2016年10月25日火曜日

八本脚の蝶

八本脚の蝶

本屋大賞の中に発掘部門というものがあり、
そこで選ばれ、bookbangで紹介され、
その記事を見て読みました。
著者である二階堂奥歯さんは編集者で、
本作は2001年から2003年まで
web上で書かれていた日記をまとめたものです。
すでに彼女はこの世にいなくて、
2003年に自ら命を絶ってしまっています。
実はこの日記は未だweb上にあって、
読むことが可能です→リンク
最後の一言から始まる、その衝撃にやられて、
一体どういった過程で命を絶ってしまったのか、
少し下世話な気持ちがあったことは否定できません。
実際読んでみると彼女が亡くなったことへの
寂寥感に苛まれてしまいました …
こんなに頭脳明晰なのになんで ?という気持ち。
僕が最初に驚いたのは彼女の衝撃的な読書量。
児童文学、幻想文学、宗教関連の書籍が中心で、
これだけたくさんの本を読んでいた人にとって、
世界はどんな風に見えていたのか、
その断片的な論考も本作では多く語られています。
この論考の数々も本当にオモシロくて、
女性であること(フェミニズム)、
物語に対する姿勢、宗教を信仰することなど。
エログロに関する記述も多いことから、
「メンヘラ」いう言葉で
語りたくなる人もいるかもしれません。
しかし、そんな安い言葉で片付けられない、
圧倒的な筆の力が本作にはあります。
本を読むことは世界を拡張することだと
僕は信じてやまないんですが、
彼女の場合、宇宙のように広がり続けたその世界が、
どこかで逆向きに縮小していってしまったのかなーと。
とくに宗教に関して数多く言及しながら、
神様の存在を否定し続けながらも
宗教を信仰することへの希望も同時に語っているんですね。
僕自身は特定の宗教を信仰していませんが、
もしかして彼女を救えたのは信仰だったかもしれない
と思うと、それで命が救われるなら
十分に価値、意味があることだと初めて思いました。
終盤にかけて彼女が追い込まれていく様子は
文章からもヒシヒシと伝わってきて、
前半の元気な頃に語っていたコスメや香水のことを
楽しそうに書いていたときとのギャップがかなり辛かったです。
彼女の仕事相手や近しい人々のあとがきが
最後についているのですが、
それによって彼女の姿がより立体的になったので、
本を買って良かったなと思いました。
(蛇足だと思う人もいるでしょうが)
ブログに掲載されている冒頭の部分だけ見ると、
亡くなった人の死の直前の言葉という、
刺激の強さだけしか残らないけれど、
すべてを読めば彼女は今生きている僕達と
同様に精一杯生きていた。
自分の身の回りで起こらない保証はどこにもないんだなと。
中古本でしか手に入らないですが、
本好きに読まれつがれるべき日記文学。

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