2023年5月30日火曜日

ビ/大竹伸朗

 先日の東京国立美術館の展示も最高だった大竹伸朗のエッセイ。彼のアートはもちろんのこと、文章も好きなので過去の作品を少しずつ読み進めている。本作もその流れで読んだのだけど、いつも通り朴訥に芸術について考察しておりめちゃくちゃ興味深かった。あと読み終わったあとに気づく装丁のデザインにもグッときた。

 2008〜2013年のエッセイの連載をまとめた1冊となっている。一定期間、同じ場所に滞在してそこで制作するケースが多かったようで、有名な直島関連もこの時期の作品。どうやってあれだけ巨大な作品を作っているのか見るたびに疑問に思うけど、その一端を知ることができた。特にドイツでの制作における現地のスタッフとのやりとりは胸が熱くなる系の話で良かった。今回読んで改めて感じたのは思い出語りがとても上手いということ。過去と現在をシームレスになおかつ叙情的に語りながら過去に耽溺せずに未来へと向かっていく感じがとても好きだ。そして本著を読むと若いときに海外へ行って異文化に触れることはやっぱり大事だなと改めて思う。日本を相対的に見ることで良いところも悪いところも見えてくるし、何気ない風景の中でも実はプレシャスな瞬間やものがそこにあると気付けるようになるから。

 また時間に関する考察が多いのも特徴的で、この頃はちょうどSNSやYoutubeによる情報の加速度的増加が進み始めた頃であり著者なりの思うところが多分にあったのだろうなと直接的な言及がないにせよ伝わってきた。弩級のパンチライナーなので、あとは刺さったラインの引用。

人はその一生の時間を費やして、物事が思い通りになるように必死に努めるが、終わりに近づくにつれ本能的に「思い通りにならない」事柄に引き寄せられていくのかもしれない

「何かが起きない正しいアドヴァイス」は「無」に等しい。逆に間違っているが何かが起きた結果、出来上がってしまう絵というのもあり、なかなかやっかいだ。

心底興味深いものに行き着く唯一の道、それは大ハズレ覚悟でどれだけ億劫がらず前向きに「?地点」を淡々と追い求めるかにかかっている。

パリの磨り減った石畳が「芸術的骨董」なら、日本のローカル国道沿いのパチンコ屋はどうにも救いようのない「ガラクタ的ゴミ」でしかないのか?

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