタイトルでEP出すのかっけぇっす。。。1曲目がSoulectionのSango,Esta呼んでるからどんなビートかと思いきや、攻め攻めのJukeっぽさもあるビートでビビった。Interlude集ということもあり1曲あたりの尺は短い。ただ最後の曲のアウトロの無音部分をかなり短くしているのでリピート再生することを前提にして作っていると思う。好きな曲は”Pissed Off”

Movement by p-rallel

 KMのインスタで前作のEPを知ったp-rallelのアルバム。ハウス、ガラージといった四つ打ちで構成されていてブチ上がった。以前に聞いた『Forward』というEPは歌ものでまとまっていたし、流行りのアフロビーツ、アマピアノも含まれていたけど今回はストレートな四つ打ちが多くてそれが個人的には好きだった。最初はドラムンベースで始まって、最後はブロークンブーツで終わるのはUKをレペゼンしていてかっこいい。好きな曲はR&Bムードの女性ボーカルが最高な”I Know”

2023年10月24日火曜日

2023年10月 第3週

Stings by Kamaal Williams

 キーボーディスト、プロデューサーのKamaal Williamsのアルバム。むちゃくちゃかっこいいアルバム。今年聞いたバンドのインストアルバムだとトップクラスに好き。彼の色んなジャンルをごった煮しているサウンドはヒップホップだと多いけど、こういったバンド編成で体現していて、なおかつそのサウンドのクオリティーが高いものはそれほど多くない。タイトル曲の”Stings”がベースでグイグイ引っ張って、サックスのバキッとした音色をかまし、徐々にグルーヴしてくるドラム…これで飯何杯でも食えます!系サウンド。ジャズ、ハウスを単に混ぜたというよりもそれぞれの音楽に対する愛の深さが曲から伝わってくるところが最高。後半はドラムレスでアコースティックなムードなのも家で聞くにはピッタリだった。”Dogtown”が一番彼の特徴的なシンセのメロディがあって好きだが、やはり”Stings” が一番好き。

Lahai by Sampha

 先行シングルの”Spirit 2.0”が出た段階で「これは…!」と死ぬほど繰り返して聞いていて超期待してたSamphaのアルバムが出た。その超期待を余裕で超えていった半端なさすぎるアルバムだった…D'ANGLEOの『Voodoo』とかみたいに時代を象徴するアルバムになるのでは?と思う。すべての曲に隙がなくて全部かっこいい。エナジーはパツパツだけど優しくて…「これが言語化できたら音楽いらんで」的な音楽を聞く喜びを思い出させてくれる。アウトロで女性ボーカルを起用するのも曲の印象がグッと引き立つオモシロい仕掛けだなと思った。詳しい話はインタビューにも出ている。やっぱ”Spirit 2.0”のYusef Dayesのドラムはマジで鬼。レコードも即買いした。好きな曲は"Jonathan L. Seagull"

Weak by Loco

 Locoがビジュアルを一新してアルバムをリリース。ずっと曲をリリースしているので止まっていたイメージは全くないけど、アルバムというまとまった形で楽しめるのが嬉しい。ポップな曲とドープな曲のギャップが大きい中でもLocoのラップが楽しめるようになっている。これをトップ戦線にいる彼がリリースできるのは韓国ヒップホップの懐の深さだと思う(この話は何回しているか分からない。)コライトの文化がかなり進んでいるようでAOMGメンバーのLee-Hi,Coogieなども参加していて興味深いし、featで参加しているWoo,georgeは他の曲でもコミットしている模様。ビートメイカーとしてはGray, Peejay, Slom, SUMIN, Mokyoなど強強メンツ。参加している中でもキーパーソンは最多4曲参加しているJambinoだろう。SMTM11で邂逅し作られた”Like Water”はめちゃくちゃ中毒性高い曲でお気に入りだったけども相性の良さを彼ら自身も感じていることが想像される。好きな曲はPeejayによるド直球80sムードな”Broken iPHONE“

