短編集がこのあいだ発売されたばかりですが、
立て続けのリリースで今回は長編。
なんともいえない感覚と読了感がありつつ、
かなりピースな内容で平穏な気持ちになりました。
本作も過去作から一貫した記憶と土地の話で、
前作が記憶に軸足を置いているとすれば、
本作は土地に軸足を置いた物語でした。
東京の東長崎にあるボロボロの木造アパート、
かたばみ荘を中心として、
そこに歴代住んだ人達が登場人物で、
それぞれの日常が丁寧に描かれています。
賃貸の場合、新築でなければ
自分の前に住んでいた人がいるわけですが、
その人に会う可能性は現実にはほとんどないと思います。
つまり、ファクトとしての繋がりとしてはユルい。
けれど同じ空間を共有しているメモリーとしての繋がりは
かなりタイトという奇妙な関係が描かれているゆえに
読んでいるときに独特の感覚がありました。
あと毎回滝口さんの作品で思うのは文体への新しい挑戦。
今回はパラグラフごとに主人公が名前を宣言する。
それは物語の語り部が変わることを意味し、
登場人物が思い出を語りかける形になっていました。
芥川賞を取った死んでいないものは
映画でいうところのカットが長かったのに対して、
本作はカットの切り替えがパッと変わっていくので、
同じ人の話だけど他人のような、
他人だけど同じ人のような、という
境界が曖昧になっていくところもオモシロかったです。
個人的には、東京に初めてきたときに
西武池袋沿線に住んでいたので、
あの高架線が懐かしい気持ちになりました。
住んでいた頃は何も思わなかったけど、
今は地下鉄で通勤していて電車で風景を一切見ないので、
読んでいるあいだレミニスしまくり。
東京ではかなり地味な街かもだけど、
どの街にもストーリーがあるのである。
と強く実感した1冊でした。
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