2017年7月29日土曜日

往復書簡 初恋と不倫

往復書簡 初恋と不倫

坂元裕二という脚本家の作品。
過去に上演された朗読劇の脚本で、
「不倫の初恋、海老名SA」
「カラシニコフ不倫海峡」という
2作品が収められています。
すでに決定的なレビューが
とあるブログにアップされていて、
読み終わった人はこちらを読むことをオススメ!
坂元裕二『往復書簡 初恋と不倫』 - 青春ゾンビ

2作とも恋愛物語なんだけど、
不穏な空気がどちらも溢れている。
通底するのは他人の痛みは他人事ではないということ。
しかもそれを世界レベルのマクロな出来事から
一気に卑近なミクロの出来事へと
フォーカスを移動させるスキルが凄過ぎました…
(メキシコ麻薬戦争の引用はニヤニヤしてしまった)
タイトルにある「往復書簡」という文字どおり、
2作品とも手紙もしくはメールのやり取りのみが
書かれていて第三者による語りは無い。
他人の手紙、メールを盗み見しているような
感覚になるんだけど、そこに坂元節とも言うべき、
パンチラインの数々が炸裂していて、
それがたまらないんですよねー
セリフの畳み掛け方、言葉のチョイス、
目のつけどころのシャープさ。
笑わせるところもあれば、
人の心の奥の部分を鷲掴みにするところもある。
日常生活では想像しにくいタイプの会話なんだけど、
なぜかしっくりくる。言葉にできない感覚があります。
「不倫の初恋、海老名SA」では
登場人物同士がすれ違い続けるのがオモシロくて、
しかも、手紙とメールの扱いが巧み。
テキストによるコミュニケーションの
速度は飛躍的に加速している近年に読むと、
手紙だけではなくメールでさえ
レミニスな感情を引き起こされるんだから
世の流れは早いものよ…
本作を読んで感化されて
未見だった「それでも、生きてゆく」を
勢いでビンジ・ウォッチングしたんですが圧巻でした…
他の未見の作品も見たいところです。
最後に本作で僕が一番好きだったラインを引用しておきます。

きっと絶望って、ありえたかもしれない希望のことを
言うんだと思います。

ヘル・ウィーク



止まらないNETFLIX。
黒人系大学でのフラタニティに入りたい、
大学新入生たちの地獄の日々を描いた作品です。
フラタニティもので思い出すのはネイバーズで、
死ぬほどバカっぽくてそれはそれで最高なんですが、
本作はフラタニティ加入にあたっての
事前の儀式a.k.a「かわいがり」の地獄。
新入生が加入にあたって先輩から
執拗に理不尽な暴力、嫌がらせを受けるところが
容赦なく収められていて中高の部活時代を
思い出したりしていました。
(本作と比べるのはおこがましいとは思うけれども)
簡単に言うと先輩たちの奴隷ですよね。
パシリはさせられるし、どつかれるし。
どつかれ方が酷くて人間扱いされてなくて、
ほとんどサンドバック。
伝統という名の権威のもとに
暴力をふりかざすのって本当最悪だし、
「オレも昔やられて耐えたからお前も耐えろ」
という思考停止した考えも最悪。
アメリカって自由の国というイメージを持っていて、
こういった世界観のイメージなかったけど
ジョックス達の世界はこんな感じなんでしょうか?
終盤、倉庫での最終日の「かわいがり」は地獄そのもの。
とくにドッグフード使った演出は最悪だったな…
エンディングの最悪の結果を見て、
本作が広がれば、ろくでもない世界も
少しは良くなるのかもしれないなと思いました。