January Never Dies by Balming Tiger

 ついにリリースされたBalming Tigerのアルバム。韓国ヒップホップを真剣に聞き始めてから知ったグループのひとつでブログを検索すると2021年の初めだった。彼らの存在も韓国ヒップホップのレベルの高さに衝撃を受けた1つの要因だった。というのもミクスチャーとしてのセンス、各人のキャラ、ラップやライブのうまさがとんでもないレベルだったから。今回の作品はロックテイスト強めで、個人的にそこまで好みなミクスチャーのベクトルではないものの、彼ら独自のサウンドなのは間違いない。ゴリラズとか好きな人には間違いなく刺さるし、彼らが世界で受けているのはそういう背景もある気がする。好きな曲はプリンス御大のファンクネスを感じさせてくれる”Bodycoke”

Communication by テークエム

 梅田サイファーのテークエムによる2ndアルバム。梅田サイファーのアルバムではフックを中心にかましていたが、ソロ作品は彼のラップを十分に楽しめるもので良かった。心理的な不安定さは一般社会において許容されにくいが、ことアーティストにおいてはそれがプラスに働く。彼はまさにそのケースであり、鬱屈としている日々をラップに昇華してスピットしている点が好き。内省要素も強くACE COOLのアルバムも想起した。あとBLのビートの引き出しをたくさん開けさせているのも最高で最近は綺麗でツルッとしたビートが多い中でも30代が体験したBLの歴史を体感できるようなバリエーションに富んだ作りになっている点も好きだった。好きな曲は”Enemies”

My Mind by ANARCHY

 ANARCHYの久しぶりのリリースは全曲Statik Selektahとのタッグというサプライズ。前作のアルバムが本当に1mmも刺さらなかったのに比べるとかなり好きだった。彼の声のトーン、リリックはヒップホップ純度がめちゃくちゃ高いことを改めて知れる。もともとこういったオーセンティックなスタイルからメジャーへ移行する際にサウンドを拡張した経緯があるので隔世の感はある。あとC.O.S.Aが昔のAnarchyよろしくイメージ刷新中の中で、このトーンの曲に客演することには正直驚いた。Anarchyは皆にとって本当にヒーローなんだろうな。好きな曲は”Pass the mic”

2023年10月19日木曜日

2023年10月 第2週

 喜哀 by OMSB

 昨年の傑作アルバム『ALONE』の記憶も新しいOMSBがEPをリリース。ここ数年はEPでコンスタントに作品を出していてファンとしては嬉しいところ。今回も既発曲含めOMSBらしさ爆発してた。世代的には1曲目がすべてだった。USでDJDRAMA再評価の波があったことに呼応して誰がTYKOHを起用するのか楽しみにしていたがまさかのOMSB、しかも盟友QNを featに迎えているだなんて。2010年代再評価ムードの狼煙になるような曲でモロ青春の1ページで感動した。64bars のOliveOilとの最高のセッション、まさかの志人召喚とか聞きどころはたくさんあるし何よりもリリック。変に迂回せずストレートさがありつつ弱者の視点を持つこのラッパーのポジションは本当に稀有。次のアルバムも期待してしまう。

OLD ROOKIE EP.1 by 田我流

 日比谷でのワンマンを控えた田我流によるセルフレーベルからのリリース。寡作がゆえに毎回クオリティめちゃくちゃ高いのが彼の特徴であり、今回も素晴らしかった。最近は皆EP出しがちだけど、こんなに満足度高いものはなかなかない。ベテランの強み。イントロのおそらく息子氏によるシャウトからして最高であり、そこから”Wake Up”、”Old Rookie”の1セットの流れのメッセージの伝え方にグッときた。ヒップホップやりながら、どうやって歳をとるのかというテーマに真摯に向き合っていると思う。今回の最大の目玉は黒田卓也の参加だろう。打ち込みの発達で生音っぽいものはたくさんあるし、ヒップホップの価値観からすれば安いもので表現できたほうがいいけど、やっぱり本物の音が乗ってくるとそれには勝てないなと改めて…音の艶からして全然違う。いい意味で田我流の作るビートのパーツになっていからいいのだと思う。あと“Biography”のNYヒップホップサウンドのオマージュが洒落すぎていて最高。EP1とのことなのでEP2にも期待大!

Insidevoice by Odeeno

 イタリアのビートメイカーのアルバム。いわゆるlo-fi系のビート集なんだけど、ヒップホップが好きなことがちゃんと伝わってくる。この手のビートについては、好きかどうかのラインは結構シビアな話。それっぽいビートが山ほどある中で自身の審美眼を研ぎ澄ましておきたいといつも思う。このアルバムはGreen Assassin Dollarがよりソフィスケイトされたような感じでどんなシチュエーションでも聞けて重宝した。

HAJIMA by VIANN

 韓国のプロデューサーのVIANNによるアルバム。今年出た30のアルバムでの八面六臂の大活躍でその存在を知ったのだけど、やっぱりかっこいい…!元々コネクションのあるDejavu周りのアーティストを中心にアップカミングなラッパーを迎えた構成となっている。(兵役を終えたBEWHYがいるのがアツい!)今回はダンスミュージックに思いっきり振っていて、こんなんもできるんか!という感動。しかも類型的なビートのパターンやシンセの音色ではなくて彼のオリジナリティをめっちゃ感じるから惹かれる。好きな曲はc+c Music factory バイブスのある2stepな”Free Drink”

Snaxxx by Mndsgn

 Mndsgnのミクステ的な軽めのノリのアルバム。ソウルフルなネタ使いで個人的に一番好きな部類のサウンドだし曲間もシームレス仕様でずっと聴ける。FeatはLAコネクションで盟友Devin Morrison、Anna Wise、Liv.eが参加。好きな曲はVibraphoneが気持ちいい”Living Clours”

And Then You Pray For Me by Westside Gunn

 『Pray for Paris』の続編であり亡くなったVirgil Abrohが同じくアートワークを手がけたアルバムがリリース。この人も多作で毎年何枚かアルバム単位のリリースがある。そこで様々なスタイルを提示しているシーンのトレンドセッターの1人だと思う。とにかくラップがかっこよくて独特の声質とタメのきいたフロウ、grrrrrという一大発明の合いの手が合わさってヒップホップというアートになる。このスタイルでアンダーグラウンドに閉じずに世界をロックし続けていること自体がかっこいい。従来からBPMが遅いビートでもラップしていたけど本作ではトラップのビートが採用されている点がこれまでと異なる。トラップはMIDIのグリッド的なアプローチで緩急やノリをかなり可変的にできるがゆえスキルフルなフロウ巧者がたくさん生まれたが、彼はその真逆で刻むことなくいつもどおり彼のフロウでそのままラップしていて余裕でかっこいい。特にGriselda揃い踏みでTay Keithのビートという特大ボムシットでブチ上がり。スキル至上主義を蹴散らす「リアル」なスタイルは練習しても身につくものでもなくChosen Oneだなと思えるアルバムだった。Curatorとしての能力に長けているのもポイントで、これも練習で身につかないセンスであり唯一無二だと思う。好きな曲は色々あるけど、一つ選ぶなら”Chloe” Ty Dolla $ignが美しい声でかぶせ、ガヤ入れているの斬新すぎ!

Water Made Us by Jamila Woods

 Jamila Woodsの4年ぶりのアルバムがリリース。オーガニックなネオソウルという使い古された定型句を思わず使ってしまうようなムードだが鳴っている音は2023年製という感じ。かなり深いインタビューが日本語で読めて興味深かった。

水が元の場所に戻ろうとするように、 本来の自分に戻るジャミーラ・ウッズの旅、 『Water Made Us』ロング・インタヴュー | TURN

歌詞見ていると確かにポエティックな印象を受けるし言い回しやテーマがオモシロいと思う。秋の夜長にゆったり聞いていきたいアルバムだった。好きな曲はSabaとの”Practice” Geniusによると元NBA選手のAIの会見にインスパイアされているだろうという話がオモシロかった。

2023年10月12日木曜日

2023年10月 第1週

 新譜のリリース少なかったのか?それともチェックできていないのか?という分量。先週の影響でEARTHGANGを聞きまくっていた。先週読み終えた本の一節を戒めとして引用しておきたい。

