2017年2月6日月曜日

ビニール傘


ビニール傘


街の人生、断片的な社会学と
とても好きな作品を生み出してきた岸政彦さんの小説!
発売初日にゲットしてソッコーで読みました。
(サイン会のチケットゲットできたけど、
平日19時に新宿紀伊國屋行けるのか…?)
いきなり芥川賞候補という前フリがあり、
小説はどんな感じなのか期待していたんですが、
断片的な社会学経由の小説で素晴らしかったです。
芥川賞候補となった「ビニール傘」と「背中の月」という
中編が2つ収録されているんですが、
僕は「ビニール傘」が好きでした。
構造の特徴でいえば主語不定な点があります。
僕の知っている範囲だと滝口悠生さんは、
主語不定系だと思うんですが、
本作はその先に行っていて
「俺」とその彼女の1人称で様々な人間を描いています。
それはタクシードライバーだったり、
フリーターだったり工場労働者だったり。
彼らの他愛もない日常が淡々と繰り広げられるので、
何がオモシロいねんと言う人がいるかもしれません。
本作が特別だと感じるのは、
これが僕の物語でもあったかもしれないし、
あなたの物語であったかもしれないということ。
特定の人物が主語になっていないことで、
自分もしくは他者を否が応でも想像させられる。
ギスギスした社会において、
特定の立場の人間を糾弾している人が
実際に自分がその立場になることを
1mmも想像できないことへのカウンターとして、
こんな鮮やかな回答が文学でできるなんて!
と感銘を受けました。
あと僕の個人的な話をすれば、
すでに大阪を離れて5年近く経っている身からすると、
どうしても郷愁を感じてしまう。
合間に挟まれている写真も特定の場所を
想像させないんですが、
文章と写真がセットになっていると、
頭の中の大阪が引きずり出されました。
もう1つの「背中の月」は喪失の物語。
ある日突然奥さんを亡くした男性が主人公なんですが、
「なんで死んじゃったの〜涙」みたいな、
仰々しいことではないし、
他者との触れ合いで…ということでもなく、
亡くなった奥さんと過ごした時間、
奥さんを亡くしたあとの時間に対して、
主人公がどのように向かい合ってきたのか
すでにそこにあるもの、事実から
主人公にとって奥さんがどんな存在だったか?
それを浮き彫りにしていくスタイルが好きでした。
断片的〜もそうだったんですが、
僕たちが普段生活していて、
なんとなく考えるけれど思考の波に流されていくものを
キャッチするスキルが本当に素晴らしいんだなーと。
これからも小説を書いて欲しいと思いますし、
ライフワークである社会学の本も読みたいです。

追記
定時退社でダッシュして無事にサインをゲットしました!

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