2023年10月22日日曜日

愛を返品した男 物語とその他の物語

愛を返品した男 物語とその他の物語/B・J・ノヴァク

 本著の訳者である山崎まどか氏がThreadsにポストしていた以下のラインで知って読んでみた。

夏が終わってしまって、悲しい。 でも俺が嫌いな奴らの夏もまた終わったというのが、なぐさめだ。

ラップのリリックにもありそうで本当に最高。本著は全63篇からなる短編集なのだけども他の物語もグッとくるラインが多くて楽しめた。

 2、3行で終わる話もある一方でちょっとした中編までバラエティに富んだ構成になっている。63話もあるので幕の内弁当、DJ mix的なニュアンスを含んでおり最後まで飽きずに楽しめる。短い話は上記のような強いラインがないと通り過ぎてしまうのだが、複数ある中編がどれもオモシロかった。タイトルの由来となっている”ソフィア”という話はAI付きセックスロボットが感情を持った結果、AIと愛について議論する話。この話がかなり深くて設定とテーマのギャップの大きさにくらった。なかでも原題の”One more thing”にまつわるAIのセリフはとても好きだった。有限、無限の議論をOne moreで収束させていく手腕にハッとさせられた。ちょっとした哲学とも言える。以下一部引用。

こんな風にもうひとつだけって、つい言ってしまう。まだひとつあるっていうことは、無限を感じさせてくれるから。そして愛と他のものの違いはそれが限りなくて、何か限りないものから作られていることなのよ。

あなたは億千万の出来事がこれから起こると思っている。あらゆることが億千万回繰り返されると信じている。でも違うの。無限だと思える全てのことは、実際にはとても、とても限られたものなの。

 最初に紹介したラインのとおり、どの短編も日常のなんてないことを独特の切り口で語っているので、エッセイ的に楽しめるのもいいと思う。著者の出世作となったドラマ『The Office』を見てみたい。

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