2017年4月12日水曜日

ムーンライト



<あらすじ>
マイアミの貧困地域で暮らす内気な少年シャロンは、
学校では「リトル(チビ)」と呼ばれていじめられ、
家庭では麻薬常習者の母親ポーラから育児放棄されていた。
そんなシャロンに優しく接してくれるのは、
近所に住む麻薬ディーラーのフアン夫妻と、
唯一の男友達であるケヴィンだけ。
やがてシャロンは、ケヴィンに対して友情以上の思いを
抱くようになるが、自分が暮らすコミュニティでは
この感情が決して受け入れてもらえないことに気づき、
誰にも思いを打ち明けられずにいた。
そんな中、ある事件が起こり…
映画.comより)

アカデミー授賞式で取り違いという
ハプニングが起こったことでも注目された作品ですが、
恐ろしくカッコ良い予告編を見たときから
心を鷲掴みにされていたので楽しみにしていました。
テーマとして新しいわけではないけれど、
演出、登場人物、時代性の組み合わせから
産み出される叙情性に胸を打たれました…
語るのも野暮な静謐な愛の話。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

語るのも野暮と言った直後ですが、語らせてください。
本作はこの曲からスタートする時点で、もう…!となる。


これはKendrick Lamarの名盤To Pimp A Butterfly収録の
Wesley's Theory のイントロで使われていた曲。
薄ーくラジオからかかりながら物語が始まります。
シンプルだけど、この曲のサビの部分がすべてを物語っている。

Every nigga is a star, ay
Who will deny that you and I and every nigga is a star?

少年期、青年期、壮年期の3部構成になっていて、
どういう過程で彼が愛に目覚めていくのかを
丁寧に掬い取るように描いていきます。
最初に登場するのは主人公のメンターとなる売人フアンで、
彼とシャロンの邂逅がメインとなっていました。
シャロンはシングルマザーの元に育ち、
内向的な性格ゆえに家にも学校にも居場所がない。
知らない大人に勝手について行き過ぎ!
と初めは思ったんですが、
そうせざるを得ないくらいの孤独の深さが
段々と明らかになっていくところが辛い…
主義主張だらけの世界で
多くを語らない、語れない人は淘汰されてしまい、
声なき声がかき消されていく様が見える。
売人とその彼女はシャロンの心を開こうとするんだけど、
他人を信用できない彼は心を開かない。
2人がそれぞれアメと鞭の役割をこなすところが好きで、
とくにフアンの彼女テレサを演じたジャネル・モネイが良かったです。
シャロンのことを考えて甘やかさない態度を見せる。
すでにシンガーとして有名な彼女ですが、
演技も素晴らしいなーと感じました。
本作のタイトルであるムーンライトの逸話が
語られる海辺のシーンも本当に美しくて…
ただ世界の美しさと対照的に綺麗事で済まされない、
ドラッグを介したフアンとシャロンの母の関係を
配置している点に監督の真摯な姿勢を見ました。
叙情性のすぐ側にある目を覆いたくなる
現実とセットで描くことにより、
両論併記にもなるし、美しさが更に際立つ。
つまり99%クソな世界でも1%の輝きがあるということでしょう。
2部の青年期は最も分量が多く、
物語のキーとなるシークエンスとなっています。
立派な青年となったシャロンですが、
内向的なことに変わりなく、
学校ではレゲエ野郎にファゴット扱いされてイジめられ、
家ではヤク中の母親から金をせびられる。
少年の頃よりも居場所はさらに無くなってしまいます。
ここで登場するのが唯一の友人であるケヴィン。
シャロンはケヴィンに友情以上の感情を抱いていて、
その感情が静かにそして激しく爆発する
海のシーンは本作屈指の場面でしょう。
(キスに至るまでの間の絶妙さよ!)
ヒップホップではホモフォビアが
従来から蔓延していることもあり、
アフリカ系アメリカンかつゲイという
ダブルマイノリティーな存在は
アメリカ社会で生きて行くのが大変だろうなと思います。
それは本作を見た誰もが忘れられない、
ケヴィンからのグーパンチと受けるシャロンの目。
「分かっているけど止められない」という意味で、
すべてが象徴されていると思います。
そして最後の第3部はシャロンもフアンと同様に、
売人として成り上がったところを描きます。
Goodie Mobbの曲から始まり、
見た目はステレオタイプなアフリカ系アメリカンの悪い人、
といった感じなんですが、
孤独の密度がさらに高まっている印象を受けました。
すべてを悟ってしまって割り切って生きているというか…
僕はこういった印象を受けましたが、
人物背景が事細かく説明されないので、
見る側に想像できる余地が多く残されているのも本作の特徴。
一方で説明を端折り過ぎてるために人物の行動が
突然すぎる!動機が見えない!と思う人もいるだろうなーと。
好みの問題かもしれないけれど、
立場の異なる人の気持ちを考えよう、
という教科書のような題材とも言えると思います。
終盤のじわじわ縮まってく2人の距離感は
胸がミゾミゾしました©満島ひかり
あと作品内では曲はかかりませんが、
Frank Oceanの曲を映画化すると
このようなタッチの作品になるのかなと思います。
彼のセクシャリティの話もありますが、
それよりも何よりも叙情性(Lylical)と思える映画体験でした。

0 件のコメント: