2016年11月27日日曜日

この世界の片隅に



<あらすじ>
昭和19年、故郷の広島市江波から20キロ離れた呉に
18歳で嫁いできた女性すずは、
戦争によって様々なものが欠乏する中で、
家族の毎日の食卓を作るために工夫を凝らしていた。
しかし戦争が進むにつれ、日本海軍の拠点である呉は
空襲の標的となり、すずの身近なものも次々と失われていく。
映画.comより)

最近はめっきり劇場に行けてなく、
いろいろ見たい作品が溜まっている状況なんですが、
何としてもこれは!ということで見てきました。
方々で絶賛の嵐が吹き荒れているので、
もはや僕がどうこういう話じゃないですが、
本当に素晴らしい映画を見たなという感動がありました。
日常と非日常の狭間で翻弄される人生。
当たり前のように享受しているものが、
ある日突然無くなってしまうこともあるけれど、
それでも生きていかねばならないのである。
という至極真っ当な話を2016年の今見ることが
とても必要な気がしました。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

冒頭、なんの前触れもなく唐突に始まる物語。
主人公すずの幼少期から描かれるわけですが、
最初にすず役である能年玲奈 a.k.a のん の声を
聞いた瞬間に完全におじさんな私は涙腺ゆるゆる状態。
もともとあまちゃんにハマり、
ロケ地の岩手県久慈に行くほど彼女の佇まいに
ヤラれちゃってたことを改めて思い出しました。
すずさんはボンヤリ天然系なキャラで、
それが能年玲奈自身のキャラと合うというか、
声のイイ意味でのユルさが良かったなーと。
予告編の段階ではいわゆる日常系な印象で、
前半はその印象の通りただ生活している姿を
淡々と描いていました。
劇的なことは何も起こらないけれど、
人が生活する様がこれだけ豊かなことなのかと
画で納得させられる力はスクリーンで見てこそ
伝わるものがあります。
水彩画のような柔らかいタッチの情景の中を
アニメーションが動いていく快感がたまらない。
ジブリのかぐや姫を見たときと同じ感動があって、
画が物語を成立させるための材料ではなく、
物語に積極的に寄与している。
それはすずの好きなことが画を描くことだからだと思います。
アニメーションの原点と言わんばかりに、
出先でのエピソードを画と共に語ったりするし、
幼なじみの代わりに画を描くシーンも、
画の中の画というメタな作りも新鮮でオモシロかったです。
僕が本作が凄いな!と思ったのは物語のテンポ。
描いていることは何気ない生活の断片の繋ぎ合わせであり、
シーンの1つ1つは落ち着いた時の流れなんだけど、
シーンからシーンへの時間の飛び方がとても大胆。
前半はかなりの情報量があって少し追いつかないくらい。
人が自分の中で過去を回想するときのタイムライン感。
人生の流れはこのぐらいの早さで過ぎ去っていくよなーと。
後半は戦争の空気がだんだんと忍び込んできます。
物語が始まってから昭和の年号で時間が
カウントダウンされていて
僕達はすでにいつ頃に何が起こるのか?ということを
ある程度知っていても、
前半の牧歌的な生活空間が失われていく様は辛かった、、
しかし、その一方で本作が特別であるのは、
悲惨だと思われたあの時代にも
笑う瞬間はあったということを描いている点かと思います。
物語全体を通してかなりギャグをトバしているシーンが多く、
すずが旦那とキスしたあとのお姉さんが
部屋の隅っこでいじけるシーンが好きでした。
すず一家が住んでいるのは広島の呉の山の方なので、
直接ヒドい空襲に襲われはしないものの、
命があるか/ないかは紙一重であるという様子が
随所に見られて不安な気持ちになります。
その不安が高まって結果的に最悪の事態が発生するんですが、
ここの表現のラディカルさに衝撃…
客観ではなく究極の主観というか、すずが覚えている記憶を
そのまま映像化したようなシーンでした。
右手を失ってしまうし、姉の子どもを亡くしてしまう、
というダブルパンチの悲劇。
印象的だったのは「良かった」という言葉。
一体誰にとって何が「良かった」のか?
慰めの言葉なんだろうけど当事者にとって、
実は一番残酷な言葉になってしまうことに気付かされました。
終盤の記号的な空襲とすずの顔の対比がとても印象的で、
考えることは何も無く只ひたすら逃げることしかできない。
そんな中で広島へと落とされる原爆。
映画内で正面切って原爆のキノコ雲を見たのは初めての経験でした。
あと玉音放送を聞いたあとのすずのリアクションが新鮮で、
従来であれば戦争終わって良かったね…
ものが多いと思うんですが、すずの場合は怒りの感情が発露する。
最後の1人まで戦うじゃなかったのか?
中途半端な気持ちで戦争してんじゃねーよ!と。
そこにはかろうじて自分で納得させていた、
失った右手への思いが爆発していました。
ラストの孤児のくだりから、家の鳥瞰のカットまでは、
完全に涙腺が決壊してしまった。
(とくにお姉さんが亡くなった娘の服を見繕うところ)
永遠のゼロを賛美するヒマあったらコレ見ろよ!
と大きな声で言いたくなる戦争映画。

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