2023年12月30日土曜日

JUST PRISON NOW D.O 獄中記

JUST PRISON NOW ~D.O獄中記~/D.O

 ラッパーのD.O氏による獄中記。ラッパーの獄中記といえばB.I.G JOE氏の名著『監獄ラッパー』があるが、それと双璧をなす新たなクラシックが誕生したと思う。直近で日本の刑務所の改善に関する議論(根っからの悪人はいるのか)を読んでいたが、本著では日本の刑務所の現状を痛いほど知ることができて勉強になった。

 「日本の刑務所で刑を務める」この言葉の意味について、ドキュメンタリーや経験者のインタビューを見聞きして分かった気でいたけど、全く何も分かっていなかった。当然罪をおかした人間の更生を目的にしているから優しいわけはない。とはいえ21世紀とは思えないほどハードで理不尽な生活環境がヒシヒシと伝わってきた。(今の時代に冷暖房が皆無というのは信じられなかった。)著者はラッパーの中でもハードコアの部類に属するが、キャラクターとしてはバラエティで大ハネするくらいにキュート。ムショの中でもコメディリリーフとして立ち回っているんだろうなと想像できた。また日記の文体も読み手がいることを前提としたサービス精神旺盛な点が特徴的だった。(特に(汗)とか(怒)、顔文字の「^ ^」などがここまで大量に入った文章を読むのは久しぶりで新鮮。)本著はお務め中にブログとして公開されていたので、刑務所側のチェックも入っており下手なことは書けない中、日々の出来事を面白おかしく、ときにシリアスに書いている。またコロナ禍ど真ん中の話なのだが、もともと隔離されている場所だからか、外の世界ほどのドラスティックな変化がなかった点は記録として重要な資料にもなっている。(ただタオル地のマスクは本当に辛そうだった)

 家族や仲間の献身的なサポートが印象的で本当に愛されているのだなと思うし、逆にこういうサポートがなく刑務所にいるのは相当過酷だと感じた。そのくらい意味不明な決まり事が多くて学校、軍隊に近いものを感じた。本著ではアイロニーを込めて紹介しているケースが多いものの腹の中ではブチ切れているはず。そこを抑えこみつつ辛いエピソードもシノギにしてしまうD.O氏の胆力と作家としての筆力に改めてリスペクト。最近は例のBEEFの影響で「ストリート」に関する話題がSNS等でよく上がっている。そんな中でD.O氏が出所してすぐに家族に会えなかったエピソードをあとがきで読み刑務所と同じくらい過酷な「ストリート」の現実の一端に触れて怖くなった。そんなことを象徴するラインを2つ引用して締めたい。NORIKIYO氏も元気に帰ってきて欲しいってハナシ。

決して我々が事件やトラブルを起こしているわけではなく。事件やトラブルの方から我々に忍び寄ってくるのだということを。

我々のようなラッパーはこのトラブルとどう向き合い、どう乗り越えるかということも含めて自身の HIPHOPなのだということを決して忘れてはいけないってハナシ。

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