2017年2月16日木曜日

その日東京駅五時二十五分

その日東京駅五時二十五分発 (新潮文庫)


映画監督の西川美和さんの小説。
永い言い訳が小説映画も素晴らしかったので、
過去の小説を読み進めています。
本作は映画化されていない作品で戦争のお話。
第二次大戦が終戦して70年近く経っている今、
戦争についてどういう切り口で書くのか、
というのは難しいところです。
一方で戦争体験者から直接話を聞くことが
難しくなってくるこれからは、
本の役割がますます大きくなってきます。
本作はあとがきによると伯父さんの体験記に
肉付けしている小説のことなんですが、
西川監督らしい視座だなーと思いました。
当然、戦争自体は辛いことなんですが、
それだけじゃないという物語を丁寧に紡いでいます。
つまり、生身の戦争が差し迫ることなく、
終戦を迎えた人もいたでしょうということ。
大多数に埋もれてしまう、
個々人のストーリーが僕は好きなのでオモシロかったです。
戦後の今読むと、戦争に関わることなく、
無事に生き残れて良かったねという見方ができますが、
その時代を生きる中で、
戦争に参加している当事者性が無いことに虚無感を感じる、
という見方は新鮮に感じました。
すでに戦争が終戦したことを知っている主人公たちが
電車で日本を横断するロードムービーのような設定が良くて、
電車の外で繰り広げられる光景と
自分たちの知っていることのギャプが印象的に対比されてました。
(主人公たちの別れのシーンは分かっちゃいるけど涙…)
そして終着駅は主人公の地元である広島。
何をか言わんやって話ですが、
決して下を向くわけでは無いラストも好きでした。
西川さん自身のあとがき、高橋源一郎さんの解説も抜群。
興味ある人はあとがき/解説→本編でも良いかもしれません。

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