2023年11月7日火曜日

言語の七番目の機能

言語の七番目の機能/ローラン・ビネ

 『HHhH』がめちゃくちゃおもしろかったこともあり、同作者の続編はずっと気になっていた。明らかに難しそうなタイトルを見て距離を置いていたがついに読んだ。予感は正しく相当難解な部分もありつつ思った以上にエンタメにで驚いたし読みやすかった。改めて著者の筆力に感服した。とはいえ450ページ強で結構重たかったのは事実…

 言語には六つの機能があることがヤコブセンにより提唱されているが、実は七つ目があり、その能力を使って世界をコントロールできるかもしれない。こういったマクガフィンが設定されており厨二病感も否めない中、哲学、言語学のエッセンスが大量に含まれているので読み進めるのが結構大変だった。特にこれらの学問に明るいわけでもないので、登場人物の背景を知らないことも多く戸惑った。ただ著者の特徴としては小難しさをエンタメで乗り越えさせてくれるところにある。サスペンスとして十分にオモシロく、特にメインの登場人物であるシモンとバイヤールのバディはいつまでも見ていたい、いい感じの凸凹具合で楽しかった。訳者あとがきで言及されていたが、2人のモデルはシャーロック・ホームズとジャック・バウアーらしい。怒涛の展開と場所の移動っぷりは確かにドラマ『24』そのものだし、学者的なアプローチで謎に迫っていくのはホームズそのもの。新旧二代サスペンスヒーローを使って描くのは哲学や言語学。。。無茶苦茶すぎ!さらに厨二病的な展開として『ファイト・クラブ』のディベートバージョンも用意されており後半は大きな鍵となってくる。さながらラップのフリースタイルバトル。設定は分かりやすいけども、そのディベートで議論されている内容は難しくて分かったような、分からないようなものもあった。ただ繰り返しになるが、スリリングな展開を生むのがうまいので読む手が止まらないようにはなっていた。

 『HHhH』で見せた得意のメタ展開も健在しており、著者も登場するし、今回は主人公によるメタ構造の指摘もあって愉快だった。(『マトリックス』よろしく自分が現実にいるのかどうか?=小説の登場人物なのでは?という問い)また実在する or 実在した学者がたくさん登場するし、実際の事件をモチーフにしてサスペンスが展開していくのも前作同様。事件や出来事はそれぞれ点でしかないが、それを小説という線で繋いでいく手法は興味深かった。『HHhH』はナチスものなので理解できたけど、今回は実在した(実在する)学者たちをフィクションとしてエゲつない方法で死なせたり、傷つけたりしていて、さすが表現の自由が進んでいるフランスだなと感じた。

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