インスタント・ジャーニー

インスタント・ジャーニー

前から気になっていた田丸雅智さんを
初めて読んでみました。
星新一に代表されるショートショート
という小説形式の若手作家で
東大工学部卒という異例の肩書きの持ち主。
(しかも同い年だった!)
本作はジャーニーというタイトルのとおり、
世界各国を舞台としたお話ばかりで
インスタントに旅行気分を味わえて楽しかったです。
とくにオモシロいなーと思ったのは
慣用表現をダイレクトに文字通り描いている点。
つまり「火の地」では火種という種子のある世界を、
「理屈をこねる」では理屈を物理的にこねる世界を。
日常のちょっとした表現に
少しのウィットを足すだけで想像の世界が広がり、
こんなにオモシロくなるんだなーと感じました。
中でも駄洒落的側面の強い「虚無缶」と「帰省瓶」が最高。
ショートショートはオチが割と肝だと思うんですが、
きっちり落とすものもあれば、
何とも言えない余韻を残したものまで。
僕は落ちがはっきりしているものよりも、
読み手にその先を想像させてくれる、
ショートショートが好きです。
この点では「東京」が特に素晴らしかったです。
通勤中に立て続けに読んでしまいましたが、
寝る前に1つ読んで世界を夢見ながら
眠りにつくのが良いのかもしれません。

2017年7月25日火曜日

すばらしい墜落

すばらしい墜落

先日、本をまとめ買いしたときに
丸くまとまってしまったので、
ジャケ買いしてみました。
アメリカ在住の中国人作家といえば、
イー・ユンリーがいますが、
彼女ほどではないにせよ、
異国の地で暮らす豊かさ、辛さが
伝わってくる作品でした。
本作は短編集で全エピソードが
NYのフラッシングという
チャイナタウンが舞台となっています。
一口にチャイナタウンといっても
短編それぞれの主人公には
色んな階層の人がいてゴリゴリのビジネスマンや
VISAが切れて不法滞在となっている人まで。
それぞれのNYでの生活における
悩みを描いています。
お金持ちだから悩みがないわけでもなく、
お金の周りにいる家族との関係にフォーカス。
一方でお金のない人はより差し迫った悩みで
苦しんでいる様子が生々しい。
1話目の「インターネットの呪縛」からして
いきなりオモシロくて、
NYで自立しようと懸命に働いているのに
中国に住む妹にお金をせびられるんですが、
昔ならこんなことはなかったと悔しがる。
つまり、インターネットの登場による
急激に加速したコミュニケーションの話。
日本だとLINEが主流になっていて、
僕はすっかり疲弊気味なんですが、
この話を読んで少しほっこりしました。
海外文学だと文化の背景知ってないと
分からない部分があったりしますが、
かなり普遍的な話ばかりだし、
日本語訳もかなり流暢で読みやすかったです。
また、作者が前向きなのか、
鬱屈した形で話が終わることはなく、
オチがきっちり用意されているので、
落語のようにも感じました。
僕が一番好きだったのは「英文科教授」
大学での終身在職権を得るための
レポートを大学に提出するんだけど、
そこに決定的な間違いがあって、
「もう終わった…」と絶望しながら、
それでも生きていくことを模索する話。
致命的なミスをして、それがバレる/バレないで、
ハラハラすることってあると思うんですが、
結果的に杞憂だったときの
異常なまでの安心感が鮮やかに書かれていて好きでした。
寝る前に1話ずつ読むのがいいかも。

ラストウィーク・オブ・サマー



引き続きNETFLIX Diggin'
The OCみたいなとくに意味のない
アメリカの学生の色恋話を見たくなって、
何となく見てみました。
始まって15分くらいはアメリカンハイスクールの
恋愛物語みたいな顔をしていたんですが、
その後、物語の向きが大きく変わって、
女性サイコパスのジェラスが炸裂する
シリアスなサスペンスに豹変して笑ってしまった!
主人公は彼女と仲良かったんだけど、
b*tchだった彼女の過去を知って激怒。
その夜に出会った女の子と一晩を過ごす。
ただあくまで一晩の関係であり、
主人公は彼女と復縁、万事解決!
と思いきや、一晩を過ごした女の子が
自分の高校に転校生としてやってきて、
事態はかなりバイオレントな方向へ。
女の子側からしたら
「どっちが好きか、はっきりしてよ!」
という案件な訳ですが、
こういうときの男の情けなさが
画面に溢れ出ていて、それだけでもオモシロい。
あと浮気相手の女の子が
だんだんと嫌がらせのギアを上げていって、
最終的になかなかの陰惨さを
炸裂させてたところにも好感を持ちました。
(ロープで吊るし上げ!)
最後は安いサスペンスのオチになってしまってたけど、
ちょうどいい湯加減だったと思います。
バイオレントな一夏の思い出。