オスカーは『マジック・ザ・ギャザリング』も試してみた。それなりにカードを組み合わせてみようとしたのだ。でもそれはオスカー向きではなかった。十一歳のガキに全部巻き上げられたが、そのことを何とも思っていない自分に気付いた。自分の世代が終わりかけていることに気づいた最初の徴候だった。最新のオタクものに魅力を感じなくなり、新しいものより古いものがいいと思うようになったのだ。

falling or frying by Jorja Smith

今週一番聞いたのはJorja Smithの新しいアルバムだった。冒頭からダンスミュージック連発でここ数年の鬱憤を晴らすかのような幕開けがとにかく最高。UKのダンスミュージックが目下トレンドにある中でDrake、Black Coffeeとの”Get It Together”の四つ打ちでシーンにエントリーした彼女の本領が発揮されている。しかも流行っているものにまんま乗っかるのではなく彼女なりの色が出ているのも好きなところだった。後半はしっとり目。マチュアなムードがあって、それもまた良い。ここ数年ずっとトレンドにあるギターをメインにすえたインディーロックな曲が多くて聞きやすい。アルバムの冒頭にノリのいい曲があるととりあえず再生していつのまにか全部聞いているみたいなことが多くストリーミング時代の構成なのかなと考えたりもした。好きな曲は独特なドラムパターンが癖になる”She Feels”

For All The Dogs by Drake

息子のアドニスのアートワークが先にリークされ、ついにリリースされたDrakeのアルバム。ここ数年は彼の曲で大きく心が動かされることはほとんどなくなってしまった…新しいトライをするというよりもストリーミング至上主義というか、再生回数を稼げそうな皆が好きなテイストの曲を膨大な量つめこんでプレイリスト入ればええやん的なムードを感じるから。とは言うものの、やっぱかっこいい曲が絶対入っているから憎めないのがDrakeなのであった。そしてBARK RADIOという擬似ラジオの小ネタも入れているので、この物量は意図的であり、その流れでまさかSadeの声聞けるとは。。。それはともかくJ.Coleとの”First Person Shooter”は2人でラップゲームトークしててブチ上がるしかない。Westside GunnとのコンビネーションでおなじみのConductor Williamsを迎えた久しぶりのDrakeのAM/PMシリーズ”8am in Charlotte”はひたすらにラップをしまくるので最高だし。アートワーク同様にSNSで先にバズを作っていたSexyy Redとの”Rich Baby Daddy”はTwerkな2 Stepなんだけど上音がメロウなムードで新鮮かつSZAの参加で最高の仕上がりに。”Amen”はSango, Budgie Beatsという好きなプロデューサー2人による曲名通りのゴスペルムードで好きだった頃のDrakeを彷彿としたし。21savageとのコンビネーションでは自身はジャージーで、21savageはビートスイッチでいつもどおりのスタイルでかっこいい。(Fah-fah-fahと言うだけでこんなに様になるラッパーいるのか?)とにかく曲の分量が多いので全体が薄まって見えるのだけど丁寧に聞いていくとやっぱ好きかも…と書きながらなりました。好きな曲はやっぱ”8am in Charlott

VOIR DIRE by Earl Sweatshirt & The Alchemist

アルケミのハードワークっぷりに驚くしかないEarl Sweatshirtとの共作アルバム。チョップしてループしてドラム足して、そこにかっこいいラップがのって曲になる。ヒップホップの原点にして至高の楽曲の数々が楽しめて最高だった。ヒップホップを好きになったのはこういったシンプルさもあり初期衝動を思い出させてくれた。Vince Staplesが2曲も参加しているのは意外だなと思ったけど聞いてみるとバッチリのコンビネーション。Earlはこの手のビート以外の曲も聞いてみたい。好きな曲は”Heat Check”

2023年10月3日火曜日

2023年9月 第4週

Almost There by GRAPEVINE

 ベテランの域にも関わらずここ数年のリリースが攻めまくりのGRAPEVINEの新作がリリース。もともとパートナーが大ファンで知ったのだけども、今回も最高。「オルタナ」という一言ではもはや片付かないスタイルで歌詞、サウンドも日本のバンド最高峰だと思う。ヒップホップがあらゆるジャンルを飲み込んでスタイルが進化していきグローバルな音楽のスタンダードとなる中で、彼らが取った方法としては核となるバンドサウンド(特に人力のドラム)は残しつつ楽曲をかっこよくするための要素を見極めて採用するスタイルがすごい。リズムボックスを使うにせよ、それはハイハットでありキックではないし、”雀の子”のオートチューンの使い方もあくまでアクセント。一方で古参のファンも置いていかないストレートなロックチューンもあるし、攻めの姿勢と彼らのこれまでのキャリアが一番ちょうどいいバランスで混じった”実はもう熟れ”がハイライト。歌詞は”Goodbye, Annie”がニヒルさ満開で最高だった。他のロックバンドはどう聞くのだろうか…?毎回のように最高を更新してくるロックバンドに出会えて本当に嬉しい。

