2023年10月26日木曜日

日本に住んでる世界のひと

日本に住んでる世界のひと/金井真紀

 ずいぶん前に荻上チキ氏のTweetで存在を知り、こないだ本屋で見かけたので読んだ。社会学のエスノグラフィーよろしく日本在住の世界の人にインタビューした1冊でとても興味深かった。

 日本に住む世界の人という話だと、近年よくテレビで放映されている日本礼賛系番組が頭をもたげる。内側からは魅力を評価できないのに「外様の人がこんなに褒めてくれるから思いのほかいい国やなぁ」的なスコープには違和感しかない。しかし本著はこういったムードに対するカウンターのような1冊で、日本で住む意味や理由の切実さを含むリアルがあった。ただカウンターといっても物腰はとても柔らかい。著者は自身でイラストも手がけており、そのキュートさで和ませてくれるし文体もどことなく人懐っこさを感じる。ゆえにこれだけ多様な人に深いインタビューできるのだろうなと感じた。

 あとがきにインタビューした人の構成に関する種明かしがあって、マイナーな国、マイナーな職業、長い滞在期間といったパラメーターに着目していたそう。特に前者二つの着眼点があるからこそ本著がスペシャルなんだと思う。個人的に好きだったのはマイナーな国の人の話。聞いたことがない国の複雑な事情、歴史と当人の関係について書かれており、まるで大河ドラマを見ているかのような気分になる。一方で生活の話はとてもミクロな視点でそれも同じように興味深い。本著でも日本をどういう風に見ているかの話は当然含まれているが、そのベクトルは多様であり違和感はなかった。ちなみに笑ったのはこれ。

好きな日本語は「お疲れ様です」。疲れに「お」と「様」をつけるなんてすごい発想ですよ。つらいのにポジティブっていうか。絶対にほかの言語には訳せないことばです

オモシロい、楽しい話もたくさんある一方でシビアな話もある。特に政情が不安定な国のエピソードは厳しい話が多く日本が平和で安全な国だと言われる理由を垣間見た。難民認定の厳しい現状も具体的な内容を知ると、入管の意固地っぷりにげんなりする。少子化が進む中でその対策もろくにしていない中で鎖国政策を続ける意味とは?といつも思う。政治に対する不満が募ってくるけど、そんな日本で懸命に生きている人たちの生の声を知れる貴重な一冊だった。

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