2017年7月24日月曜日

心のカルテ



映画館で見たい映画もないので、
NETFLIXディギンし続けているんですが、
その中でも特にオモシロかった作品。
主人公の女の子は拒食症で、
入退院を繰り返しているんだけれど回復しない。
そんな中で有名医と出会い、
ホスピスに入所するものの…という話。
まず主演のリリー・コリンズの拒食症に向けた
役作りのレベルが度を越していて驚く。
CG、身代わりも使っているんでしょうけど、
顔のこけ方が半端じゃない…
他にもオーバーサイズの服を使ったり、
工夫して作品にリアリティを持たせていました。
担当する有名医をキアヌ・リーブスが演じています。
僕が見た彼の出演作では、
最近バカっぽい役(いい意味で)の映画ばっかりだったんですが、
こういうシリアスな役でもハマっていました。
(ジョン・ウィック2作目見れてない…)
あと音楽の使い方が素晴らしくて、
ピンポイントで素晴らしい曲を
各シーンに放り込んでくる。
とくにJack Garratt「Water」、
KISHI BASHI 「Honeybody」 が好きでした。
さらに甘酸物件でもありまして、
同じ施設にいる2人が施設の外でディナーするシーン。
末期がん患者のふりをしてアルコールをゲットしちゃう。
(2人だけの秘密は甘酸必須用件!)
毎日お腹が空いて当たり前のように
ご飯食べている身からすると
「食べちゃえばいいじゃん」と思うんですが、
太ることへの過度な防御意識が働いて
食べることができない様は見ていて辛かった…
(とくに妊婦のシーンは天国と地獄!)
ただ作品内で明確に原因は語られていなくて、
それゆえに家族もどうしていいか分からず、
さらに彼女の両親の複雑な関係もあいまって
修羅場の数々が訪れる。
僕が本作が好きなのは安易な逃げ道(解決)を用意せずに
とことん自分自身と向き合い、
そこから這い上がる物語である点です。
きっかけとなる母との愛情を確かめるシーンは、
“Bone” to the “Born”の転換が見事過ぎる演出でした。
「のみ込み続けた石炭は君の勇気だ」
という詩のリリカルさに心打たれますしね。
地味といえば地味なんですが、
芯を食ってる素晴らしい映画でした。

2017年7月19日水曜日

バリー



もうNETFLIXあれば何もいらないぐらいに
依存度が日に日に高まっているんですが、
本作もNETFLIXオリジナルの映画。
アメリカ前大統領のオバマがNYで過ごした
大学生活を描いた作品です。
時代は81年でNYではヒップホップの季節。
そんな頃に彼は大学へ編入してきて、
お金持ちとプロジェクトの両方を見て、
人種や社会について葛藤します。
NETFLIXの解説のところに
オバマ大統領のことが書いてあったので、
そういうつもりで見ていましたが、
何も言われなければ、
ほぼ最後まで1人の黒人青年の話にしか
見えない作りになっている。
つまり、のちの大統領も1人の人間であり、
社会の矛盾に苦悩したのだということ。
オバマをもっと英雄的に描く映画は
今後出てくると思われますが、
青春の断片だけ切り取って映画にした
この監督のセンスは本当に素晴らしいと思います。
オバマは黒人と白人のハーフで、
どこへ行っても、どちらかに振り切れない
自分のアイデンティティに苦悩していて、
「馴染めない」というセリフが印象的でした。
「政治って意外とHIPHOP」という言葉が
最近話題になっていますが、
僕が腹立つのは「意外と」の部分。
意外ってなんやねん。
声なきものの声を救うという点では
政治とHIPHOPはダイレクトに繋がっているはず。
あと「意外と」って言うことができるのは、
政治とHIPHOPのいずれにも
ある程度精通してなきゃだめでしょ。
「意外と」に込められた半笑い感が余計に腹立つ。
Anyway, Fight The Power !

