2023年2月18日土曜日

ラーメンカレー

ラーメンカレー/滝口悠生

 新刊が出れば必ず読む滝口さんの最新作。海外旅行記系小説でオモシロかった。2023年の今はだいぶ戻りつつあるが、海外旅行に気軽に行けて世界の距離が近かった時代の話として貴重なように思える。異文化交流の中で生じる喜びや悲しみが惜しげもなく表現されていて、自分の過去の経験を思い出したりもした。加えて最近はオンライン英会話で海外の方と月内に何回か話す中で自分の気持ちや意見が伝わらないときの切なさや悲しみ、一方できちんと通じて盛り上がったときの喜びを経験する日々を過ごしている。こういった感情の機微が逐一言語化されている感覚があった。

 大きく分けて前後半あり、前半では夫婦での海外旅行の話。夫婦それぞれの視点があり旅行中にピリッとする感じが絶妙に表現されていて身に覚えがあった。あとはまさか滝口さんの小説でウィードの話が出てくるとは思わず、そこでテンション上がったし赤ちゃんの描写は植本さんとの共著『ひとりになること 花をおくるよ』に通じる部分があった。海外旅行での疲労感とかどうしようもなさを小説を通じて実感、その苦労も含めて旅に出たいなと思わされた。

 そして後半は窓目君という人物の一大恋愛物語となっていて、いったい何を読んでいるか分からない良い意味で謎のメロドラマだった。この人物は『長い一日』で登場した人物であり、そこから地続きの物語のように読める。今回は特にこの窓目なる人物のすべてにおいてToo much、けど憎めない人物像が全面に展開されており読んでいて楽しかった。元は手記があってそれを滝口さんが語り直したらしく、手記ではないからこその蛇行があり、それがまさに滝口さんの小説らしさが存分に出ていてオモシロかった。また調理過程がここまで細かく書かれている小説を読んだことがなく、読んでいるとカレーをスパイスから作りたくなった。最近ビリヤニを作ったりしているのだがミックスされたスパイスを買ってそれを混ぜてるだけなので水野氏の書籍など読んでベースから勉強したい。文學界も買って読んだのだけど合わせて読むと本著の理解が深まってオモシロかったので両方読むのがなおよし。

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