2023年12月13日水曜日

2023年12月 第1週

Zip by Zion.T

 なんとZION.Tのアルバムが5年ぶりに出た!ここ数年は毎年のようにSMTMに参加していたことでリリースできていなかったと考えればSMTMが無くなって良かったかもと思える。(いや思えない)肝心の中身は大人のR&B仕様になっていて唯一無二の世界観を構築しているアルバムだった。(ジャケのセンスからしてキマりすぎ)後進を育てる意味でSTANDARD FRIENDSというレーベルを立ち上げWonstein, Slomをデビューさせたのがここ数年の出来事であり、その成果としてビートはSlom, Peejayを代表とするSTANDARD FRIENDSとしてのプロダクションになっている。生音(もしくは生音っぽい素材)を使ったマチュアなムード、これもまた韓国の音楽の懐の深さ。普段低音パツパツ系のヒップホップとかをよく聞いているから、これくらい引き算されているのは逆に新鮮。従来のネオソウル的なアプローチというよりもポップスにベクトルは向きつつベースはR&Bなのでちょうど好きなバランスだった。(あと時期的にクリスマスを狙ったと思わせる曲が多いのも特徴的)ピチカートファイヴっぽい”V(Peace)”という曲ではサビに日本語詞が!VLOGで日本語タイトルつけたりしてたから日本語に興味ある流れからなのか?しかもMVの監督はOKAMOTO'Sのオカモトレイジとギブン!ここまできたらマジで日本でライブして欲しい… 
 結局何が良いかといえばZion.Tの歌の素晴らしさに尽きる。トーンがとにかく好き。ささやくような声だけど力強い相反するバランスが奇跡的に成立している声だと毎度思う。この冬のヘビロアルバム。好きな曲はエレピの音が気持ち良すぎる”Dolphin”

Mcguffin by offthecuff

 Apple musicのプレイリストでジャケに引っかかって聞いたらとても好きだった。クレジットを見ると彼はビートメイカーのようでシンガーやラッパーを召喚してアルバムを作った模様。ほとんど情報がないものの、どのビートもめちゃくちゃクオリティーが高く、途中でKanye Westの”Runaway”のピアノの引用があることからも顕著でKanye Westのムードは感じる。つまりポップとドープの境界線を溶かしたかっこよさ。客演がQim Isle, UNI, GongGongGoo009, Khundi Pandaというスキルを重視した審美眼を感じるメンツなのもアツい。好きな曲はブギーな”Hands On”

REBORN by hyeminsong

 AP Alchemyの一部であるMineFieldから、これまたビートメイカーであるhyeminsongのアルバムがリリース。ハンパじゃないメンツが集まったアルバムとなっており、SMTMの不在を埋めるかのように結構聞いていた。ビートはかなりバラエティに富んでいて聞いていて飽きないし、一つ一つのクオリティめっちゃ高い。もう何回言っているか分からないけど、このレベルのビートメイカーがごろごろいるの本当えぐい。しかも女性というのも業界的には珍しい。ラッパーのチョイスが渋くていわゆるスピット系を中心に実力派が一堂に会している感さえある。好きな曲はHuhのフックが素晴らしいのとドリル的なベースがかっこいい”Reborn”

ISSUES DELUXE by CYBER RUI

 CYBER RUIがついに1stアルバムをリリース。小刻みにEPをリリース、その世界観を崩すことなく独自のカラーを突き詰めていく姿勢が本当にかっこいい。リリースまでの流れもオモシロい。まず同じタイトルのEPをリリース、そこからREMIX盤をリリース、そして最初のEPに曲を追加したデラックス盤としてアルバムをリリース。グローバルで見ても同じ流れを辿ったものはないと思う。アルバムはとてもかっこよく今までで一番好きな作品となった。デラックス盤って既存のものに3曲くらい「アウトテイクか?」みたいな曲を追加して構成されてることが多いけど、今回は1stアルバムなので追加された曲が軒並みかっこよい!というのがアガるポイント。特に終盤これまでドライで無機質なトラップビートが多くの割合を占めていた中で、”Yonige”はBPMが速いバウンシーチューン、W.I.Mは3拍子、最後の”Courage”は本格的な四つ打ち。すべてが新基軸であり、やれることがいくらでもあるのだなと感じさせられたし、彼女にとってまだまだ序章なんだなと思った。
 この手のアーティストの場合、雰囲気重視でリリック二の次というケースも多いけど、彼女はかなりリリカルな点も好きなポイント。英語の多用も「サイバーパンクな世界観をグローバルで魅せていく」というコンセプトにフィットしていて良い。若いのにこんなにブレずに世界観を構築できる、しかもインデペンデントで。Tohjiか彼女かくらいだと思うので今後の活躍が楽しみ。好きな曲は2バース目が超かっこいいしビートが気持ち良すぎる”Courage”