クロッシング・デイ


C.O.S.Aのブログでレコメンドされていて、
NETFLIXに入っていたので見てみました→リンク
イーサン・ホーク×マーク・ラファロという
豪華メンツに驚きながら、
正統派ギャング映画でオモシロかったです。
オープニングで現金輸送車を襲うシーンから
始まるんですが、そこの色彩がまず素晴らしくて、
この時点でイイ映画に違いないという予感が高まる。
前述した2人は幼なじみで子どもの頃から、
街のゴロツキの手伝いをして
何とか生計を立ててきたんだけど、
大人になっても状況が何も変わらないことに
不安を覚えて悪行にさらに拍車をかけていきます。
ギャング映画でこのパターンだと
一旦成り上がることが多い中、
本作では鬱屈した空気が漂い続ける。
とくにマーク・ラファロの落ちっぷりが
目に余る内容でクズと言われてもしょうがないレベル。
2人ともジェイルにぶち込まれてからが運命の分岐点で、
彼らの選択が後の人生を決定づけていくんですねー
原題のWhat Doesn't Kill Youというタイトルが沁みる。
邦題はおそらく同じイーサン・ホーク出演の
クロッシングに寄せていると思われますが、
混乱するので似たようなタイトルつけるのやめてくれ!

監獄ラッパー

監獄ラッパー (新潮文庫)

ラッパーの書籍は出たらなるべく読むようにしていて、
なぜならどう転んでもオモシロいから。
(ANARCHYの痛みの作文も祝文庫化!)
そんな中で取りこぼしていたのが本作で、
やっと読むことができました。
ラッパー=悪いというイメージは
長い時間かけて醸成されたもので、
ここ日本においても例外ではなく、
悪そうなやつは大体友達な訳ですが、
本作の著者のB.I.G. JOEは別格なのです。
なぜならヘロイン密輸の罪で
オーストラリアの刑務所に6年間服役していたから。
本作では、その経緯と刑務所で体験したことが
赤裸々に語られていてめちゃくちゃ興味深かったです。
密輸、逮捕、裁判、刑務所での生活、
ここまで書いて大丈夫なのか?と思えるくらいで、
圧倒的孤独と絶望の中から這い上がっていく
彼の姿を読んでいると、
ダラダラ生きている自分に喝が入りました。
あとは人生に音楽があることの意味をひしひしと。
嫌なことや辛いことがあっても、
音楽が好きだと救われる瞬間がある。
単純にオーストラリアのジェイルの
内輪事情のルポとしてもオモシロくて、
心温まるようなエピソードもありつつ、
当然スリリングな瞬間も多くて、
このギャップにやられて読み終わるのがあっと言う間。
当事者である彼なりの犯罪学も
興味深くて現状の刑務所システムの
不完全さについてはなるほどなーと感じるところも。
(更生施設としての機能を果たしているのか?という意見)
彼が獄中にいるときにリリースした、
Come Cleanを読んだあとに改めて聞くと
歌では絶対表現できない世界観を
ラップという豊かな歌唱法が掬い取っている瞬間が
たくさんあってやっぱりラップが好きだなと思いました。

2017年7月18日火曜日

終夜



久々にミックス作りました。
帰り道とか夜中に聞きながら踊りたい人へ。
Have a good night.

2017年7月15日土曜日

漁港の肉子ちゃん

漁港の肉子ちゃん (幻冬舎文庫)

西加奈子作品を少しずつ読み進めているんですが、
以前から友人にプッシュされていた作品。
やっと読んだのですが、とても素晴らしかったです。
圧倒的な生と性の肯定というか、
後期の西加奈子作品に共通するエモーショナルが
炸裂しまくりで電車で泣いてしまった…
舞台は日本海の田舎町で、そこに住む母子家庭が主人公。
お母さんがタイトルにもなっている肉子ちゃん。
大阪弁ばりばりで、
人を疑うことを知らず、常に信じ続けてきた女性。
そんな性格ゆえに借金を背負わされたりして、
傍から見ると辛い人生を歩んでいるように見えるけれど、
彼女は「生きてるからそれでええやん」という、
矜持を持って生きている姿がとにかくカッコいい。
普段生活していると、
Goodになる瞬間とBadになる瞬間の繰り返しだけど、
肉子ちゃんは目の前の生活をとにかく楽しんでいて、
色々考え過ぎなんかなーと思ったりしました。
大阪弁がバリバリの表現として、
エクスクラメーションマークと「っ」の乱打が
こんなに破壊力を持つのか!
という新たな発見もあってオモシロかったですし、
この表現がラストのオチのフリにもなっているんだから、
西加奈子恐るべし!と言わずにいられない。
自意識が全く垣間見えない肉子ちゃんと
対照的なのが娘の喜久子で、彼女は無類の本好きで、
とても達観していて自分がどう見られるかを
気にして生きている。
こんな水と油のような親子関係の中にも、
生活の豊かさが伝わってくるのが好きなところでした。
それはお金だけではなく、
失われたと言われて久しい地域の繋がりが見れるところ。
(村社会っぷりにも言及しつつ)
なんといっても終盤、喜久子が入院してからが
本作最大の読みどころでしょう。
涙腺決壊してしまう圧倒的な生の肯定は
西加奈子節が本当に炸裂していて、
現役作家で間違いなくトップクラスの筆力。
前半から薄々感じていた肉子と喜久子の関係が
明らかになるところでは、
女性の性の話も絡めてきて構成が本当に巧みでした。
最新作のiも読まねば…!

