2017年2月28日火曜日

ラ・ラ・ランド



<あらすじ>
オーディションに落ちて意気消沈していた女優志望のミアは、
ピアノの音色に誘われて入ったジャズバーで、
ピアニストのセバスチャンと最悪な出会いをする。
そして後日、ミアは、あるパーティ会場のプールサイドで
不機嫌そうに80年代ポップスを演奏するセバスチャンと再会。
初めての会話でぶつかりあう2人だったが、
互いの才能と夢に惹かれ合ううちに恋に落ちていく。
(映画.comより)

セッションのデミアン・チャゼル監督の作品で、
前評判の高さは近年稀に見る感じだったので、
期待半分、不安半分で見てきましたが、
圧倒的映画体験でした!
(ハプニングがあり作品賞を逃しながらも、
アカデミー賞6部門受賞という堂々たる結果)
視覚、聴覚を刺激する膨大な情報量で、
観客が多幸感に浸ることのできる素晴らしい作品。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

正直、始まって30分くらいが一番好きでした。
ミュージカルが得意ではないので、
いきなり歌から始まって世界観にノレるかなー
と思ったのも束の間、
その疑問を一瞬にして吹き飛ばす
高速道路でのミュージカルシーンでスタート。
音楽、ダンス、衣装、スクリーンに映し出される世界は、
いわゆるザ・ミュージカル!なんだけど、
いきなり前置きなく始まるのでMV見てるみたいな感覚。
なによりも、撮影の凄さにただただシビれる…
あれだけの広いエリアを縦横無尽に動き回りながら、
カットを割らずに撮ろうとする発想、
そして撮り切ることができたという奇跡。
このシーンを見るだけでも映画館に行く価値があるでしょう。
主人公を演じるのはライアン・ゴズリングとエマ・ストーン。
この2人の共演で恋愛ものといえば、
ラブ・アゲインという屈指の傑作がありますので、
このキャスティングの時点で嫌いになる訳がない。
(ラブアゲインは「彼女と一緒に見るべきDVD」のベストとして
友人と以前に認定しましたので未見の方は是非。)
エマ・ストーンが家に帰って来たところから、
パーティーまでのくだりも再びミュージカル。
僕はここで完全にメロメロになってしまいました…
映画は総合芸術であるとよく言われますし、
あくまでストーリーありきで、
そこがオモシロくないと…っていう人いると思うんですけど、
そんな人にこそ本作最初の30分を見て欲しい。
なぜ映画館で映画を見るのか?
という問いへの回答になっていると僕は思うので。
2人はハリウッドでそれぞれ俳優、ミュージシャンとして
何とか一旗上げたいと思う夢追い人。
そんな2人は同じ街で何度も会うにしたがって、
仲を深めていく過程が前半で描かれます。
恋人ではないけどお互い惹かれ合っていることを示す、
今世紀最強の甘酸ミュージカルシーンがまた最高で。
メインビジュアルにも使われているところですが、
あの何とも言えない紫とも言い切れない、
赤と青の色の具合はもう眼福としか言いようがないし、
ダンスも本当に素晴らしくて、
ここもワンカットで撮っています。(1)
今までミュージカルに乗れなかったのは、
映画のジャンルの中でも特に虚飾の度合いが強い上に、
カットを割ることで、
さらに虚飾を重ねているからなのかなと感じました。
ミュージカルシーンの上記のような過剰な嘘によって、
その他の会話シーンとのGAPが強くなって
結果、物語の世界と距離を置いてしまうのかもなーと。
しかし、本作は撮影の部分での嘘を極力排しています。
ライアン・ゴズリングのピアノも当て弾きではなく、
自分で弾いていることもその内の1つ。
(逆にR&Bのピアノの名手である
ジョン・レジェンドが本作のために
ギター練習したというのは笑える話(2))
映画を構成する様々な要素から嘘を排除して、
より物語という大きな嘘をつくというのがオモシロいと思います。
(プラネタリウムでのシーンでの感動は、
これらの工夫あってこそだと思います)
映画としてのルックの部分は非の打ち所がない本作ですが、
一方の物語の部分は非常にシンプルなもの。
大人の恋愛と夢について描いています。
僕がとくに心に刺さったのは夢の部分でした。
東京ポッド許可局でいうところのボケの精神ですよね。
ツッコミ過剰社会の中で自分の夢に向かって
ひたむきに頑張っている人が相対化(バカに)されてしまう時代に、
本作が伝えるメッセージのまっすぐさに心打たれました。
他人がどうこうではなく、
自分のやりたいことをひたすらに追いかけ続ける。
ただの正論といえばそうなんですが、
映画というメディアだからこそ心に響く訳です。
とくに好きだったのは最後のオーディションのシーン。
歌の歌詞が好きだったし、アテレコではない
エマ・ストーンの生身の迫力も抜群でした。(3)
本当に素晴らしい作品だし、
人生で忘れ難い映画なのは間違いないんですが、
少々気になる点もありまして…
極めてパーソナルな理由なので、
すでに見た方で本作が大好きな方は
不快な気持ちになるかもしれないので、
そっとウインドウを閉じてください。
僕がなんだかなぁと思ったのは2点です。
1つ目は作品内での音楽ジャンルの扱い方。
主人公の好きな60〜70年代のジャズが
もっとも素晴らしいものであるという描写が多いんですよね。
好きなものを追い求めるという夢だから、
というのは分かるんですが、
ジャズの素晴らしさを描くのに
他の音楽を比較軸に持ってこられるのがちょっと…
パーティーでセバスチャンが演奏する80'sバンドや
ジョン・レジェンドが演じるバンドにおける、
MASCHINEの扱い方など。
ジャズの権威主義の部分が色濃く見えてしまって、
僕は残念な気持ちになりました。
2つ目はエンディングの素晴らしい回想シーン。
たらればと言ってしまえば、
それまでですが大人になればなるほど、
「あのとき…」と回顧する気持ちは
どんどん強くなるので、身につまされる気持ちになったし、
切ない気持ちにもなりました。
(ミッドナイト・イン・パリスへのオマージュの美しさ!(4))
ただ、このエンディングの
回想が始まるきっかけとなるキスシーンが、
予告編でふんだんに使われしまっているんですよね。
本作は鬼プッシュされていたため、
僕は少なくとも5回は予告編を見ています。
「見ているテメエの都合だろうが!」
というのは百も承知ですが、
あそこは転換のキーとなるシーンなんだから、
使わないで欲しかったなーと思いました。
他にも素晴らしいシーンは腐るほどある訳ですし。
感動が目減りしてしまったなーと残念な気持ちになりました。
ツラツラと書いてしまいましたが、
全体を通して見れば間違いなく
傑作の部類に入る作品で、
普段映画を見ない人にこそ見て、
この感動を味わって欲しいと思います。

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