2017年11月1日水曜日

高架線

高架線

滝口悠生最新作。
短編集がこのあいだ発売されたばかりですが、
立て続けのリリースで今回は長編。
なんともいえない感覚と読了感がありつつ、
かなりピースな内容で平穏な気持ちになりました。
本作も過去作から一貫した記憶と土地の話で、
前作が記憶に軸足を置いているとすれば、
本作は土地に軸足を置いた物語でした。
東京の東長崎にあるボロボロの木造アパート、
かたばみ荘を中心として、
そこに歴代住んだ人達が登場人物で、
それぞれの日常が丁寧に描かれています。
賃貸の場合、新築でなければ
自分の前に住んでいた人がいるわけですが、
その人に会う可能性は現実にはほとんどないと思います。
つまり、ファクトとしての繋がりとしてはユルい。
けれど同じ空間を共有しているメモリーとしての繋がりは
かなりタイトという奇妙な関係が描かれているゆえに
読んでいるときに独特の感覚がありました。
あと毎回滝口さんの作品で思うのは文体への新しい挑戦。
今回はパラグラフごとに主人公が名前を宣言する。
それは物語の語り部が変わることを意味し、
登場人物が思い出を語りかける形になっていました。
芥川賞を取った死んでいないものは
映画でいうところのカットが長かったのに対して、
本作はカットの切り替えがパッと変わっていくので、
同じ人の話だけど他人のような、
他人だけど同じ人のような、という
境界が曖昧になっていくところもオモシロかったです。
個人的には、東京に初めてきたときに
西武池袋沿線に住んでいたので、
あの高架線が懐かしい気持ちになりました。
住んでいた頃は何も思わなかったけど、
今は地下鉄で通勤していて電車で風景を一切見ないので、
読んでいるあいだレミニスしまくり。
東京ではかなり地味な街かもだけど、
どの街にもストーリーがあるのである。
と強く実感した1冊でした。