2017年3月12日日曜日

哭声/コクソン



<あらすじ>
平和なある村にやってきた、得体の知れないよそ者の男。
男が何の目的でこの村に来たのかは誰も知らない。
村じゅうに男に関する噂が広がる中、
村人が自身の家族を虐殺する事件が多発する。
殺人を犯した村人に共通していたのが、
湿疹でただれた肌に、濁った眼をして、
言葉を発することもできない状態で現場にいることだった。
この事件を担当する村の警官ジョングは、
自分の娘に殺人犯たちと同じ湿疹があることに気付く。
娘を救うためにジョングがよそ者を追い詰めるが、
ョングの行動により村は混乱の渦が巻き起こってしまう。
映画.comより)

チェイサー哀しき獣のナ・ホンジン監督最新作。
とにかく國村隼が怖いというのは
Webで読んでいたんですが、
それはあくまで本作のピースの1つでしかなく、
とんでもない映画を見た感触が
見終わってからずっと拭えませんでした。
素晴らしい作品を見ると「傑作!」と
すぐに言いたくなりますが、
本作はディケイド単位の傑作!

※ここからは完全にネタバレして書きます。

新約聖書の意味深な引用、
雄大な自然のロングショットと釣りに勤しむ國村隼。
なんだか嫌な予感がするんですが、
それは杞憂だと言わんばかりに
主人公ジョングと家族の日常から本格的に映画が始まります。
本作では笑わせる部分がとても多くて、
前半はとくにギャグが冴えまくりで楽しい。
ジョングの愉快な太っちょとしての立ち振る舞いが
警察官で巡査部長なのに臆病で、
いちいち笑わせてくれました。
(派出所での停電シーンのベタなおびえ方!)
カットをパッと切り替える見せ方が冴えていて、
冒頭の「朝飯食うんかい!」と
「めっちゃ石投げるやん!」は声だして笑ってしまいました。
楽しい場面もあるんだけど、
起こっている事態はあまりに謎で奇怪。
このギャップがたまらなくオモシロいんですよねー
最初の事件現場で手錠されている
犯人の姿からしてもう。。。って感じで。
犯人の血液からキノコの幻覚成分が検出されたことで、
事件は解決したかの様に見えたものの、
陰惨な殺人事件が田舎街で立て続けに起こっていく。
そして、その犯人が山間に住む謎の日本人では?
という流れになりジョングと國村隼が初めて邂逅。
ここに至るまでに何回もインサートされた、
國村隼がふんどし一丁で山中を走り回り、
動物の生肉にかぶりついている姿が
脳にこびりついて離れない。
そこに彼の家の中のおぞましさが加わって、
恐怖がどんどん増長してく。
はっきり言って、本作で展開される事態は
友人から聞かされたら、「そんなバカな」で
片付けられるぐらい荒唐無稽な話なんですよね。
にも関わらず、これだけ没入させてくれるのは
嫌な予感の積み重ねが本当に丁寧で、
その積み重ねの1つ1つがストーリーに
帰結していくからだと思うんですよね。
ジョングの娘が変化していく様がその最たる例。
國村隼の家で靴が見つかってから、
時間をかけて彼女にふりかかる呪いの怖さが膨らんでいく。
ここで子どもを選ぶナ・ホンジンの容赦なさに震えるし、
それにあまりある応えっぷりを見せる子役も凄まじい。
本作をまとめる言葉として、
「オカルトサスペンス」という言葉が
一部で使われているのを目にしましたが、
そんな甘っちょろい世界観ではないことは
見た人には分かってもらえると思います。
もっと広い範囲にリーチしていると思っていて、
普遍的な目に見えない不可抗力が
映画に浮かび上がっていました。
その点における最大の見せ場が、
中盤で登場する祈祷師と國村隼の戦い。
ハリーポッターばりの世界観なんだけど、
あまりに異様過ぎて言葉を失う。
祈りの演出、音楽すべてが圧倒的な力を示す中、
娘の言う通り祈祷をやめるべきなのか、
それとも呪いを解くために堪えるべきなのか?
究極の選択を迫られる主人公の辛さ。
前半にあんだけヘラヘラしてたジョングが
ドンドン追い込まれていく姿は見ていて辛いけど、
グイグイ映画に引き込まれました。
終盤、ジョング、國村隼、石なげの女の子、祈祷師の
四つ巴となってからは何が真実なのか分からなくなる。
ルックの面で言えば、四つ巴のキッカケとなる山間での
チェイスシーンが超カッコ良かったし、
祈祷師の盛大なゲロは僕が今まで見た映画の中で、
最多量だったので目ん玉ひんむきました。
さらにキリスト教にフォーカスがあたり、
もう十分お腹いっぱいなのに、
宗教の要素が入ってきてさらに考えさせられる。
キリスト教は救済の宗教だけど、
目の前の事態に対しては、「沈黙」していることは、
スコセッシが描いたことが記憶に新しいですが、
ナ・ホンジンもキリスト教の無力さを描いていました。
(2人ともペトロの否認を引用している点でも共通)
誰が本当のことを言っているか分からない、
極限状態のところは胸が張り裂けそうになるし、
これまでのナ・ホンジン監督の作品を見ていれば、
考えうる限り最悪の事態が起こることは
ある程度想像つくがゆえにまた辛い訳です。
哀しき獣でも終盤ストーリーをかき混ぜていましたが、
本作でも一体誰が何だったのか、
という核心の部分を濁すあたりにシビレてしまいました。
最近、韓国映画から遠ざかっていたので、
DVD借りて色々ディグしていきたい!

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