2017年8月29日火曜日

内面からの報告書

内面からの報告書

最近は図書館へ行くようになったのですが、
そこで助かるのは普段読まないような本を読めること。
とくに海外文学は高単価なので、
なかなか冒険できず読めないものにも手が出せる、
こんなに嬉しいことはありません。
(所有欲を捨てきれない自分もいますが…)
めんどくさい前置きはさておき、
人生で初めてのポール・オースター作品。
POPEYEの本・映画特集のムックで
彼の作品をよく見かけたので
これを機に読んでみよう!ということで読みました。
タイトルが示すとおり、
小説というよりも自伝的考察のような内容で、
1冊目間違えたかな…という気がしつつも、
どういう人なのかがよく分かる話でオモシロかったです。
主語が「君は」になっていて、
幼いころのポールに筆者が語りかける文体であり、
単純な自伝とは異なります。
時代は限定されていて主に6歳〜20歳ごろまで。
過去を振り返りながら、
自意識の形成過程を彼の思い出とともに
見守っているような印象を持ちました。
安定の柴田元幸翻訳ということもあり、
とても読みやすいんだけど、
よくこんなに幼少期のこと覚えてるな〜
と思いました。創造された部分があるにせよ。
その当時は気付いていないけど、
子どもの頃に様々な決定的瞬間を迎えていて、
それをこれだけ緻密にそして鮮やかに語れるのは
エッセイストではなく小説家だからでしょう。
彼もまた日記について言及していて、
どこまでもこぼれ落ちていく時間への
危機感とでもいいましょうか。
忘れていくことへの恐怖と後悔は
滝口さんの新作と共通している点でした。
あと、日記を書けなかった理由として、
誰に向けて語ればいいか分からなかったというのは
とてもよく分かるなーと。
(僕も三日坊主で書くことを止めてしまっています…)
「脳天に二発」という話では
彼が衝撃を受けた映画について、
初めから最後までネタバレ全開で語っています。
この語りがめちゃくちゃオモシロい!
ネタバレ厳禁思想が跋扈する世の中ですが、
それを知らされた上でも見たいと思えるものもあると
個人的には思っていて本作はまさにそれ。
これもまた小説家ならではの語り口だと思いました。
(とくに流れるようなストーリーの解説)
日記をつけていなかった彼でも
唯一残っていた過去の断片が
大学時代に付き合っていた前妻への手紙。
遠距離恋愛の期間が長かったために、
大学生活を手紙で彼女に報告していて、
その手紙を引用しながら当時を回想しています。
孤独で疲弊しながらも、ひたすら書いていることが
伝わってくる内容だし、ほぼ日記なのでオモシロかったです。
冬の日誌という作品も同様の自伝的考察のようなので、
そちらを次は読もうかと思いつつも、
純粋な小説も読んでみたいなと悩ましい気持ち。

0 件のコメント: