2023年11月11日土曜日

戒厳令下の新宿:菊地成孔のコロナ日記 2020.6-2023.1

戒厳令下の新宿:菊地成孔のコロナ日記 2020.6-2023.1/菊地成孔

 ディスクユニオンで見かけて、今読んでおきたいなと思って即購入した。有料で日記連載をWebで読めるのは知っていたが、さすがに月額課金はしんどいと思っていたので、こういうまとめ本を発行してもらえるのは嬉しい。そして久しぶりに彼の文を読むと文体と見立ての唯一無二っぷりに安堵に近い気持ちを抱くのであった…

 タイトルはものものしいが、コロナの病気に関する描写は実際に著者が罹患した2022年の話に限定されていて、基本的にはコロナ禍という現象が社会にもたらした影響に関する考察となっている。今やSNSで何かを発信していないと死んだ人扱いされそうな時代だけども、それに抗い、悪態をつきつつ自分の仕事を全うしている日常が描かれておりオモシロかった。(SNS絡みでいえば町山氏とのビーフはスカッシュしたらしく、それには驚いた。)また今回は思い出話が結構含まれていたのが印象的。特にジャズメンたちとの交友録はその破天荒っぷりが昭和を感じるムードでよかった。

 コロナに限らず歯や足を痛めたりして満身創痍で音楽ビジネスをサバイブする様子はトーフビーツの難聴日記と近いものがありコロナ禍における音楽家たちの苦労を窺い知れるし、それに対する喜怒哀楽がふんだんに詰まっていた。脱・粋な夜電波的な話もあったけど、新譜、旧譜問わず彼の選曲の最高さは否定のしようがない最高のコンテンツなので誰か番組頼むよ本当に。

 基本ニヒリスティックな考え方、斜めからものを見ている人で、その見立てのオモシロさはありつつ、本作ではコロナ罹患時のレポートを含めて人間味を感じる場面が多かった。それはエッセイというかしこまった形式ではなく、ウェブ上でファンの方々と近況を共有する日記という形式だったからこそなのかもしれない。一番最高だったラインというかパラグラフを引用して終わりにします。

自分であれ他人であれ、首を絞めれば、当然苦しくなる。自分で自分の首を絞めて、苦しい苦しいと言って嘆いたり、他者を攻撃するおびただしい数の人々を、あなたは笑うだろうか?哀れむだろうか?怒るだろうか?救助しようとするだろうか?絶滅するが良いと呪詛するだろうか?勝手にやってろと突き放すだろうか?傍観者効果を使って見なかった事にするだろうか?頭で考えれば考えるほど正解はない。ささやかな楽しみを見つけて実行する事に、思考は必要ない。それほど現代の「思考」は自己拘束の道具に成り下がっている。まずはきっと、何も考えずに行動することの抵抗値を減らすために、路上に出るしかない。路上はあなたに、緊張と恐怖を与えるかも知れない。そして実はそこにしか、思考転倒への脱出路はないのである。

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