2023年6月7日水曜日

イレズミと日本人

 

イレズミと日本人/山本芳美

 日本におけるイレズミの概論とかオモシロそうと思って読んだら、めっちゃ興味深かった。ヒップホップが好きなのでタトゥーに対して全くネガティブなイメージはなく、むしろ老人になったら入れようかなとさえ思っているのだが、イレズミを受容しない/できない日本人の雑な認識を丁寧に解きほぐしており勉強になった。

 歴史から始まり、日本人のイレズミ認識に大きく寄与している映画について一つの章を割きつつ全体像を紹介している。基本的な考え方としてイレズミは身体加工の一つにすぎないという指摘にハッとした。ピアスも化粧も脱毛も身体を加工している点では同じであるが、イレズミは社会的に許容されるレンジが狭いというだけ。日本でのイレズミの歴史として江戸時代には刑罰として入墨があったのは知らなかったし、アイヌや沖縄の先住民族の間ではイレズミがしきたりの一つとして存在し、それがときに差別対象にもなったことも知らなかった。こういった伝統としてのイレズミから戦後、任侠映画が爆発的人気を得たことでイレズミ=ヤクザものという認識になってしまい、それが更新されないまま現在を迎えていることが体系的に把握できて勉強になった。

 とにかく知らない話の連発で、日本の彫り物が昔から海外では人気があってヨーロッパなどの権力者たち(皇帝とかそういうレベル)がわざわざ日本まで渡航してイレズミを入れたとか。小泉純一郎の祖父が石屋で、イレズミのある背中を純一郎が流していたとか。今ではイレズミ=反社と脊髄反射で考える人も多いかもしれないが、そんな認識が形成されたのはたかだか30年程度の話というのは目から鱗だった。また入浴習慣の変化の影響も示唆しており銭湯→自宅での入浴により身体への感受性が変化し、身体が人によって様々であることを観念的に捉えるようになったことも原因ではないかと推察していた。

 イレズミ自体が持つ他人への圧力の大きさは認めつつも、そもそもイレズミを拒否する目的が何なのか、あらためて考えるフェーズに来ていると筆者は主張しており至極納得できた。そもそも他人が肌に柄を入れていることの何が問題なのかよく考えてみると分からない。選択的夫婦別姓と同じで他人の意思決定を阻害するような法律や考えはなるべく少ない方が皆幸せになる気がするのでヒップホップが価値観を転覆してほしい。

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