2017年7月13日木曜日

茄子の輝き

茄子の輝き

滝口悠生最新作ということで
発売されてソッコーでゲットしました。
短編集なんですが、連作形式になっていて、
長編のように読むことができてオモシロかったです。
本作のテーマとなっているのが日記。
僕は去年ぐらいから日記文学への興味が増していて、
それを決定的にしたのが、
八本足の蝶、かなわないでした。
ネットで読めるものでいえば、
C.O.S.Aのこのポストも日記文学として超好きです。
Good bye Astoria

上記で挙げた作品、文章は筆者の実の日記なんですが、
本作は日記を書いている男が主人公で、
彼が自分の日記に基づいて過去といかに向き合い、
生活しているかについて描かれています。
過去への耽溺は未来志向の社会において、
ともすると嘲笑の対象になりかねないと思います。
実際、バブル自慢ばっかりしてくるおじさんとか、
速やかに消えて欲しいと思いますが、
本作でアプローチしているのはもっと別のところ。
あの頃は良かったなーというよりも
記憶の不確かさに極めて自覚的な男の日常における
思考過程を追っていくような内容。
なので、本当にたわいもないことばかりなんだけど、
これが滅法オモシロいんですよねー
1日生活している中で色んなものを
見たり、聞いたりして体験する中で、
こぼれていく記憶がたくさんあって、
実はそこに生活の豊かさがあるのではないか?
ということを読んでいる間に感じました。
バツイチで比較的不安定な仕事をしている主人公は
客観的に見れば不幸に見えるかもしれない。
けれど、そんなことに頓着することなく、
自分と向き合っている姿が眩しく見えました。
後半、前の奥さんへの思いがMADな形で
炸裂するシーンが個人的なハイライト。
過去、記憶の不確かさは
滝口さんがずっと描いてきたテーマだと思いますが、
それと日記の相性がとても良いです。
さらに、本作の出版のCPなのか、
滝口さんの日記が毎日公開されていました。
(手書きを写真で撮ったもの!)
こっちも無茶苦茶オモシロいので
興味ある人は読んでみてください。
日記の重要性は音楽の世界でもあって、
HAIMというLAのガールズロックバンドが
最近アルバム出して、それはそれは素晴らしいんですが、
Pitchforkのレビューでこんなことが書かれていました。

Stevie Nicks told Haim to keep diaries. [...]
“Do you guys keep a journal?” 
the eldest Haim, bassist/singer Este, said 
she keeps notes on her phone. 
(Alana, Danielle, and Este all write lyrics.)
 But Nicks extolled the virtues of paper: 
On the right-hand page, you recount your day; 
on the left-hand page, you poeticize it.
(Pitchfork)

紙の優位性を説きつつ、
右のページに実際の日記を書いて、
左にのページにその日記を詩にする
という使い方はオモシロいなーと思いました。
空前の日記ブームで自分でも少し書き始めました。
(手書きではないんですが。)
書き出すと楽しいんですが、
三日坊主にならないよう頑張りたいところです。

