2023年10月10日火曜日

オスカー・ワオの短く凄まじい人生

オスカー・ワオの短く凄まじい人生/ジュノ・ディアス

 西加奈子のまにまにで紹介されていて、読みたいまま放置していたことを思い出して読んだ。信頼のクレストブックスが提供する大河ドラマとなればおもしろくないはずがない。これまで読んだことない要素のてんこ盛りで新鮮な読書体験だった。

 主人公がオスカーなのは間違いないのだが、彼の母、祖母、祖父がメインのエピソードもかなりの分量で含まれているので、彼の一族全体が主人公という言い方がしっくりくる。オスカーのナードっぷりにまずは頭をぶち抜かれる。異様としかいいようがないカルチャーへの大量の言及、それに対する膨大な注釈の量はカルチャーという鈍器でぶん殴られたのかと錯覚するほど。そんな彼が現実社会と折り合いをつけるためにストラグルする話がオモシロかった。特に恋愛面では読んでいて苦しくなるくらいストレートな行動の数々に思わず応援したくなるし、同じサブカル野郎として思い当たることも多く成就してくれ!と中盤あたりは祈っていた。

 オタクの恋愛物語というだけであれば『電車男』と変わらないのだが、本著がぶっちぎりで圧倒的なのは彼の母、祖母のエピソードを通じてドミニカの歴史を語っていく点にある。ドミニカといえばプロ野球の助っ人外国人の出身地という浅ーい認識しか持ってないなかったのだが、独裁者に牛耳られていた時代が30年近くある。そこの描写がかなり多めに入っていて、オスカーとはまた別のベクトルのストラグルが存在しており彼の物語とのギャップが大きく読み応えがあった。大きな歴史に対して三世代の親子関係が絡んでいきマクロとミクロが交差していく語り口が素晴らしかった。

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