JIYU by Shurkn Pap

 Shurkn Papの新しいアルバム。前作がドライブをコンセプトに据えた”CALL ME MR. DRIVE”の2だった中で今回はアフロビート中心の面白いコンセプトのアルバム。正直、もはや手垢がつきまくったジャンルだし日本でも色んなアーティストがやってきてるけど、アルバム1枚でここまで聞かせられるのか?!という超ハイクオリティな曲のつるべ打ちで正直びっくりした。もともとシンギンスタイルでアフロビートと相性いいのは間違いないとしても、ここまでビートに対して最適解を出し続けられるラッパーがどれだけいるか。あとアフロビートといっても当然グラデーションがあって、きっちりアルバムとして聞かせるための緩急が用意されているのが好きだった。あとはbpm plus asiaが噛んでいることもあって、タイやインドネシアのアーティストがいくつかfeatで参加しているのもアクセントになっていて良い。特にtlinhが参加した”蜜蜂”が好きだった。

Gold by Cleo Sol

 これが今週ベスト。いや人生ベストかと言いたくもなるCleo Solの新作。こないだ出たばかりなのにほぼ連作といってもいいペース。そして連続で出るレベルではない異常なクオリティの高さで本当にびっくりした。前作に引き続きInflo、Cleo Solは普遍的な音楽のかっこよさを追求しており、それが極まりすぎて聞いてて泣きそうになってしまう。。。(1曲目は’”There Will Be No Crying”だが)こういう作品に出会うとストリーミング時代で雑多なリスニングを繰り返しているなかでも結局これよな〜と思うし音楽聞いてて良かったと感じる数少ない瞬間。好きな曲はStevie Wonderの”Golden Lady”っぽさをめっちゃ感じる”Life Wille Be”

RIP Human Art by EARTHGANG

 EARTHGANGの新しいEPはジャケットと内容が全く比例していない比較的メロウな仕上がりでとても好きだった。もともとアルバムでリリースする予定だったものをバラして3枚のEPでリリースすることにしたらしく、その第一弾となっている。Spillage Villageとの共同名義になっているけどコレクティブからの参加はBenjiのみ。ギターの生音を使っているのが特徴的でかっこいい。あとリリックを読んで、こんなにリリカルなのかと今更知った。他の作品もちゃんと聞けていない気がするので、Spillage Village、Dreamville周りを改めて聞いていこうと思った。好きな曲は”Die Today”

Registration by OXYNOVA

 YNG & RICH Recordsに加入し、レーベルアルバムでも大きな役割を果たしていたOXYNOVAのアルバムがリリース。オーセンティックなかっこよさを持ちながらもトレンドを抑えたシンギンスタイルもできる器用なラッパーで今回もかっこよかった。あとインスタで機材じゃなくて音楽作る楽しさが大事って話をしていて好感を持った。→リンク 好きな曲はダブステップっぽいビートでChillin Homie,KHANとかましまくりな”ICU”

street love by Street Baby

 Leellamarz、NSW yoonとの共作アルバム『DAYDATE』の記憶も新しいStreet Babyのアルバムがリリース。声が特徴的でこれがハマるかどうかが踏み絵になっている。正直前半を中心してメロディ系のビートはしんどくて、声が飛び道具すぎるとfeatuting王にはなれるけど、アルバム全体となると難しい気がした。だがしかし!”high note” から始まるロートーンのハードコアなスタイルはめちゃくちゃハマる。。。最近こんだけどストレートなトラップも聞かないので逆に新鮮だった。韓国だとメロウスタイルに引っ張られてしまうのは分かるけど個人的にはストロングスタイルを貫いてほしい。