2023年10月19日木曜日

2023年10月 第2週

 喜哀 by OMSB

 昨年の傑作アルバム『ALONE』の記憶も新しいOMSBがEPをリリース。ここ数年はEPでコンスタントに作品を出していてファンとしては嬉しいところ。今回も既発曲含めOMSBらしさ爆発してた。世代的には1曲目がすべてだった。USでDJDRAMA再評価の波があったことに呼応して誰がTYKOHを起用するのか楽しみにしていたがまさかのOMSB、しかも盟友QNを featに迎えているだなんて。2010年代再評価ムードの狼煙になるような曲でモロ青春の1ページで感動した。64bars のOliveOilとの最高のセッション、まさかの志人召喚とか聞きどころはたくさんあるし何よりもリリック。変に迂回せずストレートさがありつつ弱者の視点を持つこのラッパーのポジションは本当に稀有。次のアルバムも期待してしまう。

OLD ROOKIE EP.1 by 田我流

 日比谷でのワンマンを控えた田我流によるセルフレーベルからのリリース。寡作がゆえに毎回クオリティめちゃくちゃ高いのが彼の特徴であり、今回も素晴らしかった。最近は皆EP出しがちだけど、こんなに満足度高いものはなかなかない。ベテランの強み。イントロのおそらく息子氏によるシャウトからして最高であり、そこから”Wake Up”、”Old Rookie”の1セットの流れのメッセージの伝え方にグッときた。ヒップホップやりながら、どうやって歳をとるのかというテーマに真摯に向き合っていると思う。今回の最大の目玉は黒田卓也の参加だろう。打ち込みの発達で生音っぽいものはたくさんあるし、ヒップホップの価値観からすれば安いもので表現できたほうがいいけど、やっぱり本物の音が乗ってくるとそれには勝てないなと改めて…音の艶からして全然違う。いい意味で田我流の作るビートのパーツになっていからいいのだと思う。あと“Biography”のNYヒップホップサウンドのオマージュが洒落すぎていて最高。EP1とのことなのでEP2にも期待大!

Insidevoice by Odeeno

 イタリアのビートメイカーのアルバム。いわゆるlo-fi系のビート集なんだけど、ヒップホップが好きなことがちゃんと伝わってくる。この手のビートについては、好きかどうかのラインは結構シビアな話。それっぽいビートが山ほどある中で自身の審美眼を研ぎ澄ましておきたいといつも思う。このアルバムはGreen Assassin Dollarがよりソフィスケイトされたような感じでどんなシチュエーションでも聞けて重宝した。

HAJIMA by VIANN

 韓国のプロデューサーのVIANNによるアルバム。今年出た30のアルバムでの八面六臂の大活躍でその存在を知ったのだけど、やっぱりかっこいい…!元々コネクションのあるDejavu周りのアーティストを中心にアップカミングなラッパーを迎えた構成となっている。(兵役を終えたBEWHYがいるのがアツい!)今回はダンスミュージックに思いっきり振っていて、こんなんもできるんか!という感動。しかも類型的なビートのパターンやシンセの音色ではなくて彼のオリジナリティをめっちゃ感じるから惹かれる。好きな曲はc+c Music factory バイブスのある2stepな”Free Drink”

Snaxxx by Mndsgn

 Mndsgnのミクステ的な軽めのノリのアルバム。ソウルフルなネタ使いで個人的に一番好きな部類のサウンドだし曲間もシームレス仕様でずっと聴ける。FeatはLAコネクションで盟友Devin Morrison、Anna Wise、Liv.eが参加。好きな曲はVibraphoneが気持ちいい”Living Clours”

And Then You Pray For Me by Westside Gunn

 『Pray for Paris』の続編であり亡くなったVirgil Abrohが同じくアートワークを手がけたアルバムがリリース。この人も多作で毎年何枚かアルバム単位のリリースがある。そこで様々なスタイルを提示しているシーンのトレンドセッターの1人だと思う。とにかくラップがかっこよくて独特の声質とタメのきいたフロウ、grrrrrという一大発明の合いの手が合わさってヒップホップというアートになる。このスタイルでアンダーグラウンドに閉じずに世界をロックし続けていること自体がかっこいい。従来からBPMが遅いビートでもラップしていたけど本作ではトラップのビートが採用されている点がこれまでと異なる。トラップはMIDIのグリッド的なアプローチで緩急やノリをかなり可変的にできるがゆえスキルフルなフロウ巧者がたくさん生まれたが、彼はその真逆で刻むことなくいつもどおり彼のフロウでそのままラップしていて余裕でかっこいい。特にGriselda揃い踏みでTay Keithのビートという特大ボムシットでブチ上がり。スキル至上主義を蹴散らす「リアル」なスタイルは練習しても身につくものでもなくChosen Oneだなと思えるアルバムだった。Curatorとしての能力に長けているのもポイントで、これも練習で身につかないセンスであり唯一無二だと思う。好きな曲は色々あるけど、一つ選ぶなら”Chloe” Ty Dolla $ignが美しい声でかぶせ、ガヤ入れているの斬新すぎ!

Water Made Us by Jamila Woods

 Jamila Woodsの4年ぶりのアルバムがリリース。オーガニックなネオソウルという使い古された定型句を思わず使ってしまうようなムードだが鳴っている音は2023年製という感じ。かなり深いインタビューが日本語で読めて興味深かった。

水が元の場所に戻ろうとするように、 本来の自分に戻るジャミーラ・ウッズの旅、 『Water Made Us』ロング・インタヴュー | TURN

歌詞見ていると確かにポエティックな印象を受けるし言い回しやテーマがオモシロいと思う。秋の夜長にゆったり聞いていきたいアルバムだった。好きな曲はSabaとの”Practice” Geniusによると元NBA選手のAIの会見にインスパイアされているだろうという話がオモシロかった。

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