2017年3月18日土曜日

ヤバい社会学  一日だけのギャングリーダー

ヤバい社会学

メインタイトルはいただけないけれど、
副題に惹かれて読んでみました。
(原題は副題の英語です。)
筆者は社会学者でギャングがはびこるプロジェクトに
入り浸る中で、とあるギャングのリーダーと懇意になり、
その様子をルポした1冊になります。
社会学の用語でエスノグラフィーと呼ばれる
定性調査の1つなんですが、
僕はこのタイプの本がとても好きです。
日本でいうと岸政彦さんの街の人生という本は
分かりやすいエスノグラフィーの1つです。
舞台はシカゴ。シカゴと聞いてイメージするものは
人それぞれ異なるかと思いますが、
USのヒップホップ好きからするとNY、LAと並ぶ聖地。
Common、Kanye West、Lupe Fiascoを
僕は高校、大学の頃から愛聴しています。
近年は治安のさらなる悪化に伴い、
ドリルと呼ばれる、よりハードなサウンドが生まれており、
Chief Keef、Lil Herbなどが台頭している状況。
(個人的にはSasha go hardが好きです。)
そして、そのカウンターというと語弊があるかもしれませんが、
シカゴのヒップホップが持つメロウな部分を
今もっとも体現しているのはChance The Rapperで
今年のグラミー賞を受賞したことは記憶に新しい。
彼のシカゴラブな記事やラブゆえに憂うインタビューは
Webでじゃんじゃん出ているので興味ある人は
そちらも読んでみるといいかもしれません。
なお、シカゴとヒップホップの関係については、
リンク先のサイトがChief Keefを中心に
まとまっているの参考まで→リンク
前置きが長くなりましたが、
そんなシカゴのギャングたちの実態が
刻明に記録されている本作がオモシロくない訳がない!
はじめは明らかな外様なんだけど、
ギャングリーダーと共に行動し、
コミュニティにどんどん溶け込んでいくところが
興味深くもある一方で緊張感も当然あり、
このバランスが絶妙だと思います。
ノンフィクションだけど、文体を含め、
まるで映画を見ているような気持ちになる。
クラックの売買が中心なんだけど、
その他にも様々なケツ持ちを行うことで、
ギャングはシノギを成立させていることがよく分かりました。
そして、ギャングを中心にそのコミュニティ独自のルール、
もはやそれが法律よりも上位にあるということは
何となく分かっていたんですが、
実態として読むと驚くことが多かったです。
その街を浄化してしまえば悪の根源は断たれる
というのはミクロで見れば、
その通りかもしれないけど、
マクロで見た場合には根本的に解決されていない。
このことがプロジェクトの住人を中心として、
立体的に浮かび上がってくる。
著者も語っていますが、机上の空論では
何も解決しないことが突きつけられていると思います。
また、翻訳もオモシロくて登場人物たちが話す、
スラングというべきか、柄の悪い言葉を
日本語でしっかりと再現してくれてるのがアツい。
終盤のギャングリーダーと著者の別れのシーンは
ボロボロと泣いてしまいました…
この本で描かれていることは90年代ですが、
現在のシカゴ=シラクのルポも読んでみたいです。

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