Mi Yama by Campanella

 CampanellaのEPがサプライズリリース。2020年に出た『Noodle』でも魅せていたのも記憶に新しいRAMZAとの黄金タッグ多めの構成で大満足だった。1曲目のタイトルソングからして今年の日本のヒップホップの曲の中で最長のイントロだろう、RAMZAのビートで開幕。最初にスピットするのはアンクレジットのJJJというヒネリっぷり。正攻法にはないオモシロさが1曲目から詰まりまくっているし、そのギミックさえどうでもよくなるラップのうまさ。「誰々っぽい」ではないオリジナリティが炸裂しまくりな音節を自由に行き来するフローが本当にかっこいい。心地よいときもあれば、ブチアガるときもある。まさかの苗字ソング”YAMAMOTO”ではACE COOLとの邂逅が果たされており、64BarsでのRAMZAとの共演から相性の良さを見せていたACE COOLはここでもかましている。もう一つのfeat曲のMFSもかっこよかったが、好きな曲は”DUDE” 韻、フロー、ビートのマリアージュが気持ち良すぎる〜

Soul Quake by Watson

 Watsonが1stアルバムをリリース。これまでの作品はMixtape的な位置付けなのか?このアルバムがリリースされるまでに異様な量の客演をこなし、どの曲でも主役を喰ってしまう勢いのパンチラインの雨あられを浴びてきたわけだが当然アルバムでもそれは健在。ダブルミーニングを使ったライムが「なるほど〜」という一種のアハ体験の連発だった。本人がSNSで言っていたように自身と同じく各地のフッドスターを召喚してアルバムを作っている点が、ヒップホップど真ん中を進んでいく意気込みを感じた。個人的に彼がすごいなと思うのはフック。まるでバースのような情報量のフックを平気でぶち込んできて、並のラッパーならToo much感があるんだけど、彼の独特のリリックのセンスで繰り返し聞いても全然飽きない。SEEDAが主張していたケン玉理論を歴史上最も忠実に実践しているラッパーがシーンのトップにいるのが時代の潮目が変わった気がする。
 全曲Koshyがビートを手がけていて、彼のビートの懐の深さにも驚いた。同じく全曲プロデュースしていたSANTAWORLDVIEWのときはあんまりピンとこなかったのだけど今回はバッチリ。特にサンプリング中心なのが特徴的だと感じた。ギターの音色が多く、ラテンノリのフレーズも多い。日本のヒップホップであまり見ないスタイルなので新鮮(Harry Fraudっぽい)。好きな曲は”Working Class Anthem”

Noodle by JUMADIBA

 今年出たMixtapeが大好きだったJUMADIBAの新しいEP。featでも参加しているRYON4によるフルプロデュース作品らしい。とにかく全ての曲の上ネタが心地よくてビートだけでも一生聴いていたいレベル。そこに乗ってくるJUMADIBAのスティッキーかつメロディアスなフロウ。「メロディアス」というのが個人的にはポイントでラップと歌の絶妙な合間の「メロディー」ではないフロウがとにかく心地よい。声質的にもゆるいムード含めてERAが2023年モードになったら?みたいなスタイルだと思う。この気持ち良さはグローバルに受け入れられる可能性が十分にあるラッパーだと思うのでフルアルバムを早く出してほしい。好きな曲は”paypay”

乱反射 by ペトロールズ

 ペトロールズがついにストリーミングで聞けるようになるということで聞いた。元々の曲を再度MIXしなおしているそうで結構アレンジもされていた。ストリーミングで海外含めたくさんの人がペトロールズの魅力に簡単にアクセスできるようになったことは素晴らしい。ただ既存ファンからすると馴染みの曲が別の形になっていることに直面させられる。しかも言語化が難しいかなり微妙なレベルなので、さらに何とも言えない気持ちになった。決して悪くなっているわけではないのだけど違和感が最後まで拭えず結局手元のライブラリにあるアルバムを聞き直したりしていた。新しいものへの耐性が無くなっているのかも。

Larger Than Life by Brent Faiyaz

Resavoir(second album) by Resavoir

La Villa by Stro Elliot

 Flip Side Planet の新譜回は毎度聞き逃していたものや新たな発見があり一年間大変お世話になった。今週もそんな3枚。Stro Elliot, Resavoirはちょうどいい塩梅のインストアルバムで家族でいるとき大変重宝した。Brent Faiyazは2000年代R&Bオマージュというご褒美アルバムでこちらは移動中に聞きまくった。

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