2016年10月13日木曜日

淵に立つ



<あらすじ>
町で小さな金属加工工場を営みながら
平穏な暮らしを送っていた夫婦とその娘の前に、
夫の昔の知人である前科者の男が現われる。
奇妙な共同生活を送りはじめる彼らだったが、
やがて男は残酷な爪痕を残して姿を消す。
8年後、夫婦は皮肉な巡り合わせから男の消息をつかむ。
しかし、そのことによって夫婦が互いに
心の奥底に抱えてきた秘密があぶり出されていく。
映画.comより

深田監督最新作ということで見ました。

ほとりの朔子がとても好きな作品で、
その後のさようならはアンドロイドが登場し、
トリッキーながらも深田色がある作品でした。
本作はテーマが重めでしたが物語がオモシロいし、
それに呼応する役者陣の迫真の演技が抜群でした。
今年を代表する邦画の1本であることに
疑いの余地は無いと思います。
ネタバレしないで見た方が絶対いいので、
見ようと思っている人は、
そっとウインドウを閉じてください。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

オープニングが素晴らしくて、
少女がオルガンを弾いている姿の画に、
クレッジットが乗っていく作り。
何が粋かってタイトルがメトロノームのリズムに合わせて
明滅していくところ。スタイリッシュ。
さらにオルガンの音が地獄のメロディと化す過程を
見るにつれて、このオープニングが効いてくる作りでした。
前半は家族と突然現れる同居人の八坂の生活が描かれます。
八坂を演じるのは浅野忠信。
これぞillness!と言いたくなる存在感が素晴らしかったです。
ノーネクタイで白シャツのボタンを上までとめて、
ハイウエストな黒いズボンにシャツをインしている。
正装といっても過言ではないこの服装が、
禍々しさを強調する役目を果たしているのがオモシロかったです。
八坂は殺人の罪による服役を終えて、
主人公の古館寛治演じる夫の工場で働き始めるんですが、
その作業着も真っ白のツナギ。
illnessの発火を衣装で語っていく のが、
アートのようでとてもかっこ良く感じました。
あと自分の犯した罪を国産に告白するシーンが
彼の出演シーンで一番痺れましたね。
自分の罪を客観的に説明するのは、
サイコパス臭がプンプンするし、
この後、彼が品行方正な行動をいくら取っても、
どこかで疑念を抱かずにはいられなくなる。
僕にとっては浅野忠信のベストアクトでした。
映画で家族を描く際に大切なのは食事のシーン。
下手に口で説明するより関係性、立場が露骨に現れるからです。
本作でも食事は象徴的な扱いとなっています。
冒頭、父、母、娘で朝ご飯を食べるシーンは最たるもの。
母、娘はキリスト教の祈りを唱えてから
食事を始めるのに対して父は新聞を黙々と読んでいる。
家族の距離感が一発で掴める素晴らしい演出。
前半は引きのワンショットによるシンメトリーな画面が多く、
登場人物同士が向かい合っています。
その状態からここぞというときに
登場人物の顔を押さえる緩急の付け方が素晴らしかったです。
一番分かりやすい唯一手持ちカメラになる瞬間は
感情と画面が一致して、それまでのタメがある分、
ゾワッとしました。
僕が本作が好きな最大の理由は、
登場人物が罪と罰の狭間で必死にもがいているところです。
各登場人物は過去に罪をおかし、
それぞれが罰に対するスタンスが異なる。
あるものは罰を欲し、あるものは罰から逃げ、
あるものは罰に飲まれている。
それが親子関係の中で展開されるため、
より濃厚な仕上がりになっていると思います。
驚いたのは後半部へのブリッジ。
10本映画があれば10本とも
娘が死ぬであろう事態が起こるんですが、
本作では全身麻痺で命を取り留めるんですよね。
正論で言えば助かって良かったという話なんですが、
母にとっての十字架にしか見えなかった…
タイトルどおり淵に立った母娘の最後は見るに堪えない、
ハードさで言葉を失いました。
さらに幸せだった頃と同じ川の字の俯瞰ショットが、
もの悲しさを煽るんですなぁ…からのキレの良い幕切れ!
人は過去を背負い、それが辛いものだとしても、
生きねばならぬと思った映画でした。

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