2017年7月8日土曜日

オクジャ/okja



ポン・ジュノ最新作がNETFLIXで!
という、とんでもない時代に突入してまして、
オリジナルコンテンツで無敵街道まっしぐらな
NETFLIXが映画も本腰入れ始めています。
前作のスノーピアサーでは列車を使って
階層社会を描いたポン・ジュノですが、
本作では遺伝子操作されたブタをメインに据えて、
合理化された社会における動物の命について
正面切って描いていてオモシロかったです。
キャストが豪華で前作に引き続き、
ティルダ・ウィンストン、
ブレイキングバッドでの怪演も記憶に新しい、
ジャンカルロ・エスポジート、
佳作によく出ているポール・ダノ、
そしてオレたちのギレン・ジェイクホール!
そんな彼らが脇を固める中、主役を務めるのは
ポンジュノが本作を作るにあたって
見つけ出してきたアン・ソヒョンという女の子。
彼女の純真無垢性が映画の出来を担保している
といっても過言ではないくらい素晴らしかったです。
これからどんな俳優になっていくのか楽しみ。
タイトルのオクジャは主人公が飼っている豚の名前で、
遺伝子操作によって生まれています。
彼女の一家が飼い始めてから10年後、
もとの飼い主、つまり遺伝子操作でオクジャを産み出した
化学会社が取り戻しにやってくるんですが、
主人公の女の子が何とか阻止しようとするお話。
前半はかなりギャグが多めで笑いまくりでした。
あとオクジャの見た目が何とも言えない、
これはかわいいのか…?という微妙なラインなのが良かった。
とくに目ですよねーあのウルル感は感情移入を誘われる。
ソウルでの捕り物シーンは圧巻で、
東京を舞台にあそこまでできないことを考えると、
韓国の映画はやっぱり進んでいるなーと思いました。
後半は前述した動物の命の扱いについてフォーカス。
動物解放戦線なる動物愛護団体も出てきて、
話は比較的シリアスな方向へと向かいます。
こういった動物愛護の話で難しいのは、
残酷なのは理解できるけれど、
食べるのはやめられぬというジレンマ。
前半でパートナーとして描かれていたオクジャが、
家畜として扱われるのを見ると辛い気持ちになりました。
とくに終盤の加工場へ運ばれていくシーンは、
見るに堪えないというか、
アウシュビッツ収容所を想起させるような撮り方をしていて、
ポン・ジュノの手腕がいかんなく発揮されていました。
農家の人達は動物を育てて、
加工して販売するところまでを見ているけれど、
一般の人は完全に加工された形でしか見ないほ乳類の肉。
それは合理化が突き進んだ結果の産物だよなーと思ったり。
こんなボンヤリしたこと考えてたら、
環ROYの最新作のインタビューで、
まるでオクジャを見たかのようなことが語られていたので、
見終わった後に読むのをオススメします↓
忘れられそうな狭間を表現する 環ROYインタビュー

2017年7月5日水曜日

数学する人生

数学する人生

森田真生さんの数学する人生という、
数学の歴史を通じて、僕達が想像しない切り口で
数学を語り倒した名著があるのですが、
その森田さんが最も影響を受けたのが岡潔。
(岡潔のエッセイを読んで大学で文系から
数学の道へと転換されたそうです)
この森田さんが編纂した岡潔の言葉を集めた1作です。
岡潔は数学の学者で文化勲章までもらっている権威。
数学は嘘が全く許されない究極の理詰め勝負で、
理系の中でも特にゴリゴリの理系だと思います。
しかし、岡潔は数学と仏教を結びつけて
独特の考えを持っていて、それがオモシロかったです。
かなり抽象的な概念の話をしていて
よく分からない点もあったのですが、
最後に森田さんの解説がついていて、
それで一気に合点がいくといった感じでした。
本作で繰り返し語られるのは情緒というものです。
コトバンクでは以下のように定義されていました。

事に触れて起こるさまざまの微妙な感情。
また、その感情を起こさせる特殊な雰囲気。

しかし、岡潔は自身の言葉で改めて情緒というものを
再定義しようと試みていることが分かりました。
ただし、明快に「このように定義する」と
エッセイの中では説明されておらず、
具体的な事象(風景やそれを詠んだ俳句)の見方を
説明することで彼の考えが次第に理解できてくるものでした。
情、情緒にまつわる話もオモシロかったのですが、
僕がとくに印象的なのは自他意識についての論考。
自分と他者は全く別の存在だと考えるのは、
理性の世界に閉じて生きている証拠で、
その自他の区別意識が行きつく先がエゴイズムとなると。
繰り返し述べられてるのですが、
一番分かりやすく、なおかつ心に残っている部分を引用します。

たとえば他の悲しみだが、これが本当にわかったら、

自分も悲しくなるというのでなければいけない。
一口に悲しみといっても、
それにはいろいろな色どりのものがある。
それがわかるためには、自分も悲しくならなければ駄目である。
他の悲しみを理解した程度で同情的行為をすると、
かえってその人を怒らせてしまうことが多い。

すべての事象に対して、この考えを適用すると

自分の身が持たないと思いますが、
人の悲しみを本当の意味で理解するというのは、
このレベルなのかもなと自戒の意味も含めて思います。
海外への留学経験を経たことによって、
ナショナリズムが強く出ている部分もあり、
うるさい保守おじさんのように
見えるところも少しあるのですが、
森田さんが巻末で語っているとおり、
人間は想像以上に環境に影響を受けていて、
それを自覚することは大切だなと感じました。

2017年7月1日土曜日

ザ・ギフト



FIlmarksという映画専門SNSを使っているんですが、
友人のレビュー見てオモシロそーと思って見ました。
ポスタービジュアルからしてホラーかな?
と勝手に思っていたんですが、
もっと深いサスペンススリラーでした。
トランプ登場以降、ポストトゥルースという言葉が
跋扈する世の中になりましたが、
そんな時代にこそ響くような内容でした。
これは本当にネタバレ厳禁系で、
ストーリーのアウトラインも何も知らない状態で
見るのが良いと思います。衝撃度が違うと思うので。
詳しいことを述べるのは避けますが、
僕が本作を見て思い出したのは長谷川豊。
平気で嘘をついておいて、
あげく自分はそんなこと言っていないと開き直る。
軽いサイコパスの領域に入ると思うんですけど、
本作の登場人物もその手の類い。
誰が本当のこと言っているのか、
最後の方まで明らかにせず、
贈り物(ギフト)を使って恐怖を増長させていく
物語の構成が見事過ぎた…!
「目には目を」な結末は全く予想していなかったし、
このエグみは最近見た映画の中でもトップクラスでした。
国会議員でさえも自分のことを調べずに、
平気で嘘をついてしまう時代に響く映画。

ブルックリン



ミニシアター系映画でずっと見たいと思っていた作品。
ビビッドなポスタービジュアルに惹かれたんですが、
お話も予想を遥かに超えたオモシロさでした!
都会と地方を巡る上京論は昔からあるし、
世界共通の感覚なのかと映像で見ると改めて驚きました。
主人公はアイルランドの女の子。
地元じゃ働き口が見つからないため、
NYのブルックリンで働くことになります。
そこで起こる出来事、地元アイルランドでの
彼女の生活を描いた作品です。
地方から出てきた女の子が都会でストラグルする姿は、
すっかりおじさんの僕にとっては響きまくり。
都会のドライな関係性と地元への恋しさが募って、
ホームシックになるんだけど、
そんなホームシックは恋一つで吹き飛んでしまう。
可愛らしいエピソードがてんこ盛り。
さらに映画全体のカラーリングが本当に美しくて素晴らしい!
主人公の服装、街の風景、部屋の様子、
すべてが調和された世界が展開されるので、
映画館の大きなスクリーンで見たかったなーと後悔しました。
(レンタルはブルーレイを大推薦!)
アメリカへの移民系の作品で多いのは
イタリア系だと思いますが、
そこへの目配せも気が利いててオモシロかったです。
最大の見所は姉の死去により一時帰省する後半。
帰省する前に彼氏と入籍を済ませて、
主人公は帰省するんだけど、誰にもそれを告げられない。
母親や地元の友達と過ごす時間が心地良く、
予定よりも長居してしまいます。
気兼ねなくリラックスできるんだけど、
強烈な同調圧力が存在する村社会でもある
地方のイイ部分/悪い部分を
丁寧に描いているところが興味深かったです。
とくに主人公がアメリカ行く前にバイトしていた、
グロッサリーの女店主の感じとか最悪で最高!
ラストの立場逆転な演出も素晴らしかったなー
もろに地方vs都会という構図であり、
都会最高!のようにも見えるけれど、
それよりも主体的に自分の人生を生きることの大切さを
痛感した映画でした。思春期の高校生とかに見て欲しい!